誤字報告大変助かります、逐一読み直してはいるんですがやはり見落としてしまいますね。評価もありがとうございます!!
「ミハールせんせえ、どうして人を殺しちゃいけないの?」
「ヱー。人を殺すと、その後報復されるからです。だからダメなんですよ」
「…じゃあ、一族郎党皆殺しにすれば大丈夫?」
「ヱー。そうしてしまうと、世界から殺しておいた方が良い化け物だと思われて、顔も名前もよく知らない人間から袋叩きにされるのでダメですね」
「そっかぁ…。ミハールせんせえは物知りだニャ」
「元教師ですからこれくらいは出来ます。それに人に物を教える人間は、誰よりも世界を知っていなければなりません」
「じゃあ海賊王の宝の正体も知ってるの?」
「……フフ」
「あ、笑った。何、知ってるの?ボクにも教えて」
「この課題が解けたら教えてあげます」
「ンー、道徳の授業は難しくて苦手なんだニャ…」
「精進あるのみですよ、ネフェルピトー」
深夜2時。ピース・オブ・スパデュル号の一室にて、手作りの勉強机の前にネフェルピトーが鎖で括り付けられていた。机の上には【こころのカタチ】という教科書が置いてある。それをジッと睨み付けているネフェルピトーの右頬はとんでもなく腫れ上がっており、心做しか衣類もボロボロだ。
それは偏に
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「じゃあね、カク。機会があればまた遊ぼ?」
「わしは二度と会いとうないわっ!!」
「なんだよピトー、カクを口説き損ねたのか?」
「カクさんが居てくれたらおれたちも助かるんだがな」
「お前さんらの所に行ったらわしの寿命はもって数ヶ月じゃ…」
「ボクが居れば永遠の命が手に入るのに?カクって相当身体が弱いんだね」
「……ン?お前さん今、永遠の命って言わんかっ」
「よーし!!スペード海賊団、いざ出航だー!!」
「おい、ちょっと待たんかっ…!!」
あの後ガレーラカンパニー総勢で出航を見送られたスペード海賊団は、宣言通りに
既にネフェルピトーという磨き上げられたアウトローが前例としてあったからかもしれないが、世界から求めて貰えない苦しさというのはよく知っている。故にエースには見捨てるという選択肢は無かった。
ただ彼は、行く所がないのならおれの船に乗ればいいと言う。
実直に心根だけを見てくれるエースの存在は、彼等にとって正しく救いであった。
よってエースの元に色々な種族の船員が集まったのである。そうして旗を揚げたばかりのスペード海賊団の総勢は21名となった。
尚、そのうち2匹は猫ちゃんである。
「キミ、目が見えないの?」
「…うん。お姉さんは誰?外から来た人?」
「ボクはただの旅人だニャ。キミちょっとここで待っててよ、すぐ戻るから」
「……?分かったわ」
ある時スペード海賊団は物資の補給の為にそこそこ商業が発達している島へと寄った。一先ずは腹ごしらえだ!!と言って船を飛び出たエースについて行ったネフェルピトーはハーネスに繋がれていたので、特段問題を起こしたりはしなかった。
しかしリードを持っていたエースが食っちゃ寝をした瞬間、隙をついて抜け出してしまったのである。ネフェルピトーはフンフンと楽しそうに鼻を鳴らして往来を歩き、そこで目の見えない盲目の少女と出逢った。
ネフェルピトーはここで待っていて欲しいと少女に頼むと一瞬にして姿を消し、数分後に再び姿を表す。突然目の前にネフェルピトーが現れて戸惑っている少女の手を問答無用で引いて人通りが無い裏道へと入り込み、そこで
「お待たせ。ボクからのプレゼントだニャ」
「……え?なん、で…?」
「何でって、目が見えないと可哀想だから」
何とネフェルピトーは路地裏で行き倒れていた男の死体から盗った目を勝手に移植し、少女の目を治したのある。
勿論お互いの細胞が適合するように猫が念能力とやらで処置をした後に埋め込んでやったのだが、いきなり目が見えるようになったその少女は「どうして治したの!?もう何も見たくなかったから自分で潰したのに!!」と酷く取り乱しながら猫に言った。
「そうだったんだ、気付けなくてごめんね」
ネフェルピトーは心底申し訳なさそうに謝罪をする。耳を八の字に下げ、しっぽを足の間に入れ込んだ。それからお詫びの気持ちとして、少女を殺してあげたのである。苦しむ間もなく逝かせてやる為、ネフェルピトーはお得意のスピードの良さを生かしマッハ1.4で少女の眉間に指を差し込んでやった。
ふらりと力なく倒れた少女の体は骨ばっており肉付きが悪かったので、枯れ木みたいだな……と思いながら死体を抱えてスパデュル号に戻ったのである。
「ただいま、スカル。船番ご苦労さまだニャ」
「おかえりなさ………っあ?猫の姐さん?その腕の中に抱えているのは一体……」
「ああコレ?さっきそこで殺したんだ。食べても栄養は無いし、ボクは王じゃないから力を吸収できないけどマァ責任もって処理しようかなって。いまキッチンって空いてる?」
「え、ええええ」
「……?どうしたの?」
「ッエースの旦那ァァァアアア!!」
「うわっ!?急にうるさい…!!」
丁度その時船番をしていたスカルという名の骸骨グッズを集める事を生き甲斐にしている男が、運悪く人喰いの化け物とかち合ってしまった。
彼は船内を「エマージェンシー!!
「え?え?何?」
「両手を上にあげて膝を付け!!大人しく投降しろ!!」
「は?ってちょっと!?」
「目標確保!!急いで拘束するんだ!!」
よってぼんやりと立っていたネフェルピトーは屈強な男達に囲まれ、太い鎖で全身をぐるぐる巻きにされたのであった。腕に抱えていた食料を取られた後に何故か鎖でイモムシにされてしまった猫は甲板に捨て置かれる。正直抵抗すれば簡単に逃げられるが、それをすると後々船員たちから文句を言われるのでネフェルピトーは大人しく従っていた。
「エース船長はまだか!?」
「セイバーとクーカイが今呼びに行ってる!!」
「この女の子……もう死んでる、よな?」
「……あぁ」
「みんなして急にどうしたの?食料の鮮度が落ちるからあんまりベタベタ触んないで欲しいんだけど。特にオッサモンドは体温高いんだから」
「食料の鮮度とか言ってるよこの人。もうヤダ」
「だがよ、腐っちゃったら可哀想だよなこの子。冷やしといた方がいいのか?」
「……冷蔵庫に入れるには、少し大きいな」
「あ、じゃあボクが切ろうか?鎖外してくれたらすぐやるよ。何で巻かれたのか分からないけど、今はそういう遊びが巷で流行ってたりするの?みんな何だかんだ言ってもやっぱり男の子だニャ〜」
「いやもうアンタほんと黙っ___」
「ネフェルピトーは、何処だ」
いつまで経っても状況把握が出来ていない怪物に船員たちが殺意を湧き始めた頃、船長エースがスパデュル号に帰ってきた。普段の温厚な雰囲気とはかけ離れ、酷く険しい顔をした彼の背後からは恐ろしい程の覇気が立ち込めている。
「エース船長っ…!!」
「来てくれたんですねっ…!!」
「あれ?帰ってくるの早いねエース。もう島中のレストラン制覇し終わったの?」
ズリズリと這いずって足元に近づいてきたネフェルピトーを横目で見ながら、エースはオッサモンドの腕の中にいる少女の遺体へと近付く。眉間の辺りに猫がやったであろう殺傷を確認した彼は、とても悲しそうな顔をして足元にいる猫の尻尾をぎゅむっと掴んだ。
「いダッ!?急に何するんだニャ!?」
「説明しろ、ネフェルピトー」
ここら辺でようやっとネフェルピトーは、もしかしたらエースって怒ってるのかもしれない…と気が付いた。普段彼は猫のことを「ピトー」と呼ぶ。しかし怒っていたり説教をする時は「ネフェルピトー」とフルネームで呼ぶのである。エースは今猫の事をネフェルピトーと2回呼んだ。その意味が示すのは、彼がとてつもなく怒っているということだった。
「えっ…と、その子目が見えてなかったから代わりの目をあげたんだ。そしたら何で治したの?見たくないから自分で潰したのにって泣き出したから、死にたいのかと思って…」
「だから、殺したのか?」
「うん。捨てるの勿体ないし食べようか___っ!?」
ネフェルピトーが殺しを肯定したその瞬間。いつの間にか甲板に集まっていたエースやデュースを含む20名の船員達に寄って集ってリンチされたのである。みんなそれぞれ武器を捨てており、自前の拳で猫を袋叩きにしていた。
つまりは私刑であった。
「うギャッ…!!」
「ネフェルピトー。お前の何が駄目だったのか、もう一回よーく考えてから言ってみろ」
「………親御さんの許可を取らないで殺したから?」
「ア”?」
「いっ!?ボクの尻尾がもげるニャッ!!」
「もげちまえこんなもん!!」
「…諦めましょうぜエースの旦那。こいつぁレベルが違いすぎる」
「バカ野郎!!おれは仲間を絶対に見捨てねぇ!!」
「はわわ、旦那ァ…!!」
「流石エース船長だ…!!」
「み、みんなエースに惚れてる場合じゃないニャ…!!とりあえず助けてニャ…!!」
「助けて欲しいのはこっちだクソ猫ッ……!!」
「ちょっ!?」
「落ち着いてくだせぇデューの旦那ァ!!流石にそれは無事じゃすまねぇ!!」
「おれを止めてくれるなスカル!!」
「脳天至近距離でのピストル二丁は流石のボクでも死ぬニャ!!」
こうして色々な大人達からガチな説教をされたネフェルピトーは少女の死体を腕に抱き、船員達からの愛ある拳でボロボロになってしまった身体のまま人伝に少女の家を探し出した。その家はあんまりにも古臭いレンガ造りの家であり、猫はそっと窓から中を覗く。リビングらしき部屋の中には酒瓶を持って寝こけている小汚い大男が居た。恐らくは少女の父親だろう、だが母親の姿は見えない。
交渉するなら女の方が楽だったのに、と思いながら穴だらけの戸を叩く。すると大きな物音と共に「うるせぇぞクソガキ!!良い夢見てたってのに起きちまったじゃねぇか!!」という怒号が聞こえてきたのである。ネフェルピトーは「話が拗れたら面倒くさそうな奴だニャ」と考えながら丁寧に言葉を返した。
「私はネフェルピトー。貴殿の御息女を殺してしまったので、お金を持って来ました。……あ、もちろん御遺体も持ってきています」
デュースが書いた謝罪文のカンペを適当に読みながらもう一度戸を叩く。すると直ぐに戸が開き少女の父親が姿を表した。ブヨブヨとした身体に血走った目。頭髪は虚しく、口からは酷い酒の匂いが漂っている。
「……何?金だと?」
「はい。慰謝料です」
ネフェルピトーが差し出した小さな木箱の中には数十枚の金貨が入っている。これは彼女の貯金であった。謝罪に行く前にデュースから呼び止められ、お前の全財産を差し出して土下座してこいと言われたからである。“金”という単語が耳に入った少女の父親は目を輝かせながら猫の手の中にある木箱を奪い取り、乱暴に蓋を開けてひっくり返した。すると地面にジャラジャラと音を立てて金貨が舞い落ちる。それを目にした男は腫れぼったい唇をニマッと動かし、心底嬉しそうに笑った。
「おぉ…!!こりゃあすげぇ!!俺ぁ大金持ちだ!!」
「本当に申し訳ありませんでした。私の思い違いで御息女の命を奪ってしまい、貴殿の心に傷を____」
「いやぁ何、どうでもいい。そいつ1週間前くらいから夜に帰ってこなくなりやがってな、全くとんだ親不孝もんだぜ。お陰で俺は溜まったもんも発散できなくて最近は右手とお友達だったんだが……この金で代わりの女でも買うさ」
「…それは、一体どういう」
「なんなら処理してくれて助かったよ。俺が口の中に突っ込んでやった時にそいつ自分で目を潰しやがったから、海兵の奴らにバレないようにすんのが大変だった。どうせなら喉を潰して喋れなくしちまえばよかったのに。そうすりゃうるせぇ叫び声も聞かなくて済む。まぁ何にせよありがとうなお嬢ちゃん、これで暫くは安泰だ」
「……御遺体は、如何致しますか?」
「裏にある森に捨てといてくれ。家の近くで腐ったら困るからよ」
「そう。ならキミの死体はそうするね」
ネフェルピトーは少女の遺体を片方の腕に移すと、目の前に立つ男の胸に空いた手を勢い良く突っ込んだ。
「___っあ?」
心臓を抜き取ると同時に
「……なぁんだ、悪党の心臓って真っ赤なんだね。ボクてっきり黒いのかと思ってたよ」
「…へ?あ、なん、で…?お、おれのしんぞうが…」
「ほらほら、早く取り戻さないと死んじゃうよ?」
「ま、まっ…て」
右手に心臓を乗せ男に見せ付けるかのように森へと歩き出す。そうすれば自ずと男が追いかけてきてくれるので、ネフェルピトーは鼻歌を歌いながらゆっくりと進んだ。
時折振り返って男の様態を確認し、死んでしまいそうなら
確かこういう刑罰が地獄にあったようななかったような……いや、ないか。ともかく長い時間をかけて殺してあげなくっちゃなぁ、と欠伸をひとつ零す。それは腕の中で眠る冷たくなってしまった少女へ対する、猫なりの手向けであった。
「アギャッ」
「痛い?じゃあ、治してあげるね」
「あ、あ、あ」
「キモチイイ?」
「う、うあっ」
「さっきこの子の家を探す時にさ、結局人に聞いても分からなかったから脳を弄って直接聞いたんだ。そしたら色々と教えてくれたよ。こうやってこの子と毎晩寝てたンでしょ?まだ10歳にもなってないのにキミが乱暴に突っ込むからさ、毎日足の間から血が出て大変だったんだって」
「や、やめ、やめッ」
「ウーン……にしても見るに堪えないな。キミもう少し痩せた方がいいよ」
「ギャっ」
数十分かけて人気の無い森の奥へとやってきたネフェルピトーは、一先ず男に心臓を返してやってから両足の健を切って動けなくした。その後
「綺麗さっぱりにしようね」
男の獣みたいな呻き声を隣で聞きながら、ネフェルピトーは少女の身体を綺麗に作り替える。服の下に隠れていた酷い鬱血痕や噛み跡を消し、裂けていたふたつの穴を元通りにする。お腹も開いて少女の子宮も取り出してあげた。これは彼女の唯一の願いだったからだ。「汚れちゃったの、だから捨ててちょうだい」と猫が質問をしていない時にも口ずんでいた少女の心境は猫には分からない。
死体が涙を流すとは思わなかったな、とその時は思うだけであった。
「…う、うあ…」
「あーあ、一晩中叫んでたから声帯が壊れちゃったね。それよりももう直ぐ朝になるよ。どう?楽しんでくれた?」
「ひっ、ひっ」
「あれ?なんで泣いてるの?キミがいつもこの子にしてた事だよ?楽しいから毎日やってたんじゃないの?」
「…た、たふけ……たふけて…」
「マァいいや。それよりも見てよコレ、この子の子宮の中にあった物なんだ。小さな赤ちゃんだよ。残念ながら既に死んでしまっていたようだけどね、母体の栄養が足りなくて大きくなれなかったみたい。このまま捨てるのは可哀想だし、せっかくだからボクが喰べるね」
「……なん、え…こんあ…」
「…なんで、か」
何でこんなことを?と男から聞かれたネフェルピトーは、小さな肉をモニモニと噛みしめながらじっくりと考えた。元人間の記憶が残るキメラ=アントはネフェルピトーの他にも多く存在している。彼らは同種であった人間を殺したり、食べたりするのに忌避感が生まれてしまう事が多く種の存続に影響が及ぶのだ。
よってキメラ=アントになると人間性が消失するように出来ている。しかし理性は残るのでそこまで酷い化け物にはなり得ない。倫理観と常識だけが綺麗さっぱり無くなってしまうのだ。その感覚は当人達からすると……あんまりにも辛いものである。理性と記憶は残るのでなんとか人間社会に戻り、そこで生きようとするが前と同じように馴染めない。
基本的な倫理観や常識が違うからだ。
「キミはさ、人間って食べた事ある?」
「…っひ…」
「……あぁ、怖がらなくていいよ。キミは不味そうだから食べない」
「…う、うぅ……」
「でも普通は食べようとは思わないよね。人間には人間の事が食料に見えないんでしょ?」
例えばそれはホテルのバイキング等で並んでいる料理が全て排泄物や汚物であるのに、他の皆は嬉しそうに食べている……といったような感じである。どう考えてもおかしい社会だ、皆か化け物に見えてしょうがない。しかし実際にズレているのは自分の方だというのにそのことにも気が付けないのだ。人間性の消失というのはこういうことである。
キメラ=アントは正しく化け物の権化だ。
故にキメラ=アントは群れで生きる。元々の人間の記憶が根強く残っている者でも必ず帰って来るようにと、全てが美しく設計されているのだから。そしてネフェルピトーもそこに該当した。しかし他と違うのは元人間ではなく、別の人間がキメラ=アントの体に“憑依”しているという点だ。そのお陰でネフェルピトーは人間性の消失が半分程ですんだのだが……それが大きな問題であった。
半分ということは中途半端ということ。
人間でもなく、キメラ=アントでもない……ということなのである。