とあるリオレウスの異種族ハーレム物語 作:火遊び竜・リオレウス
その日は、あまりにも唐突に訪れた。
「――グオォォオオオアアアアッ!!」
見上げるほどに巨大な、燃えるような紅蓮の巨躯。この縄張りの絶対的な支配者であり、若きリオレウスにとっての「父親」が、大気を震わせる咆哮を放った。
それは幼き日のように獲物の分け前をくれる合図ではない。明確な、敵意と排斥の籠もった警告。
(……えっ!?)
まだ一回り小さな若きレウスは、巣の隅で完全に硬直していた。 昨日まで、ここは世界で一番安全な場所だった。母竜が運んでくれる肉を貪り、父竜の背中を見て育った。しかし、若きレウスの翼が十分に色づき、喉の火炎嚢が熱を帯び始めたその瞬間、親たちの態度は一変したのだ。
母竜すらも、今は冷たい眼差しで息子を見下ろしている。
「もうお前を育てる義理はない。自分の縄張りを作れ」
――野生の掟は、驚くほどに無慈悲だった。 なおも戸惑う息子に向け、父親が容赦なく巨大な顎を開く。爆炎が渦巻く。
(うわっ、本気だ……っ!?)
直撃すればただでは済まない。若きレウスは本能的に翼を広げ、岩場を蹴った。 凄まじい熱風が尾の先をかすめる。彼は命からがら、生まれ育った高い崖の巣から、真っ逆さまに突き落とされる形で飛び出したのだった。
◆
「キィ、アアアン……」
住み慣れた山々が遠ざかっていく。若きレウスは、頼りない鳴き声を漏らしながら風に乗っていた。 半分追い出されるような形だった。理不尽だ、とも思う。しかし、流れる風が翼を押し上げ、体内に満ちる熱が彼に自覚を促していた。
(……いや、やれる。俺はもう、飛べるんだ)
血は嘘をつかない。親から教わった、そして体に刻まれた「空の王者」の技術は本物だった。
眼下に広がる広大な原生林。そこに群れる草食獣の群れを見つけると、彼は自然と翼をすぼめ、急降下へと移行していた。風を切り裂く快感が脳を突き抜ける。
狙いを定めたアプトノスへ、音もなく背後から接近。鋭い指爪が肉を捉え、強力な毒を注ぎ込む。アプトノスは声を上げる暇もなく、一撃で絶命した。 岩場に降り立ち、仕留めた肉を貪る。
「ガルルル……」
…美味い!自分で狩った肉は、格別だった。狩りの方法も、嵐の中の飛び方も、すべて頭と体が覚えている。生きていくだけなら、何も困ることはなかった。
腹が満たされると、若い肉体に心地よいエネルギーが巡る。 広大な空。誰も邪魔をしてこない、自分だけの孤独な空間。
…しかし、孤独だからこそ、妙な物足りなさが胸の奥から湧き上がってくる。
(そうだ。俺には、まだ足りないものがある)
本能が告げていた。 空の王者として生きるなら、次にすべきことは決まっている。ただ生き延びるだけでは足りない。自分の縄張りを持ち、そして――生物として、己の遺伝子を遺すための「番」を見つけること。 緑豊かな大地に隠れ棲む、陸の女王。 まだ見ぬ、気高く美しいリオレイアを。
「――グオォォオオオオオオッ!!」
若きレウスは、今度は迷いのない、堂々たる咆哮を大天へと放った。親への未練はもうない。 力強く地面を蹴り、若き王者は再び大空へと舞い上がる。 まだ見ぬ愛しき伴侶を探すため、そして自分だけの縄張りを築き上げるため、若きリオレウスの果てなき旅が、今ここから始まるのだった。
数年後、俺――リオレウスは、己の翼で頭を抱えていた。
(どうしてこうなった……)
あの日、実家の巣を半分追い出されるように旅立った俺は、空の王者としての本能のままに突き進んだ。生きていくために狩りを学び、大空を駆け、そして生物として最も重要な目的である「番」を必死に探した。
努力の甲斐あって、俺は無事に気高く美しいリオレイアを見つけ、番にすることは出来たのだ。そこまでは良かった。完璧な、絵に描いたようなレウスとしての成功者ライフのはずだった。
チラッ、と俺は視線を右に向ける。 そこには、緑に輝く美しい鱗を持った、自慢の妻であるリオレイアが静かに寝息を立てていた。うん、今日も最高に美しい俺の妻だ。愛しているぞ!
そう思いながら、今度は左隣を見る。 そこには、麗しい桜色の鱗を纏ったリオレイア亜種が、俺の翼に寄り添うように丸くなっていた。うん、桜色の鱗がいつ見ても可愛いな。惚気たくなるのも仕方がない。
問題は…いや、すでに番が2匹いるクズ野郎だから問題しかないのだが…取り敢えずそれは一旦置いといてその先だ。
俺は冷や汗を流しながら、正面へと視線を移した。
「すぅ……すぅ……」
暗闇に紛れる漆黒の体毛を震わせ、しなやかな尻尾を丸めて眠るのはナルガクルガ。今日も寝息は静かだ。
「ガァ……ガルル……」
寝言ですら凶暴そうな牙を覗かせ、俺の縄張りの一番特等席で大の字になっているのはティガレックス。お前は朝も夜も五月蝿い…
「ジジ……ジッ……」
時折、身体から美しい電撃をパチパチと漏らしながら寝返りを打つのはライゼクス。お前が1番激しい…
「ふにゃ……」
白い琥珀色の牙を押し付け、寒がりな性格のせいで俺の温もりにべったりくっついているのはベリオロス。出会った頃の女騎士は何処へ…
「クシシ……」
艶やかな泡に包まれながら、丸くなって夢を見ているのはタマミツネ。 ミツネに関しては…俺が悪い。うん…
――視界に入る、ありとあらゆる強力な種族の雌たち。全員、争いの果てに俺に惚れ込んだり、俺のフェロモン?に当てられて押しかけてきたりした、全員正真正銘の「俺の番」だった。ミツネに至っては飛竜種ですらねぇ…
(番を探すとは言ったが……お前ら全員、異種族じゃねえかッ!!!)
ここにいるのは、生態系の頂点に君臨する、一歩間違えれば世界を滅ぼしかねない最強最悪のレディたちだ。彼女たちが一斉に目覚め、俺を巡って嫉妬の縄張り争いを始めたら、この巣どころか山一つが消し飛ぶ。
「グルル……」
ふと、目の前のティガが薄目を開け、俺の視線に気づいて嬉しそうに喉を鳴らした。 若き空の王者の明日は、いろんな意味で大荒れの予感しかしていなかった…
さぁ一体どうなってしまうことやら…