通常種リオレウス 最大金冠約21m
黒炎王リオレウス 最大金冠約23m
屑レウス 約30m
翼開長 約45~50m
怒りでスローになった世界で、俺は考える。出した結論だが……これは狩猟ではない。
ハンターたちが纏う、禍々しくも美しい、色とりどりの防具。
「お前の愛する嫁たちの同族は、我らの手でこのように切り刻まれ、装備にされたのだよ! ふはははは!!!」
文字にはならずとも、奴らのギラついた冷酷な瞳が、そう雄弁に語っていた。余りにも最低で最悪の、そして残虐な挑発だった――だが、それだけじゃない。
その混成部隊の中心に立つ、ひときわ分厚い鎧と大剣を背負った、肥えているが不味そうな不健康体の羽虫の防具を見て、臭いを感じた瞬間、俺の記憶の底にある「思い出」が一気に呼び起こされた。
(――あぁ、間違いない。久しぶりの匂いだ)
見知った赤黒く染まった火竜の逆鱗
「見ない間に、随分と無様な姿に変えられちゃってんじゃねぇか……なぁ……」
感動の再会、とでも言いたい所だが…生憎、いまの俺に、そんな軽口を叩けるだけの理性はこれっぽっちも残っちゃいねぇ。
「――グ、ル、ル、ル、ア、ア、ア、アッッッ!!!」
喉の奥から、言葉にならない憤怒の咆哮が、黒い煙と共に漏れ出す。鼓動が激しくなり、目が熱くなる。俺の親父を殺し、俺の最愛の妻たちの同族を無惨に切り刻んだ羽虫どもが、今度は俺の家族を同じ目に合わせようと、すぐそこまで武器を構えて迫っている。
絶対に、許さない。 一本の爪、一枚の鱗、一滴の血に至るまで、奴らのすべてをこの世から消し去ってやる!背後の巣からは、俺の異変と尋常ではない殺気を察したレイアたちが、必死に俺を引き留めようとする悲痛な鳴き声が聞こえていた。だが、もう止まれない。
「待っていろ、お前たちの仇は、俺が今ここで全員分――”一撃”で精算してやる」
巨大な砲丸となって急降下する俺に向けて、地上の羽虫どもが何かを投げつけてきた。
――ピカッ!!!
視界のすべてを白銀に染め上げる、強烈な爆発光。目潰しによって視界を奪い、空中から叩き落として隙を作る、俺たち飛竜種にとってはまさに天敵とも言える忌々しい道具『閃光玉』だ。
人間どもは「かかったぞ!」「落ちてくるぞ!」と勝ち誇ったような声を上げている。けど……そんなもん、今の俺には一切意味ねぇぞ。どうしてかって?
――俺の目は、
親父を殺され、嫁たちの同族を剥ぎ取られた怒りで俺の頭は最初から真っ白に消し飛んでいるんだ!視界が遮られようが関係ない!!風の音、大気の震え、そして何より貴様らが纏う我が妻たちの同族の死臭が!!!その居場所を正確に俺の脳髄に叩き込んでくる!
「ギャァッ!?」「う、嘘だろ!? 閃光が効いてねぇッ!?」
空中での失速を予期して武器を構えていた羽虫どものど真ん中へ、俺は一切の躊躇なく、ただの暴走する巨大な質量となって墜落した。
ズガアアアアアアンッッッ!!!
爆弾でも破裂したかのような凄まじい衝撃音と共に、地響きが荒野を揺らす。閃光が効かないことに怯み、逃げることすら忘れていた羽虫どもを、俺の強靭な足爪と巨躯が容赦なく踏み潰した。
ぐしゃり、と不快な鉄の潰れる音が足元から響く。土煙の向こう側、俺の足元を薄目で一瞥する。
一撃で、まずは5匹は逝ったな?
泡狐竜、電竜、そして雌火竜の装備を纏っていた小癪な羽虫どもが自慢の武器を構える暇すらなく地面のシミへと変わっていた。
「ひ、一撃で前衛が全滅したぞ!?」
「化け物め、下がれ! 距離を取れッ!」
さっきまでの残虐な余裕はどこへやら、情けない悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように下がり始めるハンターども。だが、逃がすわけがない。俺たちの巣を踏み荒らし、俺の逆鱗に触れた対価は、お前たちのその安い命すべてで支払ってもらう。
「グルルルル……!」
俺は踏み潰した肉塊から足を退けると、喉の奥で超高熱の火炎をパチパチと爆ぜさせながら、次なる獲物たちを冷酷にロックオンした……次は絶望を与えるとしよう。
絶望っていうのは、希望を奪われた時が最も顕著に表れる。
「撃て! 撃てぇっ! 近づけるなッ!」
後方に陣取っていたライトボウガンのハンターどもが狂ったようにトリガーを弾く。放たれた無数の弾丸が俺の身体に次々と着弾して爆ぜた。
……だが、俺はその場から微動だにせず、避けることすらしなかった。そんな弾丸で俺に傷をつけることは出来ないからな。
煙が晴れる。俺の分厚い紅蓮の甲殻には傷一つ付いていない。
「……ひっ、あ、ああ……」
俺はゆっくりと首を動かし、撃ってきた方向を静かに見据えた。照準を覗いていた羽虫どもの顔が、ありありと見える。
ああ……いいね、最高の表情だ。
希望の弾丸が何一つ通じなかった事実を前に、恐怖で顔が引きつり、ガタガタと震えやがっている。けど……
『まだ足りねぇな?』
ずしん、と一歩、奴らに向かって足を進める。
地響きと共に、奴らの間に伝染する恐怖が、より一層高い階層へと跳ね上がる。
さらに、もう一歩近づくと…
「来るな、来るなァァアアッ!」
ボウガンを投げ捨てて腰を抜かす羽虫が現れだす。
パキィィンッ!
――!その時、不意に、一発の弾丸が俺の顔面を掠めた。危ねえ、目に入るところだった。咄嗟に瞬きをして止めていなかったら、ほんの少しだけ痛かったかもしれないな。
まあ……今の俺の怒りの前には、そんな羽虫の最後の足掻きすら、ただただ小癪で、鬱陶しいだけだ。
『――苛ついたから、消すか』
俺は深く息を吸い込み、心臓に大量の酸素と血液を循環させ、喉の奥の可燃嚢を限界まで加熱させた。
『グオォォオオオオオオオッッッ!!!』
咆哮と共に放たれたのは、劫火の超高熱ブレス。青白い光を帯びた紅蓮の炎が、扇状に広がりながらすべてを焼き尽くしていく。
「ぎゃ――!?」
仕掛けられていた大タル爆弾の群れが連鎖的に大爆発を起こし、爆炎が天を突く。その凄まじい熱の奔流の真ん中で、ライトボウガンのハンターどもは悲鳴を上げ終えるよりも早く、肉片一つ、骨の一片すら残さず一瞬で消滅して灰へと還っていった。
ゴォォォ……と、周囲の地面がマグマのように赤くドロドロに溶け落ち、激しい陽炎が立ち上る。
俺はゆっくりと口を閉じ、鼻から黒い煙を吐き出しながら、生き残った気配を数えた。
一撃、また一撃。気づけば、あれほどいた大部隊の羽虫どもは、もうほとんど残っていない。
――残り、5匹。
その生き残りの中心には、俺の親父の防具を纏い、絶望のあまり大剣を構えたままカタカタと硬直している、あのリーダーの羽虫の姿があった。
安心しろ。俺に甚振る趣味は本来はない。
その証拠に、これまでの羽虫どもにも恐怖を感じる隙こそあれど、痛みを感じる暇なんて与えず一撃であの世に送ってやってるだろ?
お前が親父の鱗を身に纏っていようがリーダーだろうが、今の俺には何の関係もない。
俺が我が家のすべての嫁と子どもたちを「平等」に愛しているように……お前だって、先に逝った他の奴らと全く「平等」に消してやるさ。
……ああ、肉体だけな。
その魂に、一生消えない恐怖と絶望を刻み込んでからだ。
『グ、ル、ル、ル……!』
俺は目の前でガタガタと大剣を震わせているリーダーの羽虫を無視し、まずは周囲を固めていた残りの4匹の羽虫を確実に処理することに決めた。
……こんな屑共だ。一瞬の油断も、我が家への脅威になり得るからな。
まずは、悲鳴を上げて逃げようとした羽虫を、足爪で文字通り地面のシミへと踏み潰す。
次に、頭上から片手剣で迫ろうとした羽虫の腹を空中で一息に噛み千切る。
さらに、2匹殺す間に離れた羽虫を爆炎で骨ごと燃やし尽くす。
そして最後の一匹、ハンマーを構えた年老いている羽虫を、極太の尻尾の一閃で遥か彼方の岩壁へと突き飛ばす。
文字通り、瞬く間の出来事だった。
たったの4回の手順。流れるような野生の暴力。ドサリ、と最後の肉塊が遠くで崩れ落ちる音が響き、ふたたび熱を帯びた静寂が戻ってきた。
燃え盛る爆炎の赤と、お前たちの仲間だった灰の黒だけが広がる、この地獄のような戦場で。俺はゆっくりと、最後の一匹へと目を向けた。
『さぁ……後はお前だけだ』
親父の装備を纏った、哀れな羽虫のリーダー。お前のその絶望に歪んだ顔、最高に滑稽で、最高に美しいぞ。
「う、おおおおおおッ!」
……最後の足掻きか。つまらん。
大剣を狂ったように振り回して突撃してきた羽虫のリーダーを、俺は足爪で易々と捕まえた。
……顔まで運び、そいつが纏う防具の数々を間近で見る。
……まだ飛べない俺を乗せて、空の景色を見せてくれた親父の頭の鱗で作った兜……。
……ずっとみて、憧れていた親父のでっかい背中の鱗と翼膜で出来た防具……。
……そして、腹を空かせたか俺に飯を食わせてくれ続けた、親父の鋭い牙と爪がふんだんに使われている禍々しい武器……。
……親父……本当に、こんな形の再会はしたくなかったよ……。
いくらあの巣立ちの日に理不尽に追い出されたとはいえ、親父は俺を一人前になるまで育ててくれた尊敬する父親だ。
だから俺は――いくら羽虫を仕留めるためとはいえ、その親の形見を踏み付ける、なんて最低なことは絶対にしない。
「離せ! 離せぇっ! 余は王だぞ! 貴様のような獣風情が気安く触れて良い存在などではないのだ……!」
王だと? 貴様が? ……じゃあ……見てみるか? 空の王者が見ている景色を。……貴様を殺すのに丁度いいのが思いついたからな。
バサァッ!! と力強く羽ばたき、俺は羽虫を捕まえたまま、雲を突き抜けて遥か上空まで一気に上昇した。
足元を見れば、急激な気圧の変化と恐怖のせいか、羽虫の王は白目を剥いて気絶しやがった。
チッ、呆気ねぇな。起きるまで待ってやるぞ。
……いや、待つのは時間がもったいないか。こっちのほうが早いな。俺はほんの少しだけ、足爪の握る力を強めた。 もちろん、親父を傷つけないように、潰さないように「優しく」だ。
……ハッ、今更だけど虫唾が走るな。この『優しさ』は、俺の大切な嫁たちや子どもたちに向けるための極上の特等席なんだ。てめぇごときに使うもんなんじゃねぇんだぞ?わかってんのか?
「がはっ……!? あ、ああ……っ!?」
内臓を圧迫された苦痛で、羽虫がパチッと目を覚まし、大慌てで呼吸を再開した。
起きやがったか。そうさ、それでいい。よ〜く見ろよ、これが俺たちがよく見ている景色だ。そして同時に、これはこれから貴様が味わう極上のアトラクションだ。意識がはっきりしていないと勿体ないぞ?
『……ここから落とす。ゆっくり加速する死の恐怖を味わって……逝くがいい』
俺は掴んでいた足爪を放した。
「ひ……、あああああああああああああああッッッ!?」
重力に従い、真っ逆さまに落ちていく羽虫の王。
そいつに並んで急降下し、地面に近づいた所で一度、捕まえて助けてやる。
『……安心したか? 命拾いしたと思ったか?』
「はぁ…!はぁ…!助かっ――」
そうか。なら、もう一度上昇して……放す。ただ放すんじゃない。レイアのサマーソルトを真似して1回転、遠心力を最大まで利用して上空に投げ飛ばす。
「ひっ、あ、ああああああッ!?」
言っただろ?絶望っていうのは、希望を奪われた時が最も顕著に表れるって。逆を言えば、絶望の中に与えられた希望は大きく膨らむ。俺がやったのは…その膨らんだ希望をまた絶望に変えてやった。ただそれだけだ。まあ、こんな下らない計画を立てた首謀者の末路には…これがお似合いだろう。
今度こそ、ゆっくりと確実に加速していく死の恐怖に抗う術がないことを自覚しながら、ただ地面が迫る絶望だけを脳髄に焼き付けて……死ね。
………微かな衝撃音を聞き届け、俺は満足した(ことにして)反転する。
親父の装備は……中の肉だけ焼けば回収できるだろ。後で供養するために持って帰る。…あんな不味そうな肉に食欲は湧かん。
「…ふぅ…よし、一度帰るか。俺の愛しい楽園へ」
俺は翼を大きく広げ、最愛の妻たちと可愛い子どもたちが待つ、あの騒がしくて、愛おしくて、最高に幸せな我が家へと向かって、静かに風を切って滑空し始めた。
バサリ、と大きな翼を休め、俺は巨大な巣へと舞い戻る。
着地した瞬間、大気中をジジ……と走る激しい電撃の気配。 直後、案の定凄まじい勢いで俺の胸元に飛び込んできたのは――ゼクスだった。
「グ、オォッ!? おいゼクス――」
「なぁ、旦那……っ」
俺の言葉を遮るように、ゼクスは俺の胸に強く顔を埋め、全身の電殻を怪しく、淫らに明滅させた。 バチバチと火花を散らす彼女の身体は、驚くほどに熱く火照っている。上空から俺がハンターどもを完膚なきまでに蹂躙し、文字通りの『王』として無双する姿を、彼女は巣の隙間からじっと見つめていたらしい。
「あんな容赦なく無双する格好いい姿を観ちまったら……
息を荒く荒げ、潤んだ瞳でじっと俺を見上げてくるゼクス。外では触れる者すべてを塵に変える電竜が、完全に雄を求める雌の顔をして甘えてきている。 やれやれ……。 俺は思わず、本日何度目か分からない呆れ混じりの苦笑を漏らした。
「おいおい……お前、卵が孵ったばかりだというのに、もうまた俺の子どもが欲しいのか?」
「欲しい」
間髪入れずに即答が返ってきた。
ライゼクス本来の「育児放棄」の生態をどこへ放り出してきたのか、俺の遺伝子を欲する彼女の剥き出しの愛と繁殖本能は、あの出会いの日から何一つ変わっていない。むしろ、より深く、ドロドロに狂わされている。
「はぁ……分かったよ。……夜は覚悟しろよ?」
俺が首筋を優しく甘噛みしてやると、ゼクスは「んっ……」と声を漏らし、満足そうに電撃を収めて身体の力を抜いた。
「…お前達もだぞ?今日の俺はエネルギーに満ち溢れているからな…。全員、腰が砕けるまで愛してやるぞ」
その言葉に妻達が顔を真っ赤にする。まあ、俺の方から迫るのは珍しいからな。しかも腰砕き宣言までした。雄に二言はない。やってやるさ。
さて、愛しい妻たちの元へ無事に帰還し、夜の約束も済ませたところで俺はふたたび巣の入り口へ向かい、翼を広げた。
それを見たレイアやサクラ、ナルガたちが、「えっ、どこに行くのレウス!?」と不思議そうに声を上げてくる。
どこへ行くつもりだって?
「……ちょっと、実家が恋しくなっちまったから寄ってくるだけさ。すぐに帰るよ」
俺は眼下の遥か彼方、リーダーの羽虫が落ちていった荒野の先を見つめた。
あそこには、あの羽虫が大事に抱えていたであろう『親父の形見の大剣』と『親父の防具一式』が転がっているはずだ。
かつて俺を追い出した、不器用で厳しかった親父。
こんな最悪な形ではあったけれど、人間どもの玩具にされ、道具として利用されていたその魂を、今度は息子の俺がこの手で奪い返し、解放してやる番だ。
俺は巣で待つ最愛の家族たちに背を向け、親父の魂を回収するため、そして愛する我が家へ必ず戻るために、大空へと力強く羽ばたいた。
次回は王様視点で書いてみますかね…
ではもう一つアンケートを。この中なら次は誰がいいですかね?
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