テオ・最大金冠約26m
ガムートの平均約28m
アカムトルム平均30m
ウカムルバス平均31m
現絶倫王レウス約38m
ゾラ・マグダラオス約258m
ダラ・アマデュラ約440m
「生きろ……ナナ!」
それが、夫の最後の言葉だった。私の愛する夫は――あの、古龍を喰らう破滅の魔獣、ネルギガンテの手によって命を奪われた。
夫は決して弱くはなかった。むしろ強かった。大陸のいかなる存在よりも誇り高く、その身に纏う赤き灼熱は、誰よりも激しく猛々しかった。
なのに……私のせいで、亡くなってしまった。
激しい死闘の最中、私が一瞬だけ……ほんの一瞬だけ、隙を見せてしまったから。ネルギガンテの容赦のない棘が、爪が、私を引き裂こうとしたその瞬間、夫は迷わず身を挺して、私を庇ってしまった。
私の目の前で、愛する夫の命が散った。
私はそれを見ることしか出来なかった。助けることも、叫ぶこともできず、ただ絶望に震えることしかできなかった。
そして――夫の肉を、ネルギガンテは食らい始める。
咀嚼の音。飛び散る赤い鱗。だんだんと減っていく、愛しい夫の姿をみて、私は……
(見たくない。見たくない。見たくない……!)
狂ってしまいそうな現実から目を背けるように、私は古龍としての誇りを捨てた。夫を貪る怪物に背中を見せ、みっともなく、ただ無様に逃げ去ってしまったのだ。
『生きろ』と。自分を犠牲にして私を逃がした夫の、最期の願いだけが、今も耳の奥で呪縛のように鳴り響いている。
――生きろと言われても、どうやって?
夫を置き去りにして生き延びたこの命に、一体何の意味があるというのだろう。彼の体温を失ったあの日から、私の世界は色彩を失った。
かつて大陸の空を鮮やかに染め上げた、傲慢なほどの青き炎は消え失せ、吐息からは火の粉一つ出ない。
燃え盛る陽炎を纏っていた甲殻は、すべてを焼き尽くした後の「白い灰」のように色褪せてしまった。
心も…力も…誇りさえもすべてが燃え尽きた…
私はただ、冷え切った岩肌に身を横たえ、ゆっくりと凍りついて死を待つだけの肉塊だった。
そんな私の耳に、世界の果てを巡る風が、奇妙な噂を運んできた。
曰く――人間の街を、一頭の紅蓮の飛竜が奪った。
曰く――そこには、本来相容れないはずの、様々なモンスターが集まっている。
曰く――あそこに行けば、食料を分けてもらえる。
曰く――凍えることのない、安全な寝床がある。
曰く――外敵が来ても、圧倒的な強さを持つ『王』が守ってくれる。
そして何より――そこへ行けば、もう二度と、独りではなくなる。
その都の名は「竜の都」
あるいは、心に傷を負った雌たちが最後に辿り着く、雌モンスターの駆け込み寺。
夫を置き去りにして生き延び、熱も、誇りも、色彩さえも失って白き灰となった私。ただ凍えて死を待つだけだった私の胸の奥で、その噂は、消えかけていた最後の火種をわずかに爆ぜさせた。
「独りではなくなる――」
私は数ヶ月ぶりに、きしむ白い翼を広げた。愛する夫のいないこの世界で、その言葉がどれほど切実な光に見えたか。私は這い上がるようにして、紅蓮の王が統べる「竜の都」へと飛び立った。
◆
幾日もの、死に物狂いの過酷な旅の果てだった。白い灰と化した私の翼は、羽ばたくたびに悲鳴を上げ、喉は乾き、意識は朦朧としていた。
それでも、消えかけた火種だけを頼りに飛び続け――私はついに、その場所に辿り着いた。そこは、かつて人間たちが栄華を誇っていたのであろう、巨大な石の城壁に囲まれた都だった。
鉄門をくぐり、美しい石畳の広場へとフラフラと足を踏み入れた瞬間、私は辛うじて保っていた息を呑んだ。そこに、いた。噂に聞いた、この都の「王」が……。
広場の中央に君臨していたのは、漆黒の模様を帯びた、巨大な紅蓮の翼を持つリオレウスだった。彼が呼吸をするたびに、周囲の空気は陽炎のように歪み、凄まじい熱量が肌を灼く。
ただそこに佇んでいるだけで圧倒的な威圧感を放つ、真の生態系の王。本来なら古龍である私は飛竜の上位に位置する。しかし、そんな私ですら、その強大な存在感を前に、一歩も動けず目を離すことすら出来なかった。
(今、襲われたら、戦う力など残っていない……)
圧倒的な王の威容に呑まれ、白い灰の身体を強張らせて立ち尽くす私。しかし、そのリオレウスは、私に向かって牙を剥くことも、縄張りを侵した外敵として排除することもしなかった。
彼は、ボロボロの私を見据えると、黄金の太陽が如き厳かで、すべてを見通すような眼差しを静かに向けた。そして、ひと言だけ、深く響く声で言った。
「……随分と、疲れているな」
その声には、外見の恐ろしさや威圧感とは裏腹に、傷ついた者を包み込むような、底知れない深い慈悲が滲んでいた。夫を失ってから、誰にも向けられることのなかった温かい言葉。張り詰めていた糸が切れたように、私の膝から力が抜けそうになる。
「疲れている……そうね。確かに疲れているわ……」
私は力なく、しかし偽りのない本音をそのまま言葉にして溢れさせた。心も体も、文字通り燃え尽きていた。かつて古龍として大陸に君臨していた頃のプライドなど、この疲れ果てた白い身体のどこを探しても、もう一欠片も残っていなかった。
「お姉さん疲れてるの?」
ふと、すぐ近くで幼く無邪気な声が聞こえた。声を求めて視線を巡らせれば、そこには先ほどと変わらず、圧倒的な存在感を放ちながら佇むリオレウスの姿があるばかりだった。だが――
「すまないな。我が子達はあなたの事が心配なようだ」
リオレウスが少しだけ、その巨大な紅蓮の翼を持ち上げた。すると、彼の大きな身体に隠れるようにして後ろに身を潜めていた、飛竜たちが次々と姿を現したのだ。
さっきの声の主は、どうやらこの子たちの誰かのようだった。しかし……その姿を目にした瞬間、私は再び息を呑んだ。あまりにも、普通ではなかったからだ。
そこには、普通のリオレウスやリオレイアも確かに混ざっていた。だが、それだけではない。明らかにリオレウスの特徴である鱗や模様、あるいは独特の翼の構造を持ちながらも――その体躯はナルガクルガのようにしなやかだったり、タマミツネのように優美だったり、ジンオウガのように筋強固な四肢を持っていたりした。
全く異なるモンスターの姿。異種交配によって生まれた、本来の自然界ではあり得ないはずの、歪で、しかし確かな命の形に私は呆然と立ち尽くした。
目の前で繰り広げられる微笑ましくも奇妙な光景と、目の前に君臨するリオレウスを、何度も交互に見つめることしかできない。
「この子達は……すべてあなたの子ども達だというの?」
「ああ。この子達はすべて、俺の血を継いだ愛しい我が子達だ」
リオレウスは一切の躊躇なく、胸を張って堂々と答えた。ありえない……異なる種族の血が混ざり合い、それらが拒絶反応を起こすこともなく、これほど健やかに育っているなど、私が知る生態系の常識では絶対に考えられないことだった。
古龍の私ですら恐れを抱くほどの王の圧倒的な熱量。それは、あらゆる種族の壁を焼き溶かし、一つの新しい命として育むための、母胎のような熱だったのだろうか。驚きに打たれる私の足元へ、小さなナルガクルガの姿をした子供が、怖がりもせずトコトコと近寄ってきて、私の白い甲殻にそっと頭を擦りつけてきた。
「あなた……一体何頭の番がいるわけ?」
「9頭だ。全員、俺の愛する番たちだ」
ストレートに恥ずかしげもなく堂々としすぎている…。そしてあまりに桁外れな数字に、私はめまいを覚えそうになった。9頭。これほど多様な子供たちがいる理由には納得がいったが、同時にひとつの疑問が浮かぶ。
「その9頭の番たちは……全員、私のように心に傷を負ってこの都にやってきたの?」
「全員ではない。というか、心に傷を負ってこの都にやってきたのは3頭だけだ」
「3頭だけ……?」
私は耳を疑った。たった3頭。それだけの数で、あの「雌モンスターの駆け込み寺」という噂が、遠く離れた私の耳にまで届いたというの?
「その3頭の雌は……誰なの?」
その番のモンスターたちが、種族的にあまりにも有名で強力な存在だからこそ、噂が尾ひれをつけて世界の果てまで広がっていったのかもしれない。そう思って、私はリオレウスに尋ねた。
「一番最初に来たのはオウガ。彼女は成熟して間もない頃に、天災によって住処を失くし、群れは散り散りになってしまってここに来た」
ジンオウガ……あの誇り高き雷狼竜が、最初の1頭。
「次に来たのがマガド。彼女は過去の雄に心と身体を傷つけられ、失意の果てに偶然この地へ辿り着いた」
偶然ここへ来た、怨念を纏うはずの鎧武者、マガイマガド……どちらも一筋縄ではいかない、生態系の高位に位置する強力な種族だ。彼女たちが抱えた凄惨な過去を想像し、私は胸を締め付けられる。そして、最後の一頭の正体を確かめるべく、私は重い口を開く。
「最後の1頭は誰……?」
私の問いに、リオレウスはほんのり優しい笑みを浮かべて答えた。
「あなただ」
「……私?」
私は完全に困惑した。私はまだ名乗ってもいなければ、この都に留まると決めたわけでもない。ただ噂を頼りに、亡者のようにふらふらと辿り着いた行きずりの古龍に過ぎないというのに。私の困惑を察してか、リオレウスは静かに語り始めた。
「どういう訳か、この俺の前にやってくる雌は心と身体が傷ついてやってくる事が多くてな」
そこまで語った所で、リオレウスはまっすぐに私を見た。その黄金の瞳には、私を警戒するような邪気は一切なく、ただ深い包容力だけが湛えられている。
「あなたも傷ついてやってきたのだろう? その白い姿を見れば分かる。美しいが……儚い……そんな雰囲気を醸し出している」
胸を、強く突かれた。すべてを焼き尽くした後の灰のように白くなってしまった私の甲殻。それは炎を失い、最愛の夫を置いて逃げ延び、生きる気力さえ失った私の惨めな姿そのものだった。彼には、私のすべてが見えている。かつて新大陸の生態系を揺るがした「炎妃龍」の威光などどこにもない、ただの哀れな亡霊である今の私が――
「ええ……その通りよ。私は……心に傷を……トラウマを抱えてここにやってきたわ」
私は俯きながら、掠れた声で認めた。夫の最期。ネルギガンテの耳障りな咀嚼音。誇りを捨てて逃げ出した無様な自分の背中。それらの記憶が脳裏をよぎるたび、白い身体が小さく震える。
「そうか……話したくないのなら、別に話さなくてもいい。先ずは傷を癒やすことに専念してくれ。ハンター! ちょっと来てくれ!」
リオレウスは私の凄惨な過去を無理に暴こうとはせず、ただ温かい言葉をくれた。そして、彼が都の奥に向かって呼びかけた直後、一人の人間の男、ハンターが姿を現した。
「…んだよレウス……って! ナナ・テスカトリじゃねぇか! お前とうとう古龍を番にしたのか!」
「してねぇよ! というか彼女に失礼だぞ!」
驚愕のあまり、私の思考は完全に停止した。目の前で繰り広げられているのは、モンスターと人間のハンターによる、あまりにも気安く、信じがたいほど対等な掛け合いだった。
モンスターと人間が……ハンターが共存している?私にとってハンターとは、私から最愛の夫を奪ったネルギガンテと同じく、容赦なく武器を振るい牙を剥く「恐るべき侵略者」のはずだった。
それなのに、この都では、種族の壁さえも超えた奇跡のような光景が当たり前のように存在していた。
「とにかくだ、ハンター。彼女に都を案内してくれ。彼女の傷を少しでも癒すために庭園とか綺麗で落ち着ける場所にな」
ハンターは「任せとけ」とばかりに軽く手を挙げて了承した。
「あと、彼女が寝泊まりするための家……貴族とやらが住んでいた邸宅なら丁度いいかもしれないから、その区画へと案内してくれ」
「お前は何すんだ?」
「冷凍庫から肉を取り出して食事の用意をする」
「了解」
そのやり取りの端々に、疑う余地のない確かな信頼が垣間見える。それはかつて私たちが知っていた、人間とモンスターの殺伐とした弱肉強食の関係ではない。まるで長年の友人、いや、背中を預け合う相棒のような関係だ……。
私は人間に対して、まだ心の底にある恐怖や警戒を拭えずにいた。しかし、目の前の男は古龍である私に怯える様子もなく、むしろ気さくな笑みを向けた。
「よう、ナナ。長旅で疲れたろ。変な真似はしねぇからさ、こっちへ来なよ」
その声に敵意はなく、むしろ私のボロボロの身体を労わるような優しい響きさえあった。私は白く褪せた翼を小さく震わせながら、その人間の後ろをついて、静かに石畳を歩き出した。
人間の後ろをついていくと、そのハンターに向かって「遊べー!」と言わんばかりに元気よく突撃してくる小さな子ども達がいた。それは、マガイマガドとリオレウスのハイブリッドだった。身体のあちこちに紅蓮の鱗の輝きを残しつつも、まだとても幼く、パヤパヤとしていて、まるで愛らしい子猫のようだった。
「こら、危ねぇだろ!」
口ではそう言いながらも、ハンターは顔を綻ばせてその小さな身体を両腕でしっかりと受け止めている。すると、その子どもを追いかけてきたのだろう。物陰から、母親であるマガイマガドがゆっくりとこちらへ近づいてきた。
かつて私が戦場で見た、怨嗟の塊のようなあの怨虎竜の恐ろしさはそこにはなかった。ただそこに漂うのは、とても穏やかで、幸せそうな母親の空気だった。しかし……彼女と目が合い、私の視線がその頭部へと向いた瞬間、私は思わず息を呑んだ。
彼女の頭の角が片方、根元から無残に折れていたのだ。怨虎竜にとって、あの鬼火を放つ立派な角は、己の強さと誇りの象徴であるはず。それが失われているということは、彼女がかつて、どれほど凄惨で深い傷を心と身体に負ったかを静かに物語っていた。
私と同じだ。彼女もまた、すべてを奪われ、誇りをへし折られるほどの絶望を経験したのだ。それなのに、今の彼女の瞳には暗い影など微塵もなかった。奪われた誇りを悔やむ風でもなく、ただ腕の中でハンターとじゃれ合う我が子を、愛おしそうに、慈しむように見つめていた。
「……あなた、古龍のナナ・テスカトリでしょう?」
「ええ」
「どうして、そんなに白くなっているの?」
その直球な質問に、私は思わず怯んでしまった。夫の死、逃げ出した無様さ。それを思い出すだけで、喉がキュッと締め付けられる。
「……ごめんなさい。今はまだ……言えそうにないわ……」
しかし、マガドは私の拒絶を怒ることも、気にする風でもなかった。
「大丈夫よ。私もね。昔は、この角が折れたことを恥だと思っていたの。だからすぐには誰にも打ち明けられなかったわ」
彼女は穏やかな声音で、自身の過去を静かに語り始めてくれる。
「見ての通り、私の身体は他のマガイマガドに比べて小さく、甲殻に輝きもない。はっきり言って醜い雌なのよ」
「……そうかしら?」
私は思わず呟いていた。少なくとも、無邪気に笑う我が子を見つめながら、柔らかい笑顔を見せる今の彼女は美しかった。
「過去の雄には『俺の番はお前じゃない! 消えろ、貧相な雌が!』そう言われて……無理やり角を折られたわ。けど、今は違う。レウスがすべてを否定してくれた。私がどんなに自分を卑下しても、彼はすぐにそれを否定して、私という存在そのものを肯定してくれたの。過去の傷を忘れてしまうほどに深く、私を愛してくれた。そして私が疾うに諦めていた『番になって幸せになる』という夢を、彼は叶えてくれた」
幸せ、か……。
『ナナ、私と共に幸せになれる道を歩んでくれないか?』
『勿論!幸せの道をエスコートして頂戴!』
『ああ…愛しているぞ、ナナ…』
『私もよ。テオ…私、今とっても幸せ』
遠い昔に、砂塵の中で夫と誓い合った、あの温かい響きを思い出す……。
「彼という番ができた。そしてこの子が私を『ママ』って呼んでくれる。それだけで、この角が折れていることなんて、もうどうでもよくなるの」
マガドの言葉は、私の凍りついた胸の隙間に、じわりと温かい熱となって染み込んできた。失った誇りは二度と戻らない。けれど、ここには、失った誇りさえも「どうでもよくなる」ほどの、圧倒的な愛と安息があるのだという。
ふと足元を見ると、パヤパヤとしたマガイマガドの子ども達が、私の足先を小さな前足でツンツンと突いていた。私に、その体温を分け与えようとするかのように。
するとハンターが、私の足先をツンツンついているの子ども達に近づく。
「こ〜らお客様に失礼だぞ! ほら、マガドママのとこに帰りな!」
そう言うと、子ども達は「ママ~!」と言いながら、今度は愛しい母親に向かって勢いよく飛び込んでゆく。その、あまりにも眩しく、温かな景色を見た瞬間――再び、私の記憶が強烈に呼び覚まされる。
――愛する夫が……かつては私にも、あんな家族がいた。
――愛おしげに私を呼ぶ、深く猛々しい声があった。
――どんな時も私を守ってくれる、誇り高き雄がいた。
――私が世界で一番安心できる、帰る場所があった。
それなのに、今は……あの日、私の目の前で夫の命が散った姿が……肉を引き裂かれ、すべてを奪われていく絶望が……そして私たちの幸せをすべて踏みにじった、ネルギガンテの凶暴な勝利の咆哮が――凄惨な記憶が、まるで昨日のことのように脳裏を埋め尽くし、一気にフラッシュバックしてくる。
私は無意識に、白く色褪せた翼を激しく震わせた。止めようとしても震えは収まらず、熱を失った身体が、過去の恐怖と深い悲しみでガタガタと軋み声を上げていた。
「……悪かった。家族のことを思い出したか?」
ハンターが、私の震えを気遣うようにそっと声をかけてきた。私は驚いて顔を上げた。
「……どうして……家族ってわかったの……?」
「いや。そういう顔してたからな。それに……泣いてるからさ」
そう指摘され、私はハッとした。言われて初めて気がつき、前脚で慌てて顔を拭う。私の頬は確かに、冷たく湿っていた。私って……こんなに涙脆かったかしら。
それと同時に、かつては大陸を焼き尽くす青き炎の女王、炎妃龍と呼ばれたこの私が、涙という「水」を溢れさせるなんて……という自嘲の念が込み上げてくる。なんと無様で、みっともない姿だろうか……
「話したくなけりゃ話さなくていい」
ハンターは、先ほどのリオレウスと全く同じ言葉を私にくれた。隣にいるマガイマガドと子ども達も、何も言わずにただ静かに寄り添い、その温かな体温を私に分け与えようとしてくれている。
この都にいる者たちは、誰も無理に私の傷を暴こうとはしない。弱肉強食の世界で、弱みを見せれば食い殺されるのが当たり前だった。それなのに、ここでは傷ついていることさえも優しく包み込まれる。その心地よさと戸惑いが、私のこれまでの価値観を少しずつ、しかし確かに崩していった。
ハンターの案内が再開し、私は豪華で広い庭と庭園に囲まれた大きな屋敷に到達した。
「取り敢えず、ここがオススメだと思う」
そう言って、ハンターは広い庭園の奥へと私を導いてくれる。様々な種類の植物に囲まれた庭園だった。だが……少々無造作というか、綺麗ではあるのだが咲いている場所はまったく整っておらず、色んな色の植物が同じ箇所にごちゃ混ぜになって咲き乱れている。ハンターは、私のその怪訝そうな視線に気づいたのだろう。
「生憎、一つ一つの屋敷までは手入れが行き届かなくてな……」
と、バツが悪そうに申し訳なさそうな詫びを入れてくる。けれど……私は別に構わなかった。均整の取れた完璧な美しさなど、今の私には眩しすぎる。むしろ、少し荒れていて、自然のままに放置されている方が、今の私の心には落ち着くと言ってもよかった。
ここに寝泊まりさせてもらうことをハンターに告げると、彼は安堵したように息を吐いた。
「分かった。今は一人になる時間が必要だろうから、俺はもう帰るよ。その内、レウスが食事を持ってくるだろうから、それまでのんびりしてくれ」
ハンターはそう言い残して去っていった。私の様子をずっと心配そうに窺っていたマガイマガドと、その子ども達も、彼についていくようにして同様に去っていく。広大な庭園に、しん、とした静寂が戻ってきた。私は白い身体をそっと横たえ、色とりどりの花がごちゃ混ぜに咲く地面に、深く顎を伏せた。
一人きりになった屋敷で、色とりどりの花がごちゃ混ぜに咲く庭園を見つめながら、私はいつの間にかうたた寝に落ちていた。どれほどの時間が経ったのだろう。誰かがこちらへと近づいてくる、重い足音が静寂を破った。
ハッと目を覚まし、視線を向けた先にいたのは――リオレウスだった。彼は予告通り、その大きな顎に、巨大な肉の塊を咥えて運んできていた。
「目を覚ましたか。食事の用意ができたから持ってきたぞ」
彼はそう言って、私の目の前にどさりと肉を置いてくれた。古龍である私の巨体を満たすに十分な、見事な獲物の肉だった。
「それじゃ俺は帰るよ。何か問題だったり、用があれば城まで来るか、ハンターに伝言を伝えてくれ」
リオレウスはそれだけ言うと、私の時間を邪魔しないよう、大きな紅蓮の翼を広げてそのまま飛び去ろうとした。どこまでも私を気遣い、踏み込みすぎないその優しさに――私の胸の奥が、激しく突き動かされた。
「待って……」
気づけば、私は掠れた声で彼を呼び止めていた。呼び止められたレウスは、広げかけた大きな翼を再び静かに畳んで腰を下ろし、私が言葉を紡ぐのをじっと待ってくれた。
「……少しだけ話を聞いてほしいの……」
そう告げると、レウスは「俺は構わないよ」と静かに答え、目を閉じて傾聴する姿勢をとった。まるで私が放つ言葉を一言一句聞き逃さないように、全身で受け止めようとしてくれている。
しかし……私はそこから、言葉を……彼に一番話したいはずのことが、どうしても話せなくなってしまった。自分のトラウマを……夫がネルギガンテに惨殺された、あの日の光景を……それを言葉にしようと考えると、胸が締め付けられ、喉の奥が引き攣り、息が詰まってしまう……!
私の脳裏には、またあの凄惨な咀嚼音と、すべてを置き去りにして無様に逃げ出す自分の背中が鮮明に蘇り、身体がガタガタと震えだした。言葉の代わりに漏れるのは、掠れた虚しい吐息だけだった。
でも、彼はそんな私の無様な姿を見ても、決して急かすことはなかった。苛立つことも、呆れることもなく、ただひたすらに落ち着いた佇まいで、私が話し出すのをじっと待ってくれていた。
「話すのが辛いのなら、今は話さなくてもいいんだぞ……」
目を開けた彼が、どこまでも優しい声音でそう私を労わってくれる。
けれど――私は話したい。この都の王に、私のすべてを打ち明けたい。この凍てつくような孤独の重さを、誰かに聞いてほしい……!だから……どんなに格好悪くても、どんなに声が震えていたとしても……私は、話す。
絶角マガドが暴れる一方その頃。無事に産まれたレウスの息子たち(全員太陽の心臓遺伝した激ヤバjr)
(※AI生成)
【挿絵表示】
そう言えば皆さんはCV誰を想像しながら読んでますか?
僕的には過去回想若レウスは「中村悠一さん」
ギャグシーンが連発する今は「大塚芳忠さん」
悪友シッターハンターの彼は「小西克幸さん」
この3人で脳内再生しながら読んでます。
執事と正妃を地獄に落とすならどれが良い?
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空飛ぶイビルジョー
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レウスが連れてきた怨嗟童貞マガド
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何故か死んでない混沌ゴア
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レウスにボコられ、八つ当たり中のネギ