私は震える声を絞り出し、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
「あれは数ヶ月前のこと……私は夫のテオと共に、私たちの縄張りである火山の巡回をしていたわ」
言葉を紡ぐたび、冷え切った胸の奥がキュッと締め付けられる。それでも、レウスの静かな眼差しが、私の折れそうな心を支えてくれていた。
「いつもの巡回ルートを辿り、いつものように食事をし、いつものように寄り添い合って眠る……。明日も、明後日も、その先もずっと続いていくと信じて疑わなかった。なんてことない、ただ平和な日常を過ごしていたの。でも……あの日だけは違ったわ」
思い出すだけで、全身の甲殻が粟立つ。
「言葉にできない、妙な胸騒ぎを感じたの。私たち夫婦はすぐに異変の原因を突き止めるべく、いつも以上に警戒しながら縄張りを巡回し始めた。そして――見つけてしまった。出会ってしまったの」
喉の奥が乾き、吐息が白く震える。あの悪夢の化身の名前を呼ぶだけで、世界が凍りつくかのような恐怖が蘇る。
「古龍を喰らう古龍……ネルギガンテに」
「ネルギガンテか……」
レウスの黄金の瞳が、僅かに細くなった。けれど、彼は私の言葉を遮ることはせず、ただ静かに続きを待った。私はガタガタと震える身体を必死に抑えながら、重い続きを口にした。
「私たちは……戦ったわ……夫は……強かった……本当に……強かったの」
なのに――
「……私のせいで……」
そこで、どうしても言葉が途切れてしまう。胸が詰まり、涙がまた視界を滲ませる。
「私が……一瞬……判断を間違えたせいで……」
私はきつく目を閉じた。目を閉じれば、いや、目を閉じるまでもまぶたの裏にはっきりと、あの日の最後の光景が、地獄のような色彩で蘇る。
死闘の最中、私がほんの一瞬だけ見せてしまった隙。ネルギガンテの凶刃が私を切り裂こうとしたその瞬間、私の前に立ち塞がった、夫の大きくて、温かくて、誇り高き赤き背中。そして――
「……夫は、私を逃がした」
声が、情けないほどに震える。
「『生きろ』って……そう、言ったの」
それが――夫が私に残した、この世界で最後の言葉だった。その言葉を残して、夫はあの怪物の牙に、爪にかけられた。私は、古龍としてのプライドもすべて投げ捨てて、彼の肉を貪る咀嚼音から逃げるように、ただみっともなく背中を向けて逃げ出すことしかできなかった。
すべてを吐き出した私の身体からは、もはや煙すら出ない。ただ、灰色の涙だけが、ごちゃ混ぜに咲き乱れる庭園の草花を濡らしていた。
リオレウスは遠い目をしながら語る。
「……愛する者がいた。明日も明後日も平和が続くと思っていた。けれど……その幸せはある日を境に終わってしまった。他でもない自分のせいで、か」
リオレウスはそこまで口に出してから、深く息を吸って目を瞑っていた。そして目を開くと、私の目を見て彼はひと言言った。
「その気持ちは……痛いほど分かる」
それは、私の痛みに寄り添ってくれる言葉だった。だが……だからこそ、私はその言葉が気に入らなかった。
「その気持ちが痛い程分かる? ……あなたに……あなたに分かるわけないでしょ!」
たくさんの番がいて、たくさんの子どもたちに囲まれて、幸せを謳歌しているあなたに。愛する者を失った悲しみなんか、痛みなんか……分かるはずがない!
私は泣きながら叫んでしまった。叫んでから、すぐに激しい自己嫌悪が押し寄せる。私は一体何をやっているのよ……彼はただ、私の拙い話に耳を傾けてくれたのに。私の痛みに寄り添ってくれようとしたのに。そんな彼に怒鳴り散らすなんて……でも……彼は怒る様子を一切見せなかった。
牙を剥くことも、王としての威厳で圧し潰すこともしない。むしろ――
「分かるさ。愛する者を失い、心が荒れてしまうその状態も、寂しさと悲しみも……本当に……」
どこまでも穏やかに、私の荒んだ心に寄り添い続けてくれる。そして……彼が静かに私に告げた言葉で、私は自分の傲慢な発言を深く後悔することになった。
「……俺も……過去に番が1頭……亡くなっているからね……他でもない、俺のせいで……」
私は…唖然とすることしか出来なかった…。
「次は俺の話を聞いてくれるかい?」
彼のその静かな言葉に、私はただ、小さくうなずくことしか出来なかった。自分の浅はかな怒りを恥じ、胸の内で激しい後悔の念が渦巻いている。
「聞いてて気持ちがいい話ではないんだがな……」
前置きをして、彼はぽつり、ぽつりと語り始めた。
「あれは数年前のことだ。俺が6番目と7番目の番であるティガとベリーを同時に巣に迎え入れてから数ヶ月後のことだった」
彼はそこで言葉を一度区切った。
「俺が毎晩のように多数の妻達と交尾し、体力が尽きて干からびていた時にだ」
(……ちょっと待って。……惚気?)
シリアスな空気の中に突如として放り込まれた、あまりにも生々しい独白。私は思わず、心の中で鋭いツッコミを入れそうになった。今まさにシリアスな過去のトラウマを打ち明け合っていたはずなのに、何を聞かされているのだろうか。
けれど、今の私は彼に酷い言葉をぶつけてしまったばかりの身だ。ここで話を折るわけにはいかない。私は大人しく、なんとか表情を崩さずに静聴を続けるしかない。
「レイアが『たまには身体を癒やしに旅行に行ってきたらどう?』なんて言ってくれてな。子ども達の世話を妻たちに任せて、別の大陸へ旅行に行ったんだ」
ここまで語り、彼は息を深く吸い込んだ。先ほどまでの生々しい雰囲気は一瞬で消え去り、かつての重い記憶が再び彼の胸を締め付ける。潤んでいく黄金の瞳で、彼は静かに、しかし重く告げた。
「その旅行先で……俺は出会った…。その大陸を飛行中、どこかで女の子が泣いているような声が聞こえた気がしたんだ」
リオレウスの瞳は尚も潤んだままだった。しかし、そこから涙が溢れることはなく、これ以上の辛い記憶に言い淀むこともなかった。
「旅行に来たというのに、気づけば俺は、必死になってその鳴き声の主を探し回っていた。そして……見つけたんだ。場所は、植物のいっさい生えていない死んだ森の洞窟の奥底。日の光すら届かない、暗闇の底に……彼女は居たんだ」
彼の語る情景が、私の脳裏に冷たい影を落とす。日の光すら届かない暗闇の底。そこで独りきりで泣いていたという、彼の亡くなってしまったという番の姿。
先ほどまでの生々しい惚気話の気配は完全に消え去り、屋敷の庭園は再び静まり返っていた。ごちゃ混ぜに咲く花々の匂いさえも、彼の語る「死んだ森」の冷気に塗りつぶされていくかのように思えた。
私は息を潜め、彼の次の言葉を待った。その暗闇の底で、彼と彼女に一体何が起きたのか。そして、なぜ彼が「俺のせいで亡くなった」と言うのかを知るために。
「『これ以上、近づいたら感染するわよ……っ!』彼女は暗闇の奥から、必死に声を絞り出して警告した。もう、誰も傷つけたくない。誰も私のせいで死なせたくない。ここに来ちゃダメ。早くその翼で、眩しい大空へと帰って――と、心からそう願っていたのだろう。そして、必死になって俺を追い返そうとした。」
優しい女の子だったのね…。
「彼女の身体からは、絶え間なく不気味な黒い霧が溢れ出ていた。それは触れるものを狂わせ、理性を奪う凶悪な病――『狂竜ウイルス』だった。しかし、俺はその触れるものを狂わせるウイルスをまったく恐れず、それどころか、異形の外套を纏った彼女の悍ましい姿を見ても、怯むことも、逃げ出すさなかった。寧ろ、こう尋ねたさ」
なんて尋ねたのだろう…でも彼のことだから…ちょっと待って、狂竜ウイルス?
「『君か。さっきから泣いていたのは』とな。俺は事もなげにそう言って、彼女との距離を詰め、一気に急接近した。彼女は、なぜ逃げないの? とでも思っていたのだろうな。頭の中が混乱で真っ白になっていたようだった」
ああ…やっぱり。あなたは優しいからそうすると思ったわ。ウイルスだとが気にしなさそうだもの。
「『私を……見て言っているの?』彼女は信じられないといった様子で、震える声で俺へと尋ねた。だから、俺ははっきりと答えたんだ…『ああ、見ているよ』ってな」
リオレウスの語るその一幕に、私は息を呑むのを忘れて聞き入っていた。そして一旦置いておいた単語を振り返る。『狂竜ウイルス』――それはあの黒き蝕龍、ゴア・マガラ、あるいはシャガルマガラの雌だったのだろうか。
触れるだけで凶暴化し、自滅へと向かわせる呪いの霧。それすらも焼き溶かすような圧倒的な熱量で、彼は暗闇の底にいた彼女に近づいたのだ。恐怖に震える彼女に、ただ一頭の「雌」として、真っ直ぐに向き合うために。
「……それで、その子は……どうなったの?」
私は乾いた喉を震わせ、先を促した。このあまりにも鮮烈で、けれどどこか温かい出会いが、なぜ「自分のせいで亡くなった」という最悪の結末へと向かってしまうのか。私は知りたかった。彼の抱える傷の深さを。
「結論から言えば……俺と彼女は互いを好きになった。彼女の種族には雄雌、番の概念も存在しなかったが……彼女は番を欲しがっていた。生物として、自分の遺伝子を、子孫を残したがっていた。だから……俺はそれに協力するために……彼女の番になった」
(……その時点ですでに7頭の番がいたというのに、あなたはさらに増やそうとしたのね……。しかも番が多いからこそ旅行が必要になったというのに、さらに増やそうとしたのね……)
あまりの突っ込みどころの多さに、私の頭の中は再び混沌とした感情に支配されそうになった。この王の包容力というか、絶倫ぶりというか、底が知れなすぎる。
「まあ、そうなる。でも……これがきっかけで彼女は……亡くなることになってしまったんだ……」
「……え?」
どうして……?端折られているとはいえ、ここまで彼女が亡くなるような要因はどこにも見当たらないわよ?!あれほど強力な狂竜ウイルスを平然と撒き散らす種族が、彼と番になったというだけで、どうして亡くなるというの?!
混乱する私をまっすぐに見つめ、リオレウスは胸を引き裂かれるような、絞り出すような声で静かに、しかし重く告げた。
「……俺が愛してしまった。そして……愛されてしまったからだ」
だれか〜…セールでクソ安くなっていて丁度いいからモンハンライズサンブレイクセットを購入したばかりの僕に序盤は何のスキルとか復帰勢向けの武器とか戦い方を教えてくだせぇ…。
アケノシルムに大苦戦してるんです〜…。僕ってこんなにモンハン下手くそだったっけ…。
皆さんはこの中ならどれが読んでみたいです?
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著・ギルマス「赤い竜の君」
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巣立ちしたレウスの子ども達のその後
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ベビーシッターの一日
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レウスの夜の大運動会