王妃として生きていたあの頃、世界はもっと煌びやかで、もっと残酷な場所だった。
カッポ、カッポ、カッポ……
規則正しい馬の蹄の音が、村の素朴な街道をゆっくりと踏みしめていた。車輪が地面の小石を踏むたび、私の座る馬車が小さく揺れる。
窓の外に広がるのは、かつての私なら目を向けることさえなかった、どこまでも牧歌的な風景だった。
古びた木造の家々がのどかに軒を連ね、道の脇には青々とした畑が広がっている。汗を流して荷物を運ぶ男たちが行き交い、井戸の周りでは数人の女たちが楽しげに談笑していた。
どこにでもあるような、平穏で小さな村。
きらびやかな王宮で贅を尽くし、選び抜かれたドレスを纏って暮らしていた私には、あまりにも質素な場所だった。
けれど今は、不思議と、その飾り気のない風景が心地よく感じられた。
あの日、セバスチャンから手渡された鎧を身に着け、私は燃え盛る王都から逃げ出した。
彼が命を懸けて守ろうとしてくれた、この命。名前も、地位も、かつての暮らしも捨て、私はただの一人の女として、この地の果てまで流れ着いたのだ。
「……ここで、少し休みましょうか」
私の言葉に、向かい側に座っていた侍女が頷いた。王都が滅びた後も、彼女は私に付き従ってくれている。
「かしこまりました、妃殿下。御者に伝えてまいります」
「ええ、お願い」
侍女が馬車の扉を開け、御者へと声をかける。
やがて馬車は、村の広場にほど近い、穏やかな陽だまりの中で静かに停車した。
私は侍女の手を借りて地面へと降りた。
足元の土は、王宮の磨き上げられた大理石の床とは違って、少しばかり柔らかい。身に着けた紫色の鎧が、歩くたびにかすかな金属音を立てた。
「妃殿下。私たちで今夜泊まれる場所を探してまいります。こちらで少々お待ちください」
従者の一人が恭しく頭を下げた。
何もかもを失った今も、彼らは変わらず私に礼を尽くしてくれる。その不器用な忠誠が、今の私にはひどく身に染みた。
「分かったわ。あまり無理はしないでね。あなたたちも、少し休息が必要でしょうから」
「ありがたきお言葉です」
従者たちは村人に宿泊できる場所を尋ねるため、街道の先へと歩いていった。
私は彼らが戻ってくるのを待ちながら、村の景色をゆっくりと眺めた。鳥のさえずりと、井戸端から聞こえてくるささやかな笑い声が、耳に優しく届く。
……彼は、今頃どうしているのだろう。
ふと、愛しい男の顔が脳裏に浮かんだ。
セバスチャン。
あの燃え盛る都で、私にこの鎧を託してくれた、私の大切な人。
『私は恐らく、この戦場にて命を散らすでしょう』
そう告げた時の、彼の悲痛な横顔が今も忘れられない。
(お願い……どうか、生きていて)
胸元でそっと両手を握りしめ、私は祈った。
彼は王としての責任を果たし、あの化け物どもの猛威から生き延びることができたのだろうか。それとも、私を逃がすために残り、あの黄金の瞳を持つ飛竜に命を奪われてしまったのだろうか。
考えれば考えるほど、不安が胸の奥で膨らんでいく。
けれど、今の私にできることは、彼の無事を祈ることだけだった。
セバスチャンは、執事でありながら誰よりも冷静で、誰よりも知的な人だった。
王宮という息の詰まるような場所で暮らしていた頃、私の本当の心に耳を傾けてくれたのは、彼だけだった。
旦那様は、たしかに私を王妃として扱ってくれた。
けれど、それは私の血統や家柄、そして王妃という役割を重んじていただけ。王族として当然の婚姻であり、あるべき形なのだということは、私にも痛いほど理解できていた。
けれど、私は王妃である前に、一人の女性でもあった。
ただ誰かに、役割を取り去った私自身の話を聞いてほしかった。誰かに、張り裂けそうな心を理解してほしかった。
そんな私の、贅沢で、けれど切実な願いを、セバスチャンだけは静かに受け止めてくれた。
彼の知性に惹かれた。
その穏やかさに惹かれた。
そして、私にだけ見せてくれる優しさに、いつしか心を奪われていた。
「……セバスチャン」
私は、鎧の胸元にそっと手を添えた。
紫色の甲殻と、そこに刻まれた独特の模様。これは、通常の雌火竜の素材から作られたものではない。希少な二つ名を持つ雌火竜――『紫毒姫』の素材から作られた、特別な鎧だ。
あの日、セバスチャンはこれを私に託してくれた。
彼が私の命を案じて選んでくれたもの。そう思うと、鎧の重みさえも、彼の手の温もりのように感じられた。
もし、彼もあの戦場を生き延びてくれているのなら。
いつか、私を見つけ出してほしい。
王妃と執事としてではなく、ただの男と女として、この素朴な地で共に生きていけたら――
「……早く会いたいわね」
誰もいない陽だまりの中で、思わずそんな言葉がこぼれ落ちた。
その時だった。
――じっ…
どこかから、熱い視線を感じて、私はハッと我に返った。
顔を向けると、街道脇の木造民家の陰から、二人の小さな子どもがこちらを覗き込んでいた。
男の子と女の子。二人とも、私の身に着けた鎧をじっと見つめている。
目が合った途端、悪戯が見つかったかのように慌てて影へ隠れようとする子どもたち。
「……ふふっ」
張り詰めていた心が少しだけ解きほぐされ、私は小さく笑った。
「そこの二人。ちょっと、こちらへいらっしゃい」
声をかけると、子どもたちはびくりと肩を震わせた。
兄らしい男の子は、妹らしい女の子を背中に庇うように半歩前へ出たものの、鎧への興味には勝てなかったらしい。おずおずと、しかし好奇心に瞳を輝かせながら、こちらへ歩み寄ってくる。
「どうしたの? さっきから、私のことを見ていたでしょう?」
「あ、あの……」
男の子は私の顔を見上げ、それから鎧へと視線を落とした。
「その鎧……すっげえ格好いい!」
「まあ」
「紫で豪華で、すっごく強そう! お姉ちゃん、ハンターなの?」
男の子の瞳が、きらきらと輝いていた。私は思わず、自分の鎧を見下ろした。
「ハンター、ではないけれど……これはね、私の一番大切な人が、私のために用意してくれた、とても特別な鎧なのよ」
そう言って、私は胸元の装甲をそっと撫でた。
男の子の熱視線は、いっそう強くなった。
「ふふっ。そんなに気に入ったの?」
「うん! 俺、大きくなったら、こんな格好いい鎧を着てみたい!」
「そう。きっと似合うわよ」
「本当!?」
「ええ。大きくなったら、この鎧のような物を着られるようになるといいわね」
「うんっ!」
男の子は満面の笑みを浮かべた。その隣で、小さな女の子もまた、私の鎧を見つめていた。
「あのね……」
「ええ、なあに?」
「お姉ちゃんの鎧、かわいい……」
女の子は、少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「色もきれいだし、模様も素敵なの。お姫様みたい!」
「お姫様……?」
私は、思わず聞き返してしまった。
「うん! すっごくきれい!」
女の子は、まっすぐな瞳で私を見つめていた。
そこには打算も恐れもなかった。ただ、目の前にいる人の鎧を見て、きれいだと思った。それだけの、純粋な憧れだった。
「……ありがとう」
私は膝を折り、女の子と目線を合わせた。
「あなたにそう言ってもらえると、とても嬉しいわ」
「えへへ……!」
女の子は嬉しそうに笑った。その小さな手には、木を削って作られた人形が握られていた。少し不格好ではあるけれど、丁寧に色が塗られた、きっと大切な宝物なのだろう。
その笑顔を見ていると、私の胸の奥がじんわりと温かくなった。
王宮では、誰もが私に頭を下げた。私の機嫌を窺い、王妃に相応しい言葉を慎重に選んだ。
けれど、この子たちは違う。
男の子は鎧の格好良さに目を輝かせ、女の子はその美しさに心を躍らせている。
私が何者なのかなど、彼らは知らない。
私が王妃だったことも、燃え盛る王都から逃げ出してきたことも。
ただ、目の前にいる私を見て、笑ってくれている。
(ああ……)
私は、ようやく理解した。
王宮の中で、私はいつも誰かの妻であり、王妃であり、王家の一員だった。
けれど今、この子たちの目に映っている私は、ただの一人の女性なのだ。
それが、こんなにも嬉しいことだったなんて。
「ねえ、お姉ちゃん!」
男の子が、再び口を開いた。
「その鎧って、すっごく高いの?」
「そうね……。私には、少しもったいないくらいの品かしら」
「へえー!」
「でも、とても大切なものだから。これからも、ずっと大事にするつもりよ」
私は微笑んだ。この鎧を用意してくれたセバスチャンのことを思い出す。彼は私のために、これほど立派なものを用意してくれた。
その事実が、今の私には何よりも心強かった。
「……ねえ、二人とも。大きくなったら、何になりたいの?」
「俺はハンター!」
「私は、お姫様!」
二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。
「そう。素敵な夢ね」
私は二人の頭を、そっと撫でた。
「その夢を、どうか大切にしてね」
「うん!」
元気な返事が返ってきた。その時、街道の向こうから従者たちも戻ってきた。
「妃殿下。宿泊できる場所が見つかりました。部屋も確保できたとのことです」
「そう。ありがとう」
私は立ち上がり、子どもたちに向き直った。
「それじゃあ、私はこれで。また会えるといいわね」
「うん! お姉ちゃん、またね!」
「鎧、大切にしてね!」
「ええ、もちろん」
私は微笑み、従者たちの後について歩き始めた。背中に、子どもたちの明るい声が届く。
もしも、違う人生を歩んでいたら…
もしも、政略結婚などというものがなく、誰かに生き方を決められることもなく、自由に暮らせていたら…
私も、あの子たちのように、何の迷いもなく笑えていたのだろうか…。
……いいえ。今さら、そんなことを考えても仕方がない。
私は自分の意思で、この道を選んだのだから。
セバスチャンと生きる。それが、私の望んだ未来なのだから。
明日になれば、また彼に会えるかもしれない。
明後日になれば、また会えるかもしれない。
諦めなければ…いつか会えるのかもしれない。
そして…あの知的な瞳で、無事な私を迎え入れてくれるかもしれない。
そう考えると、自然と足取りが軽くなった。私は小さく微笑み、宿屋へと向かった。
◆
その日の夜。
宿屋の一室で、私は窓辺に腰を下ろしていた。
村はすっかり静まり返っている。昼間の賑やかさが嘘のように、心地よい静寂が部屋を満たしていた。
窓の外には、息をのむほど美しい星空が広がっていた。
王宮で暮らしていた頃は、ただ夜空を眺める余裕などなかった。いつも誰かに見られ、完璧であることを求められていた。
けれど、今は違う。
誰も私に、王妃としての振る舞いを求めない。誰も私に、王の妻であることを強制しない。
ここには、私を縛るものが何もなかった。
「……セバスチャン」
私は首元に手を添えた。彼から贈られた、小さな装飾品がそこにある。高価な宝石ではない。王宮の宝物庫にあったような、目を見張るほどの輝きも、歴史の重みもない。
それでも、私にとっては何よりも大切なものだった。
私は装飾品を指先でそっと包み込んだ。
「早く……会いたいわ」
静かな夜の闇に向かって、そっと呟く。
彼の声が聞きたい。
また、静かに言葉を交わしたい。
そして、できることなら、もう一度あの腕に抱かれたい。
若さや美しさ、王家という飾られた肩書だけでは、人の心は満たされない。
私が求めていたのは、ただ一人の人間として向き合ってくれる相手だった。
セバスチャンは、私にとってそういう人だった。
私は、彼と出会えてよかったと、そう心から思っていた。
たとえすべてを失い、質素なこの村へ行き着くことになったとしても、彼に出会えたこと自体が、私の人生の何よりの救いだった。
やがて私は窓辺を離れ、身に着けていた鎧を脱いだ。
鎧は寝台のすぐ傍らに置いた。手を伸ばせば届く場所に。
鎧の表面を、私は一度だけそっと撫でた。明日になれば、また新しい一日が始まる。
いつかセバスチャンと合流し、二人で誰にも邪魔されない土地を探すのだ。
王妃ではない、ただの一人の女性として。
誰かに決められた冷たい人生ではなく、自分で選んだ人生を。
そんな未来を思い描きながら、私は寝台に横たわり、静かに目を閉じた。
そして、幸せな夢を見るように、深い眠りへと落ちていった。
けれど――ドン……
「……え?」
遠くで、何かが地面を激しく踏みしめる音がした。
私は薄く目を開けた。
ドン……再び、音が響く。今度は、先ほどよりも確実に近かった。ゆっくりと、しかし容赦なく、何かが村へと近づいてきていた。そして――
「きゃああああああっ!!」
宿屋の外から、裂けるような悲鳴が響き渡った。
続いて、木材が激しく砕ける音。何かが地面を強引に引き裂くような、凄まじい轟音が鳴り響いた。
「な、何……!?」
私は跳ねるように起き上がり、窓へと駆け寄った。
月光に照らされた広場には、圧倒的な巨体が立っていた。
異様に発達した強靭な前脚。無残にへし折られた二本の角。そして、その傷口から噴き出す、黒赤く不気味な炎。
私は息を呑んだ。
「……マガイマガド……?」
違う。私がかつて王宮の図鑑で見たマガイマガドとは、何かが決定的に違っていた。
あれは、ただ角を失っただけの個体ではない。
あのリオレウスとの戦いで、その身を叩き潰された怪物。生き延びるために必要なものさえ投げ捨て、ただ破壊するためだけの存在へと変わり果てた異形。
その姿は、まるで世界への憎悪そのものが形を得たかのようだった。
「どうして……どうして、こんな辺境の村に……!」
私は寝台の傍らに置いた鎧を掴み、部屋の扉を開けて廊下へと飛び出した。
宿屋の主人が狂ったように叫び、他の宿泊客たちが悲鳴を上げて逃げ惑っている。
「裏口だ! 裏口から逃げろ!!」
その声に従い、私は必死に足を動かした。
けれど、腕の中に抱えた鎧が重かった。
先ほどまで身に着けていたときには、頼もしく感じられたその重みが、今は私の腕を引き下げ、走るたびに身体の均衡を崩していく。
足がもつれ、何度も転びそうになる。それでも、手放すことだけはできなかった。これは、セバスチャンが私のために用意してくれたもの。
あの日、彼が命を懸けて私に託してくれた、私の命を守るための鎧なのだから。
着用する余裕などなかった。それでも、これを持っていれば、きっと何かの役に立つ。そう信じて、私は重い鎧を抱えたまま、必死に走った。
村の出口へと続く道を目指す。
しかし、曲がり角を抜けた、その先に――巨大な影が立っていた。
月光を浴びて妖しく歪む紫の甲殻。
全身から噴き出す、黒赤く燃え盛る怨炎。
そして、無残に失われた二本の角。
――死神が、そこにいた。
「……っ!」
私は激しく息を呑み、その場に足を止めた。怪物が、ゆっくりと首をこちらへ向ける。血走った悍ましい眼に、私の姿が映った。
「い、いや……」
後ずさる。
逃げなければ…!
そう思うのに、恐怖で足が動かない。怪物は、ただ一歩、その巨大な前脚を踏み出した。
ズシン、と地面が不気味に揺れる。まとわりつく怨炎が、夜の闇を赤黒く照らし出していく。
私は震える腕で、鎧を抱きしめた。
紫毒姫の素材から作られた、最高峰の防具。強靭な甲殻が持つ防御力も、炎に対する耐性も、並のモンスターであれば十分に命を守ってくれただろう。
けれど、眼前の怪物は並のモンスターではなかった。
その怨炎が、ゆっくりと膨れ上がっていく。
「……セバスチャン……」
こんな時でも、脳裏に浮かぶのは、あの人の顔だった。
王宮という冷たい檻の中で、私の言葉を聞き、私の心を理解してくれた人。
彼なら、きっと。
彼なら、この絶望から私を――
「セバスチャン!!」
私は喉が裂けんばかりに、その名を叫んだ。
「助けて! お願い、助けてぇっ!!」
返事はなかった。のどかな村の夜風が、私の悲鳴を虚しくかき消していくだけだった。
それでも、彼が私を愛しているという想いに、疑いはなかった。
あの日、彼は私を逃がしてくれた。
この鎧を託し、生き延びてほしいと願ってくれた。
だから、きっと…彼もどこかで生き延びている。
そして、私と再び会える日を願ってくれている。
「……セバスチャン……!」
私は、もう一度その名を呼んだ。
あの優しい、けれど冷徹で頼もしい声で、いつものように言ってほしかった。
――ご安心を、我が光よ。
その一言さえあれば、私はどんな地獄にあっても、きっと安心できたのに。けれど、眼前の死神は、そんな哀れな女の祈りを待ってはくれなかった。
マガイマガドの折れた角の傷口から、爆発的な殺意と共に黒赤の炎が噴き上がる。
次の瞬間、圧倒的な熱と衝撃が、彼女の身体を呑み込んだ。
鎧が、悲鳴を上げるように軋んだ。
強靭な甲殻が熱に耐えきれず、表面が歪む。
金属の部位が赤く焼け、形を失い、衝撃によって砕け散っていく。
紫毒姫の素材が持つ防御力も、炎への耐性も、この怪物の怨炎の前では意味をなさなかった。
彼女が抱きしめていた鎧は、変形し、破損し、もはや防具と呼べる姿ではなくなっていった。
そして――凄まじい轟音と、視界を白く染める閃光で…小さな村の夜空が、一瞬だけ昼のように明るくなった。
その光の中で、正妃の姿は完全に消え去った。
彼女の命も、彼女が最後まで手放さなかった鎧も、怨炎の熱と衝撃によって焼かれ、砕かれた。
後に残されたのは、原形を留めない紫色の装甲の残骸と、黒く焦げた大地だけだった。
彼女は最期まで、愛する男を信じていた。
自分を守ろうとしてくれたあの人が、今もどこかで生きていると。
いつか再び、あの力強い腕に抱かれる日が来ると。
その願いが叶うことは、もう二度となかった。
彼女を待ち受けていたのは、愛する男との再会ではなかった。
生き延びるためならば他人さえ利用する、冷徹な男の計算と策略。そして、それとは何の関係もなく、ただ破壊を繰り返す怪物の怨念だった。
セバスチャンは、彼女を囮として利用した。
彼女が逃げ延びることを願ったのではなく、自分が生き延びるために、彼女を追跡の目印として差し出したのだ。
けれど――彼女は、その真実を知らなかった。
彼女にとって、あの鎧は愛する男が自分の命を案じて託してくれたものだった。
あの言葉は、自分を生かそうとする男の、心からの願いだった。
その認識が、彼女の最期まで覆ることはなかった。偽りの光であっても、彼女にとっては、それがすべてだった。
彼女はその光を信じることで、長い間、孤独な王妃として生きてきた人生から、ようやく自分自身の幸福を見つけたのだ。
だからこそ、その最期はあまりにも残酷だった。
彼女は裏切りを知らず、愛を疑わず、いつか訪れるはずだった未来を信じたまま、永遠の眠りについた。
◆
翌朝。
村は見る影もなく破壊されていた。
焼け落ちた宿屋の骨組みが黒く燻り、砕け散った家々の瓦礫が街道を埋めている。地面はどこもかしこも黒く焦げつき、昨夜の炎がどれほど凄まじかったのかを物語っていた。
そこに、王妃だった女性の姿はなかった。
彼女が最後まで抱えていた鎧も、もはや原形を留めてはいなかった。
歪み、砕け、黒く焼け焦げた紫色の残骸が、瓦礫の間に埋もれていた。
その惨状の片隅に、小さな木彫りの人形が転がっていた。
昨日、王妃に「お姫様みたい」と笑いかけた、あの女の子が大切にしていた人形だった。
小さな手で握りしめていた、あの宝物。その持ち主がどこへ行ったのか、誰にも分からなかった。
異変を察知し、遅れて駆けつけたハンターは、膝を折って人形を拾い上げ、何も言わずに人形についた黒い土をそっと手で払う。
周囲には、焼け焦げた家屋と、崩れた壁と、黒い灰ばかりが広がり、人々が暮らしていた痕跡は、あまりにも無残な形で踏みにじられていた。
ハンターは、何が起きたのかを知らなかった。
誰がこの村を襲ったのか。なぜこの場所が破壊されたのか。昨夜、ここで誰が命を落としたのか。
手の中の人形が、誰のものだったのかさえ、確かなことは分からない。
ただ、この村で多くの命が失われたことだけは、目の前の惨状が物語っていた。
ハンターは人形をそっと握りしめ、静かに立ち上がった。
そして、遠くの地平線を見つめた。
人間の欲望も、策略も、怪物の怨念も、何の罪もない人々の暮らしを容赦なく踏みにじっていく。
その惨劇の中で、誰が何を望み、誰が何を失ったのか。
その答えを知る者は、この場にはいなかった。
だが……彼が見上げた空は、どこまでも高く、どこまでも青かった。
雲一つない蒼穹は、まるで昨夜の凄惨な出来事など、最初から存在しなかったかのように、ただ静かに世界を見下ろしていた。
「才能が有ろうが無かろうが、命ある限り、そいつには等しく成長の道が残されている」
童貞、傷の回復速度が異常レベルに成長。非戦闘状態になってから10秒経過で部位耐久値が全回復するようになりました。モドリ玉を使ったり、乙すると素材回収は最初からやり直しです。
国民「わーい!リオレウスとナナ・テスカトリが居なくなったし、マガイマガドも死んだ!」
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