そう言えばYouTubeが見れなくなったんですけど皆さんも同じですか?
ベビーシッターの朝は早い。
「うぉぁぁぁぁ!!!」
夜明け前の薄暗い寝室に、割れんばかりの悲鳴が響き渡った。その凄まじい大音量に、俺は、重い瞼を開けてベッドから上体をムクリと起こす。
声のした方向は、少し離れた王城。かつては人間の王が君臨していた場所だが、今や『絶倫王』とその一族が暮らす根城と化した、元・玉座の間だ。
「……ふぁぁ……。この悲鳴の響き方と電撃音的に……今朝はゼクスに襲われたな……」
大きく欠伸を噛み殺しながら、俺は慣れた手つきで耳をほぐした。もはや時計代わりとなっている毎朝のモーニングコール。心臓に悪いことこの上ないが、今や気にも留めない自分がいる。
あの悲鳴の主は、かつてこの生態系に君臨していたはずのレウス。しかし、この竜の都の管理人を務める俺からすれば、ただの哀れな旦那だ。9頭もいる恐るべき異種族妻の一角、ゼクスによる激しい愛の
「さてと……朝飯どうするかな……」
ベッドから床へ足を下ろすと、寝癖のついた燃えるような赤髪をがしがしと掻いた。鏡に映る自分の体を見る。一時期は不摂生で少し腹が出ていたが、すぐに筋トレで引っ込ませた。おかげで引き締まった肉体はベテランハンター時代に戻っている。
だが、鍛え上げた筋肉ではどうにもならないのが、毎日のワンオペ育児による精神的疲労だ。モンスターのチビどもの破壊力は、文字通り人間の常識を軽々と超えてくる。
俺はため息を一つ吐き出し、台所へと向かった。火をつけ、補給船から取り寄せたお気に入りのカムラの里印の特製アイルー味噌の準備をする。鍋からふつふつと湧き立つ、芳醇な出汁の香り。お玉を握り、ゆっくりと混ぜながら、俺は今日から始まる怒涛の1日に向けて、静かに腹を括る。
そうこうやっている間に、朝食の準備が終わった。目の前に並んだのは、山盛りの米に山菜の盛り合わせ。そこに、どう見ても朝食の枠に収まらない厚切りステーキと、具沢山の味噌汁が鎮座している。
朝からステーキを胃袋にかき込むのは中々キツイ。だが、この後に控えているのは、規格外のモンスターのチビどもを相手にするベビーシッターという大仕事だ。尋常じゃなくカロリーを消費するんだから、これくらい食っておかないと本当に身体が持たない。
慣れていない頃はこの生活のせいで太ったんだが、今となっては逆にこのぐらい食わないとガリガリに痩せちまうんだ。
「いただきます」
手を合わせ、まずは味噌汁を一口。じんわりと五臓六腑に染み渡る温かさにホッと息をつくと、自然と過去の記憶が脳裏をよぎった。
あの馬鹿王め。くだらん嫉妬でレウスの逆鱗に触れた結果、国を丸ごと一つ失う羽目になったんだよな。自業自得とはいえ、凄まじい巻き込まれ事故だった。
差し出すように進言したのは俺だが…。
まあ、最初こそ「なんでこの俺が、あの絶倫レウスの子供たちのベビーシッターなんかをやらなきゃならんのだ」と頭を抱えたものだが……。
「……ま、あのままあの愚王に仕え続けるよりは、子ども達の相手をしてる方が100倍マシか」
ぽつりと呟いた言葉は、本音だった。なんだかんだで、ここでの生活は悪くない。悪くないどころか、賑やかで退屈しなくて、案外楽しいとさえ思っている。俺もすっかり、この竜の都の暮らしに馴染んじまったわけだ。
俺は自嘲気味に微笑むと、すっかり温まった味噌汁を一気に飲み干した。よし、エネルギー充填完了だ。
自室に戻ると、俺は「ベビーシッター用」に仕立てた特注装備へと着替え始めた。我が職場の園児たるレウスの子供たちだが、幸いなことにまだ幼体だ。ブレスを吐かれたところで、大怪我をすることはあんまりない。
例えば、本妻レイアとの子供たちは体重も比較的軽くて、ブレスを喰らっても軽い火傷程度で済む。
ベリーの子供たちは牙が鋭いから噛まれると危ないが、逆に言えば気を引くべきはその鋭利な刃物くらいなものだ。
ミツネの子供たちにいたっては、ほぼ無害と言っていい。基本は泡と水ブレスしかやってこない。むしろ仕事中にこっちの汚れた服を洗濯できるから、ある意味ありがたい存在ですらあった。
――問題は、ゼクスの子供たちだ。
あいつらだけは、まだガキのくせに発生させる電圧がすでにヤバい。その上、無駄に好奇心旺盛だから「おっちゃ〜ん!」とばかりに俺のところへグイグイ突撃してくる。結果、こちらがもれなく感電するから本当に危ないんだ。
次点で、ティガ、ナルガの子供たちだな。こいつらは属性攻撃こそないが、シンプルに筋力がイカれている。無邪気にじゃれつかれただけで、こちらの骨が砕けて押し潰されかねない。チビのくせに体重は余裕で100キロを超えているからな……。
だからこそ、俺が今身にまとっている特注ベビーシッター装備は『雷耐性』と『物理防御』を極限まで高めた構成になっている。
着替えを終え、仕上げに壁の傍へ立てかけてある「俺の武器」を手に取った。
……おい、勘違いするなよ? 決して刃物なんかじゃない。手にあるのは、人間の胴体ほどもある特注サイズのブラシと、巨大な櫛だ。
お湯を張った風呂にチビどもを放り込み、甲殻の隙間をこのブラシでガシガシと擦り洗いしてやる。その後、毛並みをこの特注の櫛で優しく丁寧に整えてやれば、どんなに暴れるお転婆も一発で夢の国へと一直線。
これぞ荒ぶるモンスターの子供たちを無力化する、俺の唯一の武器にして最終兵器だった。装備の感触を確かめ、ブラシを肩に担ぎ直す。
「よし、それじゃあ
俺は覚悟を決め、自室の扉を力強く押し開けた。家を出て、城へと向かって歩き出す。だが、外へ一歩足を踏み出した瞬間から、肌を刺すような視線を感じていた。
(やれやれ……またナルガのチビ達が、俺を標的にして狩りの練習をしているな)
前よりはいくらかマシになったとはいえ、まだまだ気配はダダ漏れだ。いつ、どの隅からこっちに飛びかかってきてもいいように意識の片隅で注意を払い、歩調は崩さずに城へ向かおうとすると……。
「ニャン!」
かなり早い段階で、一頭のチビが痺れを切らしたように飛びかかってきた。とはいえ、やはりまだ子どもだ。親であるナルガの神速の飛び込みに比べれば、瞬発力は圧倒的に足りない。おまけに、そもそも飛びかかる瞬間に思いっきり「ニャン!」と叫んでしまっているから、せっかく身を隠していた意味がまるでないのだ。
俺は迫り来る黒い毛玉の突撃を、ベテランハンターの経験を活かして紙一重で軽く回避する。そして、勢い余って地面に転がりそうになった身体を、特注装備の腕で壊れ物を扱うように優しく、しっかりと捕まえた。
「…っ…らぁ!」
チビと言っても、すでに全長は5メートルを超えている巨体だ。いくら子供とはいえ、まともに捕まえた衝撃で一瞬、俺の腕がゴキリと脱臼しかけた。あぶねぇ……! 今ので左腕が持って行かれるかと思った。まあ、無事ならいい。
腕の中で捕まったチビは、狩りに失敗したのが悔しいのか、俺の腕をがぶがぶと噛みついてくる。だが、加減を覚えた甘噛みだから、防具越しなら別に痛くはない。気が済むまで満足するまで噛ませてやればいいさ、と俺は苦笑しながらそれを受け止める。
そうしてしばらくされるがままにしていると、案の定、チビの態度が変わってきた。がぶがぶと噛んでいた口を離し、今度はゴロゴロと喉を鳴らしながら、大きな頭を俺の胸にすり寄せて甘え始める。
そして、一頭がこうして甘えだせば――ほらな?
茂みのあちこちから、様子を窺っていた他のナルガのチビ達が、羨ましそうに目を輝かせながら次々と姿を現した。みんな一斉に「俺も俺も!」と甘えたくて、わらわらと足元に集まってくる。
5メートル級の黒い毛玉たちに囲まれると、さすがにちょっとした壁だな。さてと……城へ着く前だが、早速俺の最終兵器、特注の櫛の出番のようだな。肩から巨大な櫛を外して構えると、チビ達は待ってましたとばかりに、目を細めてお行儀よくその場に座り込んだ。
まずは一番小さな子どもから。……と言っても、すでに全長3メートルは超えているんだが、まあここでは誤差みたいなものなので気にしない。上から下へ、頭から順番に特注の櫛で優しく整えてやる。
「ゴロゴロ、ゴロゴロ……」
大きな喉をいっぱいに鳴らして、随分と気持ちが良さそうだ。ウットリと目を細めている。一通り梳かし終えると、一度、櫛にびっしりと纏わりついた体毛をごっそりと抜き取った。
この体毛は、絶対に捨てたりはしない。あとで部屋の掃除をしたときに出る分と一緒にすべて回収して、懇意にしているモンスター学者に渡す決まりになっている。
なんせ、このチビどもはあのリオレウスとナルガクルガの混血だ。生態系の常識を覆すハイブリッド種なのだから、そのサンプルとしての学術的価値は計り知れない。
そして、その研究に協力する俺の財布には、学者連中からの謝礼金がガッポガッポと転がり込んでくるというわけだ。
(いやぁ……危険な狩猟に命を懸けてたハンター時代より、こっちのほうが遥かに儲かるから困っちまうな)
そんな俗なことを考えている間に、手元のチビはいつの間にか夢の国へと旅立っちまったらしい。完全に警戒を解いて、その場に丸くなりながらぐっすりと寝息を立て始めた。
ふと顔を上げると、まだブラッシングをしてもらっていない他の奴らが、「次は僕か!?」「私でしょ!?」と言いたげに、尻尾をブンブンと振って今か今かと待ちわびている。
「分かった、分かった。ちゃんと順番に全員やってやるから、大人しく座っていろよ?」
俺は苦笑交じりにそう声をかけると、次の順番待ちをしている5メートル級の黒い毛玉へと、再び特注の櫛を差し向けた。
◆
ナルガクルガ達を一匹残らず
学者どもから金が大量に手に入るとはいえ、この竜の都には人間の売店なんてものはない。だからぶっちゃけ、金の使い道はほぼ無いに等しかった。
じゃあ、そのガッポガッポ入る大金を何に使っているのかと言えば、定期的に来る補給船への食料の発注書。それと、このチビ達のために仕立てる特注の遊び道具やおやつ、それと今かけたような布団の購入費用に大半が消えていく。
まあ……チビ達のためにと俺が私財を投げ打って買ったものを、なぜか親の方が気に入って使っていることもあるんだがな。
ふと視線を街の方へと向ける。そこには遠目からでも一際目立つ、人間の城にも劣らないほどデカい建造物がそびえ立っている。
あれを初めて見た人間は「なんて立派な防衛用の塔だ」と驚くかもしれないが……違うんだよな、あれ。塔じゃなくて超巨大キャットタワーなんだよ。俺が暇つぶしで造った。
チビ達が爪を研いだり上に登ったりして遊べるように素材だけ発注し、俺が暇つぶしで建てた代物なのだが、たまに母親であるナルガやベリーがその巨体を丸めて最上段に登り、気持ち良さそうに日向ぼっこをしているのを見かける。大型モンスターがキャットタワーで寛いでいる光景は、いつ見てもなかなかにシュールで、かつ壮観だ。
「……さて、寄り道が長くなっちまったな」
すやすやと眠る黒い毛玉たちの頭を最後にもう一度撫でてから、俺は今度こそ城の入り口へと向かって足を速めた。
◆
城の入り口に足を踏み入れれば、そこには干からびた絶倫王……のはずが、なぜか大の字になって伸びていたのは、嫁のゼクスだった。
「ば、馬鹿な……あり得ない…!」
俺は思わず驚愕の声を漏らす。朝一のあの悲鳴の後といえば、大体はレウスの方が干からびて白目を剥いているはずだ。それなのに、なぜ強烈な電撃を操るあのゼクスが、完全に放電しきったかのようにぐったりと倒れ伏しているのか……?
一瞬、天変地異でも起きたのかと思ったが、よく考えれば何もおかしくはない。思い出した。昨日、あいつは過去のトラウマをようやく克服し、男として、そして『王』として一歩先へと進むことができたんだった。
その覚醒の影響だろう。あいつは朝から、あのゼクスを相手に逆に圧倒するほどの激しい交尾をカましたに違いない。証拠に、廊下の奥から歩いてくるレウスの奴は、朝からさんざん腰を振ったはずだというのに、妙に爽やかな、どこか晴れ晴れとした漢の笑顔を浮かべていた。
「……なるほどな」
つまり、夜明け前に響き渡ったあの凄まじい悲鳴は、ゼクスに襲われて上がった悲鳴じゃない。覚醒したレウスの、想像以上の逆襲と激しさに、襲ったはずのゼクスの方がびっくりして悲鳴を上げてしまったというわけだ。
ドヤ顔を決めてくるレウスに内心で呆れつつも、男の顔になった友達の成長に、少しだけ口元を緩めた。
「よお、ハンター」
レウスが普段通りの気さくな挨拶をしてくる。
「おう、おはようさん。随分と朝から激しい運動をしたみたいだな?」
足元でピクピクと痙攣しているゼクスを指差しながら、軽くからかってみる。だが、今のレウスはどこ吹く風だ。かつてのヘタレっぷりはどこへやら、レウスはカッカッと喉を鳴らして笑いながら、自信満々に胸を張った。
「まあな。覚醒したばかりの俺を食おうとした嫁を、逆に食い尽くしてやったよ」
レウスは心底愉快そうに、男としての勝利の余韻に浸っていた。だが、すぐにその表情が引き締まり、真面目な父親の顔へと変わる。
「ハンター、俺はまた直ぐに出かける。子ども達をよろしく頼むぞ」
その言葉に、俺は肩に担いだ特注のブラシをトントンと叩きながら、ニヤリと不敵な笑みを返した。
「はいはい、分かってますよ。今度はナナの過去のトラウマ克服のために、火山にでも行くんだろ? 任せとけって」
俺はそう言ってレウスの翼を軽く叩くと、未だに気絶しているゼクスを踏まないように気をつけながら、賑やかなチビどもの待つ保育部屋へと向かおうとする。
レウスが大きな翼を広げ、ナナの住む貴族街の方角へと力強く飛び立っていくのを見届けた。ナナはまだレウスの「番」じゃない。だが、あの勢いなら番になるのも時間の問題だろう。そうなると、当然その先には子供が産まれてくるわけで……。
「……さすがに、古龍の血を引くチビが相手となると、今の装備じゃ心許ないかもな」
歩きながら、俺は自分の体を包む特注装備の感触を確かめる。古龍テオ・テスカトルやナナ・テスカトリの能力といえば凶悪な熱波と爆炎だ。いくら幼体とはいえ、これまでのモンスターたちとは一線を画すポテンシャルを秘めているに違いない。なんせそこにレウスの遺伝子が混ざるんだからな…。
「学者連中からガッポガッポ毟り取った報酬で、次は『火耐性・爆破耐性特化』の装備を新調するか……いっそのこと報酬を前借りして装備を先に作っておくか?」
そんな、ベビーシッターの域を完全に超えた装備のアップグレードについて頭を悩ませつつ、俺は保育部屋の大きな扉に手をかけ、一気に押し開けた。
――その瞬間、視界の先から強烈な火花が散った。
バリバリバリッ!!!
「あーーー! おじちゃんだーーー!!」
「おじちゃーーーん!!!」
凄まじい放電の音と同時に、弾丸のような速度でこっちへ向かって飛んできたのは、やはりというべきか、ライゼクスの子ども達だった。だろうな……母親のゼクスが朝からレウスを襲う行動力を持っているんだ。その遺伝子を色濃く継いだこいつらが、朝から有り余った電気と元気を爆発させていないはずがなかった。
「おっと、おはようお前ら! 挨拶代わりの電撃は防具の寿命が縮むから勘弁してくれって!」
俺は雷耐性カンストの腕を前に突き出し、バリバリと火花を撒き散らしながら突っ込んでくる緑色の小さな(と言ってもデカい)雷撃弾どもを、正面から受け止めるべく身構えた。身構えたのだが、チビ達が俺と激突することはなかった。
「こ〜ら! ハンターに迷惑をかけないの!」
保育部屋の奥から響いた声と同時に、突進してきたライゼクスどもが、ガシッという重い衝撃音とともに強引にその場に押さえつけられたからだ。
流石は『絶対強者』の異名を持つティガレックス。片翼で2匹ずつ、合計4匹のライゼクス児を軽々と捕まえている。
捕まえられたライゼクス達といえば、宙に浮いた足をもがかせながら必死に抵抗して放電しているが、ティガの頑丈な前脚には全く効いている気がしない。まさに圧倒的なフィジカルだ。
「助かったぞ、ティガ」
俺が胸を撫で下ろしながら礼を言うと、彼女は獰猛なはずの双眸を優しく細めて微笑んだ。
「いつも私の子ども達がお世話になっているからね。これくらいは助けてあげますよ」
あの凶暴極まりない轟竜ティガレックスだというのに、レウスの番になったこいつは、とんでもなく気性が穏やかだ。それどころか、レウスからキスを一口されただけで、顔を真っ赤にして茹だるレベルで初心だったりする。とんでもないギャップの塊のような、竜の都の良妻賢母の一匹だ。
……偶にゼクス同様、朝からレウスに襲いかかる点には目を瞑れば。
「ありがとな。そいつら、朝から元気が有り余ってて困るよ。……よし、ゼクスの子ども達、母ちゃんの言うことは聞くもんだぞ。お前らは電気が溜まりすぎてるみたいだから、午前中は優先して『特注ブラシのゴシゴシお風呂コース』だな」
俺の言葉に、ティガの翼の下で暴れていたライゼクス児たちが一瞬で「ひえっ」という顔になる。そんな賑やかな光景を、部屋の隅からティガの血を引くチビ達が尻尾をパタパタと振りながら羨ましそうに眺めていた。
実を言うと、俺の仕事はベビーシッターだけに留まらない。冷凍室の管理、発電設備の点検、水道の整備、温泉の温度調節、倉庫の在庫管理……かつて人間の街だったこの都に残された、ありとあらゆるインフラ設備の維持管理も、すべて俺の肩にのしかかっている。ぶっちゃけワンオペの限界を超えている気がするが、そこは高い報酬のために割り切るしかない。実際なんとかなっているし。
とりあえず、真っ先に確認すべきはライフラインの要、発電設備だ。この都では、ゼクスかオウガのどちらかが発電施設に向かい、その身に纏う電撃で直接機械に充電を行う役割を担っている。俺は管理パネルのメーターを見据えた。
「よし、ちゃんと充電されてマックスになっているな」
朝から充電担当の一角であるゼクスが完全に伸びていたから、街の電力が底を突いていないか少し心配していたんだが、どうやらもう一頭のオウガが代わりにきっちり仕事をこなしてくれたらしい。あいつの真面目な性格には本当にいつも助けられている。今度美味い酒でも差し入れしてやるか。
インフラの無事が確認できたところで、俺は次に温泉の主電源を入れた。コントロールレバーを回し、巨大な湯船に注がれるお湯が適温まで温まるのをじっと待つ。
都の風呂と言えば、思い浮かぶのはとにかく綺麗好きなタマミツネ達だ。あいつらも今か今かと、俺が温泉を開放するのを待ちわびているに違いない。
「さて、お湯が沸くまでの間に、まずはあのお前たちの電撃を抜いてやるか……」
俺は特注ブラシを片手に、ティガに抑え込まれている緑のチビどもへ向かって、不敵な笑みを浮かべながら歩み寄った。
「さてと……まずは誰から洗ってやろうか?」
俺は特注ブラシを肩に担ぎ直し、ティガに押さえ込まれているライゼクスの子どもたちを見下ろした。
「「「「おじさん、やだぁぁぁぁ!!!」」」」
声を揃えて全力で拒絶の悲鳴を上げるチビども。
「やだじゃねぇ!お前ら、昨日も泥だらけのまま保育部屋を走り回っていただろうが!おまけに鱗の隙間に木の葉やら土やら詰め込んで……このまま放置したら、皮膚が荒れるどころか虫まで湧いちまうぞ!」
もちろん、モンスターの身体にどんな寄生生物が付くのか、俺だってすべてを把握しているわけじゃない。だが、汚れを放置していい理由にはならない。
特にこいつらは、放電するたびに身体から細かな汚れを撒き散らす。しかも、遊びに夢中になると水たまりだろうが泥沼だろうが平気で突っ込んでいくのだ。親のゼクスがあれだけ元気なのだから、子どもたちがこうなるのも当然なのかもしれないが……保育担当の身にもなってほしい。
「ティガ、そいつらをそのまま温泉まで運んでくれ!」
「了解、ハンター。さあ、みんなでお風呂に行きましょうね」
ティガは優しく、しかし絶対に逃がさない絶対強者の握力で4匹をガッチリホールドしたまま、温泉へと歩き出す。
「「「「ぎゃああああ!お水やだぁぁぁ!バチバチ消えちゃうぅぅ!!」」」」
「ほら、観念しろ。今日は落陽草入りの洗浄液を使って、徹底的に綺麗にしてやるからな」
「…らくようそう?」
一頭が、きょとんと首を傾げた。
「そうだ。いい匂いのする草を使った洗浄液だ。お前らみたいに元気いっぱいな奴らは、身体を洗ってもすぐに泥だらけになるからな。せめて臭いくらいは何とかしておかないと」
「いいにおい?」
「そう。いい匂いだ」
「おいしーの!?」
「食い物じゃねぇよ!」
思わず即答してしまった。まったく、こいつらときたら、何でもかんでも食い物に結びつけやがって……俺はため息をつきながら、風呂場の脇に設けられた洗浄用品の保管棚へ向かった。そこには、人間の胴体ほどもある大きな木桶がいくつも並んでいる。
中身は用途ごとに分けてあり、ひと目で分かるように札まで付けておいた。『泥汚れ用』『皮脂汚れ用』『体毛用』そして、仕上げの『消臭用』。
その中から、俺は一番右端の桶を手に取った。落陽草を細かく刻み、湯で成分を抽出して作った特製の液体だ。これだけで頑固な油汚れまで落とせるわけではないが、洗浄後の臭いを抑えるには絶大な効果を発揮する。少なくとも、俺がここで暮らし始めてからは一番重宝している代物だ。
ハンター社会では、モンスターの警戒を解く『消臭玉』の調合素材として知られている草だが、ならば日常生活で使う消臭用品に応用できないかと思い、試しに作ってみたのが始まりだった。
「よし、いくぞお前ら! 暴れても無駄だからな!」
俺は落陽草の爽やかな香りが漂う木桶を抱え、観念したライゼクス児たちに向き直った。
◆
最初はただの気休めだったのだが、これが意外と具合がいい。もちろん、落陽草だけで万能の洗剤が作れるわけじゃない。頑固な脂汚れには別の洗浄剤が必要だし、最後にはしっかりすすがなければならない。それでも、モンスターの身体から漂う獣臭を和らげるには十分だった。
「よし、準備完了だ」
桶を持って振り返ると、ライゼクスの子どもたちは揃って後ずさりしていた。
「……お前らなぁ」
「「「「やだぁぁぁぁ!!!」」」」
「逃がすか!」
踵を返して逃げようとした四頭を、ティガが翼でまとめて押さえ込む。
「こらこら。暴れたら危ないでしょう?」
「「「「おかーさぁぁぁん!!!」」」」
「はいはい。お母さんはここにいますよ」
優しい声で返事をしながら、ティガは四頭を逃がす気など微塵もない。……さすがは良妻賢母。こういうときの頼もしさは尋常じゃない。
「「「「ゼクスおかーさぁぁん!!!」」」」
残念だが、お前たちの実のママは今、白目を剥いて気絶中だ。助けには来ないぞ。
「「「「パパ〜!!!」」」」
パパもお出かけ中だ。今頃は火山でナナを口説くのに必死だろうよ。つまり、ここには誰もお前たちを助けに来る親はいないってことだ。
「さあ、覚悟を決めろ。大人しく洗われれば、すぐ終わるからな」
俺は不敵な笑みを浮かべ、特注ブラシを容赦なく構えた。四頭のライゼクス児たちは、もはや逃げ場がないことを悟ったらしい。
「じゃあ、まずは一番元気な奴からだな」
「ひっ!?」
俺がブラシを構えた瞬間、一番手前のライゼクスが全身をビリビリと震わせた。
次の瞬間、バリバリバリバリッ!!
「うおおおおっ!? だから電撃は勘弁しろって言ってるだろうがぁぁぁ!!」
腕の防具に青白い火花が散る。くそっ、雷耐性を限界まで高めた特注装備でも、こいつらの至近距離での放電を毎日浴び続けたら、防具の寿命も俺の寿命も縮んじまう!
「お前ら、風呂に入る前から電気を使い切るんじゃねぇ! 充電は発電設備だけでやれ!」
「おじさん、ぴかぴかー!」
「俺を発電設備扱いするんじゃねぇ!!」
俺の叫び声が、朝の風呂場に虚しく響き渡った。
◆
……ぜぇ…ぜぇ…結局、最初の一頭を風呂桶へ入れるまでに、たっぷり十分もかかってしまった。もっとも、いったん湯に浸かってしまえば、こいつらも少しは大人しくなる。ライゼクスの子どもは、まだ成体ほど立派な電竜器官を持っていない。それでも、身体に蓄えた電気を不用意に放出すれば危険だし、狭い場所で暴れれば互いに怪我をする恐れもある。
だからこそ、俺は湯加減にも気を配っていた。熱すぎれば身体に負担がかかる。冷たすぎれば、今度は風邪が心配だ。人間の赤ん坊と同じように、様子を見ながら丁寧に調整してやる必要がある。
「ほら、じっとしてろ。まずは身体を濡らすぞ」
俺は柄の長い柄杓で湯をすくい、頭からゆっくりとかけてやった。
「きゃっ!」
「冷たくねぇだろ。大丈夫だ」
次に、落陽草の洗浄液を少量だけ薄めて、特注ブラシの先になじませる。いきなり全身をゴシゴシ擦るのではなく、まずは背中から。鱗の向きに沿って、汚れを浮かせるように優しく動かしていく。
ゴシ、ゴシ、ゴシ。
「……お?」
さっきまであれだけ大暴れしていた子どもが、ぴたりと動きを止めた。頭を少し下げ、気持ちよさそうに目を細めている。
「おお、そうかそうか。気持ちいいか?」
「ん……」
小さな喉から、満足そうな声が漏れた。よしよし。どうやら、ここまでは順調らしい。落陽草の爽やかな香りと適温の湯が、ライゼクスのチビの警戒心を完全に解いていく。俺は調子に乗らず、鱗の隙間に詰まった泥を慎重に落としていく。
特に関節の周辺や翼の付け根は、汚れが溜まりやすい。無理にこすれば傷を付けかねないので、湯でふやかしてから少しずつ丁寧に取り除く。洗い終わったら、今度はたっぷりの湯ですすぐ。洗浄液が身体に残らないよう、背中、腹、脚、翼の付け根まで念入りに確認する。最後に、落陽草の抽出液を薄く混ぜた湯をかけてやれば、仕上げは完了だ。
「はい、一丁上がり!」
俺がそう宣言すると、チビは勢いよく頭を上げた。
「ぴかぴかー!」
「おう、ぴかぴかだな。よし、次!」
「「「ええええええっ!?」」」
残る三頭が一斉に悲鳴を上げた。一頭目が「ぴかぴか」と喜んでいるのを見て羨ましがりつつも、やっぱりまだお風呂そのものへの恐怖が勝っているらしい。
「お前らも同じだ!」
俺は有無を言わさず、次の一頭へブラシを向けた。ティガも「さあ、次はのあなた番よ」と、ガッチリとホールドしたチビを笑顔で差し出してくる。……まったく。獰猛なモンスターを相手にする狩猟よりも、よっぽど骨が折れる仕事だぜ。
俺は額の汗を腕で拭うと、再びバリバリと小さな火花を散らし始めた次なる“強敵”へ向かって、果敢にブラシを振り下ろすのだった。
◆
四頭目を洗い終える頃には、俺の額にもびっしりと汗が浮かんでいた。だが、苦労した甲斐はあったらしい。風呂場の隅では、すっかり綺麗になったライゼクスの子どもたちが、互いの身体をくっつけ合いながら満足そうにくつろいでいた。仕上げに体表の水分を拭き取り、乾いた布で翼の付け根まで丁寧に押さえてやる。
「よし。これで終わりだ。もう泥沼に突っ込むなよ?」
「はーい!」
……絶対に分かっていない返事だな、これは。俺が苦笑していると、風呂場の入口から、ちゃぷ、ちゃぷ、と規則正しい水音が聞こえてきた。振り返ると、そこにはタマミツネの子どもたちがいた。
……いや、子どもたちという表現でひとまとめにするには、いささか無理がある。先頭を歩いているのは、全長三メートルほどの小柄な個体。まだ身体つきも幼く、ぷにぷにとした鱗と小さな爪が愛らしい、いわゆる“チビ”だ。
だが、その後ろには全長五メートルほどの中型個体が数頭。さらに奥には、なんと天井まで頭が届きそうな大型個体まで混じっている。小さいのもいれば、大きいのもいる。
同じ母親から生まれた子どもたちだというのに、その体格は見事なまでにばらばらだった。
そして、何よりも問題なのは――
「……お前ら、また増えたか?」
思わず口から出た言葉に、先頭の小さなタマミツネがきょとんと首を傾げた。
「きゅう?」
「いや、お前に聞いても仕方ないんだがな……」
俺はガシガシと頭を掻き、額を押さえた。レウスの子どもたちはただでさえ多い。本妻レイアとの間に生まれた子どもたちを筆頭に、サクラ、ミツネ、ゼクス、ナルガ、ティガ、ベリー、オウガ、マガド…そして…ゴア。それぞれの母親との間に、個性豊かな子どもたちがこれでもかとひしめき合っている。
しかし、その中でも群を抜いて子どもの数が多いのが、目の前にいるタマミツネの一族だった。
理由は至極単純。
母親であるミツネがレウスを求める頻度が、他の嫁どもに比べて尋常じゃないのである。もちろん、他の嫁たちだってレウスへの愛情は深い。朝一番から旦那を容赦なく押し倒すゼクスのような肉食獣もいるし、普段は大人しいティガだって、旦那と二人きりになると別人のように顔を赤らめて甘え倒す。
だが、ミツネだけは本当に別格だった。綺麗で儚げな見た目とは裏腹に、レウスをロックオンした時の情熱と底なしのスタミナは文字通り天災級だ。
普段は穏やかで、物腰も柔らかく、子どもたちの面倒見もいい。風呂の時間を楽しみにしているのも、清潔好きな自分だけでなく、子どもたちの身体をいつも綺麗に保ってやりたいという母親らしい気遣いからだ。まさしく良妻賢母である。
……その、底なしの性欲を除けば。
気がつけばレウスを誘う。レウスもそれを拒絶しない。しかも一度で満足するとは限らない。その結果、どうなるか。まだ前に生まれた子どもたちが巣立っていないうちから、次の子どもたちが生まれてくるのである。
他の嫁さん達は交尾はしても、子どもが巣立っていないうちはしっかりと避妊をする。レウスが発射直前に抜いて外に出すんだ。
しかし……ミツネだけは絶対に避妊をしない。断固拒否して尻尾で巻き付き、意地でも中に出させるんだよ…。
……その愛の暴走のおかげで、保育部屋の規模は何度拡張しても足りない事態に陥っていた。
「ミツネ……」
俺は、大・中・小と連なる子どもたちの後ろから、ひときわ優雅に歩いてくる母親へ視線を向けた。美しい毛並みをしなやかに揺らしながら、ミツネは上品に目を細める。
「はい、ハンターさん。どうかしましたか?」
「どうかしましたか、じゃねぇよ。お前、また産んだだろ」
「ええ。先日の繁殖期に産み落とした卵が、無事に孵化しました」
にっこり……本当に、悪びれる様子が微塵もない。それどころか、愛する旦那との間に新たな愛の結晶が増えたことを、心底幸せそうに、誇らしげにすら思っている顔だ。
「いや、先日の繁殖期って……お前は年中発情期で繁殖期だろ……」
「そうですか?」
「そうですか、じゃねぇ!」
俺は思わず声を張り上げた。
「見ろ! あそこにいる大きい連中、まだ保育部屋を卒業してねぇんだぞ! それなのに、その後ろにいる中くらいの連中の世話があって、さらに足元を走り回っている小さい連中までいる! そこへまた新しい子どもが増えたら、俺の仕事はどうなるんだ!?」
「まあ……」
ミツネは少しだけ困ったように、しなやかな眉を下げた。
「みんな、元気に育ってくれているではありませんか」
「そういう問題じゃねぇ!」
確かに、子どもたちは元気だ。食欲も旺盛だし、病気もない。風呂の時間になると、こうして自分からやってくるくらいには生活習慣も身についている。母親としてのミツネの教育や愛情は、文句のつけようがないほど立派だった。
……だからこそ。だからこそ余計に困るのだ。
もしもこれが育児放棄や夜泣きで荒れるクソガキどもの群れなら、ハンター時代の鬼の威圧でいくらでも叩き直せる。だが、こいつらは揃いも揃って愛嬌たっぷりで、母親の言うことをよく聞く「いい子」たちなのだ。
「きゅう……」
ほら見ろ、俺が大きな声を出すから、新入りの一番ちっちゃなチビミツネが耳をへにょんと寝かせて不安そうな顔をし始めちまったじゃねえか。
「ハァ……。すまん、お前に怒っても詮無きことだったな」
俺は頭をガシガシと掻くと、足元の新入りをそっと両手で抱え上げた。ぷにぷにとした柔らかい感触と、ほんのりと甘い落陽草とはまた違う花の香りが鼻腔をくすぐる。
子どもを産んだ後も、彼女は実に甲斐甲斐しく世話を焼く。大きな子どもが小さな子どもの面倒を自発的に見ている光景も珍しくないし、ミツネ自身も、どの子が何を好み、どの子がどんな癖を持っているのか、すべてを完璧に把握している。
ただ、レウスへの愛情――これだけは、どうにも加減というものを知らないのだ。俺は深々とため息をつき、ミツネの顔を見上げた。
「ミツネ……レウスを愛しているのは分かるが、限度を考えてくれ、限度を……」
「まあ!」
彼女はぱっと顔を明るくした。
「ハンターさんも、わたくしと旦那様の仲を認めてくださるのですね!」
「誰もそんな話はしてねぇよ!」
どうしてそうなる!?俺はがっくりと頭を抱えた。駄目だ。こいつ、都合のいいところだけ抽出して聞いてやがる。
ミツネはそんな俺の様子を見て、くすくすと上品に、実に妖艶に笑った。
「ご安心くださいな。旦那様も、わたくしとの時間を喜んでくれていますもの」
「いや、あいつが喜んでいるかどうかと、俺の仕事量は別問題なんだよ……!」
「それに、子どもたちがたくさんいるのは、幸せなことですわ」
その通り、綺麗に弧を描く桜色の尾を揺らしながら、ミツネはどこまでも慈愛に満ちた瞳で我が子の群れを見つめる。
その言葉には、一切の打算も、邪な気持ちも混じっていない。ただ純粋に、愛する旦那との間に生まれた命を愛おしく思う、一頭の母親としての揺るぎない幸福がそこにあった。
「……ハァ、お前が正論で返してくるのが一番きついぜ」
これだけ真っ当に幸せそうな顔をされたら、それ以上は愚痴を言うことすら野暮に思えてくる。
「きゅう!」
小さな一頭が、突然、俺の足元へ駆け寄ってきた。
「おう、どうした?」
しゃがんで頭を撫でてやると、その子は気持ちよさそうにトロンと目を細めた。すると、それを見ていた別の子どもがトコトコとやってくる。さらにもう一頭。そのまた後ろから、今度は中型の個体までのっしのっしと近づいてきた。
あっという間に、俺の周囲が桃色と赤色の美しい鱗と毛並みで埋め尽くされる。
「おいおい、順番だぞ! 順番!」
俺が慌てて声を上げると、ミツネはそれを見て楽しそうに、くすくすと笑った。
「ふふっ。みんな、ハンターさんが大好きなのですね」
「お前らが俺に世話を押しつけているだけだろうが!」
そう叫びながらも、俺は一番小さな子どもをひょいと、もう片方の腕で抱き上げ、濡れた毛並みを大きなタオルでそっと、丁寧に拭いてやった。腕の中に収まる温かくて小さな命は、安心しきったように「きゅう……」と小さな声を漏らし、俺の胸に頭を預けてくる。
……まったく、口ではどれだけ文句を言おうと、この無垢な瞳で頼られてしまえば、元ハンターとしての厳つさなんてものは綺麗さっぱり霧散してしまう。
結局のところ、俺もこの途方もない『異種族ハーレム』の、そして終わりなき賑やかな日々の片棒を、喜んで担いでしまっているというわけだ。
湯気の向こうで優雅に尾を揺らすミツネと、俺の周りでじゃれ合う子どもたちの声を背に受けながら、俺は次の特注ブラシを握り直し、今日もまた最高に騒がしいベビーシッターとしての本番へとなだれ込んでいく。
この都で一番の働き者は誰かと聞かれたら、間違いなく俺だと答えてやる。
そして、一番子どもを増やし、仕事を増やしているのは誰かと聞かれたら、俺は間違いなくミツネだと答える。
「……頼むから、次の子どもが生まれる前に、せめて今いる連中をもう少し大きくしてくれ」
「善処いたしますわ」
にっこり……駄目だ、絶対に分かっていない。このミツネの「善処」ほど信用できない言葉を、俺は他に知らない。俺は今日何度目になるか分からない深い溜め息をつくが、そんなことは忘れて、まずは、目の前にいるこの子たちを綺麗にしてやらなければ。
その後には冷凍室の管理が待っているし、別の子どもたちの世話だって控えている。明日も、その次の日も、そのまた次の日も、竜の都のベビーシッターに『休日』の2文字は存在しない。
片手剣:育竜剣・ブラシールド
攻撃力 230 属性 睡眠 48 会心率 0%
防御力ボーナス +50 スロット ④③②
斬れ味 青 レア度 10
武器説明文
幾多の幼竜を世話してきた元凄腕ハンターの愛用品。剣は巨大なブラシ、盾は巨大な櫛。敵を傷つけるためではなく、子どもたちを綺麗にし、守り、寝かしつけるために作られた。なお、睡眠成分は寝かしつけ用に調整されているが、本人の睡眠時間は一向に増えない。
剣:巨大なブラシ
柄は片手で扱えるように頑丈な金属製。
ブラシ部分は大型モンスターの鱗や甲殻を傷つけにくい、弾力性のある素材。
毛先は柔らかいが、根元には強度を持たせ、押し返したり、身体を支えたりできる。
攻撃用の刃は付けず、あくまでブラシとして使う。
盾:巨大な櫛
櫛の背部分を厚く頑丈にし、盾として使える構造。
櫛の歯は折れにくく、子どもの爪や鱗に引っ掛けてしまわないよう丸みを持たせる。
電撃を受ける可能性があるため、絶縁性の素材を組み込む。
身体を守るだけでなく、子どもが飛びついてきたときに受け止めるクッションの役割も担う。
武器固有特性:『マルチタスク』抜刀状態でもアイテムの使用が可能。
防具『ベビーシッターシリーズ』説明文
数多の幼竜を世話するため、元凄腕ハンターが自ら調整した特注防具。雷撃、咆哮、突進、羽ばたき。あらゆる危険から身を守るため、耐久性と耐性を極限まで高めている。
ただし、どれほど頑丈な鎧であろうと、子どもたちの無邪気な愛情は防げない。
『ベビーシッター頭巾』スロット ④④①
幼竜たちの咆哮から耳を守る特注兜。聴覚保護機能は万全だが、夜泣きだけは防げない。着用者は今日も眠い。
『耳栓Lv5 』『気絶耐性Lv3 』『狂化Lv1』
『ベビーシッターエプロン』スロット③③③
幼竜たちの体当たりを受け止めるため、幾重にも補強されたエプロン。幾度倒されようとも、我が子らを守るために立ち上がる。その胸に宿るのは、鋼よりも強い責任感。
『防御Lv7』『精霊の加護Lv3』『緩衝Lv1』
『ベビーシッターグリップ』スロット④②②
電撃を放つ幼竜にも対応できる絶縁性の籠手。ブラシや櫛を扱いやすいよう、指先の動きにも配慮されている。子どもたちを傷つけぬよう、細心の注意を払うこと。
『雷耐性Lv3 』『早食いLv3』『奮闘Lv3』
『ベビーシッターサッシュ』スロット④②①
薬品、タオル、食料、予備のブラシ。育児に必要な道具を収納するため、大小さまざまなポケットを備えた特注の腰布。いかなる不測の事態にも対応できるよう、収納量は大きい。
『剛心Lv1』『風圧耐性Lv3 』『回避距離UP Lv2』
『ベビーシッタージーンズ』スロット④③③
大型幼竜の着地による振動や、突然の飛びつきに備えた脚甲。長時間の立ち仕事にも対応する設計だが、休憩時間は考慮されていない。
『顕如盤石Lv5』『耐震Lv3』『ひるみ軽減Lv1 』
※AI生成
【挿絵表示】
これがベビーシッター装備をつけた元ベテランハンターの姿である。
皆さんはこの中ならどれが読んでみたいです?
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著・ギルマス「赤い竜の君」
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巣立ちしたレウスの子ども達のその後
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ベビーシッターの一日
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レウスの夜の大運動会