手札から『執筆意欲』を召喚!
だが、このカードは効果が不安定なため、即座に『締切』の効果によって破壊される!
しかし!ここで罠カード発動!!
『作者の言い訳』!!
このカードは、『執筆意欲』が破壊された時に発動できる!
『時間稼ぎの1話』を特殊召喚!!更に!『30分の休憩時間』を生贄に捧げ、『クオリティ向上』を召喚する!!
これで次回更新までの時間は十分に稼げた!俺はこのまま『土日の休日』を守備表示でセット!
ターンエンド!!
……次回の更新も、どうかお楽しみに!!」
――それから、しばらくして。
昼間の仕事は、年上組の子ども達が手伝ってくれたお陰で、いつもより楽をすることができた。重い物資の運搬や倉庫の整理を力自慢に任せられるだけでも、ワンオペのこちらとしては大助かりである。
あいつらも、日頃から暴れ狂う弟や妹たちの面倒を後ろから見ているだけあって、思いのほか指示の意図を汲んでくれて頼りになった。まあ、作業が終わった後は…
「………」
黙っていたが、オヤツをもっとくれ、とねだられて、ドライフルーツの大袋を丸ごと一袋、ご褒美として進呈する羽目にはなったがな。
そんなこんなで怒涛の午後を駆け抜け、日が沈み、竜の都にも静かな夜が訪れた。夕食をたらふく平らげた幼竜たちが、それぞれの母親が待つ各々の巣へ戻っていく中、俺はようやく自分の時間を確保することができた。
もっとも、それはあくまでも一時的なものに過ぎないことを俺は知っている。
育竜シッターという過酷な仕事に、完全な休息などハナから存在しないのだから。
「……さて、と」
俺は私服の着替えとタオルを手に取り、竜の都に設けられた銭湯へと足を運んだ。
早朝は幼竜たちの入浴という名の戦いを済ませるために何度も利用している場所だが、夜になってから自分の身体を洗うために一人で入るのは、また全く別の話である。
大きな浴槽に滔々と張られた、贅沢な湯。
暗がりに白く立ち昇る、柔らかな湯気。
そして、冷えた夜気の中で身体の芯までじっくりと温めてくれる、心地よい熱。
「……ああ、いい。最高だ……」
今日も一日中、放電するライゼクスどもや、増殖するタマミツネ達、かくれんぼ下手っぴなナルガクルガの相手をしていたのだ。蓄積された身体の疲れも相当なものだろう。ようやく、俺も一人の男に戻って、ゆっくりと湯に浸かれる。
あの大変だけど愛おしい一日を振り返りながら、湯船に足を滑り込ませようとした――まさに、その時だった。
「……ん?」
銭湯の入口から、ぞろぞろと小さな影がやってくる。
見覚えのある白い毛並みは、ベリーの子ども達。そして、その横に並んでいるのはオウガの子ども達だ。
……ああ……さては。
「お前ら、朝風呂に入らなかったから、母ちゃんに『お風呂に入りなさい』って言われて放り出されただろ?」
俺が湯船に浸かるのを一度諦めて尋ねると、ベリーの子ども達はバツが悪そうに互いに顔を見合わせた。
「うん……」
「何で朝は来なかったんだ? ゼクスやミツネのところは全員一斉に入ったぞ」
「だって、汚れてないもん」
「お外で遊んでないし!」
「お風呂は熱いんだもん……」
……なるほどな。ベリーの子ども達は、父親であるレウスの温かい背中にくっついているのが大好きだ。あの大きな背中に包まれると、心の底から安心して落ち着くのだろう。しかし、氷牙竜の血を引く彼らにとっては、この銭湯のお湯は少々熱すぎるらしい。
「いや、汚れてなくても汗や皮脂は付くんだ。身体を清潔に保つためにも、入浴は必要だぞ」
「でも、熱いよぉ……」
「お父さんの背中の方がいい……」
「それとこれとは別だ。あと、父親の背中にどれだけ張り付いても汚れは落ちねえぞ。ほら、観念してこっちに来い」
俺は苦笑しながら、お風呂嫌いのベリーの子ども達を浴場へと優しく誘導する。
湯温については、彼らの体格や種族に合わせて調整してやる必要がある。ベリオロスの子ども達を、人間用の適温やライゼクス用の湯に無理に入れたら茹で上がっちまうからな。
その一方で、オウガの子ども達はというと、ベリー達とは正反対の様子だった。
「お風呂、嫌いじゃないよ!」
「ぼく、ちゃんと入れる!」
「今日はいっぱい洗ってもらう!」
オウガの子ども達は、尻尾をブンブンと振り回しながら元気いっぱいに銭湯へとやって来た。ベリーの子ども達とは違い、彼らは入浴そのものを嫌がっているわけではない。まだ幼いこともあり、普段の生活で泥まみれになるようなことも少ないため、身体もそれほど汚れてはいない。ただ風呂に入るより、俺に構ってもらって遊びたいだけだ。
……ただし。
彼らの身体には、ジンオウガの血族特有の、黄色く光る雷光虫が何匹も這い回っていた。
「よし。オウガの子ども達、いつも通り全部そこに出せよ」
「はーい!」
俺の指示を受けた子ども達は、慣れた様子で自身の体毛に纏わり付いていた雷光虫を浴場の隅へと誘導し始める。
床をカサカサと這うもの。湿った壁を器用に登るもの。仲間の上に折り重なるように乗り上げるもの。チカチカとした黄色い光の塊が、浴場の一角にみるみる集まっていく。
……まあ、いつもの光景だ。
幼体の飼っている雷光虫くらいなら、こうして一箇所に集めさせておけば実質ただの「ちょっと騒がしいランタン」でしかない。
ジンオウガの子ども達にとって、雷光虫はもはや身体の一部のようなもの。彼らが日常的に連れ歩いている以上、こちらとしても入浴の際には一度しっかりと分離させる必要がある。
ゼクスの子ども達なら「放電するなよ」と言えば、かろうじて言葉を理解して言うことを聞いてくれる。しかし、知性のない雷光虫にはそんな人間の言葉は逆立ちしても通じない。だから、こうして一旦決まった場所へまとめておくのが、一番手っ取り早くて安全なのだ。
「よーし、みんな。雷光虫を出し終えたら、身体を洗うぞ」
「はーい…」
◆
ベリーの子ども達の入浴は、あっさりと終わった。
……意外か?あいつらは風呂が嫌いなだけで、別に暴れるわけではないからな。寝坊助だが頭のキレるベリーの遺伝子を色濃く受け継いだからなのか、無意識のうちに最適な行動を取ってくれるのが、ベリーの子ども達だ。
風呂の場合は、無抵抗に洗われる方が早く済むことを、なんとなく理解しているらしい。
「熱いよぉ……」
「まだ終わらないの……?」
「もう少しだ。ほら、じっとしてろ」
文句こそ言うものの、身体を洗う間は大人しくしてくれる。湯温も彼らに合わせて調整してあるため、無理に熱い湯へ浸からせる必要もない。お陰で、俺も楽に洗うことができた。……まあ、最後まで不満そうな顔をしていたが。
「はい、終わり。よく頑張ったな」
「もうお風呂、終わり?」
「うん。やっぱりお父さんの背中の方がいい……」
「だったら、帰ってから母ちゃんに甘えてこい」
そう言って、タオルで身体を拭いてやる。ベリーの子ども達は、少しばかり不満げな顔をしながらも、素直に浴場を後にしていった。……さて。次は、オウガの子ども達だ。
「わーっ!お湯だー!」
「気持ちいいー!」
「ねえ見て、こっち泡がいっぱいある!」
……まったく、ベリーの子たちとは完全に逆である。風呂を嫌がって早く出たがるベリーの子ども達に対し、ジンオウガの子ども達は風呂嫌いどころか、むしろ大好きな部類に入る。
ただし――とにかく、はしゃぐ。身体を洗っている最中だというのに、じっとしている気など毛頭ないらしく、あっちへこっちへと落ち着きなく動き回るのだ。
シャンプーの泡を見つけては歓声をあげて飛びつき、シャワーの湯に触れてはケラケラと笑い、隣の子どもが何かを始めれば、すぐさまそちらへ興味を移して駆け寄っていく。
「こら、動くな!いま背中を洗ってるだろ」
「わーい!あたまに泡がついたー!」
「だから、じっとしてろって!」
「次はこっちも洗ってー!」
「……はいはい」
雷光虫を浴場の隅にまとめておくだけなら、もう手慣れたものだ。だが、肝心の本竜たちがこうも落ち着きなく暴れ回るとなると、話は全く別である。
言葉の伝わらないはずの雷光虫があんなに大人しく隅っこで固まっているというのに、なぜ命令が伝わるはずのオウガの子ども達の方がこんなに騒々しいのやら……。
「はぁ……」と小さく息を吐きつつ、俺はあちこちへ逃げ回る小さな身体を追いかけるようにして、手際よく泡を滑らせていく。
「ほら、腕を上げろ」
「はーい!」
「次は背中だ」
「ひゃははっ、くすぐったい!」
「我慢しろ。まだ流し終わってない」
――とにかく、もう少しだけでいいから落ち着いてくれ。
そんな切実な願いを胸の内で何度も繰り返しながら、あちこち跳ね回る幼竜たちを片手で引っ捕まえ、どうにかこうにか全員の身体を洗いきった。
「よし、終わりだ! 湯船から上がってタオルで拭くぞ」
「やったー!」
「お風呂、楽しかったねー!」
「また明日も入ろうね!」
「お前らは、もう少し静かに入ってくれ……」
口の中でぼやきながら、俺は大判のタオルを広げて濡れた幼竜たちを抱き寄せ、一匹ずつ順番に身体を拭いてやる。
ぽかぽかと温まって気持ち良さそうに尻尾を振る子ども達を見ていると、結局のところ怒る気も失せてしまうのだが。
◆
……ようやく、終わった。
ベリーの子ども達も、オウガの子ども達も、綺麗に身体を洗い終えて銭湯を後にした。
浴場の隅に集めておいた雷光虫たちも、帰りがけにオウガの子ども達が綺麗に引き連れて回収していってくれた。これで、ひとまず今夜の俺の仕事は一区切りだ。
「……ふぅ」
俺は大きく息を吐き出すと、湯船の縁に滑らかな岩肌へ手を掛けた。そして、今度こそ誰にも邪魔されることなく、ゆっくりと身体を沈めていく。
「……あぁ……っ」
思わず、情けないほど力の抜けた声が口から漏れた。温かい湯が足先から膝へ、腰へと浸かり、やがて胸元から肩のあたりまでをなみなみと満たしていく。
全身の皮膚を優しく叩くような心地よい熱。それは、昼間からずっと張り詰めていた身体の奥深くまで、じんわりと染み込んでいくようだった。ガチガチに凝り固まっていた肩の緊張が、少しずつ解けていく。
背中に残っていた強張りも、腕を襲っていたズッシリとした重さも、すべて湯の中へ溶け出してしまうかのように薄れていった。
「……はぁぁ……」
天井から滴る水滴の音を聞きながら、もう一度、深く深く息を吐き出す。
……いい。これは、本当にたまらない。
昼間は活発すぎる幼竜たちに四方八方から囲まれ、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。身体を洗い、タオルで拭き、時には全力の遊び相手になり、山のような洗濯物を片付け、重い物資を運び……思い返せば、今日も今日とて、なかなか手厳しい一日だった。
だが、今は違う。誰も俺の名を呼ばない。誰も服や羽を引っ張ってこない。誰も「背中を洗って!」と群がってこない。ここにあるのは、ただ身体を包み込む湯の温もりだけだ。
俺は湯船の中で肩まで深く身体を沈めると、心地よさに身を任せてゆっくりと首を傾けた。
「……極楽だな、こりゃ」
天井を見上げる。岩肌の隙間から立ち昇る白い湯気が、薄暗い空間の向こうでゆらゆらと幻想的に揺れている。普段なら、幼竜たちの様子が気になってどうしても落ち着いていられない。
何か問題が起きていないか、誰かが足を滑らせて転んでいないか、突発的な放電事故が起きていないか、雷光虫が変なスキマへ入り込んでいないか……。
四六時中、そんなことばかりが頭をよぎってしまうのだ。
けれど――今だけは。
この一瞬だけは、何も考えなくていい。
俺はそっと目を閉じた。
浮力によって湯の中で身体がふわりと軽くなり、重力から解放されていく。心地よい熱に全身を浸していると、張り詰めていた意識までもがゆっくりと緩んでいくのが分かった。
「……ああ、明日も頑張れそうだ」
ぽつりと呟いた自分の声は、静かな湯殿の水面を揺らし、そのまま湯気の中へと溶けていった。
……いや。本音を言えば、できれば明日はもう少しだけでいいから楽な一日であってほしい。
そんな育竜シッターとしてのささやかな願いを胸の中で抱きながら。俺はしばらくの間、誰にも邪魔されない至福の湯船の中で、心ゆくまで疲れた身体を休めていた。
◆
――風呂から上がった俺は、すっかり身体も気分もスッキリしていた。
昼間からずっしりと蓄積していた全身の疲労も、湯の温もりのおかげで随分と軽くなっている。濡れた髪を手ぬぐいでガシガシと拭き、乾いた服へと着替えを済ませた俺は、そのまま脚を伸ばして酒場へと足を向けた。
夜もすっかり更けた竜の都。昼間のあの爆発するような賑やかさが嘘のように、石畳の通りにはしんとした静寂が広がっていた。
酒場の扉を開けて中に入るが、当然ながら店内には誰一人としていない。店主も、客も、給仕の姿すらない。
……まあ、ここはいつものことだ。
俺は慣れた足取りでカウンターの内側へと回り込むと、備え付けの大きな酒樽の蓋を開けた。木槌を振って酒を汲み出し、手頃な大きさの木製酒杯になみなみと注ぎ入れる。
続いて、奥の食糧庫へ保存してある肉や魚、その他諸々の食材を物色し、今夜の酒のツマミになりそうなものをいくつか引っ張り出してきた。
「……よし、こんなもんか」
塩気がしっかり効いた干し肉に、香ばしい燻製魚。ついでに、口直し用の保存果実を少々。自分で用意した酒とツマミをカウンターへと手際よく並べ、俺はようやく丸椅子に腰を下ろした。
普段なら、この時間帯には決まって先客がいる。
――レウスだ。
あいつは、俺が風呂を終えて酒場にやって来るのを、いつもこの場所で待ち構えているのだ。
そして、俺と酒を酌み交わしながら、昼間のくだらない雑談から育竜の苦労話まで、あれこれと語り合う。俺はジョッキで、巨躯のレウスは特大の樽で、豪快に飲み交わしながらな。
そうして気が付けば、夜もかなり深まっている。
それでもなお二人で飲み続けていると、今度はしびれを切らしたレウスの嫁さん達がゾロゾロと乗り込んでくるのだ。
『あなた、迎えに来たわよ』
『さあ、夫婦の時間よ』
『旦那様、早く交尾致しましょう?』
『助けてくれハンターー!?』
悲鳴のような声を上げながら、レウスが強靭な嫁さんたちに引きずられてベッドへと連行されていく――それが、この竜の都における毎夜のお約束だった。
……まあ、俺もたまに巻き添えを食らって怒られることがあるのだが。あいつらにとって、俺はレウスを酒場で引き留めている「共犯者」のようなものらしい。
もっとも、俺自身その時間を嫌っているわけではない。気の置けない相棒と飲む酒は、やはり何物にも代えがたい格別なものだ。
しかし、残念ながら今日は肝心のレウスが外出中。酒場でいくら待ち構えていても、あいつが今夜帰ってくる気配はない。
「……ま、たまには一人も悪くねえか」
俺はひとり、酒杯を傾けた。ぐっと喉を通る酒の重みと熱。鼻へと抜ける芳醇な香り。そして、口の中に広がる干し肉の濃厚な旨味。
大勢で騒ぎながら飲む酒も美味いが、こうして静寂の中で静かに味わう酒もまた悪くない。カウンターに肘をつき、ゆっくりと酒をあおる。
「……ん。うまい」
噛み応えのある干し肉を噛み締め、再び酒杯を傾けて喉を湿らせる。そんなことを繰り返しながら、俺は一人、静かで贅沢な晩酌の時間をのんびりと楽しんでいた。
……その時だった。
「……ん?」
天井のない酒場、レウス達飛竜種の入口が、影に覆われた。俺は酒杯を口元で止め、ゆっくりと上へと視線を向けた。そこにいたのは――
「……おや?」
そこにいたのは、見慣れた緑の鱗を纏う雌火竜――リオレイアだった。レウスの正妻であり、竜の都に暮らす幼竜たちの母親の一匹でもある。
「こんばんは。まだ起きていたのね」
落ち着いた声が、静かな店内に心地よく響く。
「おう、レイアか。こんばんは。どうした、こんな時間に?」
「少し、あなたにお話があって」
そう言いながら、レイアはゆったりとした足取りで俺の隣へとやって来た。
……話?俺は一旦酒杯をカウンターに置き、見上げるように彼女の顔を見る。
「何かあったか?子ども達のことで何か問題でも?」
「いいえ。そういうわけではないわ」
レイアの整った顔立ちに、どこか穏やかな笑みが浮かんだ。
「いつも子ども達のお世話をしてくれているでしょう? そのお礼を、きちんと伝えたかったの」
「ああ、そういうことか」
俺は肩の力を抜き、軽く笑いながら再び酒杯を手に取った。
「気にしなくていいさ。これが俺の仕事だからな」
「それでもよ。あなたがいてくれるお陰で、私たちも安心して子ども達を任せられるのだもの」
「……そりゃ、どうも」
面と向かって改めて礼を言われると、どこか少々照れ臭いものがある。恥ずかしさを誤魔化すように、俺は皿から干し肉を一切れ口へ放り込み、酒で喉へ流し込んだ。すると、レイアは俺の隣にすっと腰を下ろす。
「それと……もう一つ、聞きたいことがあるの」
「ん?」
「子ども達の成長について。あなたの目から見て、あの子たちはどうかしら?」
……ああ、なるほど。俺は手にしていた酒杯をゆっくりとカウンターへ置いた。
「ハンターとしての視点でも聞かせてほしい、ということか?」
「ええ。母親として、あの子たちがどれくらい成長しているのか知っておきたいの。身体の成長だけではなく、普段の行動や判断力……将来的な狩りに関することもね」
レイアの瞳には、真剣な母親の光が宿っていた。
なるほどな。普段から子ども達の世話をしている俺は、単なる育竜シッターというわけではない。元ハンターとしての経験や観察眼をもって、幼竜たちの身体能力や癖、行動の傾向を見定める機会も多いのだ。
母親としては、そうしたプロの視点からの評価や意見も聞き出しておきたいのだろう。……つまり、要するにだ。
「保護者面談ってわけか」
「ふふ。そうね。そんなところかしら」
レイアはクスクスと嬉しそうに微笑んだ。
「お酒を飲んでいるところに申し訳ないけれど、少し付き合ってもらえる?」
「いや、構わねえよ」
俺は姿勢を正し、背筋を伸ばした。
「普段から毎日見ている子ども達のことだ。話せることなら、いくらでもあるさ」
「ありがとう」
レイアは嬉しそうに小さく頷いた。こうして、俺の気ままな一人晩酌は――いつの間にか、正妻リオレイアとの深夜の保護者面談へと変わっていたのだった。
◆
「それで、あの子たちの身体能力についてなのだけれど――」
レイアとの保護者面談は、思いのほか長引いていた。子ども達の順調な成長具合。日常生活での癖や行動パターン。兄弟姉妹同士の関係性。
さらには、身体能力の発達や、将来的な狩猟本能の芽生えについてまで。元ハンターである俺の視点から観察した所感を、話せる限り一通り真面目に語っていた。
……ただし。真剣に話を続ける傍らで、俺の手は絶え間なく酒杯を傾けていた。最初の一杯が二杯になり、二杯が三杯になり…塩気の効いたツマミを口に運びながら、気付けば一人でそれなりの量を胃袋へ流し込んでしまっていたのだ。
「……ふむ。なるほどね」
レイアは真面目な顔で深く頷き、俺の話に耳を傾けている。
「あなたの観察は、やはりとても参考になるわ。私たち母親では、普段なかなか気付けない視点もあるもの」
「まあ、毎日間近で見てるからな」
俺はまた酒杯を傾けた。……少し、酔いが回ってきたかもしれない。だが、頭の回転は妙に冴えているし、会話も普段通りスムーズだ。口調だって乱れていない。自分の中では、特に変わった様子も無く、至って正常な状態を保っているつもりだった。
「そう言えばさ」
俺はふと、目の前に座るレイアの身体をまじまじと眺めた。
「レウスって、一般的なリオレウスの規格を遥かに凌駕する巨体だろ。大体、全長40メートルくらいある」
「ええ。そうね」
「それに比べると、お前自身は別に身体がデカいわけじゃないんだよな」
「そうね。私は特に大きな個体というわけではないわ」
レイアは何の気なしに、至極当然のこととして答えた。
……うん。ここまでは、別に何の問題もない。モンスターの体格差についての、単なる元ハンターらしい日常の雑談だ。
俺は酒杯をカウンターへ置き、深く感心するように何度も頷いた。
「しかし、すげぇな」
「……何が?」
「レウスのあの馬鹿デカいち◯こが、お前の中にはしっかりと収まっちまうんだからな」
「……。」
まるで酔っているとは微塵も思えないほど、俺の口調は落ち着き払っていた。声の調子も、真面目な表情も、至っていつも通りの「観察者」のそれだった。ただし――発言内容だけが、あまりにもどうしようもなかった。
「…………」
レイアは、静かに俺を見つめていた。先ほどまでの真面目な保護者面談の余韻。子ども達の健やかな成長についての建設的な話し合い。
その場の全ての上品な空気が、今の一言によって見事に吹き飛んでいた。
「…………」
レイアの瞳が、無言で俺を射抜いている。
……いや。別に、何かおかしなことを言ったつもりはない。俺は酒杯を傾け、ふと何かを思い出して感銘を受けたように再び口を開く。
「……いや、レイアだけじゃねぇよな」
「…………」
「サクラにミツネ、ゼクスだって、体長は至って一般的なサイズだろ?」
レイアの表情は一切変わらない。俺はそれすら特に気にする様子もなく、真剣な顔で話を続けた。
「なのに、全員レウスのちん◯をちゃんと中に収められるんだから、マジで凄ぇよ……」
「…………」
「特にマガドだ」
俺は酒杯を置き、妙に感心した様子で力強く頷く。
「あいつに関しては、一般的なマガイマガドよりむしろ小さいくらいだろ?体格差、三倍くらいあるぞ?」
「…………」
「いや、マジですげぇよ。生物としてどうなってんだ、あれ……」
俺はまるで、未解明のモンスターの身体構造や生態系について真摯に考察している学者か何かのような重厚な口調で呟いた。そして――
「…………ん?」
ふと、酒杯を持ち上げようとした手が止まった。
(……あれ?今、俺……何、話してた……?)
アルコールで鈍った頭の中で、先ほどまでの己の会話をゆっくりとプレイバックする。
レウスの体格。
妻たちの体格。
そして、その…………「アレ」の納まり具合。
「…………」
俺は冷や汗をだらだらと流しながら、ゆっくりとレイアへ視線を向けた。彼女は相変わらず、静かに、一点の揺らぎもない瞳でこちらを見つめていた。
……。
…………あ。
「……俺、今、何言ってた……?」
ようやく、己の発言がどれほど酷く、壊滅的なセクハラだったのかを遅まきながら理解し始めた。
酒場に、重苦しい沈黙が落ちる。レイアは俺を見つめたまま、しばらくの間、何も言わなかった。
……怒っているのだろうか。
いや、怒っているというよりも、何とも言えない、複雑な表情を浮かべているように見えた。そして、やがて…
「……あなた、疲れているのね」
「…………」
「お疲れ様……」
その声は、驚くほど優しかった。責めるでもなく、咎めるでもなく。ただ、心の底から俺を労わるような、包み込むような声だった。
……それが、逆にめちゃくちゃ辛い。
「……あ、いや。その……」
何か言い訳をしようとしたが、喉に何かが引っかかったように言葉が出てこない。自分がさっき何を口走ったのか、もう痛いほど理解してしまっているからだ。
レイアは静かに立ち上がると、俺の肩へそっと緑の翼爪を置いた。
「今日はもう休みましょう。明日も子ども達のお世話があるのでしょう?」
「……ああ」
「お酒も、もう十分よ」
「……はい」
俺は素直に酒杯をカウンターへ置いた。反論の余地など一微塵もなかった。その後、俺はレイアに付き添われながら酒場を後にした。
夜風が頬を撫でる。普段なら、風呂上がりのほてった身体に気持ちの良い帰り道だったはずだ。
だが、今の俺には……何だろう。まるで、じわじわと精神的な拷問を受けているかのような感覚だった。
レイアは何も言わない。ただ、俺の力ない歩調に合わせて、隣を静かに歩いてくれている。
「…………」
「…………」
その沈黙が、妙に重い。
怒鳴られたわけではない。呆れ果てて罵倒されたわけでもない。
むしろ、どこまでも優しく労わられているのだ。
……だからこそ、余計に辛い。
俺は一体、どんな顔をして歩けばいいというのか。
やがて、自宅の居籠へと到着した。
「それじゃあ、ゆっくり休んでね」
「……ああ。すまねぇな」
レイアは最後まで、俺のセクハラ発言について一切触れなかった。ただ、どこまでも穏やかな笑顔を浮かべて、俺を見送ってくれた。
◆
そして、その夜。俺はベッドに潜り込んだ。身体は一日中動き回って疲れている。酒もそこそこ回っている。本来なら、横になった瞬間に泥のように眠れるはずだった。だが…
「…………」
目を閉じると、先ほどの自分の発言が脳内でハイビジョン再生される。レウスの体格。妻たちの体格。そして、あの「中にしっかりと収まっちまう」という、どうしようもない下ネタ。
「…………うおぁぁあ……っ」
毛布の中で、俺は両手で顔を覆って身悶えた。
……何を言ってるんだ、俺は。
元ハンターとしての冷静さはどこへ行った。
育竜シッターとしての自覚はどうした。
いや、それ以前に……人として、大人としてどうなんだ、俺は。
何度も寝返りを打ち、枕に顔を埋める。だが、眠ろうとするたびに、レイアのあの優しい声と表情が鮮明に蘇ってくるのだ。
『あなた、疲れているのね』
『お疲れ様……』
「…………やめてくれ……頼むから……」
いっそ怒鳴られた方が、まだマシだった。正妻としての雷を落とされた方が、まだ救いがあった。あの母のような優しさが、あの何も言わない静かな沈黙がどうしようもなく、俺のメンタルをゴリゴリと削っていく。
……
…………
………………
こうして俺は――今まで生きてきた中で、文句なしに最低最悪の就寝を迎えることになったのだった。
「時間稼ぎの1話で時間を稼ぐ……か。確かに、それは有効な戦術だ。だが……甘いぞ、作者!!」
「な…に…!?」
「土日の休日がもたらす影響は大きい!その恩恵を最大限に享受するため、それまでの時間を稼ぐ……実に合理的な判断だ!しかし!貴様には、たった一つの致命的な欠点がある!!」
カンコン!!!
「俺のターン!!ドロー!!
俺は手札から『月曜日』を召喚!!更に!相手のフィールドに『土日の休日』がセットされている場合、特殊召喚が可能となるカード……『高まる読者の期待』を発動!!
このカードの効果により、貴様の次回作品に対する期待値は飛躍的に上昇する!!これで貴様は、今まで以上のクオリティを誇る作品を執筆しなければならない!!
さもなくば……貴様の敗北は確定する!!
フハハハハハ!!どうした、作者!!休日を盾に時間を稼いだ程度で、俺の期待を凌げると思ったか!!次回の更新を楽しみにしているぞ!!
ターンエンド!!」
皆さんはこの中ならどれが読んでみたいです?
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著・ギルマス「赤い竜の君」
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巣立ちしたレウスの子ども達のその後
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ベビーシッターの一日
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レウスの夜の大運動会