とあるリオレウスの異種族ハーレム物語 作:火遊び竜・リオレウス
ギルドはその異常な個体を『特殊個体』と認定。当面は「監視」の措置をとることを決定した。
それからの数ヶ月は、奇妙なほど平穏だった。若き火竜は本妻のリオレイア、そして側室となった亜種の二頭と深く愛し合い睦まじく暮らしているように見えた。
我々も、これ以上の異常は起きないだろうと胸をなでおろしかけていた。
――しかし、繁殖期が近づいた頃、監視班から不穏な報せが届く。
「あのレウスが夜な夜な二頭の目を盗んでどこかへ飛び去っている」
その夜、密かに追跡を買って出たのはかつてあのレウスの乱入によって手痛い一撃を喰らった、あのベテランの大剣使いだった。
因縁の相手の動向を掴むため、彼は闇に紛れて息を潜めていた。
報告通り夜が更けた頃、若き火竜は静かに羽ばたき漆黒の空へと消えていった。
「……お前の化けの皮を剥いでやる」
大剣使いは即座に追跡を開始した。導蟲の微かな光を頼りに夜の原生林を突き進む。
しかし、火竜が向かった先はおよそ彼らの生態には似合わない湿度の高い渓谷の奥深くだった。
生い茂る木々をかき分け、大剣使いが辿り着いたのは月光が妖しく水面を照らす静謐な滝壺だった。
そこへ、若いリオレウスが音もなく舞い降りる。
火竜の視線の先、水面からぬるりと姿を現した影があった。 それは、流麗な姿を持つ海竜種――タマミツネだった。
だが、その姿はハンターたちがよく知る、あの鮮やかでド派手な「雄」の個体ではなかった。
ヒレは小さく、色は周囲の岩肌に溶け込むほど地味で目立たない。人里の近くには決して姿を見せないと言われる、幻の「タマミツネの雌」がそこにいたのだ。
息を呑む大剣使いの目の前で、信じがたい光景が繰り広げられる。
「――シュウウウウウウッッ!!!」
喉がちぎれんばかりにタマミツネが叫んだ。
それは強者への無謀な威嚇かと思った。
しかし…タマミツネ身体から無数の泡が今までにない勢いで溢れ、その泡の群れはリオレウスの身体から立ち上る凄まじい熱気と、奇跡的に渓谷の隙間から差し込んだ、わずかな夕陽の光を浴び…
薄暗かった渓谷の底が、見たこともない色彩で満たされていた。
泡が万華鏡のように光を乱反射し、暗い渓谷を幻想的な七色のきらめきで包み込んだ。
それは、タマミツネの雄が魅せる求愛の舞よりも激しく、そして美しかった。
大剣使いもリオレウスも息を飲み、完全な沈黙が訪れていた。
そしてリオレウスがタマミツネの雌へゆっくりと近づき、その喉を震わせた。何かを小さく、甘く囁くように、その口元が動いた。
次の瞬間だった。
タマミツネの雌がまるで恋する乙女のように目を細め、長い身体をくねらせてリオレウスの逞しい首筋へと絡みついた。
「な……んだと……?」
大剣使いは、構えかけた大剣の重みすら忘れて愕然とした。
それは、種族の垣根を超えた縄張り争いなどでは断じてない。
あまりにも手慣れた、流れるような手口。 言葉の通じぬはずのモンスターの世界で、あの若いリオレウスは今、間違いなく――タマミツネの雌を「ナンパ」し、落としてみせたのだ。
月明かりの下、火竜と海竜の雌が寄り添うその異様な、しかしどこか絵画のように美しい光景を見つめながら、ベテランハンターの背筋には、かつてない冷たい戦慄が走っていた。
(このレウス……飛竜の枠に収まる器ではない。まさか、この世界のすべての雌を狂わせる気か……!?)
そのまま2頭は互いの肉体を激しく重ね、文字通り異種族の「交配」を始めてしまった。
◆
ギルドへ戻り、ありのままの事実を報告した時の大騒ぎは思い出すだけでも頭が痛くなる。
飛竜種と海竜種の逢瀬。生物学の常識を根底から覆すあり得ない事態に、ギルド内は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
そして、この騒動に最も異常な反応を示したのが、他でもない――モンスター学者どもだった。
「素晴らしい! 既存の生態系概念を覆す奇跡の個体だ!」
「学術的価値は計り知れない、今すぐ保護し、詳細な観察を行うべきだ!」
目を輝かせてまくしたてる学者たちに、俺は机を叩いて怒鳴り散らした。
「ふざけるな! あいつは危険極まりない個体だ! 今すぐ狩猟部隊を編成し、息の根を止めるべきだ!」
だが、ギルドの上層部が出した結論は、残酷なまでに冷静なものだった。
「……却下だ。現在、かの個体群は繁殖期に入りつつある。ただでさえ獰猛な火竜が、複数の伴侶を守るために暴れれば、ハンター側の犠牲と被害は甚大なものになると推測される。討伐の許可は最低でも繁殖期が過ぎてからだ」
正論、だった。 悔しさで奥歯がすり減るほど噛み締めたが、熱くなっていた頭が冷やされていくのを感じ、俺は従うしかなかった。
せめて繁殖期が明けるまでは、奴の動向を監視し続けると心に誓って。
しかし――その繁殖期の間、俺の理性と常識を木端微塵に打ち砕く、信じられない報告が次々と舞い込んできた。
まず、あの地味なタマミツネの雌が、正式に番としてハーレムに加わった。本妻のレイア、側室の桜火竜が新入りの海竜を何の問題もなく受け入れたという。
この時点で俺は自分の耳を疑った。 だが、本当に恐ろしい報せは、それからさらに時間が流れた時に届いたのだ。
「おい……大変なことになった。今すぐこれを読んでくれ」
震える手で渡された調査報告書の一行を目にした瞬間、俺は文字通り、目の前が真っ暗になった。
『本妻リオレイアの産卵を確認。そして……それと全く同時期に、タマミツネの雌もまた、腹部の膨らみから妊娠したことを確認せり』
「……バカな」
報告書が指先から滑り落ち、床に転がった。
妊娠した。
あのレウスの巣で。飛竜種であるリオレイアが卵を産み落とすその傍らで、海竜種であるタマミツネまでもが、同じ雄の子供を身籠ったというのだ。
それは単に「仲良く暮らしている」というレベルの話ではない。生物としての生殖の壁すら、あの若いリオレウスの『誑し能力』は超えてしまったのだ。
もしその卵から、火竜の翼と海竜の艶やかな鱗を併せ持つ前代未聞の「混血個体」が誕生したらどうなる?
しかも、この異常な繁殖力だ。一つの巣から、異なる種族の獰猛な次世代が恐るべき数で一斉に孵化しようとしている。
学者どもの言う「保護」など生ぬるい。これは生態系のバグどころではない。世界を塗り替える「新種の魔王軍」の誕生だった。繁殖期が明けるのを待っている猶予など、もう一秒もありはしなかった。
取り敢えず次回は雌ヤンキーです。