とあるリオレウスの異種族ハーレム物語 作:火遊び竜・リオレウス
ジジ……バチバチッ……。 大気中に微かに混ざり合う、不穏な電気の匂い。
空気を通じて皮膚の表面がチリチリとピリつくこの感覚。
(この感覚……ゼクスも帰ってきたな?)
俺が巣の外へと視線を向けると、案の定、緑色に怪しく明滅する美しい電撃の翼を羽ばたかせ、4番目の番である彼女が帰還したところだった。
ライゼクス。別名『電竜』。
狂暴で執拗。
縄張りに侵入する者は誰であろうと全力の電撃で肉片に変える、まさに生態系の異端児だ。
そんな凶悪な彼女が向かった場所を、俺は遠くからそっと観察してみる。
着地したゼクスが、どこかきまずそうに足早に歩いていった先は――ゼクスと俺の間に産まれた子どもたちのエリアだった。
実は、生態系においてライゼクスという種族は、卵を産み落としたらそれっきりで二度と戻らない、いわゆる『育児放棄』で有名な種族だ。
けれど、そんな冷酷なはずのゼクスも、俺の番になってからは驚くほどの変貌を遂げていた。今やちょっと口の悪い、だけど愛情深い立派な「ヤンママ」である。
「お、おい……お前ら、大人しく飯食ってるか?」
ゼクスは不器用な翼爪で外から持ってきた獲物であるブナハブラなどの甲虫種を子どもたちの前にドサッと置いた。
相変わらず子どもたちへの向き合い方や、どう甘えさせていいのか分からない距離感に四苦八苦している様子だが……その不器用な表情の裏には、間違いなく我が子を愛おしむ「母親の優しい顔」があった。
あぁ、本当に信じられない。 初めて出会った頃の、あの血も涙もない殺竜鬼のような狂気の面影は、今やどこを探しても見当たらなかった。
「……ッ!」
ふと、子どもたちをあやしていたゼクスの触角がピクンと跳ねた。
俺の視線に気づいたのだ。 彼女は一瞬で顔を真っ赤に染めると、その照れ隠しを隠そうともせず、全身に凄まじい電撃をバチバチと纏わせた。
◆
――ズドンッ!!!
ギャリギャリと激しい羽音を立てて、あたしは凄まじい速度でレウスに向かい、もの凄い衝撃と共にレウスの身体にダイレクトアタックをかましていた。
「な、何ジロジロ見てんだよ、あんたはーーっ!さては 寂しかったろ、このバカ旦那ッ!!」
大声で怒鳴り散らしながら、あたしは彼に飛びつき、その太い首筋に顔を引っ叩くようにすり寄せる。
バチバチと電撃が漏れちまうのは、怒ってるからじゃねぇ。あんたの顔を見た瞬間に、身体の奥がどうしようもなく熱くなっちまうからだ。
レウスは「お、おいゼクス……!」なんて焦りながらも、優しくあたしの翼を抱きとめてくれる。
その強靭なホールド感に触れた瞬間、あたしの脳裏に、あの殺伐としていた出会いの日が、鮮烈な快感と共にフラッシュバックした。
◆
「ハッ、あそこの能天気に浮かんでる赤いトカゲ……。見慣れたツラだと思ったら、レウスの野郎じゃねぇか」
あの日、いつものように自分の縄張りを巡回していたあたしは、雲一つない青空を我が物顔で滑空するリオレウスを見つけ、猛烈に腹を立てていた。
チッ、胸クソ悪い。何が「空の王者」だ。ハンターどもが勝手に持ち上げやがって、滑稽極まりねぇ。
……この空の真の支配者が誰なのか、分からせてやるよ!
あたしは静かに羽ばたき、レウスの死角――背後の上方へと回り込む。トサカに一気に電気を貯め込み、バチバチと激しい火花を散らした。
「王者の座から引きずり落としてやるよッ! 喰らいなァッ!!」
渾身の電撃ブレスを、無防備な背中に向けて吐き出す。直撃コースだ。あいつの生意気な翼が焦げ落ちる様を想像して、あたしの口端が吊り上がった。
――だが
「……は?」
レウスの野郎、あろうことか後ろを見もしないで、わずかな羽ばたきだけであたしのブレスをひらりと避わしやがった。
まるで、最初からそこに攻撃が来ることが分かっていたかのように。
激しい風圧と共に、レウスが空中で踵を返す。その瞬間、あたしは息を呑んだ。 黄金に輝く鋭い眼光が、まっすぐにあたしを射抜く。そこにあるのは、単なる偶然の回避じゃない。
明確に、あたしを『敵』として認識した、冷徹で圧倒的な王者の目だ。
「……ッ、上等だ。その目で睨めば、あたしがビビるとでも思っ――」
言いかけた言葉は、レウスが爆発的な速度で距離を詰めてきたことで、喉の奥にへばりついた。
速い!
冗談だろ、さっきまでのスピードと次元が違う。あたしが翼を羽ばたかせて迎撃の姿勢をとるより早く、視界が真っ赤な炎と巨体に覆いつくされる。
「ガッ……ァアアッ!?」
凄まじい衝撃。レウスの強靭な脚があたしの胸元を容赦なく掴み、そのまま凄まじい質量で地面へと叩きつけられた。
背中に走る激痛。土煙が舞う中、あたしは完全に地面に組み敷かれていた。
「ハッ、ガハッ……離せッ、この……ッ!」
必死に抵抗しようとトサカに電気を昂らせる。だが、レウスは自慢の鋭い鉤爪に体重をかけ、あたしの胸をさらに深く踏みつけた。
「グゥッ……!?」
息が詰まる。電撃が霧散していく。見上げれば、あたしの首元に今にも噛みつかんばかりに、鋭い牙を剥き出しにしたレウスの顔があった。
至近距離から放たれる、喉の奥の猛烈な熱気。
勝てない。
本能がそう告げていた。 あいつはあたしをいつでも殺せる。その圧倒的な力の差、暴力的な質量、そして上空からあたしを完全に見下ろす冷徹な支配の眼差し。
「あ……、あァ……」
その時、あたしの身体の中で何かがパチンと弾けた。
恐怖?
悔しさ?
違う
胸を押し潰す圧倒的な重みと、首元に迫る死の気配。あいつに完全に『支配されている』という感覚が、頭の芯を痺れさせるような、恐ろしいほどの快感へと変質していく。
逆らえない
抗えない
「ハァ、ハァ……嘘、だろ……あたしが、こいつに……?」
バチバチと荒々しく荒ぶっていたあたしの電殻が、今はまるで歓喜に震えるように、怪しく、淫らに明滅し始める。
あんなに気に入らなかった「空の王者」の瞳が、今はどうしようもなく愛おしく、恐ろしく、そして…最高に色っぽく見える…!
ヤバい
ゾクゾクする
子宮が疼く
食べたい
食べられたい
この雄の遺伝子が欲しい!
あたしのすべてを蹂躙して、この身体にあいつの種を刻み込まれたい――睨みつけていたはずのあたしの目は、いつの間にか熱を帯び、レウスを見上げる視線はとろけるように潤んでいた。
その瞬間、レウスは目を見開き、あたしを押さえつけていた足が少し浮いた。
気がつくとあたしは、レウスの逞しい首筋にがっしりと抱きついていた。
ああ…ゾクゾクする
皮膚越しに伝わるあいつの圧倒的な体温と、力強い鼓動。
こんなに強くて格好いい雄だ。どうせどこかの雌ととっくに番になってるに決まってる。
だったら、なりふり構っていられるかよ。こうして抱きついて、力ずくで既成事実だけでも作っちまえばこっちのもんだ。
――その時だった。
腕の中のレウスが、びくんと大袈裟に身体を強張らせた。
「あァ? なんだよ、あたしに抱きつかれて興奮しちゃったわけ?」
からかうような笑みを浮かべようとしたあたしは、レウスの視線があたしではなく、遠くの一点に釘付けになっていることに気づく。
あいつの綺麗な目が、完全に恐怖で泳いでいる。
なんだ? と思ってあたしもレウスの視線の先に目を巡らせた。そこには、こちらに向かって猛スピードで接近する生物をみつけた。
「あー……なるほどね」
あたしはすべてを理解した。あいつがビビって硬直したのは、あたしの色香に当てられたからじゃない。
自分の番が近づいてくるのが見えたからだ。
……って、いや、待てよ?
あたしは近づいてくる複数の影と、腕の中のレウスの顔を、何度も見比べた。
緑の通常種レイア。桜色の亜種レイア。そして、なぜか優雅に這い寄ってくる海竜種のミツネ。
「……番が、3頭?」
マジかよ、この雄。あんなに誠実そうで、ピュアなツラしておいて……まさかの3股? 尋常じゃねぇ雌誑しじゃねぇか!
その衝撃の事実に気づいた瞬間、あたしの口端が、抑えきれずにニィッと歪み、だらしなくニヤケた。
だってそうだろ?一途な堅物だったら、あたしが割り込む隙なんて一ミリもなかった。けど、こいつはすでに3頭の番を囲ってる筋金入りのタラシなんだ。
「……ってことはさ。もしかして……あたしも、いけたりする?」
番が3頭いるなら、それが4頭になったところで大して変わんねぇよな? むしろ枠が一つ増えるだけだろ。
「あはっ……あははっ! 最高じゃん……っ!」
普通なら修羅場になるところを、あたしは「罪な雄」をさらに強く抱きしめ、勝ち誇ったような大笑いを浮かべた。
堅苦しい純愛なんてあたしの性に合わねぇ。このとんでもねぇタラシの正妻の座をぶんぶんどぎつく奪い取ってやる――!
◆
「ギャハハ! あん時のあんたの情けねぇツラ、今思い出しても最高だわ!」
現代の巣の中、あたしはレウスにダイレクトアタックをかましたまま、大声で笑い飛ばした。
レウスは「いや、本当にあの時は終わったと思ったんだぞ……」と、当時の4股発覚の瞬間の恐怖を思い出してガタガタと震えている。
「あらゼクス、相変わらず騒々しいわね。でも、あんたが来てくれたおかげで育児のローテーションが楽になったのは感謝してるわよ?」
と"現"正妻レイアが笑う。
「本当よ、最初はどんなじゃじゃ馬が来るかと思ったけれど、今や立派なヤンママね」
とサクラもからかう。
「ゼクスちゃんは相変わらず激しいなぁ」
とミツネが泡をパチパチさせている。
「チッ、うるせぇよお前ら! あたしは旦那に甘えにきたんだよ!」
あたしはバチバチと嬉しそうに電撃を明滅させながら、レウスの首筋をさらに強く抱きしめた。
最初は力ずくの略奪愛のつもりだった。それが気づけば、こんなにも賑やかでカオスな大家族の一員だ。本当に、竜生何が起こるか分からねぇもんだ。
ま、正妻の座は今も諦めてねぇけどな!
ライゼクスならこうだろうか?しかし…こうしてしまうとティガレックスの性格をどうすべきか…。
次回、再びハンター視点になります。