小さな希望を一つ一つ摘み取り、ストレスを与え続けることによって脳をじっくりと焼き上げ、旨味を最大限まで引き出しております。
お召し上がりの際は、備え付けの『大剣』をお使いになり、器用に切り分けてお召し上がりくださいませ。
それでは失礼いたします。ごゆっくりどうぞ……」
あの不気味な同時産卵からしばらく経った、ある日のことだ。
件の若いリオレウスが巣を飛び立ち、数日経っても帰ってこないという報告が上がった。
「おいおい、あの女誑しのレウスも、ついに嫁さんたちに愛想を尽かされて追い出されたんじゃねぇか?」
「自業自得ね。これでようやく、あの不気味な群れも解散かしら」
新米ハンターや受付嬢たちは、お気楽にそんな噂話をして笑い合い、束の間の平和を謳歌していた。ギルドの空気はどこか弛緩していた。
だが……俺は違った。胃の奥がキリキリと痛み、背筋を這い上がるような、ただ事ではない嫌な予感しか感じていなかった。
…そして、その予感は最悪の形で的中することになる。
「緊急連絡! 巣に残っていた本妻のリオレイア、亜種、そしてタマミツネの雌……すべての番が姿を消しました!」
ギルド内に電流が走る。
「ほら見ろ、やっぱりレウスが居なくなったから、縄張り争いが始まってバラバラに霧散したんだよ」
誰かが安堵を交えてそう言ったが、俺の脳は即座にそれを「ありえない」と却下した。
違う。そんな生ぬるい話であるはずがない。
あいつらの、あの異常なまでの結束力を俺は見てきた。あの雌たちが、レウスのいない隙に喧嘩別れなどするはずがないのだ。
――バラバラになったんじゃない。
あいつらは、またどこかで新しい雌をナンパして帰ってこない、あの阿呆な旦那を「全員で迎えに行った」に違いない。
…そして…やはり俺の最悪の推測は、完全に当たっていた…
「帰還……! 件の特殊個体群が、元の巣に戻ってきました!」
見張り台からの悲鳴に近い報告が響き渡る。
「……やはり戻ったか。だが、連れ戻されたレウスは、さぞ嫁さんたちにお仕置きされていることだろうな」
俺はそう呟きながら報告書の続きに目を落とし――その場で、文字通り呼吸が止まった。
『――確認された個体。リオレウス、リオレイア、リオレイア亜種、タマミツネ。および……新たに群れに加わったと思われる、新個体1頭を確認』
『特徴:全身が鮮やかな電竜緑色の甲殻に覆われ、翼膜は昆虫の羽の如し。興奮時に全身に高圧の電撃を纏う、極めて狂暴な飛竜――』
「ば……馬鹿な……嘘だろ……」
報告書を握りしめる俺の手が、ガタガタと震え出した。
ライゼクス。「電竜」と呼ばれるそれは、リオレウスにとって本来、空の覇権を激しく争う「最大のライバル兼天敵」だ。出会えばどちらかが死ぬまで殺し合う、絶対に相容れないはずの凶悪な飛竜。
それが、どうしてレウスのハーレムに混ざって、大人しく一緒に帰ってきている?
しかも、ライゼクスは気性が荒く、同族の雄を番とも思わない狂暴性の塊だ。それが、レウスの雌たちと一触即発になるどころか、奇妙な規律を保って整然と飛行していたという。
つまり、こういうことだ。 あのレウスは、連れ戻しにきた嫁たちの目の前で、事もあろうに自分を殺しにきた天敵の雌すらも言葉巧みに口説き落とし、側室としてハーレムに迎え入れたのだ。
そして本妻レイアも、新たな「妹分」としてそれを公認した。
「火・毒・水・泡……そこに、今度は『雷』まで加わったというのか……」
俺は頭を抱え、深く絶望した。 レウスのたらし能力は、ついに種族の壁だけでなく、「天敵」という生態系の絶対的なルールすらも書き換えてしまった。
強力な電撃を操るライゼクスが加わったこの「レウス魔王軍」は、もはやギルドの手に負える領域を遥かに超えつつあった。
人間がこの事態に怯える中、ハーレムの拡大はまだ、止まる気配を見せていなかった。
◆
「繁殖期はとうに過ぎている! 一体何が問題だと言うんだ!!」
ギルドマスターの執務室に、俺の怒号が響き渡った。
相も変わらず、俺はギルドにあの特殊個体――『ハーレムレウス』の即時狩猟を進言し続けていた。
ライゼクスという天敵までをも取り込み、日に日に肥大化していく狂気の群れ…
手遅れになる前に叩く
ハンターとして当然の主張だった。
しかし、ギルドから返ってきたのは、「許可を下ろすことはできない」という信じられない却下の言葉だった。
「またあの学者どもが『学術的価値がある』とか騒ぎ立てて、上層部に圧力をかけたのか!? あいつらは世界が滅びても同じことを言う気か!」
詰め寄る俺に対し、ギルドマスターは怒るでもなく、ただひたすらに暗い顔のまま、静かに2枚の報告書を差し出してきた。
「……これを読んでくれ。我々も、決して手をこまねいているわけではないのだ…」
手渡された上級書士隊の紙をひったくり、目を落とす。そこに書かれていたのは、もはや生物学の敗北を告げる、信じられない事実の数々だった。
まず1枚目の報告書。
『――電竜ライゼクスの産卵を確認。しかしながら、通常個体に見られる特有の生態である「ネグレクト、育児放棄」の兆候は一切見られず、当該個体は極めて献身的に育児を開始せり』
通常、ライゼクスというモンスターは卵を産み落とした後、育児を放棄してどこかへ去る。それが奴らの生態だ。
だが、あのレウスのハーレムにいるライゼクスは違った。
本妻のレイアやタマミツネと寄り添い、狂暴な性質をどこかへ置き忘れたかのように、優しく、熱心に卵を温めているという…あの我が儘で残虐な電竜すらレウスの愛、あるいは家庭環境によって「良き母」へと矯正されてしまったのだ。
愕然とする俺に、ギルドマスターが「次の紙だ」と短く促した。
2枚目を見る。
そこには、俺のハンターとしての希望を完全に打ち砕く最悪の推測が記されていた。
『――生態系における重大な危機と対策の変更について。 本来、モンスターの繁殖期は種ごとに異なる。しかし、当該リオレウスは本来の繁殖期が異なるタマミツネ、さらにはライゼクスをも番に迎えた。これらが常にレウスの性動力を刺激し続けている結果、リオレウスの繁殖期の長期化、及び終結時期の推測が非常に困難になる。また、一度繁殖期を終えたとしても、他の番がリオレウスを再び繁殖期に呼び戻すことから、“リオレウスの繁殖期が 永久に終わることはない”と結論づける』
「っ……!」
喉の奥が引き攣った。繁殖期が終わらない。つまり、あのレウスは常に「番を守るために最も獰猛で、手を出してはならない状態」を維持し続けるということだ。
狩猟部隊を派遣する『安全な時期』など、この先、未来永劫訪れない。
そして、報告書の最後には、ギルド上層部が下した決定的な文言が刻まれていた。
『――追記。なお、当該群れは結成以来、現在に至るまで人里や交易路へ被害を及ぼした記録はゼロである。それどころか、周辺の凶暴な中型モンスターを自然と駆逐し、大型モンスターとの縄張り争いを制し、結果的に地域の治安維持に貢献している側面すらある。以上の点から、ギルドは当該個体群への刺激を一切禁止し、永久的な『狩猟禁止個体』に指定することを強く推奨する』
「被害が無い、だと……?」
報告書を持つ手が小刻みに震えた。
あいつらは…これだけの超絶戦力を有していながら人里を襲うどころか、レウスの完璧な統率のもとで大人しく引きこもり、幸せな家庭を築いているというのか。
「そうだ」
ギルドマスターは苦渋に満ちた声を漏らした。
「今あの群れに手を出せば、それこそ『繁殖期の親たち』を本気で怒らせ、この街が一日で消し飛ぶ。あいつらが大人しくしている以上……我々人間にできることは、腫れ物に触るように遠くから見守ることだけなのだよ」
…正論だった。あまりにも…完璧すぎる正論だった。
俺はゆっくりと報告書を机に戻した。悔しさよりも、生物としての格の違いを見せつけられたような、奇妙な敗北感が胸を支配していた。
あの若いレウスは、力で世界を脅かす古龍とは違う。
ただひたすらに雌を愛し愛され、その結果としてギルドの手すら出せない「絶対不可侵の楽園」をこの地に築き上げてしまったのだ。
――だが、俺の胸のざわつきは消えなかった。
終わらない繁殖期。
幸せな家庭。
しかし、あのレウスの「女誑し」の本能が、これだけで満足するだろうか?
「あら、旦那様。何処かへお出かけですか?」
「あ、ああ…ミツネ。ちょっとな…」
「そうですか。旦那様のお帰りをゆっくりお待ちしておりますね」
「う、うん…」バサッ!
「………ふ〜…っ…これでよし」
◆
「ねぇミツネ?レウスが帰ってこないんだけど?」
「旦那様ならばあちらへ飛んで行かれましたよ。泡をつけておきましたから」
「仕方ないわね…迎えに行くわよ」
◆
「お空気持ちいいな」
「くたばれ!リオレウス!」
「なんだぁ?てめぇ…」
「ああ…好き…」
「嘘だろ…?」
「「「レウス〜!」」」
「あ、あああ…」
「旦那♡」
「ぎゃあああ!」
次回・リオレウス、クズになる
参考程度にどの古龍が一番最初に来て欲しいですか?
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マダム・マム・タロト
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未亡人・ナナ・テスカトリ
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お嬢様・メル・ゼナ
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婚活中・アマツマガツチ
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ツンデレ・イヴェルカーナ