異世界日記 ~魔法適正ゼロの現代人は 脳筋スキルで無双する~ 作:日月 幾人
「どうぞ」
などと理屈をこねくり回している間に、オレの朝食が出来上がったようで、給仕によって運ばれて来た。
ちなみに、ちなみにその給仕さんはウサミミだった。
何度でも言おう――――
厨房へ戻るさいに、短くまん丸ふわふわの尻尾が付いたヒップを、フリフリと揺らす姿がキュートだ。
(人参とか好きなのだろうか? いや、人参が好きという認識は――以下略)
ウサミミ給仕さんとは、今日初めて顔を合わせた。
(ふむ……)
もしもこの広い屋敷に、まだ会ったことがない使用人が他にも居るのだとしたら、そのうちオレの
そんな期待に胸を膨らませつつ、ウサミミ給仕さんを目で追う。
「じぃ――――……」
すると、意中の男が他の女性に関心を寄せていることに、機嫌を損ねたマティルダが厳しい眼差しを向けてきた。いわゆる、ジト目である。
「な、なにかな?」
嫉妬してくれている女性に対して、どうしていいか分からず、あたふたと言葉をどもらせてしまう。
ここぞというときにスマートな対応ができないあたり、哀しいかなモテ男の才能がないのだろう。
「べっつにぃ! ぼんやりしていると、せっかくのお食事が冷めてしまいますわよ! ふんっ!」
「そ、そうだね……さあ、食事、食事――」
――記憶を失う前のオレに恋人はいたのだろうか?
マティルダのことを意識していたからだろう。ふと頭の中にそんな疑問が浮かんだ。
恋のひとつしていてもおかしくない年頃だけど、なるべく考えないようにしていたことだ。
だって、どうしようもないではないか。
例え好きな人がいたとしても、世界に隔てられて、もう会えないのだから。
それなら、思い出したところで、きっとつらくなるだけだ。
オレの一方的な片思いならまだいい。もしも両想いの女の子がいたとしたら、それは悲劇だ。
「もし、どうかされました? 苦手な物でもありました? それともお体の具合でも? 神官をお呼びしましょうか?」
急に黙り込んだオレを、マティルダが不安そうに覗き込んできた。
「ん? ……いや」
(そんなにひどい顔してたか?)
親身になって、心配してくれるマティルダ。その優しさに触れて、傾きかけていた気分が持ち直す。
「……ありがとう。なんともないさ……よぉし、食事、食事! 今日も美味そうだ!」
感情は伝播する。周囲を心配させまいとして、オレは努めて明るく振る舞った。
カリカリに香ばしく調理されたベーコンと目玉焼き。
様々な種類のチーズに白パン。
目の前にずらりと並んだ品々を、半分に分けたパンに次々と挟んでいく。
ここで葉物野菜のひとつでも欲しいところだが、世間では地面に生える野菜は低級と見なされているそうなので、富裕層の食卓にはあまり上がらない。
「なにをしてなさいますの?」
マティルダが顔に浮かべているのは、行儀の悪さを
「これか? オレの故郷ではポピュラーな食べ物なんだけど、サンドイッチって言うんだ」
単に具材をパンに挟んでいるだけなので、殊更紹介するまでもない。
この世界にも普通にある食べ方だろうけど、箱入り娘の目には物珍しく映るのだろうか。
「まあ! とても興味深いですわね!」
ぱっと笑顔を咲かせるマティルダ。彼女は、オレのことを恩人という色眼鏡を通して全肯定する。
身分の違いにより生じた常識や、価値観のズレを好意的に捉え、些細なことにも新鮮な反応を表す。空っぽなオレの自尊心を満たしてくれた。
(なんて都合のいい女の子だろう……悪い男に捕まらないか心配だ……)
だからこそ、誠実に向き合わなければならない。
マティルダは、見様見真似で作ったサンドイッチをいたく気に入ったらしく、口いっぱいに頬張っている。
普通なら眉を
「どうなさいましたの? そんなに熱い眼差しを注がれては、照れてしまいますわ……」
「あーいや、頬にパン屑がな……」
「まあ! 私としたことが! ……そうだわ。取ってくださいませんこと?」
言うが早いか、身体をよじり顔をこちらに寄せてくる。
求められているのは、口元に付いた米粒を取るような……つまり
ウサミミは好きですか?
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