異世界日記 ~魔法適正ゼロの現代人は 脳筋スキルで無双する~   作:日月 幾人

13 / 39
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです


ep.13 恋人ごっこ~お嬢様は嫉妬深いお年頃

「どうぞ」 

 

 

 などと理屈をこねくり回している間に、オレの朝食が出来上がったようで、給仕によって運ばれて来た。

 

 ちなみに、ちなみにその給仕さんはウサミミだった。

 

 何度でも言おう――――()()()()である。

 

 厨房へ戻るさいに、短くまん丸ふわふわの尻尾が付いたヒップを、フリフリと揺らす姿がキュートだ。

 

(人参とか好きなのだろうか? いや、人参が好きという認識は――以下略)

 

 ウサミミ給仕さんとは、今日初めて顔を合わせた。

 

(ふむ……)

 

 もしもこの広い屋敷に、まだ会ったことがない使用人が他にも居るのだとしたら、そのうちオレの(へき)に刺さるケモミミさんが、ひょっこりと現れるかもしれない。

 

 そんな期待に胸を膨らませつつ、ウサミミ給仕さんを目で追う。

 

「じぃ――――……」

 

 すると、意中の男が他の女性に関心を寄せていることに、機嫌を損ねたマティルダが厳しい眼差しを向けてきた。いわゆる、ジト目である。

 

「な、なにかな?」

 

 嫉妬してくれている女性に対して、どうしていいか分からず、あたふたと言葉をどもらせてしまう。

 

 ここぞというときにスマートな対応ができないあたり、哀しいかなモテ男の才能がないのだろう。

 

「べっつにぃ! ぼんやりしていると、せっかくのお食事が冷めてしまいますわよ! ふんっ!」

 

「そ、そうだね……さあ、食事、食事――」

 

 ――記憶を失う前のオレに恋人はいたのだろうか?

 

 マティルダのことを意識していたからだろう。ふと頭の中にそんな疑問が浮かんだ。

 

 恋のひとつしていてもおかしくない年頃だけど、なるべく考えないようにしていたことだ。

 

 だって、どうしようもないではないか。

 

 例え好きな人がいたとしても、世界に隔てられて、もう会えないのだから。

 

 それなら、思い出したところで、きっとつらくなるだけだ。

 

 オレの一方的な片思いならまだいい。もしも両想いの女の子がいたとしたら、それは悲劇だ。

 

「もし、どうかされました? 苦手な物でもありました? それともお体の具合でも? 神官をお呼びしましょうか?」

 

 急に黙り込んだオレを、マティルダが不安そうに覗き込んできた。

 

「ん? ……いや」

 

(そんなにひどい顔してたか?)

 

 親身になって、心配してくれるマティルダ。その優しさに触れて、傾きかけていた気分が持ち直す。

 

「……ありがとう。なんともないさ……よぉし、食事、食事! 今日も美味そうだ!」

 

 感情は伝播する。周囲を心配させまいとして、オレは努めて明るく振る舞った。

 

 カリカリに香ばしく調理されたベーコンと目玉焼き。

 

 様々な種類のチーズに白パン。

 

 目の前にずらりと並んだ品々を、半分に分けたパンに次々と挟んでいく。

 

 ここで葉物野菜のひとつでも欲しいところだが、世間では地面に生える野菜は低級と見なされているそうなので、富裕層の食卓にはあまり上がらない。

 

「なにをしてなさいますの?」

 

 マティルダが顔に浮かべているのは、行儀の悪さを(とが)めるものではなく純粋な好奇心。

 

「これか? オレの故郷ではポピュラーな食べ物なんだけど、サンドイッチって言うんだ」

 

 単に具材をパンに挟んでいるだけなので、殊更紹介するまでもない。

 

 この世界にも普通にある食べ方だろうけど、箱入り娘の目には物珍しく映るのだろうか。

 

「まあ! とても興味深いですわね!」

 

 ぱっと笑顔を咲かせるマティルダ。彼女は、オレのことを恩人という色眼鏡を通して全肯定する。

 

 身分の違いにより生じた常識や、価値観のズレを好意的に捉え、些細なことにも新鮮な反応を表す。空っぽなオレの自尊心を満たしてくれた。

 

(なんて都合のいい女の子だろう……悪い男に捕まらないか心配だ……)

 

 だからこそ、誠実に向き合わなければならない。

 

 マティルダは、見様見真似で作ったサンドイッチをいたく気に入ったらしく、口いっぱいに頬張っている。

 

 普通なら眉を(ひそ)めたくなるはしたない振る舞いも、彼女がすれば愛らしく見えるのだから美人は得だ。

 

「どうなさいましたの? そんなに熱い眼差しを注がれては、照れてしまいますわ……」

 

「あーいや、頬にパン屑がな……」

 

「まあ! 私としたことが! ……そうだわ。取ってくださいませんこと?」

 

 言うが早いか、身体をよじり顔をこちらに寄せてくる。

 

 

 求められているのは、口元に付いた米粒を取るような……つまり仲睦(なかむつ)まじいカップルがするあれだ。




ウサミミは好きですか?

ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。