異世界日記 ~魔法適正ゼロの現代人は 脳筋スキルで無双する~   作:日月ゆう

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試合開始です

拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです


ep.19 決闘!~剣と魔法-戦士VS魔法使いⅡ

「んじゃあ、両者準備はいいっスか? このコインが試合開始の合図ですんで(アァ、ダル……モゥカエリテー)」

 

 

 決闘の場に相応しくない緩い態度で、試合のレフェリーを務めるのは気怠(けだ)るそうな担当員。

 

 観衆(ギャラリー)が見守る中、ひょんなことから始まった決闘。

 

 魔法使いのプライドと一般人の反抗心……もとい反骨心が、今まさに激突しようとしている……。

 

 

 指で弾かれたコインが、甲高い音を鳴らし地面に落ちた瞬間――。

 

 オレは足元を蹴り上げ一気に駆け出し、魔法使いへ速攻を仕掛ける。

 

 そして、脳内で展開したスキルリストの中から見つけた、この場に適しているものを発動させた。

 

 加速スキル発動〈カイロォスの決断〉

 

『はや――――――!』

 

 観衆が上げた驚きの声は、耳に当たる向かい風によってかき消された。

 

(呪文を唱える暇は与えない!)

 

 この世界において魔法は強力無比な存在らしいが、これがセオリー通りなら詠唱を必要とし、発動するまでにタイムロスが生じるはず。

 

 であるならば、戦士職としてその隙を突くのが定石だ。

 

(ゲームの話だけどな!)

 

 マティルダが水魔法を披露したあの時、それから魔法使いが内包しているオドを調べた時、実際に詠唱するのを見ていたので、この仮説は確信に近い。

 

「――ほう、狙いは悪くない。でも、だからこそ対策されるとは考えなかったのかな?」

 

 瞬く間に距離を詰めた走力に、魔法使いは目を剥く。しかし、すぐにその表情が不敵な笑みへと変貌した。

 

 魔法に精通した魔法使いは、その長所や短所も熟知している。

 

 指に嵌めている指輪を、摘まむようにして軽く擦る。すると、前面に謎の衝撃波が発生。

 

 上段右上から下段左脇へと剣筋で弧を描く――剣術で言うところの袈裟(けさ)切りを振るっていたオレは、刃が相手の左肩に届く寸前のところで大きく弾き飛ばされた。

 

「うおおぉぉっ!?」

 

 その衝撃に反して身体的ダメージはないに等しく、ただせっかく詰めた間合いが離されてしまった。

 

(つまり、これは……!) 

 

「詠唱時間を稼ぐ魔道具(マジックアイテム)さ!」

 

(クッソ! ズルだろ、それ! こっちは剣一本で――)

 

 そうして放たれたのは火魔法。

 

 ファイアボールとでもいうのだろうか。

 

 詠唱を終えた魔法使いの杖から火球が(ほとばし)る。

 

 サイズにしておよそ直径30センチメートル。バスケットボールよりも大きく、直撃すれば大火傷を負いそうだ。

 

「ふおぉ!?」

 

 飛来した火球にビビったオレは、反射的に体が動いたお陰で運よくそれをかわす。

 

 外れた魔法は、後方の地面に着弾し火柱が上がった。

 

 数十メートルは離れているはずなのに、熱波がここまでまで届く。

 

「チッ、外れたか……運のいい……」

 

(この野郎! 手加減するって話はどうしたよ!?)

 

 わざわざ決闘の場を設けたことといい、オレが魔法を軽視しているとも取れる失言をしたことについて、魔法使いは内心業腹なのかもしれない。

 

(……というか、今更だけどあれだな。人に斬り掛かるっていうのは、想像以上に怖いな……)

 

 模擬試合とはいえ、人間を相手に剣を向けることにはやはり抵抗があり、暴力を潜在的に忌避している。

 

 現に初手の一振りは躊躇(ちゅうちょ)したせいで、相手に反撃の猶予を与えしまった。

 

 魔法使いと目が合った瞬間、胸が早鐘を打ち剣を振り下ろせなくなってしまったのだった。

 

 とはいえ、だからといって、オレが本気で攻撃すれば、大鬼(オーガ)の頭蓋を砕いたときの二の舞になってしまうからして、その辺の力加減が非常に難しい。

 

(もしも、あんなふうに人間を殺めてしまったらと思うとゾッとする……!)

 

「ん――おおっ!?」

 

 オレの逡巡(しゅんじゅん)を好機と捉えた魔法使いが、容赦なく追撃の魔法を放つ。

 

 強化スキル発動〈ヴァルゥカヌスの鍛造〉

 

 オレは慌てて武器強化のスキルを長剣に使用する。

 

 殺意マシマシで飛んで来た火球〈ファイアボール練度Ⅱ〉を観察眼(サーチ)スキルで捕捉。

 

「せーっの――つぇりゃあッ!」

 

 長剣を正眼に構えると、頭上から縦に真っ直ぐ振り下ろす。ゲーム――いやさ剣術で言うところの唐竹割(からたけわ)りを繰り出し、強力な魔法を両断した。

 

『……き、切った!?』

 

『おぉ、まさか魔法を……!』

 

「ゴホッ……!」

 

 迸る火の粉によって前髪の毛先が焦げ、ツンとした嫌な臭いが鼻腔(びくう)を突いた。

 

 どうやら長剣の刃が潰されていても、思いっ切り振り下ろせば一応は切れるようだ。

 

(……でも、炎が分散して危ないし、あまりやらないほうがよさそうだ)

 

「ほう……なるほどな、口先だけではないということか…………ならば! もう遠慮はいらないな!」

 

 自慢の魔法が防がれたことで、いよいよ魔法使いの闘争心に火が付いた。

 

「▽◎□✘ 〇☆ ◇□☆△◎▽〇□! ▽◎□✘ 〇☆ ◇□☆△◎▽〇□!▽◎□✘――」

 

(なにアレ!? 気持ち悪っ!)

 

 絶え間なく口を動かし、ちょっと何言ってるか分からないほどの早口で魔法を詠唱すると、連続で火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉を放つ。

 

「くっ! このっ! うぉりゃあッ!」

 

 オレも負けじと長剣を振り回し、これらに対処する。

 

 刃側面の平らな部分で、野球の千本ノックよろしく次々と打ち返した。

 

 これを魔法使いに向かって跳ね返してやれたらよかったのだが、どうやら記憶を失う以前のオレは、野球少年ではなかったらしい。

 

『おおっ! また打ち返した!』

 

『今度は大きいぞ!』

 

『すげぇ! あいつやるじゃないか!』

 

 オレが火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉を打ち返す度、野球場のように歓声が上がる。

 

(どの道、この(バット)とあの魔法(ボール)じゃ、上手くコントロールできないだろう。うっかり観客に打ち返さないだけマシか)

 

 体力も気力も十分。やはり、オレには魔法に対抗し得る身体能力とスキルがあるのだと、この決闘を通じて確信した。

 

(けど、ああ……まさか嘘だろ……ちくしょう、なんてこった……これは、かつてないほどのピンチだぞ……!)

 

 火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉を1000本どころか10000本だってできそうなくらい好調なのだが、体力以外の面で問題が生じる。

 

 それは、オレの装備の耐久性についてだ。

 

 繰り返し火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉を弾いたことにより、赤熱に染まっている長剣は、スキルにより強化しているのでまだいい。

 

 問題は、両断したときほどではないにしろ、飛び散る火の粉によって焦げてゆく衣服だ。

 

 最悪このまま戦闘が長引けば、オレの衣服は全焼し局部を揺らしながら決闘に(いど)む事態に陥りかねない。

 

 そんなギャグ漫画もかくや、いきなり劇中のジャンルが変わるような珍事は、なんとしてでも避けたい!

 

(というかコレ借り物の服だし! ネコミミメイドさんに叱られてしまう!)

 

 スキルリストの中から、防具の強化に関するものがあるかざっと探してみる。

 

(防御力強化――は違うな。火耐性付与――いや、次! 再生能力向上? 他には、他に、クソッ! どれも効果があるのは直接肉体にのみか! ええい! スキルの数が多すぎる!)

 

 タブを高速でスクロールし、数多のスキルの中ら目当てのものを掘り当てようと探し続ける。

 

 すると、焦るオレを急かすように火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉が飛んで来て、検索の邪魔をした。

 

(この野郎! 馬鹿の一つ覚えみたいに同じ攻撃ばかり繰り返しやがって!)

 

 膨大な量のスキルに埋もれ、窒息しそうになっているオレは、即断即決で魔法を繰り出す敵を恨めしく思う。

 

 通算六つ目の火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉を(しの)ぐも、魔法使いの追撃は留まるところを知らない。

 

(……ひょっとして他に魔法が使えないのか? いや、それとも……この魔法こそが最適解だから連発してるのか?)

 

 ファンタジー調の創作物に馴染みのある者ならば、ややもすると火球の魔法は、初歩的で下級であると捉えがちだが、いざそれを目の当たりにすると印象がまるで違う。

 

 リーチの優位性はもちろん、見た目の派手さに加え、着弾時に炸裂する爆音と熱波は対象の恐怖心を嫌でも駆り立てる。

 

 並みの戦士(ウォリアー)なら、これを連発するだけで完封できるはずだ。

 

 実際、火を怖れる生物の本能が、じわじわとオレの戦意を削っていった。

 

 属性といった遊び心を無視すれば、氷のつぶてを投げたり、風の刃を振るったりするより、よっぽど強力で対人戦においてかなり有効に思える。

 

(自分で例を挙げておいてなんだが……氷のつぶてとか、よく考えたらただの物理攻撃だし投石と変わらん。まあ、投石は投石で強力なわけだが……風の刃に至っては意味不明だ)

 

 とにもかくにも、このつるべ打ちから抜け出して、反撃の糸口を掴まなければ。

 

 

 オド総量云々の件があるくらいだし、魔法の使用も有限だろうが、全裸になるリスクを負ってまで根競べをするつもりはない!




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