異世界日記 ~魔法適正ゼロの現代人は 脳筋スキルで無双する~ 作:日月ゆう
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです
「んじゃあ、両者準備はいいっスか? このコインが試合開始の合図ですんで(アァ、ダル……モゥカエリテー)」
決闘の場に相応しくない緩い態度で、試合のレフェリーを務めるのは
魔法使いのプライドと一般人の反抗心……もとい反骨心が、今まさに激突しようとしている……。
指で弾かれたコインが、甲高い音を鳴らし地面に落ちた瞬間――。
オレは足元を蹴り上げ一気に駆け出し、魔法使いへ速攻を仕掛ける。
そして、脳内で展開したスキルリストの中から見つけた、この場に適しているものを発動させた。
加速スキル発動〈カイロォスの決断〉
『はや――――――!』
観衆が上げた驚きの声は、耳に当たる向かい風によってかき消された。
(呪文を唱える暇は与えない!)
この世界において魔法は強力無比な存在らしいが、これがセオリー通りなら詠唱を必要とし、発動するまでにタイムロスが生じるはず。
であるならば、戦士職としてその隙を突くのが定石だ。
(ゲームの話だけどな!)
マティルダが水魔法を披露したあの時、それから魔法使いが内包しているオドを調べた時、実際に詠唱するのを見ていたので、この仮説は確信に近い。
「――ほう、狙いは悪くない。でも、だからこそ対策されるとは考えなかったのかな?」
瞬く間に距離を詰めた走力に、魔法使いは目を剥く。しかし、すぐにその表情が不敵な笑みへと変貌した。
魔法に精通した魔法使いは、その長所や短所も熟知している。
指に嵌めている指輪を、摘まむようにして軽く擦る。すると、前面に謎の衝撃波が発生。
上段右上から下段左脇へと剣筋で弧を描く――剣術で言うところの
「うおおぉぉっ!?」
その衝撃に反して身体的ダメージはないに等しく、ただせっかく詰めた間合いが離されてしまった。
(つまり、これは……!)
「詠唱時間を稼ぐ
(クッソ! ズルだろ、それ! こっちは剣一本で――)
そうして放たれたのは火魔法。
ファイアボールとでもいうのだろうか。
詠唱を終えた魔法使いの杖から火球が
サイズにしておよそ直径30センチメートル。バスケットボールよりも大きく、直撃すれば大火傷を負いそうだ。
「ふおぉ!?」
飛来した火球にビビったオレは、反射的に体が動いたお陰で運よくそれをかわす。
外れた魔法は、後方の地面に着弾し火柱が上がった。
数十メートルは離れているはずなのに、熱波がここまでまで届く。
「チッ、外れたか……運のいい……」
(この野郎! 手加減するって話はどうしたよ!?)
わざわざ決闘の場を設けたことといい、オレが魔法を軽視しているとも取れる失言をしたことについて、魔法使いは内心業腹なのかもしれない。
(……というか、今更だけどあれだな。人に斬り掛かるっていうのは、想像以上に怖いな……)
模擬試合とはいえ、人間を相手に剣を向けることにはやはり抵抗があり、暴力を潜在的に忌避している。
現に初手の一振りは
魔法使いと目が合った瞬間、胸が早鐘を打ち剣を振り下ろせなくなってしまったのだった。
とはいえ、だからといって、オレが本気で攻撃すれば、
(もしも、あんなふうに人間を殺めてしまったらと思うとゾッとする……!)
「ん――おおっ!?」
オレの
強化スキル発動〈ヴァルゥカヌスの鍛造〉
オレは慌てて武器強化のスキルを長剣に使用する。
殺意マシマシで飛んで来た火球〈ファイアボール練度Ⅱ〉を
「せーっの――つぇりゃあッ!」
長剣を正眼に構えると、頭上から縦に真っ直ぐ振り下ろす。ゲーム――いやさ剣術で言うところの
『……き、切った!?』
『おぉ、まさか魔法を……!』
「ゴホッ……!」
迸る火の粉によって前髪の毛先が焦げ、ツンとした嫌な臭いが
どうやら長剣の刃が潰されていても、思いっ切り振り下ろせば一応は切れるようだ。
(……でも、炎が分散して危ないし、あまりやらないほうがよさそうだ)
「ほう……なるほどな、口先だけではないということか…………ならば! もう遠慮はいらないな!」
自慢の魔法が防がれたことで、いよいよ魔法使いの闘争心に火が付いた。
「▽◎□✘ 〇☆ ◇□☆△◎▽〇□! ▽◎□✘ 〇☆ ◇□☆△◎▽〇□!▽◎□✘――」
(なにアレ!? 気持ち悪っ!)
絶え間なく口を動かし、ちょっと何言ってるか分からないほどの早口で魔法を詠唱すると、連続で火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉を放つ。
「くっ! このっ! うぉりゃあッ!」
オレも負けじと長剣を振り回し、これらに対処する。
刃側面の平らな部分で、野球の千本ノックよろしく次々と打ち返した。
これを魔法使いに向かって跳ね返してやれたらよかったのだが、どうやら記憶を失う以前のオレは、野球少年ではなかったらしい。
『おおっ! また打ち返した!』
『今度は大きいぞ!』
『すげぇ! あいつやるじゃないか!』
オレが火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉を打ち返す度、野球場のように歓声が上がる。
(どの道、この
体力も気力も十分。やはり、オレには魔法に対抗し得る身体能力とスキルがあるのだと、この決闘を通じて確信した。
(けど、ああ……まさか嘘だろ……ちくしょう、なんてこった……これは、かつてないほどのピンチだぞ……!)
火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉を1000本どころか10000本だってできそうなくらい好調なのだが、体力以外の面で問題が生じる。
それは、オレの装備の耐久性についてだ。
繰り返し火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉を弾いたことにより、赤熱に染まっている長剣は、スキルにより強化しているのでまだいい。
問題は、両断したときほどではないにしろ、飛び散る火の粉によって焦げてゆく衣服だ。
最悪このまま戦闘が長引けば、オレの衣服は全焼し局部を揺らしながら決闘に
そんなギャグ漫画もかくや、いきなり劇中のジャンルが変わるような珍事は、なんとしてでも避けたい!
(というかコレ借り物の服だし! ネコミミメイドさんに叱られてしまう!)
スキルリストの中から、防具の強化に関するものがあるかざっと探してみる。
(防御力強化――は違うな。火耐性付与――いや、次! 再生能力向上? 他には、他に、クソッ! どれも効果があるのは直接肉体にのみか! ええい! スキルの数が多すぎる!)
タブを高速でスクロールし、数多のスキルの中ら目当てのものを掘り当てようと探し続ける。
すると、焦るオレを急かすように火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉が飛んで来て、検索の邪魔をした。
(この野郎! 馬鹿の一つ覚えみたいに同じ攻撃ばかり繰り返しやがって!)
膨大な量のスキルに埋もれ、窒息しそうになっているオレは、即断即決で魔法を繰り出す敵を恨めしく思う。
通算六つ目の火球〈ファイアボール練度Ⅲ〉を
(……ひょっとして他に魔法が使えないのか? いや、それとも……この魔法こそが最適解だから連発してるのか?)
ファンタジー調の創作物に馴染みのある者ならば、ややもすると火球の魔法は、初歩的で下級であると捉えがちだが、いざそれを目の当たりにすると印象がまるで違う。
リーチの優位性はもちろん、見た目の派手さに加え、着弾時に炸裂する爆音と熱波は対象の恐怖心を嫌でも駆り立てる。
並みの
実際、火を怖れる生物の本能が、じわじわとオレの戦意を削っていった。
属性といった遊び心を無視すれば、氷のつぶてを投げたり、風の刃を振るったりするより、よっぽど強力で対人戦においてかなり有効に思える。
(自分で例を挙げておいてなんだが……氷のつぶてとか、よく考えたらただの物理攻撃だし投石と変わらん。まあ、投石は投石で強力なわけだが……風の刃に至っては意味不明だ)
とにもかくにも、このつるべ打ちから抜け出して、反撃の糸口を掴まなければ。
オド総量云々の件があるくらいだし、魔法の使用も有限だろうが、全裸になるリスクを負ってまで根競べをするつもりはない!
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます