異世界日記 ~魔法適正ゼロの現代人は 脳筋スキルで無双する~ 作:日月ゆう
「さて、晴れて君は冒険者になるわけだが。どうだろう、一度私と
「え……」
こっそり耳をそばだててみると、孤高を気取る魔法使いが誰かを誘うのは、よっぽどのことらしい。
(ただの社交辞令と受け止めず、返事は慎重になるべきか……)
抜きん出た実力者に認められたのなら光栄だけど、協調性のない人間である線も考え得る。
憂慮するのは、魔法使いが誰とも仲間を
冒険者の仲間ともなれば、ときとして命を預けることもあるだろうから、相手は
「おっと! その話は、俺様を通してくれねぇとなあ!」
ふいに群衆の中から声が上がる。
「ちょ、おい、やめ、どけって! ど・き・や・が・れ~~ッ……ぬがっぐぐぐぐ…………うおっ!?」
「……誰だ?」
魔法使いは
人垣を無理に押し分けたことで反感を買い、皆に小突かれ
「君の仲間かい?」
「違う」「そうだ!」
魔法使いの質問に、それぞれ異なる返答が重なる。
「ええと、見解の相違が見られるようだが?」
「オレがいつお前の仲間になったよ……」
「はあ!? なんでだよ! その剣、貸してやったろ!」
「あぁ、これか……」
確かに試合中に軽薄男から模造剣を貸して貰ったが、それで仲間になった覚えも、仲間になるつもりもない。
「おいおい、スカしてんじゃねぇよ。俺様が手助けしてなきりゃ、決闘に負けてただろ? となれば試験も合格できず、冒険者にもなれなかったわけだ。わかるか? すべては俺様の、お・か・げ・よ!」
(あの局面を切り抜ける術なんて、他にもあったけど……なるほど。傍からすれば、そう見えたか)
軽薄男は恩着せがましく手柄を主張してくるが、もちろん同意しない。
そも事前に、そのような取り決めを交わした覚えなどないし、いくら模造剣を貸して貰った恩があるとはいえ、それはそれこれはこれだ。
こんな奴と仲間を組むなど、ごめん被る。
(こいつこそが、誰とも仲間を組めなかった人間だろうからな)
大体、出会いからして軽薄男の心証は最悪で、距離を置きたい手合いナンバーワンの人間だ。
今後、よっぽどのことがない限り交流を持つことはないだろう。
「――というわけだ。じゃあ、返すぜ。ありがとな」
以上のことを話してにべもなく断ると、さすがに軽薄男も消沈した様子で、渋々ながら引き下がる。
(少し、言い過ぎたかな……)
オレの中で罪悪感がもたげる。
軽薄男の腹積もりがどうであれ、力を貸してくれたのは事実だ。
「チッ、なんだよ、なんだよ……つれねぇ野郎だな。後悔しても知らねぇからな……」
軽薄男はブツブツと文句を垂れながら、オレが差し出している模造剣を受け取ろうと手を伸ばし――――そこで剣の刀身がポッキリと折れた。
「あ」「んえ?」「おや」
(そうか。スキルで強化せず、強引に泥人形〈ゴーレム〉をぶった切ったから……)
「ぬわああああ!? 俺のヴァレンティーヌがああああぁぁぁぁ!!」
「ヴァ、ヴァレ……なんだって?」
自前の翻訳障害スキルが発動し、オレは思わず対象の名前を訊き返す。
(……っていうか、こいつ剣に名前なんて付けてるのか)
「どうしてくれんだッ! 弁償しろ、弁償ゥ!」
「あー弁償、ね……したいのは山々だけど、今は手持ちが……」
「おおぉぉん! 愛しのヴァレンティアァ! 伝説の剣となるはずのお前が、こんなとこで終わるなんてええぇぇ……!」
「いや、さっきと名前違ってるし! そもそも模造剣だろ、ソレ!」
「ぉぉおおぉぉ! ぁぁああああぁぁぁぁ!!」
人目を
(仕方ないか……)
「ハァ、わかった……一度だけ。一度だけ冒険に付き合ってやるよ。それで今は勘弁してくれ」
「本当だな!? 約束じだぞ! あど代金はぢゃんど弁償じで貰うがらな!」
瞬間、折れたヴァレナンチャラを前にして、床に
「あーはいはい……うおっ!? それ以上近づくなバッチイ!」
「ぷげらっ!?」
体液を垂れ流しすり寄って来るそいつを、思わず蹴り飛ばしてしまう。
軽薄男は
模擬試合を経て力加減を覚えてきたオレである。
(それでも、やっぱり人間相手は苦手だな……)
魔物を容易く
「ほう。こうなると、やはり私の協力が要るな。近場を冒険するにしても新人二人では心細いだろう?」
魔法使いは、すでに冒険者として活動実績のある自分の有用性を、ここぞとばかりに説いて売り込んでくる……やはり早口で。
「わかった! もう十分わかったから! 最初の冒険はこの三人で行こう!」
「よっしゃ!」
「賢明だな」
こうなってしまうと、オレはもう考えるのも面倒になって諸々の提案を承諾する。
(ヤレヤレ、というやつだ)
人生、先のことは誰にも分からない。
迷い、悩み、慎重を重ね、最善を尽くしたつもりが裏目に出ることもある。
いつだって後悔の奴は、後に立つ卑怯者なのだ。
(それなら、いっそ流れに身を任せるのも、ありのはず…………そうだよな?)
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます