異世界日記 ~魔法適正ゼロの現代人は 脳筋スキルで無双する~ 作:日月ゆう
(……美味かったなぁ、子豚(?)の丸焼き……――じゃなくて!)
「お嬢様……てっきり、旅の同行はもう諦めたんだと思ってましたよ……」
あれだけ老執事から口酸っぱく言われても、めげすに冒険に付いて来ようとは……その行動力には呆れるばかりだ。
「
「いや、だって、やっぱり世間体というものが……」
相手は貴族のご令嬢だ。表だって気安く話してたりして、誰かに
今でこそ屋敷の中ではタメ口を利いているけど、出会った当初はちゃんと様付けで呼んでいた。
しかし、そんなふうに……そう、他人行儀に接するとマティルダが機嫌を損ねてしまうから、男爵から敬語の禁止令が下されたのだった。
(同年代の子だし、タメ口の方が話やすいけど、でもなぁ……実際どうなんだろ)
油断してたら不敬罪。裁判をすっ飛ばして、即刻打首獄門なんて事態にはならないだろうか。
娯楽が少ないあまり、罪人の処刑が見世物になるような時代だ。
庶民の人権などないに等しく吹けば飛ぶ。
「マティルダ? ……ふむ、◇◇男爵のご息女か……」
「(マティルダのフルネーム)様! オレ、ジョニィって言いやす! お見知りおきを!」
予期せぬ大物の登場に戸惑うドロシーと、それを押しのけて前のめりに自己紹介をするジョニィ。
「ええ。よろしくお願いいたしますわ」
二人に敬われて、マティルダは金ぴかの巻き髪を得意げに払う。
「おいおい、あのマティルダ嬢だぜ……どうするよ、俺……!」
どうやらジョニィはマティルダに憧れを抱いているらしく、興奮気味に呟いている。
「(マティルダ)様。意気込んでいるところに水を差すようで恐縮ですが、あなたを連れていくわけには参りません。これから
リーダーが仲間を代表して、正当な理由からマティルダの同行を丁重に断る。
重ねて言及するが、相手は貴族のご令嬢だ。野山を連れ回すなど非常識極まりない。
「あら、遊びのつもりはありませんわ。だって何を隠そう、
するとマティルダは引き下がるどころか、しれっととんでもないことを
「ほう……それでは護衛対象の
「こう見えて私、薬学の知識がございますの」
「なんということだ…………」
まさに非常識極まりない展開に、ドロシーは呆気に取られる。
(そうか。お嬢様趣味と思ったけど、あのガーデニングは実益も兼ねていたのか)
男爵家の広い敷地内には種々様々な植物が植えられており、マティルダは暇さえあればその手入れをしていた。
こちらの世界のことをいろいろと教わる礼に、オレもよく手伝ったものだ。
「さあ、それでは、あらためまして……いざ、出発ですわっ!」
「ま、待ってくれ! やっぱり危険だ。男爵はこのことを了承しているのか? もしマティルダが怪我でもしたら、どう説明したらいいんだ……」
頭を抱えているドロシーに代わって、先走るマティルダを慌てて静止する。
「お父様でしたら、そう反対しないのではないかしら。だって、貴方様が一緒なんですもの。むしろ、心配なのは爺やのほうですわね」
(ホントだよ……あの人に知れたら小言じゃ済まないぞ……)
「安心してください、マティルダ様! 例え
高嶺の花を前にして、ジョニィが新人冒険者らしからぬ大口を叩いた。
「頼りにしてますわよ、貴方様」
息巻くジョニィを尻目に、マティルダはオレの隣に並び腕を絡めてくる。
……その拍子に、オレの肘に少女の柔らかい双峰が触れ、ドギマギとして――南無三ッ!
「ぐぎぎ……! いい気になるなよ! お前なんか、ちっとばかし出会いが早かっただけなんだからな!」
渾身の自己アピールが空振りに終わり、歯噛みするジョニィ。オレのことを恋敵と勝手に認定して対抗心を燃やしている。
(これから共に冒険しいようって仲なのに、勘弁してくれ……)
サークルクラッシャー・マティルダ姫の誕生である。
「やはり男
そんな修羅場を一歩引いたところから眺め、興味深そうに頷いているのはドロシー。
「私は違うぞ。女である前に
オレが言わんとしていることを察して、先回りしてそれに答えた。
「……それで? 結局どうするんだ、リーダー。お嬢様は冒険に乗り気だぞ……って、リーダー?」
「依頼の取り消しと生じる違約金の支払い今月の研究費は食費を切り詰めこの間手に入れた魔道具を売却したとして差し引き残高はやはり欲しかったあの魔導書は諦めねばなるまい男爵の家まで送り届けていやあるいは連れて行く場合報酬とリスクは――――」
ドロシーは顎に手を当てて、お得意の高速詠唱で懐事情の計算を始めている。完全に自分の世界に入り込んでしまっていた。
「おーい、ドロシー、おーい」
目の前で掌を振り、視線を遮っても
仕方ないので、多少雑に肩を揺すった。
「えっ、あぁ、そうだな……………………時間が惜しい、出発しよう」
ドロシーは空に流れる雲を見上げて考えること数十秒。突然、結論を下した。
(あ。さては面倒になったな。うんうん。わかるよ、その気持ち)
「なに、いざとなれば君がいる」
「オ、オレか?」
(結局、丸投げかよ……)
そうこうしていると、町中に市場の営業開始を告げる鐘が響く。
かくして一行は、一抹の不安を抱えながら町を出立するのだった。
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