異世界日記 ~魔法適正ゼロの現代人は 脳筋スキルで無双する~   作:日月ゆう

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拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです


ep.30 理想と現実と迷子の少年ハート

 一行は目的地である△△山脈の(ふもと)に到着した。

 

 

 マティルダは薬師(くすし)として、さっそく薬草採集に着手し、その間オレたち戦闘員は周辺の警戒に当たる。

 

「思ってたんと違う」

 

 早々に見張りを放棄したジョニィが、地面に寝転び天を仰ぎながら呟いた。

 

「急にどうした?」

 

 オレは麓周辺を見渡して安全を確認しつつ、退屈を紛らわせるためにジョニィの愚痴に耳を傾ける。

 

「冒険つったらワクワクするもんだろ? それなのによぉ……これまでに出くわした奴らときたら……掃いて捨てるほどいる小鬼(ゴブリン)だろ。雑魚の代名詞である醜妖精(コボルト)だろ。あとはチンケな追剥ぎが精々だ」

 

 ジョニィは、ここまでの道程で遭遇(エンカウント)した敵を、ため息交じりで指折り数えた。

 

(オレにとっては物珍しいけどなぁ……)

 

 現地人からすれば、村の周辺で見かける野生動物くらいの感覚でも、異世界人のオレからすると、御伽噺(おとぎばなし)に登場する魔物(モンスター)たちだ。それらと遭遇することは、十二分に心躍る冒険(たん)の一幕である。

 

「そいつらだってドロシーの魔法で一捻りだし、さっきの追い剥ぎなんざ、その名を聞いただけで一目散に逃げ出しちまいやがった。俺様が活躍する暇もねぇ」

 

 今のところ、事務仕事のみならず戦闘面においても、活躍しているのはリーダーのドロシーただ一人だ。

 

 オレたちは完全に置いてけぼりの傍観者。頭数だけの案山子(かかし)だった。

 

 例えるなら、オンラインRPGゲームで、若葉マークのプレイヤーが上級者プレイヤーにお手伝い(キャリー)してもらっている感じ。

 

 フィールドで(エネミー)遭遇(エンカウント)して戦闘場面(バトルシーン)に突入。まさしく見慣れない操作画面(UI)操作入力(コマンド)でもたついてる時にはもう、敵は一掃され戦績表示(リザルト)が流れてしまっている。

 

 全国の冒険を夢見る少年代表として、ジョニィの不満は分からなくもない。

 

「だあああ! どこにいるんだ! 英雄に封じられた魔王! 千年生きた(ドラゴン)! 世界を股に掛ける大盗賊!」

 

 緑が茂るのどかな麓に、ジョニィによる魂の叫びがこだまする。

 

「それらが実在するのならば、権謀術数(けんぼうじゅっすう)が渦巻く王都や聖地と崇められる霊峰。古代文明が眠るとされる未開の禁則地などだろうな。間違っても、こんなひなびた土地周辺ではない――と、この地を治める貴族のご令嬢を前にして、非礼をお詫びします」

 

 ドロシーは薬学の知識もあるそうで、護衛も兼ねて薬草採集を手伝っており、隣に居るマティルダに頭を下げた。

 

「別に構いませんのよ。(わたくし)だって退屈しておりますの。盗賊は恐ろしいですけれど、魔王や竜には一度お目に掛かかりたいものですわ」

 

(盗賊はダメなのに魔王や竜は平気なのか。恐怖の基準がわからない……)

 

 お嬢様にしてみれば、暗殺や身代金目当ての誘拐などを企てる悪党は、魔王よりよっぽど身近に潜む脅威だからか。

 

(その辺の捉え方は、三者三様だな)

 

「ちぇ、夢がねぇなぁ、つまんねー……」

 

 不貞腐れているジョニィは、枕元に生えている雑草を引き千切ると空に向かって散らす。

 

「得てして現実なんてそんなものさ。誰しも歴史書に刻まれる傑物(けつぶつ)になれるわけじゃない。亡国の王子然り。大賢者の子孫然り。選ばれし者は、そういう星の下に生まれているんだ」

 

「認めねぇ……農家の三男坊舐めんなよ……」

 

(選ばれし者か……)

 

 魔法使いや貴族のご令嬢といった、物語の登場人物でもあるような彼らが、現実がどうこうと所帯じみた話をしているのが、なんとも奇妙だった。

 

 どんなイベント事も、繰り返せばただの日常になる。

 

 やはり彼らからしたら、剣よ魔法よという世界が生まれながらの日常なのだ。

 

(逆に皆を現代世界に連れて行ったら、そこが煌びやかな舞台に映るのかもしれないな)

 

「さてと、こんなところだろう。そろそろ帰るとしよう」

 

 薬草で籠が一杯になり、女性陣が採集を切り上げると、男性陣の見張りの任も解かれる。

 

 つつがなく目的が達成されて、オレはすっかり気を緩めていた。

 

 

 しかし、"帰るまでが遠足"とは言ったもので、事態が急変したのはそんな時だった。

 




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