異世界日記 ~魔法適正ゼロの現代人は 脳筋スキルで無双する~   作:日月ゆう

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拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです


ep.36 ボロ宿

 どこからか埃臭い隙間風が入り込み、オレは自身のくしゃみで目を覚ます。

 

 

 薄い綿の入った粗末なベッドで休んでいたせいか、体を起こすと背中が痛い。

 

 これなら藁束の寝床のほうが、案外寝心地がよかったのかもしれない。

 

(やっぱり、部屋のランクを上げたのは失敗だったか……?)

 

 先日のクエストによる報酬で懐に余裕があったので、相部屋より個室を選んだことに後悔する。

 

 どうせボロ宿なんだから、部屋が違ったところで大して変わりやしない。それなら割り増し料金を支払うだけ損だ。

 

(寝ている間に、金をスられる心配をしなくて済むのは、助かるけど……)

 

 スリの多いこちらの世界では、金品が盗られたとしても、現行犯で捕まえでもしない限り自己責任だ。 

 

 盗んだ悪人より、盗まれた間抜けが悪いという共通認識らしい。

 

(監視カメラなんて無いし、目撃証言だけでは、どうしてもな……)

 

 だから庶民は、常日頃警戒を怠らず自己防衛を徹底する。

 

 中には、対策として奪われてもいいダミーの財布を用意していたり、現金を衣服に縫い付ける者までいるのだとか。

 

(修羅の国だな)

 

 財布が尻ポケットからはみ出している人がいたり、鞄などを場所取りに使って席を立つ人がいるような国とは、民度が雲泥の差である。

 

 そんなことを考えながら、建付けの悪い窓を強引に開けると、空には太陽がてっぺんまで昇っていた。

 

 目覚ましのアラームは無い。

 

 時間通りに起こしてくれるメイドさんも居ない。

 

 寝付きが悪かったのも影響して、どうやら昼過ぎまで寝過ごしてしまったようだ。

 

 寝坊したことに気落ちしつつ、だるい体を軋む椅子に預ける。

 

 そして、これまた軋む机の上で日記帳を開いた。

 

 ◇◇◇

 

5月 24日 ヘーリイオスの曜日。

 

 

近況。木賃宿の暮らし。

 

この世界で目覚めてから、早くも一ヶ月が過ぎようとしていた。

 

人間は慣れる生き物である。

 

日常を離れたどんな贅沢な体験も、感動するのは最初のうちだけ。繰り返せばそれが当たり前になり、そのうち何の有難味も感じなくなる。

 

また報酬より損失に敏感な生き物である。

 

例えそれが一時的に貸し与えられた特権で、取り上げられたとしてもプラマイゼロのはずなのに、結果的には損した気分になる。

 

一度上昇した生活レベルを落とすのは難しい。

 

一等地にある男爵邸から、場末の木賃宿に生活の拠点を移したオレは、住み心地の落差に苦労している。

 

人間は七日で環境に適応するという説があるらしい。

 

 

この暮らしを始めてまだ三日。慣れるまではあと四日の辛抱だ、頑張ろう。




ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
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