烙印者 Prequel ~空白の1ページ~   作:日月ゆう

4 / 7
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです


ep.4 エンカウントバトル

 それがあまりにファンタジー色の強い光景だから、バーチャルリアリティをプレイする感覚で、オレは蛮勇(ばんゆう)に走る。

 

 

 奇妙な展開に気を取られ、緩めていた脚に力を込め速度を上げた。

 

 

 ――オレは何者だ?

 

 ここはどこで、いつの時代だ?

 

 怪物はどんな目的で人間を襲っている?

 

 食らうため? それとも縄張り意識か?

 

 いや、それよりも、何より……一般人のオレに彼らを救えるのか?

 

 

 頭に浮かぶいくつもの疑問を、今は流れる景色とともに置き去りにする。

 

 命の危機に瀕している少女を前にして、迷っている暇などあるものか。

 

 これがもし、刃物を振り回す人間の凶悪犯相手ならば、こうはいかない。恐怖に(すく)んで動けなくなっていたことだろう。

 

 オレは恐怖心さえも置き去りにし、無謀にも戦場へ突撃する。

 

 負傷した兵士の傍らに落ちている剣を拾い、少女に迫っている大鬼へ振り下ろす。

 

『グギャアアァァァァーッ!』

 

 その会心の一太刀(クリティカルヒット)は、大鬼の丸太のように図太い腕を真っ二つに切断した。

 

 けれど、素人が力任せに振るったせいか、反動に耐え切れず刃が折れてしまう。

 

「すごい……」

 

 恐怖から解放された少女が、感嘆(かんたん)を漏らしこちらを見上げてくる。

 

(たしかに、すごい切れ味だ)

 

 オレは折れた剣を掲げて瞠目(どうもく)する。

 

 一見すると何の変哲もない剣のようだが、名工が手掛けた業物なのだろうか。

 

(……あれ? ってことは、もしかして弁償させられたり……?)

 

 ふと浮かんだいやーな疑問に血の気が引く。

 

 包丁でさえ良い代物は、それなりのお値段がする。

 

 刀剣の相場など皆目見当もつかないが、質量の伴った鉄塊が安いとは考えづらい。

 

 戦場において命を預けるに値いする高額が予想される。

 

 

 それを遭難しており、ほぼ無一文のオレが弁償などできるはずもなく……。

 

『ウググググッ、ゴオォ……!』

 

 片腕を失った大鬼が、赤黒いの血飛沫が吹き出る傷口を抑えながら、まさしく鬼の形相で再びオレたちの前に立ちはだかる。

 

 3メートルは優に超える巨体。それに気圧されて後退りすると、恐怖に(すく)んで動けなくなっている少女が背中に当たった。

 

(オレがビビってどうする! きっとやれるさ! さっきだって――!)

 

 自らを鼓舞し正面から戦う決心をするも、構えた剣はポッキリと折れてしまっており、なんと心もとないことか。

 

 ならば、とあたりを見回すが、先のように都合よく武器になる物は落ちていない。

 

(マ、マジかよ……)

 

 常識的に考えて、あのような怪物に人間が素手で戦うなど無茶だ。

 

 熊に徒手空拳(としゅくうけん)で挑むようなものだ。

 

 そんな悪い意味でバズりそうなネタに興じる承認欲求はない。

 

 そんな自殺願望などオレにはないのだ。

 

『オオォ! オォッ!』

 

 こちらの心情などお構いなしに、殺意マシマシといった大鬼は威嚇(いかく)行動だろうか、激しく地面を踏み鳴らす。

 

「ちょ、ちょっとタイム!」

 

 制止の言葉がオレの口を衝く。

 

 無論、大鬼の勢いは収まらない。

 

 そもそも破壊衝動に突き動かされている野獣が、人語を解するかどうか(はなは)だ疑問である。

 

 少なくとも、唾液をまき散らし激昂(げきこう)に染まる双眸(そうぼう)からは、知性をまるで感じられない。

 

『ヴオオォォッ!』

 

 怪物の迫力にたじろんでいる人間二人に、横薙ぎに振るわれた拳が迫る。

 

「クソッ!」

 

 

 オレは咄嗟(とっさ)に少女を抱き寄せると、力一杯地面を蹴り飛び退いた。




少年少女の 運命やいかに

ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。