キィィィィィン――!!
白玉楼の庭園に、金属同士が激突する甲高い電子音が響き渡る。
「くっ……みょ、みょんっ! なんという重さ、そして速さですか……!?」
魂魄妖夢は白楼剣で辛うじてナイフを受け止めながら、驚愕に目を見開いていた。
眼前に立つ、頭に三角コーンとナイフが刺さった少年――れもんの身体を借りて覚醒した兄『しもん』のステータスは、文字通り桁外れだった。幼い少年の身体からは想像もつかない剛腕と、目にも留まらぬ踏み込み。創造主・甘露に匹敵するほどの圧倒的なプレッシャーが、庭師である妖夢の自由を奪いにかかる。
「弟に……触るなっ!」
しもんがナイフを翻し、容赦のない神速の連撃を繰り出す。
妖夢は楼観剣と白楼剣の二振りを交差させ、火花を散らしながら必死に防戦へと回った。一撃受けるたびに、妖夢の足元の芝生が衝撃波で丸ごと消し飛び、白桜の花びらが激しく乱舞する。
(このままでは、白玉楼の庭がメチャクチャになってしまいます……! それに、この子は何かを誤解している……!)
妖夢は一瞬の隙を突き、二振りの刀を大きく振るってしもんを弾き飛ばした。
距離を離されたしもんだったが、その感情の消えた瞳には一切の不敵さも、怯えもない。ただひたすらに「弟を害する敵を排除する」という確固たる執念だけが滾っていた。
「まだだ……これならどうだ……!」
しもん(れもん)の小さな手が、懐からひとつの輝く『レモン』を取り出し、迷わず口へと放り込む。
それは彼があらかじめストックしていた、強力な能力のデータコード。噛み砕いた瞬間、レモンの身体から眩いばかりの緑と桃色の光が爆発的に吹き荒れた。ポップスターの優しくも力強い風が、死の世界である冥界の空気を一変させる。
「コピー能力! 春風吹く大剣!」
しもんが叫ぶと同時に、その小さな手に、赤枠で縁取られた少し小さめのウルトラソード――『春風吹く大剣』が実体化した。
小さめとはいえ、れもんの身体よりも遥かに巨大な大剣だ。そこから放たれるエネルギーの奔流は、白玉楼の広大な敷地を丸ごと飲み込まんばかりの輝きを放っている。
「はああああああっ!!」
しもんが大剣を大きく振りかぶり、妖夢めがけて一刀両断の構えで突撃する。空間そのものが悲鳴を上げるほどの絶対的な一撃。
だが、対する魂魄妖夢もまた、白玉楼を護る一介の剣士だった。
「――お兄ちゃんとしての覚悟、見事です。ですが、私も白玉楼の庭師。主の眠るこの場所を、荒らさせるわけにはいきませんみょん!」
妖夢の身体から、迷いのない澄み切った剣気が立ち上る。
大剣が振り下ろされる刹那、妖夢の姿がブレた。
「人界剣――『悟入幻想』!!」
目にも留まらぬ超高速の踏み込み。妖夢の放った一閃は、しもんが放つ『春風吹く大剣』の凶悪な一撃を真っ向から受け流し、その隙間を縫うようにして、刀の峰でしもんの身体を正確に捉えた。
パンッ! と乾いた衝撃音が響き、大剣が光の粒子となって霧散する。
凄まじいステータスの強化をもってしても、経験に裏打ちされた妖夢の神速の剣技には一歩及ばず――しもんの身体はゆっくりとバランスを崩し、芝生へと倒れ込んでいく。
意識が途切れ、頭の三角コーンとナイフの幻影が消えかけるその直前。
しもん(れもん)は消え入りそうな声で、最期まで弟のことだけを想いながら、絞り出すように呟いた。
「れもんを……いじ……め……る……な……」
バタリ、と小さな身体が完全に横たわる。
同時に、周囲を包んでいた禍々しいオーラは嘘のように消え去り、そこにはただの、気絶した10歳の愛らしい男の子の姿だけが残された。
「ふぅ……。手応えからして、大きな怪我はさせていないはずですみょん。……それにしても、すごい気迫でした」
妖夢は刀を鞘に納め、額の汗を拭いながら、横たわるれもんの元へ歩み寄る。
すると、建物の縁側から、ずっと戦いを見守っていた西行寺幽々子が、ふわりと宙を舞いながら二人のそばへと着地した。その手には、いつの間にか三色の美味しそうな『お団子』が載ったお皿が握られている。
「よく頑張ったわね、妖夢。あの子のお兄ちゃん、本当に強くて……そして、とっても優しいお化けさんだったわ」
「幽々子様……。やっぱり、あの子に取り憑いていたのは……」
「ええ。死んだ後もずっと、弟のことが心配でたまらなかったのね。私と同じ亡霊なのに、あんなに一生懸命になっちゃって。ふふ、なんだか放っておけないわ」
幽々子はのんびりとした笑みを浮かべながら、気絶しているれもんの頭を、優しく撫でた。
死を操る能力のプレッシャーは完全に消し去られ、今の幽々子からは、ただただ温かい慈愛の気配だけが満ちている。
「う、うう……」
やがて、小さな身体がピクリと動き、れもんがゆっくりと目を覚ました。
目の前にいるのは、さっき恐怖したはずの、桃色の髪の美しい女性。しかし、今度は恐ろしい殺気など微塵も感じられない。
「あ……あれ? ぼく、生きて……お兄ちゃんは……?」
「おはよう、可愛いレモンちゃん。お兄ちゃんなら、あなたの中でちゃんとお休みしているわよ。とっても格好よく、あなたを護ってくれたわ」
幽々子はそう言って、れもんの目の前にお団子を差し出した。
「お腹が空くと、心も弱くなっちゃうでしょう? 白玉楼特製のお団子よ。これを食べて、私と和解(お友達)になってくれないかしら?」
「お、おだんご……」
れもんは人見知りで少し身体を縮こまらせたが、幽々子の優しい笑顔と、お団子の甘い匂いに誘われ、おずおずと手を伸ばした。一口齧ると、口いっぱいに優しい甘さが広がり、自然と涙がボロボロと溢れてくる。
「おいひい……おいしいですぅ……」
「ふふ、よかった。妖夢、お茶のおかわりを持ってきて頂戴。この子のお話を、ゆっくり聞いてあげましょう」
こうして、白玉楼に落ちた最年少のれもんは、冥界の主たちに温かく迎え入れられたのだった。
遠く離れた博麗神社で、自分の不調を隠しながら仲間を心配し続けている、あの優しい創造主――甘露の元へ帰るための最初の一歩が、ここから始まる。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!ゆうれんです。
創造主の幻想入り 第5話、どうでしたか?
紅魔館、迷いの竹林、白玉楼三つの箇所の話が終わり、次回の視点は博麗神社に戻ります!
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次回、第6話の更新でお会いしましょう!
次回タイトル予告 すれ違う想いと、境界からの来訪者
次回更新予定 9/25 17:50