原作を壊さず隅っこで無双したいオリ主と、超重力型を放つ原作キャラ 作:おりおりーしゅっしゅ
二次創作で、時折「原作の流れを大きく逸脱すると原作知識のアドバンテージが失われる」みたいな論理が時折発生する。
だから原作への介入を積極的に行わず、ストーリーの流れを原作沿いのまま進めていくという代物だ。
こういうオリ主を、好ましく思わない読者もいるだろう。
しかし考えてみてほしい、実際に自分がその立場にたったとしたら?
転生した原作が、綱渡りすぎる状況を数多の奇跡と根性でなんとかしていくタイプの話だったら?
――俺だったら、絶対に原作を弄くりたくない。
一歩間違えば世界が滅んでしまうかもしれない状況で、本来の流れを崩してまで上振れを狙いに行く胆力なんて俺にはないのだ。
原作がハッピーエンドで終わるなら、そのままの流れに任せるのが一番である。
ああでもしかし、だからといって何もしないってのは流石に罪悪感が耐えられない。
もし仮に過去へ戻ることができたとして、起きると解っている悲劇に何も手を打たずにいられるほど、俺は精神的に強くないのだ。
――そんな俺が、大好きなゲームの世界に転生してから、既に結構な時間が経過した。
俺は今、できるだけ原作を壊さず、隅っこで無双することを心がけている。
原作主人公が戦うようなネームドの敵は狙わず、雑魚ばかりを掃除するのだ。
はっきり言って、せこい。
でもしょうがないじゃないか。
原作を壊さず、かといって自分の罪悪感を刺激するには、これが一番簡単なのだから。
実際、これは一見上手く言っているように思えた。
しかし、なんというか……ここ最近。
俺の周囲にいる人物――すなわち、原作キャラがこちらに向ける視線がおかしい。
いや、俺は隅っこで適当にやってるだけなんだけど。
もっとその視線を向けるべき相手が、他にいると思うんだけど!
一体全体、どういうことなんだってばよ!
■
レンガ造りの町並みは、異世界情緒をかきたてる非常に雰囲気のある作りをしている。
かつてこの街に初めて訪れた時は、その景観に大変感動したものだが、今はそれに思いを馳せている時間はない。
街が破壊されているのだ。
「――”魔獣”だあああ! 魔獣の襲撃だあああ!」
逃げ惑う市民の誰かが叫ぶ。
火の手があちこちからあがり、悲鳴が轟く。
そんな中、異形の怪物が人々を蹂躙していた。
いわゆるゴブリンやスライムといった、世界観が違えば魔物と呼ばれていそうな連中。
ゴブリンは手にする棍棒で人を殴打し、スライムは自身の中に取り込んで溺死させる。
そんな地獄絵図が、眼の前で繰り広げられていた。
「それ以上、させるかっての!」
俺は叫び、自身の”杖”を振りかざす。
それは杖と呼称するにはあまりにも槍だった。
穂先と柄の境に総称の紐が取り付けられた、無骨な槍。
だが、確かにそれは杖でもあり、槍の穂先に小さな魔法陣が展開されると――
「”流星の掃射”!」
光が機関銃のように地面へ放たれ、人々を襲う魔獣に降り注ぐ。
そして的確に核となる場所――ゴブリンなら心臓――を穿ち、魔物を消し飛ばしていった。
「――”ウィザード”だ!」
助けられた人の誰かが俺を見て叫ぶ。
空を見上げて、宙に浮かぶ俺に手を降るものがいる。
しかし、幼い子がそうして手を振っているのをみて、それをやめさせる親もいた。
畏怖と尊敬。
二つの感情が綯い交ぜになった視線が、無数に俺へと向けられている。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「ここはまだ安全じゃない! 学園の結界内に早く避難するんだ!」
俺の言葉に、はっとなって市民はすぐさま避難を再開する。
手を降るものも、そうでないものも一様に。
彼らが魔獣の襲撃に慣れてしまっていることの証左だ。
俺は彼らを気にしつつも、他で襲われている人々がいないか気を配ることに意識を傾ける。
――直後、遠くから爆発が音と衝撃をこちらまで轟かせてきた。
「っと! 派手にやってるなぁ」
おそらく戦っているのは、”エース”様だろう。
マギステル学園に所属する俺と同学年のウィザードで、現役のウィザードとしては最強格の一人と目される人物。
そして何より――原作キャラ。
俺とは、住む世界の違う人間だ。
いや、そんなことを気にしてる場合じゃない。
エースが負けることは早々ない――というか、今が”彼女”の死に場所でないことは確か。
俺は自分が生き残りつつ、市民を守ることに集中するとしよう。
「さて、次は……あっちか」
俺は他にも魔物がいる場所を発見すると、そちらの救援に急ぐべく脚と魔力に力を込めた。
■
「――いやあ、お疲れ様リヒトくん。今回も大活躍だったねぇ」
「お疲れ様です、ミルカ先生。でも俺はいつも通りのことをしただけですよ」
「あはは、相変わらず謙遜してるなぁ」
戦闘終了後。
俺は学園の先生である”ミルカ先生”に労われていた。
俺が所属するクラスの担任だ。
背丈がやたら小さく、どこかのんびりした雰囲気の女性である。
よくアルコールの匂いがするところと、何もないのに自習を申し付けてどこかへ行くことが難点。
しかし、生徒一人ひとりのことをよく見ている先生で、まさしく昼行灯という言葉がよく似合うタイプだ。
「でも、もう少し自信を持っていいと思うよ? このクラスで学生でありながら出撃許可証を持っているのは君と”彼女”だけなんだから」
「その”彼女”と差がありすぎますからね、どうしても比較してしまうんですよ」
「それはそうかもしれないけどさぁ」
なんてやり取りをしながら、俺達は学校の廊下を歩いている。
数時間前に発生した、魔獣の襲撃案件は今回も無事に終了した。
被害にあってしまった人もいるが、少なくとも俺は自分にできることをしたのではないかと思う。
その後、メディカルチェックを受けて問題ないと判断された結果、こうして迎えに来てくれたミルカ先生と話をしながら教室に戻っているところだ。
「それにしても、やっぱり授業に出るつもりなの? 出撃した生徒は授業への参加が免除されるんだよ? このまま家に帰ってねてよーよ。アタシの学生時代はずっとそうだったよ?」
「それこそ、彼女が授業に戻ってますから。俺だけ帰ると居心地が悪いんですよね」
「真面目だなぁ」
――と、話をしている時、一人の少女が壁に背を預けているのを見つける。
美しい銀の髪、背丈は十代半ばの少女の平均程度。
スラッとしたスレンダーなスタイルの少女は――
「リリシェラ、お疲れ」
「……ん、リヒトもお疲れ」
リリシェラ。
先ほどから何度も話題にしている、我が学年のエース様だ。
「あれ、もしかしてわざわざリヒトくんのこと待っててくれたの?」
「別に……」
「あはは、青春だねぇ」
何やらからかう様子のミルカ先生に、ぷいっと視線をそらすリリシェラ。
なんだか、少し居心地が悪い。
「――でも、リヒトが頑張ってたのは事実」
「お、おう」
「えらいね、リヒトは」
そう言ってから、リリシェラは俺に背を向けて歩き出す。
おお、あのリリシェラが褒めてくれたぞ。
他人にあまり心を開かず、原作では主人公以外にはまともに話をしようとしなかったあのリリシェラが。
……なんだか、少しだけ嬉しいな。
俺は隅っこで無双しながら、原作を守りたいオリ主系転生者だ。
あまり、原作に関わって原作を壊してしまうことを恐れている。
それはそれとして、原作には大いに愛着があり、そんな原作の登場人物にこうして褒めてもらえるというのは……なんというか、普通に嬉しい。
これくらいが、俺にとってはちょうどいいんだと、そう思えるくらいには。
しかし――
「だから……絶対に死なないで」
続く言葉は、明らかに何かしらの重力を放っていた。
少し前までは、本当にちょうどいいくらいの感じだったのだ。
お互いにほどほど距離があり、俺は俺の本懐を遂げられていたはず。
なのに、なんだろう。
リリシェラはどこか俺に強い意志を向けているし、それを隣で眺めるミルカ先生もどこか感慨深そうな視線を向けている。
俺は別に、この二人の人生に大きな影響を与えたわけではない。
大きな事件を解決したわけでもないのだ。
なのにどうして、こんな感情を向けられないと行けないんだろうな――――?
■
――リヒトは解っていない。
この世界は、常に魔獣との戦いで命がけだ。
普通に生きている人々も、魔獣と戦うウィザードも。
リヒトにとって、この世界は原作通りに進めば救われる世界だ。
しかし、人々にとっては未来の見えない戦いばかりの世界。
そんな世界で、希望を失うことなく人々を助けるために奔走する。
その姿に――果たして影響されないものがどれだけいるだろう。
何より、リヒトがやってきたことはそれだけではない。
これは様々な理由で原作キャラに重力を発生させる、自称原作を壊したくない系オリ主の転生者が、原作を捻じ曲げていく物語――