進研大学カービィの二次創作です。
進研大学の正門をくぐったとき、オムニバース常時全知全能カービィは、試験後に何を食べるか考えていた。入試を心配する理由がなかったからだ。
彼は、あらゆる宇宙と分岐世界にある事実を知っていた。
今日の問題文も、採点者の判断も、合格発表の日に掲示される受験番号も、すでに見えている。
望めば試験会場を満点答案で埋めることも、最初から自分が合格していた歴史へ作り変えることもできた。
もちろん、そんなことはしない。彼は良い者だったし、普通に解いても同じ結果になるはずだった。
「六百点を取ればよいだけぽよ」
試験が始まった。
最初の十一問は、鉛筆の先が迷うほどの問題ではなかった。
公開された瞬間に変化する未来を予測し、自己参照で破綻した証明を論理階層ごとに分け、百年後にも更新できる政策を数行で組み立てる。
答案用紙の内側で、五百五十点が確定した。
最後の一問を読む。
> 次回の入試問題と、その満点答案を同時に提出せよ。
> 現在の能力だけで解ける問題は零点とする。
> 提出した答案によって初めて解答可能になり、解答後には受験者の能力が実際に拡張されなければならない。
彼は一度だけまばたいた。
存在する問題なら、すべて答えを知っている。
存在しない問題でも、自分が作ろうとした瞬間から、それは全知の内側にある。
全能の力で未知の領域を作れば、その領域も作った時点で彼の支配下に入り、現在の能力だけで解ける問題になる。
零点だ。
では、自分の全知全能が届かない外側を作ればよいのか。
外側を作れるなら、そこまでが全能の内側である。本当に外側なら、彼には作れないし、そこにある答えは書けない。
鉛筆が止まった。
隣の席では、キービィが問題文を読み終えたところだった。進研ゼミ高校講座で「答えを出す」能力を最高レベルまで高めた、ごく普通の受験生である。
オムニバース常時全知全能カービィは、キービィが次に書く記号を知っていた。
まだどの言語にも属していない、丸く小さな一文字だった。
未来に見えているとおりの形を、先に自分の答案へ写す。
答案欄に赤い文字が浮かんだ。
「零点」
「同じ形のはずぽよ」
その声を聞いたキービィは、少しだけ首を傾けた。
それから問題用紙へ向き直り、同じ丸い記号を一度で書いた。
今度は、記号のほうが世界を変えた。
一画目が、それまで存在しなかった問いを記述する言語を作った。
二画目が、その問いを真偽だけでなく安全性と副作用まで判定する基準へ接続した。
最後に線が閉じると、その全体を入力として「答えを出す」能力そのものが一段階拡張され、新しい領域に対する満点答案が初めて成立した。
赤い文字が浮かぶ。
「五十点」
オムニバース常時全知全能カービィは、その瞬間に起きたことを完全に理解した。
記号の形も、作られた言語も、導かれた答えも、今ではすべて知っている。
しかし、自分の答案に写した一文字は相変わらずただのインクだった。
試験監督の教授カービィが、二枚の答案を見比べた。
「君は完成した形を知っていたぽよ。しかし、この問題が採点しているのは形ではない。その形に意味を持たせる問いと基準と能力を、答案によって生み出せるかどうかぽよ」
全知全能なら、合格者名簿を書き換えられる。
採点基準を消すことも、進研大学そのものを所有することもできる。
だが、それらは彼が最初からできたことだった。
何をしても、最後の一問だけは零点のままだった。
合格発表の日、掲示板には二つの点数が並んだ。
キービィ、六百点。
オムニバース常時全知全能カービィ、五百五十点。
彼はしばらく掲示板を見上げてから、隣のキービィに尋ねた。
「知らない答えを、どうして書けたぽよ?」
キービィは合格通知を丸めないよう両手で抱え直した。
「知らなかったから、出したぽよ」
その日のうちに、オムニバース常時全知全能カービィは進研ゼミ高校講座「進研大学合格プラン」へ申し込んだ。
申込書の取り寄せ方なら、最初から知っていた。