「キミは…悪魔、なのかい?」
「そうだよー。あたしは悪魔のリズリリス。
人間さんは杖を掴んで立ち上がった。よく見るとこの人間さん、片足が無いみたい。
「ご主人ちゃんは悪魔学園の首席卒業生なのでございますよ。変わりものだけど、優秀な悪魔なのです」
シリシーがあたしの胸の前で胸を張ってる。
んー?周りの人間さんたちが、こっちを見てる。
「…悪魔。――っといけない。注目を集めてしまったね。すまないが、こっちへ来てくれないか」
「いいよー」
片足のお兄さんに手を引かれたので、そのままついていく。
少し歩いて、木造のお店に来た。カフェって言うんだっけ。初めて入る!
お店に入ると、お兄さんが何か注文していた。あたしたちの分も頼んでくれたみたい。
「往来の真ん中で呼び止めて、すまなかった。あの場で悪魔と知られると、キミたちが危ないと思ってね」
「ふーん。…あたし、このヒナゴのタルトってのも食べたいな?」
「ヒナゴ、美味しかったんでございますね」
うんうん。楽しみだなあ。
「キミの名前は、リズリリスと言ったね。ボクはヘイロス。過去には軍隊長も務めていたよ」
「そうなんだ」
足をぶらぶらして待っていると、お店の人間さんが紅茶とタルトを持ってきてくれた。
「美味しいね」
「…その、キミは本当に悪魔なのかい?……そうやってボクたち人間と同じものを食べているじゃないか」
まだ信じてもらえないみたい。鎌を出したら分かってくれるのかな?
「…ご主人ちゃん、ニンゲンの目が多いところでは、あまり目立つことは良くないと習ったでございますよ」
「そっかあ。ありがとう、シリシー!」
シリシーは本当に良い使い魔だね。お兄さんの方に向き直る。
「んー。お兄さん、悪魔も人間さんのご飯の味は感じるよ。でも、人間さんも牛さんと同じ葉っぱじゃご飯にならないでしょー? それと一緒だよー」
「そうなのかい?……いや、惚れた人のことを疑って、申し訳なかった。悪魔だって構わない。ボクと、結婚を前提にお付き合いしてくれないだろうか」
そう言ってから、お兄さんはがばっと頭を下げて、ゴチンとテーブルに頭をぶつけた。
うわあ。痛そう。頭を撫でてあげた。
今度は、がばっと頭を上げるお兄さん。なんだか面白い。
「突然のことで驚かせてしまっている…こともないようだね。でも、本気なんだ。契約だって構わない。お願いしたいんだ」
「ご主人ちゃん、こう言ってるのなら、契約して魂をもらっちゃえばいいんでございます?」
うーん。でも、幸せな魂にはならないんじゃないかなあ。
「――人の性根は案外何気ない所作に現れるんだよ。キミの歩く姿に立ち姿、目線。ここにいるのにここにいない、何物にも興味がないようで、あるような…。それでいて何者にも染まらない無垢な表情。ボクは、この先きっとキミ以上の存在に遭うことはないだろう」
「そうなのー? でも悪魔に結婚って契約はないし、契約で回収する魂が幸せじゃないと、あたしは嫌だなー」
んー。よく分かんない。人間さんって難しい。
「…幸せじゃないと、ダメなのかい?」
「うん、美味しくないもん」
「ご主人ちゃんは偏食なのです」
むー。味の好みがみんなと違うだけだよー。甘いほうが美味しいのに。
「キミは、契約後に回収した魂を食べるんだね」
「そうだよー。悪魔にとっては大事なご飯で、存在意義なんだ。だから、悪魔は契約で嘘を吐けないし、契約した後に変更も取消も出来ないんだよ」
「そうか」
分かってくれたみたいで、お兄さんは何度も頷いてる。
鎌を出さなくても分かってくれるなんて、良い人間さんだね。
「それならなおさらだ。契約しよう。愛してる、リズリリス!」
「うーん?」