「ご主人ちゃん、良かったでございますね。この男、タダで魂をくれるようです」
「うーん。契約の願いは、魂を食べることってこと?…それって、矛盾しちゃわないかなあ」
矛盾する契約って規則があったんだよね。どうしようかなあ。
「えっと。悪魔はね、人間さんの願いを叶えて魂をもらうんだよ…?」
「契約内容なんて、どうでもいい。…それこそ、キミと出会う前。ボクはついさっきまでは、この足が戻れば良いと思ってた。――それで、どうだい?」
いいのかな?…うん、良いって言ってるし、契約しようかな。
「うん。いいよー」
「そうかい。良かった。ありがとう」
お兄さんは、ほっと息を吐いた。魂もみょんみょんしてて、嬉しそう。良いことしたのかも。
タルトを食べ終わってから、お店を出るとき、タルトと紅茶のオカネをお兄さんが払ってくれた。
ボクが出すべきだって言ってたけど、あたしが食べたのに変なの。
「さあ、リズリリス。ボクの足を治して、契約してくれ」
お兄さんのお家に案内されて、お家に入ってすぐに契約を願われた。
契約が待ちきれないみたい。なんだか拍子抜けって感じだなあ。
「汝の願い、聞き届けるよ。――ほいっ」
「おおっ。…おおぉ!?――ボクの足が、治っている」
片足のお兄さんは、ちょっぴり変なお兄さんになった。
治った足で、お部屋の中を歩き回ってる。魂もぴょんこぴょんこしてて、嬉しそう。
拳を前に突き出して、せい!ってやってる。良い音がしてて、きっと強かったんだろうなあ。
うん、一旦お暇しよう。
「…リズリリス、そろそろ食べてくれるかい? もう、待ちきれないよ」
「んー? まだ、もう少し幸せを感じてからでいいよー」
変なお兄さん、あたしに食べてほしくて待ちきれなかったみたい。変なの。
「ボクはリズリリスに、心底惚れているんだ。キミの様子からして、悪魔に恋愛感情は無い。そうだろう?…いや、結婚が無いのなら、生殖活動すら人間と異なるのか」
「…驚いたでございます。ご主人ちゃん。この男、案外頭も回るようなのです」
「どちらも合ってるよー。あたしたちは闇から生まれて、勝手に育つんだ。恋愛感情ってのも、よく分かんないかも」
お兄さん、悪魔の理解が早いみたい。なんで分かるんだろ。
「やはり、そうだろうね。……それなら、ボクがキミに残せる至高は、キミに食べられることだよね。違うかい?」
「うーん…。うんー? そうかも?」
人間さんって難しい。でも、合ってる気がする。
「分かってくれたなら…リズリリス。ボクを食べてくれ」
「いいよー」
お兄さんの魂、なんだかほんわかしてるし、美味しそう。幸せなんだね。
あたしはお兄さんの胸に手を入れる。
「キミに出会えて、幸せだ。キミはボクを食べる。ボクはキミの一部になる。悪魔に捧げられる、人間の最高の愛だよ」
「そうかも?」
あたしは契約者さんの魂を抜き取った。
ほんわかしてるのに、熱い。それに、手に引っ付いてきそうな感じ。
「いただきまーす。…あーむ」
熱くてピリリとしてるのに、でも甘くて美味しい!
今回の契約も、成功みたい。
「ご主人ちゃん、五つ目の契約でございますよ。すごいのです」
「んへへー」
いっぱい契約したから、そろそろ一度魔界に帰らないとかなー。
うん、次の契約の後にしよう!
空間のポケットから取り出したお花の冠を、お兄さんの抜け殻に載せてあげた。
よーし。次も成功するぞ!
「おーっ!」
「おー、でございます」
【悪魔契約規則】
・矛盾した願いについて
①願いの矛盾がある場合、双方の合意の上で内容を取り決める。
②他の願いと競合する矛盾の場合、願いに掛ける魂の総量によって決定される。