メイドさんが出て行ったお部屋の中で、木箱に座ってる。
うーん。しばらくは待った方が良さそうだったし、お暇しようかな。
足をぶらぶらさせていると、さっきメイドさんが出ていったドアが勢いよく開いた。
メイドさんの後から、お腹のおじさんもお部屋に入ってくる。
「リズリリス! あなたも一緒に食べて行きなさいよ!」
「んー。いいのー?」
悪魔をご飯に招待する人間さんは、珍しいかも。
「もちろんよ。だよね、パパ?」
「うむ。ラトリアのお客様なら、セライゼン家は大歓迎だよ」
「ふーん。それならご一緒するよー。シリシーもいいかな?」
シリシーはいつの間にか妖精さんに化けている。さすがあたしの使い魔だね!
「勿論だとも。妖精もラトリアのお客様なんだろう? 食事は人と同じもので良いかな?」
「はいでございます。オカネモチのご飯、期待するです」
みんな楽しげで、にこにこしてる。幸せそうだなあ。
今回も良い契約、出来たかも!
「ご馳走様。シェフに今日も上出来だと伝えておいてくれ」
「美味しかった。……ここのお食事って、こんなに美味しかったんだ」
メイドさんが泣いてる。でも魂は、ふんわかぽかぽかだ。
ご飯も美味しかったし、良い感じ。
「そうですわ、ラトリアちゃん。使用人の服なんて着てないで、あなたもセライゼン家の者なのですから、おめかししてきてはどうかしら?」
「う、うん!…ありがとう、ママ!…っあ」
メイドさんが嬉しそうに立ち上がったら、弾みで椅子が倒れちゃった。
燕尾服の人間さんが、慌てて椅子を起こした。
「こらこらラトリア、はしたないぞ」
「うふふ。ラトリアちゃんはおてんばね。気にしないで、レイラちゃんと一緒におめかししてきなさいな」
「うん!…ふふふ。行こうよ。レイラ! リズリリスとシリシーも!」
「はい、お姉さま」
メイドさんに腕を引っ張られる。待ってよー。
「…シュイゼン。ラトリアの部屋は、何故物置なんだ?」
「申し訳ございません。分かりません」
「これはいかんな。客人に誤解させてしまう。直ぐにでも部屋を移してくれ」
「承知致しました、旦那様」
△▼△▼△▼△▼△
メイドさんと契約してから三ヶ月が経った。そろそろ回収の告知に行こうかな。
ふよふよと空を飛んで、メイドさんのいるお屋敷に向かう。
あれ?なんだかお屋敷が燃えてる。
「ご主人ちゃん。あのお屋敷、火事でございます」
「うーん。メイドさん、燃えちゃってないよね?」
火の上がるお屋敷の中に入って、メイドさんを探す。
良かった。入ってすぐの大広間にいるね!…でも。
「リズリリス、やっと来たんだ」
「うん? うん。回収の告知に来たよー。でも火事だから、避難しなきゃだね。燃えちゃうよ?」
メイドさんは、手に燭台を持ってる。先にはロウソクが刺さって燃えてる。危ないなあ。
「ふふふ。リズリリス?……この火事は、私が火をつけたんだよ。なんでだと思う?」
「そうなの?…うーん。分かんないかも。火を見たくなったから?」
クイズかな?でもゆっくりしてると、本当に燃えちゃうかも。
それに、魂がなんだかドロドロしてて濁ってる。それに、冷たい感じ。
「悪魔だと、分からないよね。――私ね、契約をして最初は幸せだったんだよ?」
「うん、幸せそうだったよー」
「ふふ。そういうのは分かるんだ。…うん、幸せだった。温かくて美味しい食事、清潔なお風呂に、綺麗なお洋服。広くて快適な部屋。それに、無条件に私を認めて優しくしてくれる家族とお屋敷。みんなみんな、私がずっと欲しかったもの」
メイドさんは言葉にしながら指折り数えていく。
幸せそうだったのに、なんで今はあんなにドロドロしてるんだろ。
「――でもね、私気づいたの。…気づいちゃったんだ」
あれ?メイドさん、泣いてる。でも笑ってる。
「私が欲しかったのは、契約なんて無くても、私を愛してくれる家族だったんだ。……私、どこで間違えちゃったんだろう。どうすれば良かった、んだろう」
「何を言ってるのでございます。契約しなければいじめられてたのだから、契約の間だけでも楽しめばいいです」
メイドさんが泣き始めちゃった。この契約って、失敗しちゃったかも。
あたしもどうすれば良かったかなんて、分からないよ。
「何もなくなっちゃった。…何もなくなっちゃうのは、これからか。この家の者はみんな、私が仕込んだ睡眠薬で寝ちゃってるの。……リズリリス、欲しいなら全部の魂を取っちゃっていいよ?」
「うーん。残念だけれど、無関係な契約してない魂は、悪魔の規則で回収できないんだよー」
奮発してくれたのは嬉しいんだけど、仕方ないよね。
「そっか。それじゃ、私の魂、取る?」
「んー。今日は告知に来たんだけど、こうなっちゃったら仕方ないよね」
炎ももうここまで来てるし、このままじゃメイドさんの魂も回収出来なくなっちゃう。
メイドさんの胸に手を当てる。
「じゃあ、取るよー」
「どうぞ。…こんな屋敷、みんな燃えちゃえ」
あたしはメイドさんから、魂を抜き取った。
うええ。やっぱりぐにゃぐにゃドロドロしてる。あちこち溶けてて、それに冷たいよお。
でも、無駄にしちゃダメだよね。
「いただきます…。あむ。にがいぃ」
「だ、大丈夫なのです!? ご主人ちゃん!」
メイドさんの魂はとっても苦くて、じゃりじゃりしてる。
最初は幸せそうだったのに…人間さん、なんでえ…。
今回は、失敗しちゃったなあ。人間さんって難しい。