「…パパ、どうしたの?……その人は、だれ?」
お部屋の中に入ってきた女の子の人間さんは、床に倒れているおじさんと、あたしを交互に見てる。
見られながら、まだ少し残ってたおじさんの魂を、食べる。
うん、やっぱり美味しい!
でも、人間さんだと、あたしが悪魔だって分からないかな?
おじさんはもう食べちゃったし、あたしが説明しなきゃだよね。
「あたしはリズリリス! 悪魔だよ!」
「は、え、あくま…?」
しどろもどろな様子の女の子。目が泳いでる。混乱しているみたい。
「うん、悪魔。あなたのパパは、あなたの命を助けるために契約したんだよ!」
「…悪魔、…契約?」
契約したと言うと、女の子の目が落ち着いてきた。
おぉ、少し理解が追いついてきたかな。
「契約だよ。良かったね! あなたも病気が治って」
「…………さっき、食べてたのは?」
悪魔の食糧と言えば魂しかないけど、人間さんの社会は悪魔事情にあまり詳しくないんだっけ。
「あれは、あなたのパパの魂だよ。美味しかったぁ」
指で唇を拭うと、残り
これはお恥ずかしい。指に付いた魂を舐めとる。
うん、美味しいな。
「魂って…パパ! パパ!? 起きて!」
おじさんに駆け寄った女の子が、床に倒れている体を揺すってる。
血の気の引いた顔は真っ白。今の魂は、美味しくなさそうだな。
「うんー? 無駄だよ。魂って命そのものだから。その体はもう起きないよ?」
「…返して……パパを…返してっ!!」
女の子が、すっごい大声で叫んだ。
目の端に涙が浮かんでる。
パパが死んじゃって悲しい、のかな?
「え、返せないよ? だって契約は成立したんだから。――そうだ。あなたのパパは、あたしの魔力になって生き続けると思うと良いかも?」
「――――っ!」
女の子が静かになった。床をじっと見つめてる。
なんだろ、魂がドロドロって濁ってる感じ?
「……そっか。リズリリス、だっけ? 少しそこで待ってて」
「うん? いいよー」
そう言って女の子は部屋を出て行った。
ここの親子は、悪魔を待たせるのが好きだなー。
また椅子に座って足をぶらぶらさせていると、ドアが開いた。
さっきの女の子が帰ってきた。
「リズリリス、待っててくれたんだ」
右手に持ってた包丁を、両手に持ち替えた女の子は、瞳の揺れがない。
真っすぐだけど、幸せなときの魂ではなさそう。
「……私の病気は、治った。……これは、パパが望んだことかもしれない。――けど、でも、お前は殺す。死んで?」
「わわっ」
包丁を大きく振りかぶった女の子が、あたしに向かって振り下ろした。
刃はあたしの体を通り抜けて、そのまま女の子もあたしの体を通過して、床に転んだ。
包丁が女の子の顔に刺さらなくて良かった。
でも、痛そうだなあ。
「…えっと、あたしの死が望みなの? 契約する?……だけど、あなたの魂じゃその願いには足りないかも」
「……ふざ、けるな!!――誰が契約なんてするか! パパを殺した悪魔なんかと!!」
女の子が勢いよく起き上がって、あたしに包丁を振り回す。
何度もあたしの体を通り抜けるけど、今度は転ばないみたい。
うんうん。包丁が当たらないから、空振っても転ばない加減が分かってきてるみたいで良かったあ。
だけど、大事なことが分かってないみたい。
「でも、あなたのパパは、あなたが治って幸せだったんだよ?」
あたしの言葉を聞いて、女の子の動きが止まった。分かってくれたのかな?
だけど、涙がほっぺに流れていて、止まらないみたい。
あれ、魂がグツグツと煮えたぎったように蠢いてる。
「お前に、言われたくないっ!! 私が!! 幸せじゃないの!!!――もっと…パパと、話したかった! もっと、一緒にいたかったっ…!」
女の子の声が、爆発したように響いた。
怒らせちゃったみたい。
「出てって!…出てってよ!! 出てけえ!!!」
「わ、分かったよ。なんか、ごめんね…?」
「うるさいだまれ消えろ!!いつか、絶対殺してやるから!! リズリリスゥゥ!!」
慌てて部屋から出ると、近くにあった階段を登る。
窓を開けて外へ出て、暗い夜空へ飛び上がった。
「なんでえ…」
初契約、上手くいったと思ったけど、おじさんの娘を怒らせちゃった。
おじさんは幸せそうだったのになあ。
「どうしてだろ、人間さんって難しい…」
しょんぼりして尻尾が垂れ下がっちゃう。
いけない、最初は失敗がつきものだ。
「…でも、ちゃんと契約も出来たし、おじさんもあたしも幸せだった! 次はもっと上手に出来るよう、頑張るぞー!」
あたしは次の契約者さんを探して、ふよふよと飛んでいくのだった。
【悪魔のルール】
・悪魔は家の壁から中へ入れない。扉や窓からのみ。但し、招かれる必要はない。