あくまであくまっ!   作:逢生 藍

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二話

「…パパ、どうしたの?……その人は、だれ?」

 

 お部屋の中に入ってきた女の子の人間さんは、床に倒れているおじさんと、あたしを交互に見てる。

 見られながら、まだ少し残ってたおじさんの魂を、食べる。

 

 うん、やっぱり美味しい!

 

 でも、人間さんだと、あたしが悪魔だって分からないかな?

 おじさんはもう食べちゃったし、あたしが説明しなきゃだよね。

 

「あたしはリズリリス! 悪魔だよ!」

「は、え、あくま…?」

 

 しどろもどろな様子の女の子。目が泳いでる。混乱しているみたい。

 

「うん、悪魔。あなたのパパは、あなたの命を助けるために契約したんだよ!」

「…悪魔、…契約?」

 

 契約したと言うと、女の子の目が落ち着いてきた。

 おぉ、少し理解が追いついてきたかな。

 

「契約だよ。良かったね! あなたも病気が治って」

「…………さっき、食べてたのは?」

 

 悪魔の食糧と言えば魂しかないけど、人間さんの社会は悪魔事情にあまり詳しくないんだっけ。

 

「あれは、あなたのパパの魂だよ。美味しかったぁ」

 

 指で唇を拭うと、残り(かす)が付いちゃってた。

 これはお恥ずかしい。指に付いた魂を舐めとる。

 うん、美味しいな。

 

「魂って…パパ! パパ!? 起きて!」

 

 おじさんに駆け寄った女の子が、床に倒れている体を揺すってる。

 血の気の引いた顔は真っ白。今の魂は、美味しくなさそうだな。

 

「うんー? 無駄だよ。魂って命そのものだから。その体はもう起きないよ?」

「…返して……パパを…返してっ!!」

 

 女の子が、すっごい大声で叫んだ。

 目の端に涙が浮かんでる。

 パパが死んじゃって悲しい、のかな?

 

「え、返せないよ? だって契約は成立したんだから。――そうだ。あなたのパパは、あたしの魔力になって生き続けると思うと良いかも?」

「――――っ!」

 

 女の子が静かになった。床をじっと見つめてる。

 なんだろ、魂がドロドロって濁ってる感じ?

 

「……そっか。リズリリス、だっけ? 少しそこで待ってて」

「うん? いいよー」

 

 そう言って女の子は部屋を出て行った。

 ここの親子は、悪魔を待たせるのが好きだなー。

 

 また椅子に座って足をぶらぶらさせていると、ドアが開いた。

 さっきの女の子が帰ってきた。

 

「リズリリス、待っててくれたんだ」

 

 右手に持ってた包丁を、両手に持ち替えた女の子は、瞳の揺れがない。

 真っすぐだけど、幸せなときの魂ではなさそう。

 

「……私の病気は、治った。……これは、パパが望んだことかもしれない。――けど、でも、お前は殺す。死んで?」

「わわっ」

 

 包丁を大きく振りかぶった女の子が、あたしに向かって振り下ろした。

 刃はあたしの体を通り抜けて、そのまま女の子もあたしの体を通過して、床に転んだ。

 

 包丁が女の子の顔に刺さらなくて良かった。

 でも、痛そうだなあ。

 

「…えっと、あたしの死が望みなの? 契約する?……だけど、あなたの魂じゃその願いには足りないかも」

「……ふざ、けるな!!――誰が契約なんてするか! パパを殺した悪魔なんかと!!」

 

 女の子が勢いよく起き上がって、あたしに包丁を振り回す。

 何度もあたしの体を通り抜けるけど、今度は転ばないみたい。

 

 うんうん。包丁が当たらないから、空振っても転ばない加減が分かってきてるみたいで良かったあ。

 だけど、大事なことが分かってないみたい。

 

「でも、あなたのパパは、あなたが治って幸せだったんだよ?」

 

 あたしの言葉を聞いて、女の子の動きが止まった。分かってくれたのかな?

 だけど、涙がほっぺに流れていて、止まらないみたい。

 あれ、魂がグツグツと煮えたぎったように蠢いてる。

 

「お前に、言われたくないっ!! 私が!! 幸せじゃないの!!!――もっと…パパと、話したかった! もっと、一緒にいたかったっ…!」

 

 女の子の声が、爆発したように響いた。

 怒らせちゃったみたい。

 

「出てって!…出てってよ!! 出てけえ!!!」

「わ、分かったよ。なんか、ごめんね…?」

 

「うるさいだまれ消えろ!!いつか、絶対殺してやるから!! リズリリスゥゥ!!」

 

 慌てて部屋から出ると、近くにあった階段を登る。

 窓を開けて外へ出て、暗い夜空へ飛び上がった。

 

「なんでえ…」

 

 初契約、上手くいったと思ったけど、おじさんの娘を怒らせちゃった。

 おじさんは幸せそうだったのになあ。

 

「どうしてだろ、人間さんって難しい…」

 

 しょんぼりして尻尾が垂れ下がっちゃう。

 いけない、最初は失敗がつきものだ。

 

「…でも、ちゃんと契約も出来たし、おじさんもあたしも幸せだった! 次はもっと上手に出来るよう、頑張るぞー!」

 

 あたしは次の契約者さんを探して、ふよふよと飛んでいくのだった。




【悪魔のルール】
・悪魔は家の壁から中へ入れない。扉や窓からのみ。但し、招かれる必要はない。
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