魔界カラスの鳴く、紫色の空の下。
草木の生えない黒い砂の荒れ地に、空間を塗りつぶしたかのような一際黒い闇が渦巻いていた。
周囲の光を吸い込むような闇が広がって、赤い髪の悪魔が現れた。
「あたし、生まれたみたい」
あたしはリズリリス・ヘイルアイズ。たった今、闇から生まれた。発生したばかりほやほやの悪魔だ。
ここ、土と砂しかないのかな。
「ほおう。産まれたての悪魔か。ちょうど良く居合わせたようだな」
「んー?」
何もないかと思ったけど、誰かがいたみたい。
振り返るとドクロのお顔があった。被ってるボロボロの布から、骸骨のお手てが出てる。
「今日の俺、ツイてるようだな。知ってるか、悪魔ちゃん。――産まれたての悪魔はまだ何にも所属してないんだぜ。つまり、学園入学前の悪魔はまだ魔界の民としての権利がない。庇護も、な。カッカッカ!」
「ふーん。そうなんだ」
「そうなんだぜ。――来い。ソウルリーパー」
ドクロのお顔がカクカクと震えて笑ってる。空間から、骸骨のお手てに大きな鎌が出てきた。
あたしに向かって振られた鎌を後ろに跳んで避ける。
「チッ。なかなかに高位の悪魔のようだな。…だが、その分強い魂が期待できるぜ」
「おじさんは、あたしの魂を食べたいんだ」
「おじさんじゃねえ。死神マドロー様だぜ!」
死神なんだ。
あたしに向かって振り回してくる鎌を何度も避けてるけど、これなら。
「ほいっ」
「ぐげぎゃぷっ」
お顔を一回殴って、お腹を蹴り飛ばした。荒野の上を跳ね飛んで行った。なんだか面白い。
あたしは地面に落ちた鎌を拾ってから、ふよふよと飛んで、向こうに行っちゃった死神を追いかけた。
この鎌、とっても持ちやすくて手にすっぽり収まる感じ。鎌を振り回してると、荒野に転がってる死神を見つけた。
「ぐ……ご、あ…。おま、え……」
頑張って立とうとしてるけど、起き上がれないみたい。手は動くみたいだから、どうしようかな。
鎌の先を死神に向けるとビクって震えた。
「ひっ! な…なにをするつもりだ」
「食べていい?」
お腹が空いてたなあ。ちょうど死神に襲われるなんて、あたし、ツイてるのかも。
「い、いや。ダメだ!…俺を食べたら、魔界の法違反になるぞ。そ、それに、他の死神が軍を成して仇討ちに来るぞ!」
「んー。それ、嘘だよね。魂が震えてるよ」
魂を見てると、嘘も分かるんだなあ。
悪魔のあたしと違って、死神は嘘を吐くのにあんまり抵抗はないのかな?
「ということは、襲われた時は襲い返しても法で許されるのかな?……そうみたいだね」
「っや、やめてくれ!! すまなかった。二度とお前を襲わないから…この通り、許してください…!」
死神が地面にドクロのおでこを擦りつけてる。可哀想。
「でもあたし、お腹空いてるんだし、死神もあたしを食べようとしたんだから、いいよね?」
「よ、良くない! わ、分かった、腹が減ってるなら、人間の魂をやる。あ、悪魔の好物だろう?…それでどうだ!」
この死神、よっぽど食べられたくないみたい。あたしを食べようとしたのに、不思議だな。
「うーん。でもその魂、あなたを食べた後でもらえるよね?」
「…か、かか鎌もやる!!」
「それも、だよね?」
そろそろ我慢できなくなってきた。いいかな?いいよね。
鎌を構えなおしたら、死神が慌てて叫んだ。
「ひっ、ヒィアア!! 待て待て!――鎌の所有権だけは、所有者から譲渡されないと無理だ!…だから、な!?」
「そうなんだ」
これは嘘じゃなさそう。うーん、どうしよっかな。
この鎌、手にしっくりきてなんだか良い感じなんだよね。
「…お腹空いちゃったから、とりあえず人間の魂をちょうだい?」
「わ、分かった、分かりました!…こ、こちらです。へ、へへ」
死神が笑いながら空間から魂を取り出した。
あれ?この魂、とっても美味しそう。表現が難しいけど、柔らかそうで温かそうな感じ?
お腹の音が止まらないまま、死神から魂を渡してもらった。
「いただきまーす!…あむ。――美味しいっ!」
なにこれ、美味しい!トロトロで柔らかくて、素敵。
すぐに食べ終わっちゃった…。もっと食べたい!
「死神、魂まだある?」
「あ、ああ。…助けてくれよ?」
死神からおかわりの魂を受け取った。だけどこれ、さっきのより冷んやりしてて濁ってる。
「んー?…いただきます。あむ。……っ!」
まずいぃ。美味しくない、ベタベタする。まずいー!
「なんで、美味しくないの?」
「…どうやら、お前は悪魔としては珍しく、明確に味覚があるようだな」
「そうなの?」
あたし、こんなの知っちゃったら美味しい魂しか食べられないかも。どうすれば美味しい魂になるのかなー。
「おい、悪魔の娘。取引しようぜ」
「うーん? 取引?」
「ああ、俺はお前の好みの魂の種類を一緒に探す。お前は俺の魂を取らない。どうだ?」
それって、良いかも。あたし、ツイてるね!
「うん、いいよー。それなら今回は魂を取らないでいるよ! あ、鎌ももらうね、ありがとう!」
「はっ?…え、ちょっ」
「それじゃ、行こー」
死神の骸骨の手を掴んで、引っ張る。
美味しい魂、楽しみだなあ。いっぱい食べるぞー!