「お
前回の契約はあんまり上手くいかなかったからなあ。次こそ、失敗せずに幸せな契約にするぞー!
あたしを召喚してくれた赤い魔法陣から出ると、狭くて暗いお部屋の中だった。
床には色んなものが散らばってて、狭いお部屋がもっと狭くなってる感じ。
「あ、悪魔だあっ!」
「うん? 悪魔だよー」
あたしを召喚した人間さんが、床に転んじゃった。
床に落ちてたものがあちこちに飛んでいって、すごい音がしてる。痛そうだなあ。
「……ははは、悪魔を召喚できたんだ。とうとう、底辺だった僕の人生の、逆転の時が来たんだな!――ハハハハハ!」
転んでた人間さんが、がばっと立ち上がって大笑いしてる。
んー。もじゃもじゃの髪の毛に、床に落ちてたものが絡まっちゃってるね。なんでも引っかかるのかな?
「契約したいのー?」
「当たり前だろう? 契約するために、人生を変えるために、召喚したんだ。覚悟だってしているさ」
うーーん。どうしようかな。もじゃもじゃの人間さんは、契約で幸せになれるのかな?
「んー。でも、契約が成立したら、その後はあなたの魂をもらうよ。後悔しちゃわない?」
「後悔なんてっ…!」
もじゃもじゃさんがずいっと近づいてきた。お顔が近い。瞳は揺れてなくて、あたしから目を逸らさずにじっと見てる。
「後悔なんて、あるわけないさ。ここで契約しないと…僕は一生、底辺のまま浮かべないんだ」
「底辺なの?」
「底辺だよ。誰も僕に期待せず、僕の能力を発揮する機会もないまま、みんな僕を蔑んでくる。僕だって、生きているのに。――僕は、逆転したい。見返したい。そう考えるのは悪いことか?」
もっとずずいっと近づいてくるもじゃもじゃさん。思わず一歩後ろに足を下げちゃった。
「悪いことじゃないだろう?…でも、僕の能力じゃ才能のある人たちには追いつけない。ズルいよな。――だから、悪魔を召喚したんだけど、まさかの成功だ。これはもう最後のチャンスだ。やるしか、ないだろう!」
「ふーん」
うーん。どうしよっかな。
もじゃもじゃさん、契約はとっても前向きみたいなんだけど、魂の質はあんまりかも。
なんだかあんまり濃ゆくない感じ。逆転したら濃ゆくなるのかな?
「でも、もじゃもじゃさんの魂だと、あんまり叶えられないかも。幸せになれないかもだから、契約しないほうがいいんじゃないかなあ」
「は?――お前まで、僕を蔑むのか!……そんなこと言わないで、契約してくれよ。いいだろ?」
「うーん?…それで幸せになれるなら、いいよー。何を叶えたいの?」
質よりも味が大切だもんね。今はどよどよしてるけど、契約で幸せになってくれるといいなあ。
「僕は、カネと頭の良さが欲しい。それに、身体能力も高くしたい。魂を奪うのは十年後で、どうだ?」
「んー。それだと、願いごとが三つになっちゃうよー。願いごとは、一つまでだよ?…それに、魂の回収を待つのは長くて半年くらいがいいなあ」
「なんだよ、ケチだな…!」
もじゃもじゃさんが頭のもじゃもじゃを掻いてる。もじゃもじゃに絡まってたものが跳ねて床に落ちた。面白い!
「それなら、メイラルって男がいるんだけど。持ってるカネも頭脳も能力もそっくりそいつみたいになりたいってのはどうだ?…回収までは、五年で」
「うーん……。サービスして、その人間さんの五割くらいなら何とかなるかも。期間は一年ならいいよ?」
「クソッ。僕の魂まで捧げて、あいつの半分なのかよ…。生まれ持った環境も才能も、不公平すぎるだろ!……期間を三年で、どうだ?」
あんまり長く待つのを約束するのは、あたしにとってはあんまり良くはないんだよね。
使ったチカラの分まで回収し損ねちゃうかもだし。やめとこうかなあ。
「えっと、やっぱりやめておく?」
「わー!――分かった、分かったよ。契約する。その内容でお願いだ!」
「んー。分かったよ。…願いを叶えたら契約成立だけど、後悔しない?」
もじゃもじゃさんを見る。やっぱり瞳も魂もあんまり揺れてない。でも、んー?
「後悔するわけない。契約してくれ」
「…うん。汝の願い、聞き届けるよ!――ほいっ」
指先にチカラを集めて、願いを叶えた。
「おおっ。おおお!?」
ジャラジャラと、お部屋の天井からオカネがいっぱい降ってくる。もじゃもじゃさんの身のこなしが軽い感じになった。
床に溜まっていくオカネを掬って、上に向かって投げてる。とっても嬉しそう。良いことしたかも。