「はは…は。はははは!――弱者の、成り上がりだ!!」
もじゃもじゃさん、ずっと笑ってて楽しそう。オカネを上に投げるのが忙しいみたい。
うん。あたしはそろそろお暇しようかな。
ふよふよと飛んで、窓からお部屋の外に出てから透明になる。
「ご主人ちゃん、また契約できたでございますね。でも、あんまり乗り気じゃなかったみたいだけど、良かったのです?」
あたしの影から現れたシリシーが、ちょこんとあたしの胸の上に座った。
「うーん。もじゃもじゃさん契約したかったみたいだし、大丈夫、かも? それに、これも試してみたかったんだー!」
空間のポケットから時飛ばしの望遠鏡を取り出して、シリシーに見せつける。
さっそく出番が来ちゃったね!
「こんなに良いものをもらうなんて、さすがご主人ちゃんでございます」
「ふへへー。んじゃ、見てみよー」
望遠鏡を覗いてみると、窓の向こうにもじゃもじゃさん。上のボタンを押して、対象の人間さんを固定してっと。
それから、ダイヤルを回してみる。んっと、これで七日後くらいかな?
「見えるです?」
「んー。見えたよー」
望遠鏡のレンズの向こうでは、お酒の前で大笑いしてるもじゃもじゃさん。
両隣のソファに女の人間さんが座っていて、もじゃもじゃさんに寄りかかってる。
「見せて見せてでございます」
「ほい」
魂が踊ってて、幸せそうかも。
「思ったよりしっかり俗世にまみれた楽しみ方のようなのです」
シリシーから返してもらった望遠鏡を覗いて、またダイヤルを回してみる。これで一ヶ月くらいかな?
レンズの向こうには、ルーレットの前ではじゃいでるもじゃもじゃさん。カジノのお店かな。テーブルに積まれたチップがどんどん増えていってるみたい。
「うん、幸せそうだし大丈夫かも」
今度は半年後を覗いてみる。もじゃもじゃさん、大きなお店を建てたのかな?
何人もの店員さんの人間さんに命令してるみたい。あ、他の人間さんを叩いてる。痛そうだなあ。
「うーん。魂がべっとりしてきた。…そろそろ回収したかったなあ」
「回収までの期間が長いと、幸せになれるわけじゃないようでございますね」
もうすぐ一年が経つくらいのところまでダイヤルを回してみた。
あれ?魂がどんよりしてる。ルーレットの前でお顔が真っ赤っか。
しばらく見ていたら、カジノのお店を出て真っ白なお顔でふらふらしてる。これは、早めに行った方がいいかも?
「シリシー、時を飛ばすよー」
「はいです」
望遠鏡の前と後ろを入れ替えて逆向きにレンズを覗いたら、ぐにゃりと風景が歪んでいく。
目の前には、さっきまでレンズで見てたもじゃもじゃさんが歩いてた。
「あーーーー。クソッ。…クソッ!! なんでずっと負けるんだよ。確率がおかしい。イカサマだろ絶対!!」
「もじゃもじゃさん、告知に来たよー」
あたしが後ろから声をかけてみたら、もじゃもじゃさんの肩がビクッて跳ね上がった。
錆びたお人形みたいに、振り向くもじゃもじゃさん。
「…ギ、ギャィヤアアアアア!!…あ、悪魔!!」
「悪魔だよ?」
あたしに気づいたもじゃもじゃさんは、すっごい悲鳴を出してから夜道を走って逃げちゃった。待ってー。
走るもじゃもじゃさんの横をふよふよと飛んでいく。
「逃げられないよー。それに今日はまだ告知だよ?」
「ヒ、ひいいいいいいい!!…た、助けて悪魔だ!――誰か、助けてくれえ!!」
あたしの声が全然聞こえてないみたい。仕方ないから、走ってるもじゃもじゃさんの前に浮いてみる。
「ギャッ!」
「わあ。大丈夫?」
尻餅をついて転んじゃった。
「く、来るな、やめろ!……なんでだ。なんでだよ、僕は悪くない。ただ生きてきただけなのに!――僕より出来る姉ばかり可愛がった両親が悪い。失敗しても許してくれなかった周りが悪い。僕を愛さなかったあの女が悪い。運が悪かったんだ。生まれが悪かったんだ。――僕は、悪くない!!」
「んー。今日は告知に来たんだけど」
地面におでこを近づけて、土下座をするもじゃもじゃさん。どうしよう。
あれ。後ろから、気配?
振り向こうとすると、背中から、硬いもので殴り飛ばされた。
「ひゃんっ」
吹き飛ばされたあたしの体がくるくると回って、壁にぶつかった。壁、崩れちゃった。
むー、痛いなあ。
「…見つけた。やっと見つけたわ!!――リズリリスゥゥ!!」
誰だろ?