初仕事でおじさんの娘を治したあたしは、半透明になって、ゆっくりと他の街まで飛んでいく。
ルールってわけじゃないけど、あまり同じ街で契約者を探さないほうが良いと習ったもんね。
数日飛んでいると、丘の上に
豪邸の中からは、なんだか良質な魂の匂いがする。
よーし、今度はあそこに行ってみよう。
豪邸の塀を飛んで越えて、お屋敷の正面玄関の前に来た。
ちょうど、お屋敷の中に入っていく黒い
潜入成功だ。
おじさんと別れ、赤い
窓から差し込む月光が廊下を青白く染めていて、ちょっぴり綺麗。
「まったく! 主人の意図も
「申し訳ございません、旦那様。…犬を、差し向けますか?」
「…だから!!――それも含めて意図を汲めと言っておるのだ!!」
なんか、すっごい怒鳴り声が聞こえてきた。こっちの部屋かな?
扉の中の魂の様子を見てみると、二つの魂があった。
一つは煮えたぎってる感じだけど芯があって質の良い魂。
もう一つは、こっちも良い感じだけど、なんだかぐんにゃりしてて揺らいでる。
これは、契約の出番かな?
「もう良い!……ワシの寝室に奴隷のレイナを呼べ。それと、今夜はワシの部屋に誰も寄せ付けるなよ」
「承知しました」
「こんばんはー! お
部屋の扉が開いたので、開いたのと同時に挨拶をしながら中に入ってみた。
部屋の中にいた、頭の上の髪が無いおじさんと、でっかい男の人が驚いた顔をしてる。
「だっ、誰だ貴様は!
扉の近くにいたおじさんが、跳び上がるようにあたしから離れていった。あたし、怖くないのにな。
でっかい人は口を開けたまんまだし、驚かせちゃったなあ。
「曲者じゃなくて、悪魔だよ! 贄とする魂の質に応じて、あなたの願いを叶えるよ?…ほら、悪魔でしょう?」
魂を見れない人間さんには、どうも一目で信じてもらえないみたい。
説明しながら、空間のポケットに手を入れて穴から鎌を取り出した。
あたしの近くにいたでっかい人に、伸ばした鎌の刃を向けてみる。
「――ヒッ」
「分かった!…分かったから、しまえ!」
「そう? 良かったあ。……それで、どうする? 契約する?」
目をぱちくりとさせた二人の人間さんは、目を合わせた。
おじさんが、口の端をゆがめて笑い始めた。
「ふは。ふほっはっは! 悪魔か、悪魔が来たか!……おい悪魔。その契約とやらは、何でも叶うのか?」
「うん。魂の質に応じて、何でも!」
おじさんはなんだか楽しそう。だけど、でっかい人は黙ったまま。んー。
おじさんが、あたしに向かって近づいてきた。
「おい、それは我が国の国王も殺せるのか?」
「うん、大丈夫だよー」
「ほうほう。贄はそこにいるローランドでも足りるのか?」
おじさんに指を差された、でっかい人の肩が跳ねた。
当然、十分足りてるのであたしは笑顔で答える。
「もちろんだよ!」
「そうかそうか。ローランド」
「ヒッ…お、おやめください。旦那様」
でっかい人の魂が、すっごく揺れてる。
「契約しろ。ローランド。貴様、母の薬が必要だったよな? ワシが貴様を見捨てたら、どうなると思う? なに、心配するな。二人の面倒くらいはワシが見てやる。――分かるよな?」
でっかい人が、ぶるぶる震えたまま、震える口から、絞り出す感じで返事をした。
「――は、い……」
「ふほははは。良いぞ。それで良いのだ」
「んー? 契約者は、こっちのでっかい人間さんでいいのかな?」
あたしが聞いてみると、でっかい人はコクリと頷いた。
ふう。一時はおじさんが契約したいのかと思っちゃった。
「良かったあ。あたしはあなたと契約したくて来たんだ」
「ふぉ」
「…へっ?」
これでひと安心、だね。
「おじさんも質は高めだけど。さっき外で見たときから、煮えたぎってる感じだけど芯のある魂の、こっちの人間さんの魂のほうが、契約したくて!」
あたしが笑いかけると、二人ともまた呆然としてる。なんでだろ。
でも……このままじゃ、美味しくなさそうだなあ。
「ねね、でっかい人間さん? あなたの願いは、なあに?」
「っ! そやつの願いは、この国の国王、ダマラガマスの死で…!」
「ううん、違うよ? それは、おじさんの願いでしょ? あたしは、でっかい人間さんの願いを聞いてるんだよ。あたしは契約者さんを幸せにしたいんだあ」
うんうん、それが一番だよね。
喋らなくなってたでっかい人が、口を開いた。
「俺の、願い…」
「そうだよー。なんでも、叶うよ!」