STAR FOX:LINK   作:まきる

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第3部 異変
MISSION10「青に染まる」


 

 

「報告は以上だ。貨物を守りきれず、すまない」

 

フォックスは少し苦い表情を浮かべながら、ペパー将軍に報告した。

 

『ふむ……ウルフ達も関わって来ているとはな。なに、君たちが奴らを追い払ってくれたおかげで、他の格納庫には被害はなかった。恩に着るぞ』

 

「そうか。なら良かったよ……グレートフォックスには修理が必要だ。しばらくは休暇になる」

 

フォックスは苦笑を浮かべ、肩を落とした。

 

『了解だ。また敵の動きがあれば共有しよう。ではな』

 

「わーい、休暇、休暇ー!」

 

「あー、また暇になんのかよ」

 

通信が切れた途端、スリッピーが騒ぎ、ファルコがぐったりとソファにもたれた。

 

「ねぇねぇ、マナちゃん、こことかどう? リゾート地だよ!」

 

パラパラとパンフレットを捲りながら、隣にいたマナに声をかける。

 

「うわー、海が綺麗……いいなぁ!」

 

パンフレットに載る写真には、美しいコバルトブルーの海や、楽しげな観光施設が軒を連ねていた。

 

「どれ、ワシにも見せてくれ……ほう、温泉もあるのか! 良いのう」

 

パンフレットを眺めたあと、ペッピーがフォックスに近づき、耳打ちする。

 

「……グレートフォックスにかかる金も気になるが、今回は休暇を楽しんでもいいだろう」

 

「珍しいな、ペッピーが遊びに乗り気なんて」

 

「マナ君のこの間のこともある……気晴らしになると思ってな」

 

フォックスがマナに視線を送る。

今はいつものように笑っているが、ほんの少し前までごく普通の学生だったのだ。

彼女はウルフ達との戦いのあと、張り詰めていた緊張が切れたように震えていた。

 

「……そうだな」

 

フォックスがそこで、パンッと手を叩いた。

 

「よし! スターフォックス、リゾート地に向けて出撃準備だ!」

 

「マジかよ……」

 

ファルコはげんなりとした表情を浮かべる。

 

「やった! フォックス最高!」

 

「楽しみだねー! スリッピー!」

 

スリッピーと一緒にぴょんぴょん跳ねるマナ。

そして、ソファに座るファルコを振り返る。

 

「ファルコも一緒に来てよ? 行かないとか言わないで!」

 

「先に釘刺してくんなよ……」

 

マナはファルコのいるソファにさらに近づき、その足元に座り込む。

 

「……行くよね?」

 

上目遣いで再度念押しした。

 

「…………あー、もう分かった。行くからそんな顔すんな」

 

「よし!」

 

ニィッと嬉しそうに笑う彼女。

そんなマナを見て、ファルコは苦笑した。

 

 

グレートフォックスを修理業者に預け、一行はシャトルでリゾート地へ向かった。

到着した頃には、すっかり夜も更けており、一行は、まだ営業していたバーに立ち寄る事になった。

 

「何頼もうかなー。マナちゃんは?」

 

テーブルについたスリッピーとマナ。

スリッピーが見せてきたメニューを眺める。

 

「うーん……あたし、これかな」

 

注文を決め、ふと視線を上げると、バーカウンターに向かった他のメンバーが目に入った。

フォックスとペッピーは酒を飲みながら談笑している。

ファルコは、また見知らぬ獣人の女性と会話していた。

 

「ファルコってほんとモテるよね……」

 

「んー、愛想が良いわけじゃないんだけどね。それがいいのかな?」

 

そう言ってスリッピーが笑う。

しばらくファルコを見ていると、不意に彼と女性が笑い合った。

 

「──っ!」

 

短く息を吸い、思わず視線を逸らす。

 

────なに?私は、何を感じたの?

 

胸が詰まるような感覚に戸惑う。

 

「どうしたの? マナちゃん」

 

少し様子がおかしいマナを、スリッピーが覗き込む。

 

「あぁ、ごめん……料理来るまでちょっと遊んでくるね!」

 

席を立ち、ファルコの元へ向かう。

先ほどの女性は、もういなくなっていた。

 

「ファルコ、勝負しない?」

 

「は? 何で?」

 

「料理来るまで暇だから、ダーツで勝負しよ?」

 

にこりと笑いながら、店の一角に備えられたダーツ台を指さす。

 

「……いいぜ? お前が勝負を仕掛けてくるなんて珍しいな」

 

ファルコがニヤリと笑う。

 

「ふふ、たまにはね」

 

二人はダーツ台へ向かい、それぞれの矢を手に取った。

 

「賭けるか。俺が勝ったら一杯奢れよ」

 

ファルコが先攻を取り、ダーツを投げていく。

中心には当たっていないものの、スコアは悪くない。

 

「えー、いいのかなぁ? 私、ダーツは上手い方だよ?」

 

ニヤニヤと笑いながらファルコを見たあと、狙いを定める。

 

一投。

ブル。50点。

 

二投。

ブル。50点。

 

「……まぐれだろ、まぐれ」

 

ファルコの額に、わずかに冷や汗が浮かぶ。

 

三投。

ブル。50点。

 

ダーツ台の液晶画面に『HAT TRICK!!』と、キラキラとした祝福の演出が流れた。

ファルコが唖然と画面を見ていると、マナが振り返る。

 

「……私が勝ったら……デート、とかどう?」

 

────私が感じたのは、「嫉妬」だ。

胸の奥に燻る小さな感情を隠して、マナはファルコに微笑みかけた。

 

『で、そのあとファルコはどんな反応だったわけ?』

 

「『は? な……何言ってんだ?』って目をまん丸くしてたよ。ぷっ……あはは、ダメだ、笑うー!」

 

ホテルの自室。

ベッドに転がりながら、マナはキャットとの会話を楽しんでいた。

 

『うわー、目に浮かぶわっ! あはは!』

 

小さなディスプレイに映るキャットは、手を頭に添えて笑っていた。

 

「……キャット、私さ。嫉妬したんだと思う。今日だけじゃなくて、多分前から。前も同じようなことあったんだ。ファルコが女の子に囲まれてて、変な感じだった」

 

『そうなのね……』

 

「でも、それが……仲間だからなのか……ファルコに対する好意なのか、分かんない……」

 

『……フォックスが女の子に囲まれたって、そんなに気にはならないでしょ?』

 

「それは、そうかもだけど……でもその時はフォックスも特別な存在に見えて、二人とも遠く感じたの」

 

『そうね……』

 

キャットは手を口元に当て、思案する。

 

『冗談でもデートまで踏み込んだなら、もっと近づいてみれば? リゾート地なんだし、やりやすいでしょ』

 

「近づいてみる……?」

 

『そう。隣に座るとか、ちょっと触れてみるとか。自分がどう感じるか、確かめてみるのよ』

 

「……ファルコの反応も?」

 

『もちろん。それも大事でしょ? ファルコの方からのアプローチを待ってたら、老婆になっちゃうわよ!』

 

「あはは! それは言い過ぎじゃない?」

 

『ふふ! いいえ、言い過ぎじゃないわ! やるのよ、マナ。戦果報告を待ってるから!』

 

 

────翌朝。

 

「んー……ちょっと攻めすぎかな……」

 

キャットから、水着は大胆に行けとアドバイスをもらった。

鏡の前でチェックするも、露出の多い格好は少し落ち着かない。

 

「……いや! 可愛いし、これで行く!」

 

覚悟を決め、薄い上着を羽織って更衣室を出た。

ギラギラとした太陽が照りつける。

コバルトブルーの海が広がるビーチで、スリッピーが手を振っていた。

 

「マナちゃーん、こっちこっち! ビーチバレーやろー!」

 

備え付けられたネットの近くに立ち、スリッピーが笑う。

 

「えっ、いいね! 楽しそう!」

 

「じゃあ、チーム分けだな」

 

フォックスがニヤリと笑う。

 

「ワシは審判をやるぞ。さすがにしんどいわい」

 

ペッピーは苦笑しながら、ネット脇へと移動した。

組み分けは、フォックスとスリッピー。

ファルコとマナになった。

 

「負けないぜ? ファルコ。負けた方が夕飯の買い出しに行くってのはどうだ?」

 

「はっ! いいぜ? やってみろよ」

 

ネット越しに睨み合う両者。

 

「おい、マナ。お前バレーはでき……」

 

後ろにいるマナを振り返ったファルコは、一瞬固まった。

彼女が羽織を脱ぐと、その下に着ていた水着が露わになる。

腰骨あたりで留まるローライズのショートパンツから、すらりと伸びた脚と引き締まった腹部が覗いている。

胸元はスポーティーなデザインながら、わずかに谷間が覗いていた。

全体が青と白で統一されており、爽やかな雰囲気を纏っている。

 

「……何?」

 

ファルコの視線を感じ、マナは首を傾げる。

 

「……その格好でやんのか?」

 

「似合ってない?」

 

ファルコの近くまで歩き、わざと顔を覗き込む。

彼は照れたように視線を逸らした。

 

「……そ、そういう意味じゃねぇ」

 

「うわー、マナちゃん、いつもより大胆だね!」

 

「……ふむ、目の保養だな。ファルコ、見惚れて倒れるなよ」

 

フォックスがマナを見て、ニヤニヤと笑った。

 

「倒れるかよ!!」

 

ファルコが思わず叫ぶ。

フォックスは彼を横目に、いつの間にかボールを手に取っていた。

 

「ほら、そろそろ始めるぞ! 俺のサーブだ!」

 

フォックスが軽やかに飛び上がり、ボールを打ち込んだ。

 

「おい! 勝手に先攻取んなよ!」

 

落ちてきたボールに食らいつき、なんとか返す。

 

「ボールが甘いよ、ファルコー!」

 

スリッピーは持ち前の跳躍力で、重力をものともしないように飛び上がり、ネットの上からボールを叩き落とす。

 

「こんの……カエル……!!」

 

鋭角に落ちてきたボールは、ファルコには捉えられない。

 

「任せて!」

 

トンッ! とマナは足で蹴り上げ、ボールをファルコの真上へと上げた。

 

「ナイスだぜ!」

 

「行けー! ファルコ!」

 

ファルコが力強く飛び上がり、思い切り腕を振り抜く。

ボールは見事に相手コートを撃ち抜いた。

 

「ほう! 素晴らしいチームプレイだな! ファルコ・マナチーム、一点!」

 

「やった! カッコイイー! ファルコ!」

 

マナが手を上げる。

その手に、ファルコがハイタッチを返した。

 

「当たり前だろ! お前もやるじゃねぇか!」

 

その後も接戦が続き、一度休憩を取ることになった。

 

「あっつー……」

 

日陰に入り、思わず手でパタパタと顔を仰ぐ。

 

「ほら、これやるよ」

 

「えっ、買ってきてくれたの?」

 

ファルコから手渡された冷えたドリンク。

ストローからすすると、甘酸っぱいベリーの香りが口いっぱいに広がった。

 

「めちゃくちゃ美味しい……! ありがとう、ファルコ」

 

満面の笑みを浮かべて味わう彼女。

ファルコは少し離れたところに腰を下ろし、その横顔を眺めた。

暑さで上気した白い肌には薄く汗が浮かび、呼吸も少し弾んでいる。

顔には、バレーに熱中したせいか、わずかに砂がついていた。

ファルコは無意識に、マナの顔へ手を伸ばしていた。

 

「……どうしたの?」

 

手が触れる前に、彼女がこちらを向く。

 

「……っ、あぁ。顔に砂ついてんぞ」

 

マナが少し考えるような仕草をしたあと、ファルコの方へグッと身を寄せてきた。

 

「……! なんだよ?」

 

「見えないから取って?」

 

顔を寄せてくる彼女。

突然、肩が触れ合うほどの距離まで身を寄せられ、ファルコは思わず息を止めた。

近い。

思った以上に近い。

長い睫毛も、上気した頬も、普段よりずっと近くにある。

しかも、マナは何の警戒もなく目を閉じている。

 

「はっ? いや……まあ、いいけどよ」

 

平静を装って答えたものの、声はわずかに上ずった。

どこを見ればいいのか分からず、一度だけ視線を泳がせる。

 

────落ち着け。

 

顔の砂を取るだけだ。

ファルコは慎重に手を伸ばし、マナの頬についた砂をそっと払っていった。

 

「ふふ……ファルコの手、羽毛がふわふわしてて気持ちいい」

 

その言葉に、ファルコの指先が一瞬止まった。

 

「……そういうこと、さらっと言うなよ」

 

「え? ほんとのことだよ?」

 

悪びれもせず笑うマナに、ファルコはますます調子を狂わされる。

彼女は少しくすぐったそうに笑っていた。

 

「……ほら、取れたぞ」

 

マナはファルコと視線を合わせて、また微笑んだ。

 

「ありがと」

 

彼女はすぐに隣からどこうとはせず、そのまま座り直す。

肩が触れたままなのに、気にする様子もない。

ファルコは横目でマナを見る。

 

────なんだ?

こいつ、今日やたら近くねぇか……?

昨日まで、こんなんだったか?

 

そう思い返してみるが、はっきりした答えは出ない。

ただ、自分の方もその距離を嫌だとは思っていないことだけは、妙に分かった。

 

「おーい、続きやるぞー!」

 

「よっし! 絶対勝つんだから!」

 

少し離れたところから、フォックスの呼ぶ声が聞こえた。

その声にマナが勢いよく立ち上がる。

 

「……切り替え早ぇな、お前」

 

さっきまでの距離をまるで気にしていないような彼女に、ファルコは一人だけ取り残されたような気分になった。

 

────なんなんだよ、今日のこいつ。

 

そう思いながらも、嫌じゃない自分の方がよっぽど厄介だった。

それをごまかすように立ち上がり、首の後ろを軽く掻く。

 

「……暑さで倒れんなよ」

 

「大丈夫だよ!」

 

マナは弾けるような笑顔で応えた。

 

「……ならいいけどよ」

 

ファルコは少しだけ視線を逸らし、その後を追った。

 

 

その後、ビーチバレーはファルコとマナの勝利で決した。

 

「はっ! フォックス、煽った割には情けねぇな」

 

ファルコが鼻を鳴らし、得意げに腕を組む。

 

「はいはい、約束だから買い出し行ってくるよ」

 

「あはは、よろしくねー!」

 

苦笑を浮かべながら、フォックスが肩を落とす。

その様子を見て、マナが手を振りながら笑った。

 

「オイラも一緒かぁー!」

 

「お前も負けた側だろ」

 

スリッピーを引きずりながら、フォックスは街中へと消えていった。

 

「二人とも、いい試合だったぞ! 任務でも期待できそうだ」

 

ペッピーが笑いながら、マナの肩を軽く叩いた。

 

「うん、チームワークばっちりだよ!」

 

マナが拳を小さく前に出して応える。

 

「はは! 頼もしいのぅ……さて、ワシは温泉でも行ってくるかの」

 

「そっかぁ。私はまだちょっとブラブラしたいかも。せっかくだし」

 

「そうか。暗くなる前には戻るんだぞ」

 

「大丈夫だよ、ペッピー」

 

父親のように心配する彼に、思わず微笑んでしまう。

ペッピーと別れると、ファルコとマナだけがその場に残された。

 

「ファルコは特に希望なし?」

 

「……そうだな」

 

「じゃあ……私とデートだね」

 

「……は?」

 

ファルコが目を見開いて固まる。

 

「だって、ダーツ勝ったし?」

 

いたずらっぽく笑う彼女。

確かに昨夜のダーツは完敗だった。

手先の器用さでは、マナには敵わないらしい。

 

「私と出かけるの……嫌?」

 

マナが少しだけ眉を下げる。

 

「……嫌、じゃねぇけど」

 

そのしょんぼりとした表情に押される。

 

「じゃあ、早く行こ!」

 

 

一度ホテルに戻ってシャワーを浴び、それぞれ着替えを済ませた。

再びロビーに集まった頃には、陽も少し傾き始めていた。

マナが最初に向かったのは、露店が立ち並ぶ食べ歩きスポットだった。

 

「わー、いい匂いー! 何食べる? ファルコ!」

 

食欲をそそる香りに、ファルコも空腹を覚える。

 

「そうだな……あれはどうだ?」

 

ファルコが指した先を見る。

 

「いいね! 並ぼう、並ぼう!」

 

マナはファルコの腕に自分の腕を少し絡め、そのまま引っ張った。

 

「お……おい、そんなに急がなくても大丈夫だろ」

 

また距離が近いことに内心焦りながら、ファルコは彼女について行った。

 

「あらぁ、可愛らしいカップルね!」

 

店先に着くと、老夫婦が笑顔で料理をしていた。

婦人がマナ達を見て、目を輝かせる。

 

「いや、俺たちは別に……」

 

「人間の女の子と獣人のカップルなんて、おとぎ話みたいじゃない!」

 

「……だから、話聞けよ」

 

「今あたしが読んでる小説が、人間の女の子と獣人のお話でね……」

 

そのまま婦人の話は止まらなくなり、マナは苦笑し、ファルコは憮然と黙り込んでいる。

 

「こらこら、お前。お客さんが困ってるだろ!」

 

店の主人が妻を制止した。

 

「あらあら、ごめんなさい! 可愛かったからつい! お似合いのカップルにサービスしとくわっ!」

 

そう言って、注文した数より多く商品を手渡された。

 

「元気な人だったね」

 

店を離れたあと、マナが笑った。

 

「……お前は否定しねぇのかよ」

 

「だって、説明する前に話進んじゃったし」

 

「……そうかよ」

 

「何? ファルコは嫌だった?」

 

「……そういうことじゃねぇ」

 

────お似合いの、カップル。

 

ふとマナは、エリアスが治める人間の街で見かけた、鳥人の男性と人間の女性の姿を思い出す。

ファルコともそう見えたのだと思うと、嬉しかった。

ファルコは一人にこにこと笑うマナの横顔を見て、小さくため息をついた。

何がそんなに嬉しいんだ、と呆れながらも、口元は自然と緩んでいた。

 

 

「あ、お土産屋さんあるよ! 行ってみたい!」

 

しばらく歩くと、マナは店を指さし、ファルコの服の袖を引っ張った。

嬉しそうな彼女に連れられて、ファルコは苦笑しながらもついて行く。

彼女は店内を見渡しながら、次々と商品を手に取った。

スリッピーへの土産を楽しそうに選ぶマナを、ファルコは少し離れたところから眺めていた。

 

ふと、あの遺跡で彼女を探した時の感覚が蘇る。

通信も届かず、レーダーにも何も映らない。

それでも、なぜかあの先にいると思った。

 

────見つけられて、よかった。

 

今さらそんなことを考えた自分に、ファルコは小さく眉を寄せる。

マナはそんなことも知らず、今度はペッピーへの土産を手に取って笑っていた。

 

「あとは、フォックスは何がいいかなぁ……」

 

────こいつ、いつも誰かのことばっかだな。

 

たまには、自分のために何かあってもいいだろ。

買い物を楽しむマナを横目に、ファルコも何となく店内を見回す。

そして、ある一点で視線が止まった。

 

「……」

 

「ファルコ、どうしたの?」

 

レジを済ませたマナが歩いてくる。

 

「あぁ、先出てろ」

 

「うん、次のお店選んどくねー!」

 

弾むような足取りで、マナは店の外へ出ていった。

しばらくして、店から出てきたファルコにマナが振り返る。

 

「ファルコも何か買ったの?」

 

「まぁな」

 

「へぇ、何買ったの?」

 

「……あとでな」

 

ファルコは少しだけ口元を緩め、そのまま先を歩いた。

 

 

街は夕焼けの光に包まれ、美しく輝いていた。

昼間は青かった海も、今は黄昏の色を映している。

二人は海辺のベンチに座り、休憩を取っていた。

 

「はー、ちょっと歩き疲れたね」

 

「はしゃぐからだろ」

 

「だって楽しいんだもん……ファルコと一緒だから」

 

そう言いながら、マナは座っていた位置を少しファルコに近づける。

肩と肩が、そっと触れ合った。

傍らで笑うマナを見て、ファルコは服のポケットからある物を取り出した。

 

「……マナ」

 

「ん?」

 

「これ、やる」

 

ファルコが、小さな箱を差し出した。

マナはそれを受け取り、しげしげと眺める。

 

「開けてみろ」

 

言われるまま蓋を開ける。

中には、華奢な銀のチェーンで繋がれたブレスレットが収められていた。

小さな八面体の青い石が三つ並び、光を受けるたび、オーロラのような淡い虹色を返している。

 

「……綺麗……」

 

思わず見とれていると、ファルコが照れたように視線を逸らして言った。

 

「……青、好きだろ」

 

「え?」

 

「浴衣も、あの時のドレスも青だったし……水着も青だった」

 

ファルコの言葉で、その場面を思い返す。

 

────ほんとだ。

 

何で私、青ばっかり。

以前から、決まった色ばかり選ぶような習慣はなかった。

けれど最近は、自然と青を選んでいる。

特に、グレートフォックスに来てからは。

そこまで考えて、マナはファルコを見る。

彼は鮮やかな青の羽を持っている。

 

────もしかして、ファルコの青を選んでた?

 

一人で考えを巡らせ、ころころと表情を変えるマナを、ファルコは訝しげに覗き込む。

 

「気に入らなかったか?」

 

「……! 違う違う! すごく綺麗だよ……! ファルコ、私が青選んでるって見てたんだね」

 

「……そりゃ、見るだろ……浴衣も、ドレスも似合ってたしな」

 

時間差で届いた褒め言葉が、思った以上に胸に刺さった。

あの時の自分を、ファルコはちゃんと見ていた。

そう思うだけで、鼓動が少し速くなる。

 

「やだ、時間差で褒めるのやめてよ」

 

照れ隠しにそんな言葉を言って、マナが笑う。

すると、ファルコもつられて笑った。

 

「そん時は、フォックス達もいたから言えなかっただけだ」

 

「……ファルコが私のために選んでくれて、嬉しい」

 

笑うファルコの横顔を、マナは真っ直ぐ見る。

ファルコもまた、その視線を受け止めた。

マナはブレスレットを箱から取り出し、彼に差し出す。

 

「つけてくれる?」

 

「あぁ……」

 

ファルコはマナの右手首に触れた瞬間、思っていたより細いことに気づく。

こんな細い腕で、ずっと自分たちについてきたのか。

そう思うと、胸の奥に妙な愛しさが込み上げた。

ファルコはそれをごまかすように、黙って留め具を掛けた。

 

「……ありがとう」

 

マナは手首で揺れる青い石をしばらく眺めたあと、嬉しそうにファルコを見上げた。

 

────ピッピッ。

 

ファルコの通信機が音を立てる。

 

『ファルコ、どこいるんだ? もうバーベキュー始めるぜ。マナも一緒か?』

 

フォックスの声がした。

 

「ああ。今から戻る」

 

それだけ短く答えて、通信を切った。

 

「……行かなきゃね」

 

「……そうだな」

 

もう少し、ここにいたい。

そんな空気を互いに感じながら、二人は席を立った。

ホテルへ続く大通りは、観光客でひどく混み合っていた。

 

「……待って、ファルコ」

 

前を歩くファルコを追いかけるが、小柄なマナはすぐに人の波に飲まれていく。

横から歩いてきた観光客を避けようと、一歩だけ進路をずらした。

 

「わっ……!」

 

その瞬間、足先が小さな段差を踏み外す。

身体がぐらりと傾き、咄嗟に何かを掴もうと手を伸ばした。

けれど、地面に倒れ込むより先に、強い腕が腰を抱き寄せた。

 

「危ねぇな」

 

気づけば、ファルコの胸元に身体を支えられていた。

 

「えへへ、ごめん……」

 

そのままファルコは、マナの腰あたりに手を回したまま歩き出す。

 

「……ファルコ」

 

「ん?」

 

「もう大丈夫だよ?」

 

「……嫌か?」

 

前を向いていたファルコが、マナを見る。

腰に置かれた手に、わずかに力がこもった。

 

「……ううん。そのままでいい……よ」

 

普段なら照れて離れていきそうなファルコが、今日は自分から距離を縮めてくる。

その事実が嬉しくて、胸の奥がじんわりと熱くなった。

マナは込み上げるものを隠すように、少しだけ俯いた。

 

ホテルに到着し、フォックス達の待つ食堂へ向かう。

人目のある場所まで来ると、ファルコは腰に回していた手をゆっくりと離した。

触れていた場所から温もりが消え、マナはほんの少しだけ寂しさを覚える。

 

「……ありがとう、ファルコ。付き合ってくれて。楽しかった」

 

「ああ、俺も楽しかった」

 

そう答えたあとも、二人はすぐには歩き出さなかった。

もう少しだけ、この時間が続けばいい。

そんな気持ちを口には出さないまま、しばらく視線を重ねる。

 

「……行こっか」

 

「……そうだな」

 

名残惜しさを振り切るように、二人は並んで食堂へ向かった。

 

「遅かったなー。どこ行ってたんだ?」

 

フォックスがすでに肉を焼きながら、二人を見る。

 

「お土産見たりしてたんだ! フォックス達のも買ってきたんだよー!」

 

「わー、なになに! あ、オイラの好きなお菓子じゃん!」

 

マナがスリッピーの目の前に袋を差し出す。

 

「あれ、マナちゃん。そんなブレスレット、さっきつけてなかったよね?」

 

「これは……ファルコに貰ったの!」

 

「えーー!!」

 

マナの言葉に、スリッピーは驚きのあまり仰け反った。

 

「お、おい! わざわざ言うなよ!」

 

ファルコは思わず声を上げる。

けれど、嬉しそうにブレスレットを見せるマナを横目にすると、それ以上強くは言えなかった。

むしろ、胸の奥には妙なくすぐったさが残る。

自分が選んだ物を、こんなにも嬉しそうにしている。

それが思っていた以上に、悪くなかった。

 

「ファルコ……珍しいこともあるもんだな。さっきまで何してたのか、詳しく聞こうか」

 

フォックスがニヤリと笑い、ファルコの肩に手を置いた。

 

「うるせぇ! 別に普通に買い物してただけだ!」

 

「普通の買い物でブレスレット贈るのか?」

 

「…………」

 

「図星だねー!」

 

「スリッピー、お前まで乗っかんな!」

 

「ほほ、若いのぅ……」

 

騒ぐ四人を眺めながら、ペッピーはただ目を細めて微笑んでいた。

その賑やかな空気の中で、ふとマナとファルコの視線が重なる。

マナが嬉しそうに手首のブレスレットを揺らすと、ファルコは照れくさそうに鼻を鳴らした。

けれど、その口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。

 

 

 




今回は少し甘めのお話でした。
ニヤニヤしながら読んでいただけたら嬉しいです(笑)
……幸せそうですね。
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