「さて、そろそろ準備できるぞ」
フォックスとスリッピーが朝食の準備をしている。 任務で忙しく、時間がない時はそれぞれ好きに食事をとるが、最近はメンバーが揃う時には食卓を囲むことが多くなった。
「なんか、みんなでご飯食べること多くなったよねー」
食器を出しながら、スリッピーがリビングに揃うメンバーに話しかける。
「そうだな……マナ君が来てから、手料理を振る舞ってくれる機会が増えたからのう」
「……まあ、美味いのは認めてやるよ。」
ファルコとペッピーは席に座り、コーヒーを飲んでいる。
「ははっ……本当にマナに胃袋掴まれてるなぁ、俺たち。さぁ食べよ……あれ? マナが来ないな」
フォックスがキッチンから出てきて、周りを見渡す。
「連日の訓練で疲れとるのかもしれんな」
「珍しいねー」
「……あいつ、いつもこの時間には来てんだろ。」
先日の初訓練から、任務の合間にも演習は続いていた。 さすがに疲れが溜まっているのかもしれない。
「様子を見に行ってみるか」
フォックスがリビングを出ようとする。
「……俺が行く。」
「「え?」」
スリッピーとフォックスが同時にファルコを振り返る。近くに座っているペッピーは、静かにファルコを見ていた。
「……なんだよ。」
予想外に浴びた視線から逃れるように、ファルコが目を逸らす。
「いつも叩き起こされてんだ。その借りを返してくるだけだ。」
みんなの視線から逃げるように席を立つ。
「ほほ、珍しいこともあるもんだ」
ペッピーが穏やかに笑った。
「……うるせぇな。行ってくる。」
リビングを出て、マナの自室の前に立つ。
「おい、もう朝飯の用意できてんぞ」
コンコンとドアを軽く叩く。
────反応がない。
「おい! 早く……」
再びノックしようとした拍子に、手がドア横の開閉パネルへ触れる。
────シュンッ
「…………カギ締めてねぇのか、こいつ。」
ドアの向こうに部屋主の姿はなく、ベッドにくるまっているマナが見えた。 部屋に踏み入るか迷ったが、意を決してベッドへと近づいていく。
「おい、早く起きろ。」
背を向けて眠るマナに声をかける。
「んー……あともう……ちょっと……」
ファルコの声に反応して、マナが寝返りを打ち、仰向けになる。 完全に無防備な寝顔があらわになった。
「……腑抜けた顔しやがって。」
いつもの笑っている顔や、真剣な表情で作業している姿とのギャップに、思わず口元が緩む。
「はぁ……おい、起きろって!」
手を伸ばし、肩を軽く揺らす。
「うん……おかぁ……さん」
マナはファルコの手に頬を擦り寄せ、その手を両手で抱きしめるようにした。
「……!! お、おいっ!! 俺は母親じゃねぇ!!」
突然の接触に動揺し、ファルコは慌てて手を引っ込める。
「うっ……ん? あれ、ファルコ……?」
彼の大声と手を引く動きで、ようやく目を覚ましたマナ。 そこには視線を泳がせ、明らかに焦っているファルコがいた。
「はっ……早くリビング来い! 朝飯冷めちまうぞっ!!」
また大声でマナに告げると、足早に部屋を出て行った。
「……? どうしたんだろ? あ、もうこんな時間」
ファルコの動揺も知らず、マナはマイペースに準備を始めた。
「……あ、私カギ……閉め忘れたんだぁ……。」
眠い頭で、先ほどの状況をなんとなく整理する。
「ファルコ……起こしに来てくれたんだ。いつも私が起こしてるからかな?」
お返しかな? と思うと、少し嬉しくなった。
「ん? でも……寝顔見られた?」
ちょっと気になったが、まぁいいかと流し、リビングへ向かった。
「みんなごめん! 寝坊しちゃったよー。」
パタパタと小走りで、マナがリビングに姿を見せる。
「大丈夫? マナちゃん?」
スリッピーがマナの分の食事を並べる。
「ちょっと根を詰めて特訓しすぎたかのぉ?」
ファルコの隣が空いていたため、マナはそこへ腰を下ろす。
「問題ないよ! みんなも忙しいのに、付き合ってくれてありがとう。」
「あまり無理はするなよ、マナ。ゆっくりでいいんだ。」
フォックスは一度、特訓のスケジュールを緩めようとしたが、マナ本人の希望もあって連日の演習が続いていた。 それでもよくついてきていると、彼は感心していた。
「うん、フォックス。本当にしんどい時は相談するね。」
フォックスを安心させるように笑いかけると、隣にいるファルコを見た。
「ファルコ、さっきは起こしに来てくれてありがとう。」
「……お、おう……。」
視線が合わない。
「ファルコ?」
顔を覗き込もうとすると、ファルコはぐーっと体ごと反対側へ逸らしてしまう。
「……変なファルコ。」
怪訝そうな顔をして、マナは食事を続ける。
「さっき何かあったのかな?」
コソコソとスリッピーがペッピーに耳打ちする。
「……んー、ワシは120%何かあったと予測する。」
「何かってなんだよ」
二人の会話が聞こえたフォックスが、同じように小声で入ってくる。
「……もう、フォックスってそういうことには鈍感だよねぇ」
ぷくくと笑いを堪えながら、スリッピーが腹を押さえる。
「まあ、二人を見ていればそのうち分かる。」
ペッピーは顔を綻ばせながら、二人を眺めた。
*
夕方になり、今日の任務を終えた四人が帰ってきた。
「おかえりー! お疲れ様!」
「ああ、マナ。ただいま。」
フォックスを見ると、手には大きな袋を提げていた。
「それなに?」
「新作のボードゲームさ! 明日も任務はあるが、夜からだからな。今日は楽しもう!」
「ピザも買ってきたよー!」
横からスリッピーが顔を出し、両手に抱えたピザの箱を見せる。
「最高! めちゃ楽しみー!」
「はっ! お前には負けねぇぞ。」
さらに後ろにいたファルコが、マナに声をかける。
「どうかな〜? ボドゲは結構強いよ、私」
挑発してくるファルコに、ニヤリと悪い笑みを浮かべてみせる。
「ほう。マナ君の知略の見せどころだの!」
程なくして、ゲーム大会が幕を開けた。
「よし、ペッピーをスキップして俺のターンだ!」
「何っ! やりおるのぉ、フォックスー。」
テーブルの上にカードが叩きつけられる。
「よし、オイラもここで駒を進める!」
「おい、スリッピー! それは反則だろ!」
「ズルじゃないよ!」
スリッピーがゲームマニュアルを広げ、ファルコに抗議する。
マナとスリッピー以外には酒も入り、場はかなり白熱していた。
「次は私の番だねー!」
手元のカードを眺める。 そこで、少し酔いの回ったフォックスが声を上げた。
「ただ勝敗を決めるだけじゃつまらない。勝者には俺からお小遣いをやろう!」
「こらフォックス! 無駄遣いするんじゃない!」
すかさずペッピーが窘める。
「いいじゃねーか! このまま俺の勝ち逃げだな!」
「わーい! お小遣い、オイラも欲しい!」
現在の戦況はほぼ拮抗している。 ファルコが頭ひとつリードしている程度だ。 ならば、マナが出すカードは決まっていた。
「ふふ……この勝負、もらったよ。」
一枚のカードを引き、頭上に掲げる。
「いでよ! 大災害っ!!」
叫んだ瞬間、四人の顔が驚きに変わる。
「いちばん強いカードじゃねーかっ!」
「でも、使うには難しい条件が……えーっ!! 満たしてるよぉ!」
驚くファルコの横で、スリッピーがゲームマニュアルを慌ててめくる。
「マナ君には運も味方しとるか。」
「やるなぁ、マナ。条件が揃うまで待っていたのか。」
感心した様子でマナを見る二人。
「このカードの効果は、全員に多額の借金を負わせ……そして! 今一位のプレイヤーの全財産をすべて没収だよ!」
ファルコをビシッと指さし、狙いを定める。
「なにー!? むちゃくちゃすぎるだろ!」
「はいはい、全部よこしてくださーい♪」
ザザーッとファルコのチップをすべて掻っ攫う。
その勝負はマナの圧勝に終わり、フォックスのお小遣いは彼女がもらうことになった。
「……くそっ!」
ファルコはマナの罠にかかり、最下位となった。 コップに残っていた酒をグッと飲み干し、少し据わった目をマナに向ける。
「もう一回だ! 勝負しろ!!」
「いいよぉ? 私に勝てるかなぁ?」
普段の訓練では挑発されっぱなしで勝てないが、ボードゲームなら別だ。 ここぞとばかりに言い返す。
「ほほう? いい度胸じゃねぇか。俺に喧嘩売るとはな!」
ファルコが身を乗り出し、睨み返してくる。
「いいじゃないか、俺もとことん付き合うぞ! マナ、今度は負けないぜっ!」
「いえーい! オイラもガンガンいくよー!」
フォックスがグラスに酒を注ぎ足し、スリッピーもピザやお菓子を追加で運び込んでくる。
「コラコラ、お前たち。明日は任務だぞ……。」
窘めながらも、ペッピーは優しく笑っていた。
グレートフォックスの夜は、更けていった。
本作品はフォレストページ+にも同一作者名義で掲載しています。
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