何やら神に喧嘩を売った雪国に転生したらしい 作:てきとーでいこう
とある部屋で俺はファデュイの中でも超重要な人物と一対一で面会していた。
その部屋は俺が借りているボロボロの宿ではなく豪華な装飾がされており、それでいてどこか質素さも感じる部屋だった。
「飲み物は紅茶でもいいか?」
「え、あっはい」
この世界で体感したことのないフワフワのソファに座っていると突如としてそう言われ反射的にそう返す。
というかこの男を知っている人間が質問にNOと簡単に返せるわけがない。
俺が相対しているのはファデュイ執行官第一位【隊長】、カピターノその人なのだから。
まさかあの時そのまま執務室まで連れてこられるとは思っても見なかった。
途中で部下らしき人が聞いても
「近頃活性化している魔物についての事情聴取」
だと説明していた。
中にはそんなことをあなたにやらせるわけには、と具申する配下もいたが「遠征明けで疲れているだろうから休んでおけ」といって返していた。
いい男すぎないかこいつ。
今回に関しては方便だけどそれを聞いて素直に引き下がるくらいには部下に対してそういうことをしているのだろう。
さすがナタの魔神任務で登場するたびに株が上がっていた男。
そんなことを思いながら隊長を目で追っていると何やらその手にはティーカップがあった。
「これはお茶会好きの俺の同僚から貰ったものでね。美味しいと評判だ」
「……ありがとうございます。……うまっ」
「だろう?」
匂いも変じゃなかったし、用意してくれたのに飲まないのは失礼だろうと思い飲むとめちゃくちゃ美味かった。
さすがサンドローネ。
そういえば今はコロンビーナもいるんだろうか。
多分いるんだろうな。
苦労してそう。
「さて、本題に入ろう。先ほど部下には魔物についての聞き取りと説明したがそれは建前だと君もわかっているだろう」
「……」
「単刀直入に言おう。なぜ2つの神の目を持っている」
「……っ!」
隊長の言葉に臨戦態勢をとる。
勝てないとはわかっている。
……けど、既にこの現状がバレてるんだ。
はい、そうですといってファデュイに捕まるわけにはいかない。
邪眼なんてものを使っているファデュイにとって2元素扱える俺は格好の実験材料だ。
(いつ攻撃が来る……?)
そう身構えていたが目の前の隊長からは攻撃する気配を一切感じない。
「ちゃんとその危険性を理解しているようで何よりだ」
「……捕まえないんですか?」
「もうすでに捕まえているようなものだ」
「……」
「実力差も理解している……か。ファデュイに欲しい人材だな。君なら執行官候補にもなれるだろう」
「……危険性だとか言ってる時点でそんな選択肢があり得ないとわかっているでしょうに……」
2元素を操れる。
これがどれだけの出来事か。
旅人ならばまだ降臨者として納得できる。
けど俺は降臨者じゃない。
……いや、俺も降臨者なのか?
転生というまた別のアプローチでこの世界に降臨した存在ではある。
だから旅人のように複数元素を扱えるのか?
クソ、わからないことだらけだ。
ただこの現状、この力が危ないってことだけはわかる。
下手したら暴走、そして外部からの干渉。
便利に使ってたけどそのリスクがあまりにもデカすぎる。
なんでこんな力持っちまったんだよ……
まぁそんな力をバラしちゃった俺も問題ではあるのだが。
沈黙で満たされる部屋。
この状況で最初に口を開いたのは隊長だった。
「まぁ座れ。別に俺はお前を研究者に引き渡そうとなんて考えていない。そうするならばわざわざ話す必要もないだろう」
「……なら、話したいことってのはなんなんです?」
ソファに再び座り、続きを待つ。
「俺はお前が危ないと思っている」
「俺はそこまで強くないと思いますけど?」
「まともな訓練を受けてないのだから当然だ。その状態であの魔物相手に生き延び、足止めにも成功した。アイデアと機転、応用ができる時点でお前は十分脅威だ」
「……一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ」
気になっていたことがある。
いつばれたのかだ。
ナタの魔神任務で見せた超射程で俺のことがバレていたのならばもう諦めるしかないが俺は氷元素を表立って使用してないはずだ。
「なんで2元素持っているってわかったんですか?」
「お前を初めて見た時、あの移動スピードは明らかにおかしいと思ってな。馬鹿げた考えだと思いながらも可能性としては考えていた」
「……あのファデュイの行軍か」
つまりたった一度見られただけでバレたわけか。
しかも半日くらいしか経っていないというのにここまで。
「2つの元素という時点でおかしい話だ。むしろそれを信じて確かめた俺の方がおかしい」
「熊と対峙してたとき見てたんですか?」
「スレトモロスクから『少女が魔物に襲われているかもしれない』と通報があってな。そこで君とその少女が繋がった。馬鹿げた話だと思ったが事実だと大事だからな。一応確認しにいった結果がこれだ」
あの街の人たち通報してくれててんだ。
俺のこと、多少は心配してくれてたんだ。
嬉しい。
けどこうやってバレたからなんか素直に喜べない。
ごめん、スレトモロスクのみんな。
「それで俺をどうする気ですか? わざわざここまで連れてきたあたり何かあるんでしょう?」
「ああ。君は今の状態では危険だ。暴走のリスクもあるし外部から襲われる可能性もある。だから鍛えることにした」
「え?」
「鍛えて強くなることで元素の制御も、襲われた時の対処もしやすくなる。一石二鳥だろう」
「……ちなみに誰が?」
「他の奴にバラすわけにもいかないからな。俺がやる」
え、は?
隊長が俺を鍛える?
いや、理屈はわかるよ?
俺を鍛えて強くなればその過程で元素の制御もできるようになるし襲われても大丈夫って寸法だろ?
んで、2元素持ちって他人にバラすわけにもいかないから今知っている2人の間でどうにかするしかないということだろ?
わかる、わかるんだけどさ。
ちょっとインパクトが強すぎるって……
「あなたって執行官第一位なんですよね? そんな暇あるんですか?」
「作る。お前を放置する方が危険だ」
おぉ、断言しちまったよ。
まぁこっちとしてはありがたいから文句はないけど。
「わかりました。お願いします」
「場所はこの地図のここの洞窟だ。かつてファデュイの基地があった場所だ。今は放棄されているが多少の設備はある」
「ファデュイが来たりは?」
「ないな。あそこに再び行く理由はない。資料や物資も全て運んでいる」
ま、そりゃ一般人である俺が行くのに重要な情報や物が置いてあるとこを選ぶわけないか。
「毎週一日ここで訓練をする」
「それだけですか?」
「長く離れていたら疑われるだろう。時刻は深夜だ」
「わかりました」
その後も細かい打ち合わせをして俺は返された。
なにやらとんでもないことになったぞ。
……隊長の訓練か。
とんでもなさそうだ。
◇
隊長との面会と訓練の約束をしてから数年。
「隊長の訓練エグい……」
予想通りというべきか炎神マーヴィカと体力がだいぶ落ちてる状況でまともにやりあえる隊長の訓練はやばかった。
まずは体力と称して無限に走り込み、筋トレ。
そして隊長から剣術を叩き込まれている。
なんだよあれ。
早すぎて剣筋見えないんだって。
それに風元素あるなら空中戦も行けるようになるだって?
風元素もなくアビスと氷元素で空飛んでるアンタが意味わからないんだって!
そりゃ、風元素で重量の負担を軽くしたり、素早く振り回したりできるようにはなったけどさ。
それでもまだ剣のスピード追いつかないんだけど。
深夜の訓練で疲れすぎて次の日の配達できなくなっちゃったし。
毎日の新聞配達だけだと訓練で毎回死ぬから自然とトレーニングするようになったしな……
その甲斐もあって制御もだいぶ上達したが。
「氷の弾丸を風で飛ばす。そしてそれによって付着した氷元素と風元素で星拡散反応によるダメージ……やっぱこの組み合わせやばいな」
手に持っているショットガンを見ながらそう呟く。
俺の氷元素と風元素の加速に耐えられるように頑丈に作られている。
威力とスピードは元素でどうとでもなるからだ。
隊長がファデュイの武器の試作と称して作ってくれた。
もちろん、費用は俺もちだが。
ファデュイお気に入りの職人が作ってくれるのなら安いもんだろう。
俺じゃ絶対無理だしな。
「氷元素も風元素も鍛えられたもんだな」
氷元素で氷を剣や銃弾のような形に形成する。
氷を足下に使っての高速移動と足場、そして固定。
無論、大きな氷も出せる。
風元素で自身や弾の加速。
姿勢制御に弾道補正、重量軽減、風を利用した探知。
流石に空は飛べないが壁を走ったりはできるようになってしまった。
もはや一般人ではない。
なんだこれ。
これが隊長トレーニングの効果ですか?
ヤバすぎるだろ。
というより風の拡張性がヤバすぎる。
擬似的なレーダーみたいなのできるんだもんな。
あの熊野郎のときも意外と行けたし。
訓練でも少しずつだが並列発動をできるようになっていって今じゃあのとき頭が痛くなったレベルのことじゃ問題ない。
やっぱ制御できるようになると脳の負担が段違いに減る。
あの制御が甘いときにあんなマルチタスクやったらそりゃ頭がおかしくなるわ。
最近は隊長が模擬試合をやり始めて余計に疲れる。
比べる対象が隊長しかいなくて自分の実力を客観視できないから聞いてみたら
「戦闘力なら執行官レベルだ」
と返された。
そうは言われてもよくわからんのよな。
執行官の戦闘力って結構差がある気がするし。
単純にプレイアブル化したバージョンの違い、インフレの影響で性能変わっていたりするからそこの感覚も混ざってるのかもしれないけど。
まぁ一般人よりは強いってことはわかった。
並のファデュイならば勝てるだろう。
……もう新聞配達をやめてもいいかもしれない。
前は魔物もとかに勝てないのと高速移動しか取り柄がなかったから配達を選んだけど今じゃある程度の相手には勝てるし隊長から技術もいろいろ教わったからな。
一度ファデュイ全員隊長からの指導を受けるべきでは?
そしたら多分最強だぞ。
まぁそんな暇ないだろうし俺の場合が特殊すぎたんだろうけど。
そんな普通に考えながら日々を過ごしていると隊長にナタに遠征に行くと言われた。
まず間違いなく魔神任務のやつだろう。
ここで隊長は死ぬ。
それは原神というゲームをプレイしていたから知っている。
それが隊長の望みであり、それによって炎神が救われるということも。
だけど、こうして長年関わってきた身としてはそれは簡単には受け入れられない。
「何をそんなに怯えている」
「怯えているわけじゃ……」
「お前は俺にまだ隠していることがあるのだろう。そしてそれが俺に関わっている」
バレてる。
いや、考えてみれば当然か。
相手はあの【隊長】だぞ。
俺程度じゃ誤魔化せるわけもない。
「言わなくていい。誰にも秘密にしていることがある。お前にも、俺にもだ」
「……」
「だが、そうだな。一つ言っておこう。俺は死にに行くのではない。約束を遂げにいくのだ」
隊長の覚悟は固い。
500年間全てをそのために捧げるほどだ。
今更俺が言っても意味はない。
それは隊長の覚悟を、思いを踏み躙ることになる。
ならば俺にできるのは一つ。
「隊長……いや、カピターノさん」
「なんだ」
「幸運を」
「ああ」
敬礼を通してその背中を押すことだけだ。
後日、隊長の訃報が届いた。
隊長は成し遂げたんだ、その目的を。
やはりすごい人だ。
ナタが終わり、ナド•クライが始まる。
スネージナヤが始まるまで、もう少し。
隊長の出番はここでおしまいです。
出番が短い理由は作者が隊長のカッコよさを損ねたくなかったから。