何やら神に喧嘩を売った雪国に転生したらしい 作:てきとーでいこう
スネージナヤへようこそ
その日、俺はいつも通り狩りに出ていた。
いつもならアリョーシャもいるのだがここ最近何やら用があるらしく狩りに出ていない。
ずっと列車の搬入を見張っていた。
とはいえその目的は結構わかりやすいが。
魔物の影響でまともに都市間の移動ができないスレトモロスクにおいて列車が運ぶものなんてクルースニク晶鉱しかない。
まぁ間違いなくシシュキンたちのことを調べているんだろうな。
それで値段が安くなったら願ったり叶ったりだ。
是非ともがんばってもらいたい。
そんなことを考えながら狩りを終えて自分の家でくつろいでいる時のことだった。
ズドンッ!
「……雪崩……じゃないな」
突如として大きな音が街に響く。
近くに崖があるこの街では雪崩なんてしょっちゅう起こっているため他の人たちもみんなそれだと考えているようだがここ数年毎日森で過ごしていた俺にはわかる。
あれは雪崩じゃない。
何かしら大きな物が落っこちたようだ。
とはいえ魔物のような危険な者じゃないっぽい。
ヤバそうな気配も感じないしな。
……まぁいいか。
危険じゃないのならば放っておいても問題ない。
こっちから変に首を突っ込むと面倒なことになるからな。
なんて思いながら部屋のベットでしばらくゴロゴロしていると扉をノックされる。
「おい、プリシェレ入るぞ」
「ん? いいぞ」
急にアリョーシャが訪ねてくるなんて珍しいななんて思いながら返事をすると扉が開く。
そしてそこには……
「え?」
「こいつ宿ないらしくてな。男の俺より女のお前の方が何かと便利だろ。泊めてやってくれないか?」
「頼むぜ! 外は寒くて凍えそうなんだ」
「こんにちは」
アリョーシャの隣にいるのはぷかぷかと空中に浮いている白い生物とこの雪国には絶対会わない明らかに寒そうな服を着た少女。
とどのつまり
やっときたから嬉しいは嬉しいんだけど……
うん、面倒ごとが向こうからやってきた。
まぁいい。
どうせテイワットの七国は全部面倒な問題を抱えているからな。
それはここスネージナヤも例外ではない。
厄介ごとになるのは確定しているのだ。
その突破口が向こうからやってきたと考えればスネージナヤに住んでいる俺にとっては得でしかない。
そういうことにしよう。
「……どうしたんだ? 黙って」
「やっぱり無理そう?」
声に気付き2人を見ると不安げな様子でこちらを見ている。
放置しすぎたな。
申し訳ない。
「あぁすまん。考え事をしていてな。俺はプリシェレ、よろしくな。それで宿泊についてだが……問題ない、ここを使ってくれ」
確かここに……あった。
万が一壊れた時用に買っておいた予備のベットである。
既にこの世界での生活になれたとはいえ前世で快適な睡眠生活を送っていた身としては睡眠器具はちゃんとしたものを常に使いたいのだ。
リビングは多少狭くなるが仕方ない。
「予備としていろいろ準備してるしな。ベッドも使ってくれて構わない。俺は基本奥の自室にいるし朝に全部終わらせるからな」
「朝に全部ってことはプリシェレもアリョーシャと同じ狩人なのか?」
「そうだな。とはいえコイツは最近狩りに行ってないけど」
「調べ物があるだけだ。今日でケリをつける」
「へぇ?」
ってことはもう事前情報は十分ってわけだ。
後は決定的証拠ってわけね。
「どうしたんだ?」
「コイツが言ってなかったか? 現在はエネルギー不足で列車が来なくてここから出られないってな」
「お前はいけるだろ」
「バカ言え。平常時ならともかくどこぞの魔物のせいで吹雪が強まってる今じゃ無理だ。そこばかりは女皇陛下になんとかしてもらわなきゃな」
その魔物のせいでクルースニク晶鉱の値段も上がってるからほんと困る。
おかげで他の街に行けないからな。
まぁ、ここスレトモロスクに関しては何やら事情が少し違いそうだが。
「……悪い旅人、話し込んでた。とはいっても駅がどうにかなったとしても列車がここにあるわけじゃないからな。すぐに出発するのは無理だ」
「実は……自分の列車があるんだ」
アリョーシャの言葉に少女はそう答える。
それに対してアリョーシャが驚いたように言う。
「……なんだと? まさか……突然落ちて来て、氷の上に激突したあの列車がそうなのか?」
「少し前の大きな音はなんだと思ったが列車だったのか。音の方角的に森の奥だろ? 放棄された駅とレールがあったのは知ってたが列車まであるとはな」
俺ももう少し探索してたら列車見つかってたか?
いや、あったとしてもメンテナンスとかがかかるだろうし俺じゃうまく使えないだろう。
列車に関する知識なんてなんもないし。
「なんだプリシェレ、あの駅のこと知ってたのか?」
「ん? ああ。数年前に見つけてな。万が一の時の避難場所として活用できるように少しずつ整備してたんだ」
「あれのおかげでオイラは助かったんだ。ありがとな!」
「そりゃどうも。整備した側としてはそう言われると嬉しいよ」
俺がそんなふうにパイモンと会話していると「そういえば」と旅人が質問してきた。
「プリシェレは【道化】と関わりがあるの?」
「は?」
「なに?」
旅人の言葉に場が一瞬静まり返る。
ちょ、ちょっと待て。
【道化】?
それって執行官の統括官だろ?
なんでそんなやつが急に出てくるんだ?
「おい、アリョーシャ。その疑いの目をやめろ。俺も困惑してるんだ」
「……そもそもなんでそんな話が出てきたんだ?」
「あの駅でオイラは【道化】に助けてもらったんだ」
「それで駅の整備をした俺と関わりがあるんじゃないかって話か。ハッキリ言えばこっちもわからないってのが結論だな。そもそも統括官様に接点がない。あの駅を知っていてそこにいたことには驚きだがな。……いつ来たんだ?」
【隊長】と俺は関わりがあるから【隊長】経由で【道化】に報告が入っている可能性はあるが……
いや、確実に入ってるな。
こんな重要案件上層部に報告しないわけには行かないだろうし。
その上で【道化】たちからは全くもって干渉はないし多分今回の件は偶然だな。
この出来事をただの偶然として処理したくはないがそれ以外可能性が思いつかないし……
いや、俺を遠回しに監視している可能性はあるか。
「どうしたんだ?」
「……なんで【道化】があの駅のことを知っていたのかってな。ちょっと考えてたんだ。まぁそこはいいだろ。話が脱線してるぞ」
「そうだな。話を戻そう。ともかく列車があるんだな? だとすると話は変わる。案外本当にスネージナヤ・グラードへ行けるかもな」
「本当?」
「ああ。ここ周辺の調査をしていたとき、一部の晶鉱が盗まれていることに気づいた。ここのエネルギーが足りてないのはそのせいだ」
「それがさっきアリョーシャが話してた調べ物なのか」
パイモンが納得したように頷く。
「確かケリをつけるっていってたな」
「ああ、〝うさぎ狩り〟を始める」
「え? うさぎが盗んだってことか?」
パイモンの言葉をそのまんま受け取った感想に苦笑いしながら「ものの例えだ」とアリョーシャは言う。
「犯人の目星はついてるの?」
「ああ。一見態度の良かった──さっき場を収めたシシュキンだ」
「あいつが!?」
パイモンの驚愕の言葉とは裏腹に旅人はそこまで動揺していない。
まぁそりゃそうだよな。
見ててちょっと胡散臭いなとは思ってたんだ。
ここに長年住んでいる俺と違ってここにきたばかりの旅人がわかるのはずっと旅をしている者の嗅覚ってやつなのかもな。
そこは狩人の勘とかと似たようなものか。
「手伝うよ。今すぐ行こう」
「あんたも来るのか?」
「この件を解決すれば、駅が元通りになってスネージナヤ・グラードに行けるんでしょ?」
「じゃ、じゃあオイラも……」
それに対した旅人は待ったをかける。
何やらパイモンは今具合が悪いらしい。
確かに画面で見てた時より元気ないなとは思ってたが体調を崩してたのか。
こいつって体調崩すんだな……ずっと元気だからそんなものとは無縁だと思ってた。
「だったら俺がここで見ておこうか? 1人にするのは不安だろ」
「いいの?」
「流石にこの状況でじゃあ頑張れよ、と放っておくほど俺は人の心を捨ててねぇよ。旅人の連れなんだろ? せっかくだ、旅のあれこれを聞かせてもらうとしよう」
「無理するのも良くないよな。オイラは2人が帰ってくるのを待ってるぜ……気をつけるんだぞ。プリシェレには旅の話をたくさん聞かせてやるからな!」
「ああ、頼むよ」
パイモンに言葉を返しながら「行ってこい」と2人に視線を送る。
これで問題はないし、さっそく2人は出かけていくのかと思ったのだが……
「そういや、まだ紹介してなかったな……トゥガリン、来い」
「ワン! ワン!」
アリョーシャの合図に外にいたトゥガリンが中に入ってくる。
それを見たパイモンは「ワンちゃんだ」と声をあげる。
そしてそのまま触ろうとしたが吠えられてしまった。
「気位の高いやつなんだ。普段から一緒に狩りをしてる。今回も手伝ってもらうから、よろしく頼む」
「よろしくね」
旅人はトゥガリンに触れず、手を振って挨拶をした。
こういうところが好かれる要因なんだろうな。
「〝ニンジン〟を堀り起こす作業は、こっそり進めるぞ──バレたらウサギが穴ぐらに逃げ込んでしまう」
「相変わらず言葉がわかりにくい」
「うるさいぞ。まずは封鎖された駅に向かって、輸送データがないか調べてみよう。シシュキンの持っているデータは信用できない。あとは、トゥガリンの鼻を頼りに晶鉱の運搬ルート──」
そこまで言ったとき、アリョーシャは何やら食べているトゥガリンに気づく。
「……なに食べてる」
「こいつにとっての〝ニンジン〟は干し肉みたいだな!」
「お前相変わらずよく食うな。最近会ってなかったからな。もっと食ってもいいぞ。在庫はあるからな」
「ワンワンワン──」
「よしよし、おりこうさんだな」
ふと横を見るとトゥガリン相手にパイモンが頭を撫でている。
何かあの空間、めっちゃ良くないか?
スクショしたい。
けどないので脳内保存だな、これは。
「あんたも犬が好きなんだな」
「おう。それに、ウサギもニンジンも大好きだぞ」
「そうか……トゥガリン、腹いっぱい食ったらしっかり手伝うんだぞ」
「今度すぐに餌付けされなうように訓練しといた方がいいんじゃないか?」
「余計なお世話だ」
その会話を最後に、2人は証拠を集めに出掛けていった。
「さて、2人になったわけだし旅の話をしてやろうか?」
「まぁ、それもいいんだけどな。パイモンだったな、お前大丈夫か?」
「体調のことか? 元気! とは言えないけどそこまで悪くはないぞ」
パイモンはふんす、と言いながら体を張る。
体調のこともそりゃ気になるが、俺が今1番気にしてるのは……
「違う、精神状態だ。旅人の役に立ちたいんだろ?」
「っ! そう簡単にわかるもんなのか?」
「一応前は空気に敏感な場所にいたもんでな。後はお前がわかりやすい」
「会ってすぐの人にバレるほどにか!?」
驚くほどに雰囲気がどんよりしてたしな。
普通にわかるぞ。
「旅人の負担になっていないか不安なんだろ? それで役に立ちたいと思ってる。けど今回は体調が悪いから余計に負担をかけてる。そんなところか?」
「な、なんでそんなにバレるんだ!? エスパーなのか!?」
「言っただろ、わかりやすいって。まぁ、そんなお前に言えることはあんまないんだけどな」
「いやないのかよ! 今のは流れ的に何かアドバイスくれるところじゃないか?」
「だって俺はお前らの旅について全くと言っていいほど知らないからな。最近、なんなら数十分前に出会ったやつに『そう落ち込むな』なんて言われてもなんも響かないだろ? 俺ならお前に何がわかる、って内心逆ギレするね」
「お前だいぶすごいやつだな……」
俺の言葉にパイモンが驚いたような呆れたような表情を浮かべながらそう言う。
ま、純粋なパイモンならそんなこと思わないだろうけどな。
俺はお前にみたいにそこまで純粋じゃないから普通に思っちまうんだよ。
「そんな焦んなくていいんじゃないか? と、俺は思うけどな。人は結構打算的だぜ? 俺は旅人のことをよく知らないが100%善意で旅に付き添わせるようなことは流石にしないだろ。間違いなく役に立ってるぜ」
「そう……なのか? でもオイラ戦いじゃ全く役に立たないし……」
「役に立つってのは戦闘に関することだけじゃないぞ?」
「そうなのか?」
そりゃそうだろ。
俺が今から1人で旅をしろ、と言われても無理だぞ。
そんな勇気はないし、気概もない。
「旅ってのは結構辛いもんだぞ。理不尽な目に何度だってあうし一人旅の場合は寂しいもんだろう。そこに信頼できる仲間がいる、気分が沈んだ時に励ましてくれる仲間がいる。それだけで人は何倍も強くなるもんだ。俺は旅をしたこと自体はないが、1人でいることは多少経験があってな。気持ちはわかる」
「……わ、悪いな。変なこと聞いちゃって」
どこかで言葉が沈んでしまったのだろう。
パイモンが申し訳なさそうに謝ってきた。
「悪い、こんな空気にするつもりじゃなかったんだ。ともかく、俺的にはお前らはいいコンビだと思うぞ? 人間関係の構築、なんかもパイモンがいることでスムーズになってるだろうしな。会話が弾むってだけで旅は楽しくなるもんだ。辛い旅より楽しい旅のほうがいいに決まってるだろ?」
「……そっか、ありがとな。少しは楽になった気がする」
「いいってことよ。俺の方こそ悪かったな。会ったばっかりなのにこんな言っちまって」
「いいんだ、オイラも助かったからな。お礼にとっておきの旅の話をしてやるよ」
「待ってたぜ。かの旅人の旅は一体どんなものなのか気になっててな」
そこから俺とパイモンは2人が帰ってくるまで会話を楽しんだのだった。