それはもうどうしようもなく理不尽で、圧倒的な力を持つ兄が。
「貴方は…誰、ですか?」
久しぶりに祖国に帰ってきたら、顔面のっぺらぼうの明らかにヤバい不審者に話しかけられたんだけどぉ?
アンタ誰やねん!?
素朴な疑問だけどさ、目とか鼻ってどうやったら失くせるんですかね?
「ふふっ…キミのことは調べさせてもらったよ、
「はぁ…。ボクを貴方のことをなんにも知らないので、ストーカーってことで通報させてもらってもいいですか?」
いやぁ、ボクもストーカーが出てくるほどには有名になってきたんだ。
誇らしい気持ちもありはするけど、それ以上にストーカーができるということが有名になった証明っていうのがちょっとばかり悲しいや。
「通報するのは少し待ってくれないかな?でないと、キミの弟…緑谷出久くんがどうなってしまうことか…。」
「えっと…そんな丸わかりの嘘をついて、なにが楽しいんですか?もしかしてそう簡単には、見抜かれないとでも思ってました?それなら申し訳ないことをしちゃいましたね。」
こんなバレバレの嘘をつかれたら、嫌でも分かってしまうだろうに。
なんかニヤニヤしてるけど、暴かれたい願望みたいなのがあるのだろうか?
誰が見たとしても疑いようのない変態だね。
「どうして僕の言葉が嘘だと…?」
「どうしてって言われても…分かるからとしか言いようがなくないですよ。1足す1が2であると誰もが分かっているのと同じように、分かるのがごく普通で当たり前のことですし。」
「ごく普通で当たり前⋯そうかい。どうやらキミは、僕にもない素晴らしい才能を持っているみたいだ。どうだい?僕の仲間にならないかな?そうすればキミの持つその才能がもっと有意義なことに使えるよ。」
今度は勧誘をされたんだけど。
もしかしてアレかな?
秘密結社のボスに成り切るロールプレイごっこでもしてるのかな?
「んー⋯その勧誘がごっこ遊びでもそうじゃないとしても、申し訳ありませんが仲間になるのはなしですかねぇ。ボクの才能はボクがやりたいように扱ってこそ、最も有意義と言えますから。人に教えられたことに使うのは、残念ながら有意義とは思えません。」
それにしても…この人のこと、どこかで見た気がするんだよねぇ。
なんだったかなぁ…?
たしか、テレビでオールマイトと戦ってた人と似てるような……あっ!!
「それは残念だ。せっかく素晴らしい提案ができたと思ったんだけど。」
「もしかして貴方、オール・フォー・ワンって呼び名を持っていたりしますか?」
「おや。やっと気づいてくれたみたいだね。僕の知名度もまだまだ捨てたものじゃないらしい。」
うわぁ、マジか。
日本をめちゃくちゃに蹂躙した、悪の親玉じゃん。
漫画とかだったら、ラスボスとして描かれるようなヤツじゃん。
ボクってば、なんでそんなヤバい人に目をつけられちゃったんだろう?
出久が雄英高校のヒーロー科にいるらしいし、それが理由かな?
「僕がオール・フォー・ワンだと知った上で、キミはどういう行動を取るんだい?」
「んー…そうですね。出久が貴方のことを倒さなきゃいけないと言っていたので、そのお膳立てをしてあげることにします。」
「ぶべらっ!?」
なんの予備動作も見せることなく、ボクは腕に武装色の覇気を纏わせて、思いっきりオール・フォー・ワンのことを殴り飛ばす。
「あぁでも安心してください…殺すつもりはないので。せいぜい腕を一本くらいもらってくだけですから。」
ボクが殺してしまったら、この国のヒーローたちの立つ瀬がなくなってしまうだろう?
だからボクがやるのは、このラスボスのっぺらぼうのことを倒しやすいように弱らせるだけ。
久しぶりの戦いだけど、苦もなくできるだろう。
だってこのラスボスさんは、ボクよりも格下なのだから。
「抵抗するつもりがないというのなら、四肢の骨を木っ端微塵にするのでも良いですよ?どうなりたいのかは、自身の行動で示してくださいね。」
オール・フォー・ワンさん…貴方が、少しは楽しめる相手であることを願っていますよ。
×××✚×××
オール・フォー・ワンがその青年に近づこうと思ったのは、単なる気まぐれだった。
緑谷出久に対するカードになりうるかもしれない存在がいると知り、しかもその存在はちょうど日本に帰ってこようとしている。
それゆえにどんな存在なのか、こちらに引き込むことができないのか。
そんなことを、なんとなく思ったのだ。
だから接触した。
まさかこんな目に遭うとは、その時は少しも想像していなかったわけなのだけど。
超スピードで放たれてくる小石を、ギリギリまで神経を研ぎ澄まして避ける。
避けて、避けて、避けて、避けて。
そして────いつの間にか眼前に迫っていた零羅の黒く染まった腕に殴られ、勢いよく地面に叩きつけられる。
この戦いだけで何度こんな目に遭ったのかはわからない。
数えようとするのもバカらしくなるほどにやられたことは明白だが。
「そろそろ殴り合いも飽きちゃったな。さっさと腕をもぎ取って、出久のところに行こっか。」
オール・フォー・ワンはふざけるなと叫びたくなった。
殴り合いと零羅は言っているが、その実態はオール・フォー・ワンを一方的に蹂躙しているだけ。
こちらが殴ることは、一度足りともできていない。
だというのに、実にめんどくさそうな雰囲気でそう言う零羅が、彼のプライドを大きく刺激した。
「おつかい気分で僕の…魔王の腕をもぎ取るなんてことが許されていいのか…?緑谷零羅…お前はいったい、なんなんだぁ!?」
それはオール・フォー・ワンの魂からの咆哮。
自身の知らない異端なる最強への問いである。
「んー…そうですね。近所の子どもたちからは裏ボスとか呼ばれてましたから……言うなれば、野生の裏ボスってところじゃないですか?」
そんなバカらしい返しに、オール・フォー・ワンは柄にもなく納得してしまうのであった。