「これは手厳しいお言葉です」
「好きになれないものは仕方があるまい。あれは前線指揮官を『戦争屋』と馬鹿にするタイプの男だ。ジャブローにもあの手の男は大勢いたよ」
「そのような奴輩、ジャブローの入り口を教えていただければすぐにでも引っ捕らえて来れるのですが、いかがです?」
「それはいい。ジオンの十字勲章を連邦の軍服につけると言うのも、洒落が効いているかもしれんな」
互いにつまらないジョークを交わす。
味方のはずのマ・クベよりも、よほどこの敵将の方が好きになれそうだ。
「本日は将軍に一つ、伺いたいことがあって参りました」
グスタフの声色が変わり、レビル将軍の顔からも笑みが消える。
「何かね?」
「『レビル中将救出作戦』。身に覚えはございませんか?」
一足飛びに核心を衝く質問をぶつける。
が、さすがに年季が違う。
「さあ、知らんな。何のことだね?」
表情一つ変えずに、あっけなくかわされてしまった。
「あくまで噂ですが、あなたを救出するための部隊が我が国に入国したとの噂がありましてね」
「大体、このような囚われの身では、外部との連絡もままならんよ。それにだな、仮に君が私を助ける立場だとして、それを私に知らせるかね?」
無論、その可能性にはグスタフも気付いている。
救う側にしてみれば、実行するときに初めて知らせればいい話だ。
極端な話、拉致同然に拐ってしまっても構わない。
それでも、万が一、億が一彼の耳に入っている可能性にかけてみようとしただけのことだった。
「知らせませんね。危険は減らすに限る」
「話はそれで終わりかな?」
「ええ、お騒がせしました」
軽く頭を下げて、椅子から立ち上がる。
完全な無駄足だったが、連邦の名将と名高いレビル将軍と言葉を交わせたのは、グスタフにとって嬉しいことだった。
「一つ聞いていいかね?」
まさにドアノブを握ったところだった。
「君はなぜザビ家の独裁に手を貸すのだ?」
「つまらない理由ですよ」
グスタフにはザビ家に従っているつもりはない。
コロニー落としを命じたのがキシリアであれば、ラルと同じように予備役に退いただろう。
「恩を返すため。それだけです」
「目的は果たせましたか?」
グスタフがレビル将軍と会話している間、マ・クベは部屋の外で待機していたらしい。
「ああ。一応はな」
「それは結構。では、准将の無理をお聞きしたのです。次は我々の無理を聞いていただきましょう」
「内容によるな」
そっけなく応じる。
やはりこの男のものの言い方は、どこか好意を持って聞くことができない。
「ご安心ください。簡単なことです。我々の司令官、キシリア・ザビ少将が准将をお呼びです。突撃機動軍本部までお越しください」
「ほう、お前がタンネンベルク准将か」
グスタフの眼前に立つ目だけを露出させた覆面の女性が、キシリア・ザビだ。
突撃機動軍の司令官であり尚且つ、諜報部『キシリア機関』を率いて暗躍しているといわれる。
月面都市グラナダをほぼ支配下に置いていることから、『月の女王』と呼ぶ者もいると言う噂だ。
「噂は聞いている。ドズル兄の右腕だそうだじゃないか」
冷たい、値踏みするような視線に耐える。
「ルウムでも艦隊を率いて大活躍。有能、実に有能だ。我が幕下に加えたいくらいだよ」
「ご冗談を。閣下の突撃機動軍は、既に幾人ものエースをお抱えではございませんか」
「人材と権力だけは、いくら手に入れても足りないのだ、准将」
「申し訳ありませんが、私はドズル閣下の部下であることに不満はございません。お言葉だけありがたく頂戴しておきます」
「惜しいことだ。それで、レビルとは何を話したのだ?」
どのような感情がこもった言葉なのか、覆面に隠れて察することができない。
「いえ、大したことは。先の戦いについて少々語り合いたいことがあっただけです」
「先の戦い、か。下らぬ感傷だ。相手は敗将ではないか」
「軍人とは、そのようなものです」
考えた結果、嘘を吐くことにした。
「ところで、警備態勢をお変えになったのですね」
「ああ。ズム・シティ内5つのホテルを転々と移送することにした。また警備の人員も各ホテルに分散して配置することでダミーとしている」
「それでは、本物のホテルに割く人員が足りなくなるのではありませんか?」
「情報統制は完璧だ。私の元から情報を盗み出せるものなどいない」
この言葉に秘められた意志は確信と自信だろうか。
「准将。今は大切な時期なのだ。誤解を招くような行動は慎みたまえ」
「誤解を招く、とは」
「地球圏全域がやつに注目している。無理に彼と話をしたいなど、よからぬ企みがあると勘違いされても仕方がないぞ」
初めて、言葉に込められたキシリアの意思をはっきりと感じとることができた。
強い疑いと敵意が、唯一のぞく眼光からだけでも十分に伝わってくる。
「まあ、私は優秀な者が好きだ。君がレビルと話をしたいならば、便宜を図ってやろう。移送スケジュールを教えてやる。ありがたく思え」
意外極まりない言葉だったが、手持ちの情報が増える分には困らない。
キシリアの真意は掴めないが、受けておいて損はないだろう。
そう考え、グスタフは申し出を受け、礼を述べる。
「惜しい、実に惜しいよ」
キシリアが小声でそう言っているのは、グスタフの耳に入ってはいなかった。