機動戦士ガンダム---ジオンの軍師---   作:ジョミニ

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地球降下作戦---4

ザクの核融合炉に火を入れ操作盤を動かすと、モノアイが発光を始めメインカメラに周囲の景色が写し出される。

 

空間戦用のF型に地球用の改修を加えただけのJ型ではなく、一次降下部隊からのデータに基づき機動力上昇のための脚部バーニアスラスターの増設と装甲の強化が施されたタイプ、『MS- 06G 陸戦高機動型ザクⅡ』である。

 

コクピット周りの計器を確認、異常がないことを確認する。

 

「少将。各機問題ありません。出撃可能です」

 

司令部直属中隊の指揮官は、アンドレ・ソシュール中尉だ。

 

「よし、急ぐぞ」

 

グスタフはザクを駆り、中隊の先頭に立って進む。

 

「少将、一体何があったのでしょう。61式や歩兵などに遅れをとるバルボーサ少佐とも思えませんが」

 

「MSとて無敵ではない。弱点を上手く衝かれた可能性が高いな」

 

「バルビエのやつは無事でしょうか」

 

「なんだ、大尉が心配か?」

 

「い、いえ、奴が原因ではないかと思っただけです。けしてそのような」

 

慌てた様子で、中尉は否定する。

 

敵の前方二つの陣地は既に半ば制圧されているとはいえ、連邦軍の射撃は先頭に立つグスタフに集中する。

 

しかしそれら全てを、ザクG型は難なく回避できた。

 

「凄いな、この機体は」

 

脚部の増設バーニアは、想像以上の機動力を機体に与えている。

 

アルベルトの送ってきた座標に近づいたところで、再びアンドレとの通信回線を開く。

 

「ソシュール中尉、ザクを二機借りるぞ」

 

「どうなさるおつもりですか?」

 

「敵陣の裏手に回って陽動をかける」

 

「陽動を行うこと自体には賛成です。しかし自らなさるのは危険ではないでしょうか」

 

アンドレの言葉は正しいが、それ以上に自らが駆るG型への信頼があった。

 

「G型の機動性は思った以上だ。救出よりも機動戦に回ったほうが有効だ」

 

アルベルトの部隊がどのような状況にあるのかは分からないが、アンドレならば持ち味の冷静な判断力で対処してくれるだろう。

 

「分かりました。腕利きを行かせます」

 

「ああ。そちらは頼むぞ」

 

フットペダルを踏み込んで機体を加速させ、グスタフは中隊から離れる。

 

 

 

 

 

敵陣の裏手に回り込んだグスタフは、即座に攻撃を開始した。

 

急速に敵陣に近付く新手のザクに、敵の戦車が迎撃に向かってくる。

 

三輌が横に並び、横一線に若干タイミングをずらしての砲撃。

 

サイドステップで回避しようとしても、左右どちらかの砲撃を喰らうことになる、連邦軍戦車部隊の常套戦術だ。

 

コクピット付近や間接部等の装甲の脆い部分に直撃すれば、61式の155mm砲塔は十分にザクを倒しうる。

 

通常の正面装甲に当たっても、その衝撃に体勢を崩す可能性もある。

 

しかし、G型ザクは通常のザクとは違う。

 

バーニアを噴かし、機体をジャンプさせる。

 

J型には不可能な高さまで飛び上がって砲弾を回避すると、空中でザク・マシンガンを構え、斉射。

 

しかし、これは当たらない。

 

「ちいっ」

 

バーニアの推力が強すぎるせいで、空中での姿勢制御はJ型よりもずっと難しい。

 

軽くペダルを踏み込んだだけで予想以上に加速し、体に強いGが加わる。

 

優秀な性能だが、ピーキーで扱いづらい機体だった。

 

次の砲撃までの隙をついて、改めて左端の車両からマシンガンによる射撃を行う。

 

今度は命中し、敵の戦車が爆発した。

 

残る二輌は後退しようとするものの、G型ザクの機動性に敵うはずもない。

 

弧を画くような軌道で左側に回り込み、クラッカーを投げる。

 

直上で爆発したクラッカーから降り注ぐ弾丸を受け、残る二台も沈黙。

 

瞬く間に一個部隊を殲滅したものの、後方に陣列を敷新手との戦闘が即座に始まる。

 

バーニアでのステップを交えつつ左右に動き回って砲列を回避しているうちに、後方のザクがバズーカを放った。

 

爆風に、敵の陣形が僅かに崩れる。

 

その混乱を見逃すことなくスラスターの出力をを最大にし、敵の空隙に機体を飛び込ませる。

 

「ぐっ!」

 

激しいG、だが堪えられないほどではない。

 

敵の真っ只中にザクを潜りこませると、突然の接近に対応できないでいる61式戦車部隊やバズーカを持った歩兵の乗るジープを次々と撃破していく。

 

「これで最後だ!」

 

最後の61式戦車を撃破し、次の敵が接近に備えるが、一向にその気配はない。

 

「少将、バルボーサ少佐の部隊の救出、完了しました。撤退を開始いたします」

 

「わざわざ来てくださって申し訳ありませんな、少将」

 

アンドレ、アルベルトからの通信。

 

指揮官級のザクにはブレードアンテナが頭部に装備されており、近距離ならばミノフスキー粒子散布下でもよほど濃度が濃くない限り問題なく通信が行える。

 

「潮時か。退くぞ」

 

グスタフも後方で援護を行うザクと合流し、ジオン軍の司令部への退却を開始した。

 

 

 

 

 

「少将、部隊に損害を出してしまい申し訳ありません」

 

アルベルトが頭を下げる。

 

司令部に戻ったグスタフは全部隊に退却を命じ、この日の戦闘は終了した。

 

包囲された歩兵十二中隊も損害を出しながら何とか脱出に成功。

 

グスタフが与えた損害まで合わせて考えれば、「痛み分け」と言えなくもない結果と言えた。

 

「ザク二機大破、三機中破……一体何があった?」

 

「話すのも馬鹿馬鹿しい話なのですが」

 

アルベルトの話によれば、最深の敵陣地に接近した彼の部隊は、まず61式戦車による煙幕弾の砲撃を受けた。

 

そしてその後、敵軍は丘の上から大量の丸太を転がしてきたという。

 

煙幕弾で足下が見えない状況で転がってきた丸太を踏みつけてしまい、多くのザクが転倒。

 

立ち上がれないでいるうちに接近してきた敵の戦車や歩兵部隊は頭部の動力パイプや間接の露出部分などを集中的に攻撃。

 

撃破しようというものではなく、ただ多くの機体に手傷を負わせようという動きだったらしい。

 

「なるほど、煙幕か」

 

敵の工夫に、素直に感心する。

 

転倒させて機動力を殺し、その上で攻撃を行う。

 

言うのは易いが、実行にはかなりの創意工夫が必要だっただろう。

 

「完全にしてやられたな」

 

「まことに不甲斐なく思います」

 

普段は飄々としている彼の顔からも、不敵な笑みが消えている。

 

「少将。本日の戦いで捕らえた捕虜の尋問を完了しました」

 

尋問官を努めた兵から、ファイルを手渡される。

 

それに書かれていた情報は、グスタフの度肝を抜くものだった。

 

「アルベルト、敵の規模は僅か一個大隊強とのことだ。もはや笑いしか出てこないよ」

 

つまり、グスタフは三分の一程度の兵力を、MSがあるのにも関わらず攻めきれなかったということだ。

 

宇宙攻撃軍のNo.2などと呼ばれて、天狗になっていたのかもしれない。

 

所詮はたった一度の敗北で、被害も大きくはない。

 

そう自らに言い聞かせても気は晴れず、自らの不甲斐なさに、失笑が漏れてしまう。

 

「アルベルト」

 

「はっ」

 

「明日こそ奴らを潰すぞ。完膚なきまでに」

 

「必ずや」

 

アルベルトを退出させた後、改めてファイルに目を通す。

 

「ファン・ヴァン・タン、階級は中尉か」

 

それが、グスタフに敗北感を与えた敵の名だった。

 

軌道上からの質量攻撃によって指揮系統が崩壊しかけた周辺基地の連邦軍部隊を糾合した、といえば聞こえはいいが、要は寄せ集めの部隊を率いて今日の戦いを行ったという。

 

「連邦は広いな。人的資源もそれだけ多いということか」

 

連邦軍は意思薄弱で、ジオン軍の優秀な指揮官と兵士の前では敵うべくもない、と演説を行っていたギレン総帥を問い質したい衝動に襲われた。

 

 

 

 

 

司令部を出て味方の宿営地を見回っていると、言い争っている二人組に出合う。

 

「だからお前は迂闊だというんだ。足元が見えなくとも、転倒しないで済む方法はあったはずだろう」

 

「んなことはわかってるさ!」

 

近寄ってみれば、ジルとアンドレだった。

 

「なんだその態度は。お前、助けてもらった感謝の気持ちはないのか?」

 

「へいへい、ありがとうございました。ほら、これでいいか?」

 

「誠意が込もっていないな。すまない、獣にそれを求めた私が悪かったよ」

 

「なんだと、この金髪チビ女!」

 

「し、身長は関係ないだろう!それにお前だって金髪だ!この暴走バカめ!」

 

もはや子供の口喧嘩のレベルにまで達しつつあった彼らの言い争いの間に入る。

 

この二人の口論は、教導連隊の頃から見慣れたものだ。

 

そのくせ戦場では、先頭を切って進むジルと冷静な判断力によってそれをサポートするアンドレは抜群のコンビネーションを発揮する。

 

「少将。このバカに何とか言ってやってください。危うく死ぬところだったというのに反省ひとつありません」

 

「だから、それがこいつのお節介だって言ってるんですよ。俺もエースの一人です。同じミスを繰り返したりはしませんよ」

 

溜息をつかざるを得ない。

 

いつから自分はロースクールの教師になったのか。

 

とは言え、部下の管理も重要な任である以上、無視もできない。

 

「二人とも、そのくらいにしておけ。ソシュール中尉は、バルビエ大尉の身を案じていたんだ。礼の一つくらい素直に言っても、罰は当たらんさ」

 

「し、少将?私はこいつの心配など……」

 

「……分かりました。アンドレ、ありがとう。助かった」

 

素直か礼の言葉に、アンドレの顔が赤く染まる。

 

「ふ、ふん。一つ貸しだからな。覚えておけよ」

 

「ああ。今度は俺がお前を助ける。約束だ」

 

ジルがそう言うと、アンドレは耐えきれなくなったように敬礼し、消え入りそうな声で「……失礼します」と呟いて立ち去ってしまった。

 

元々小さい彼女の背中が更に小さくなっていくのを見ながら、ジルが小首を傾げる。

 

「あいつ、どうしたんでしょうか?」

 

「さあ、どうしたのかな」

 

残された二人は、そう言い合うしかなかった。

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