両軍の次なる決戦の地はサイド5「ルウム」。
ジオンと連邦の戦力比は、およそ1対3。
u .c 0079 1月13日 宇宙要塞ソロモン
「タンネンベルク大佐。ブリティッシュ作戦での功、ご苦労であった」
「勿体なきお言葉です」
グスタフがドズルと会話しているのは、旧サイド1宙域に建造中の、宇宙要塞ソロモンの司令官室である。
「そう謙遜するな。緒戦以来のMS隊を率いての戦果、聞いておる。ジオン十字勲章の叙勲もあり得るぞ」
「しかし、作戦は失敗に終わりました」
「武功は武功だ。それに、失敗の原因はキリングにある」
「閣下の容態は?」
「一命はとりとめた。だが、軍の指揮は行えん」
ブリティッシュ作戦失敗の責は、護衛のMSを攻勢に用いた自らにある。
そう言い、キリング中将は拳銃で自決を図った。
「失敗」。
たとえ敵艦隊の7割を討ち、地球上の連邦海軍、空軍にも甚大な損害を与えたとはいえ、ジオンはその作戦目的である「ジャブロー壊滅」を果たせなかった。
スペースノイドの故郷であるコロニーを犠牲にしてまで強行した作戦が失敗に終わったことを覆い隠すため、ジオン本国では情報統制が敷かれている。
「また、コロニー落としですか」
「やむを得ん。それしかジャブローの岩盤を押し潰す手はないのだ」
ドズルはばつが悪そうに言う。
「サイド5の「ワトホート」を使う。先発隊は昨日既に出発した。今度こそ失敗は許されん」
「連邦は宇宙への監視を強めています。当然、阻止のために艦隊を出してくるでしょう」
連邦軍が最高幕僚会議を行い、レビル中将の旗下に6個の艦隊を置き、連合艦隊を編成したことは既にグスタフの耳にも入っていた。
連邦宇宙軍の総力を糾合したこの艦隊は公称して艦艇700隻、兵員90000の圧倒的な戦力である。
「俺がさせん。絶対にだ」
決意を込めた表情で、ドズルが言う。
連邦のこの動きに対し、ジオン側もドズルの元に連合艦隊を編成。
ジオンが使える戦闘艦の過半を注ぎ込んだこの艦隊は、艦艇150隻、兵員40000。
連邦との戦力比はおよそ3対1、と早々に中立宣言を行ったサイド6の報道機関は報じていた。
「そのために本国からも使える艦とMSをかき集めた。キシリアの突撃機動軍艦隊も指揮下に入る。ところがな、一つ問題があるのだ」
「何でありましょう」
「指揮官が足りん。キリング指揮下の部隊、本国からの援兵、どれも宙に浮いている状態だ。特にMS部隊の前線指揮官がおらん。ここまで言えば分かるな?」
「野戦任官ですか?」
「いや、戦時昇進だ。お前は先の戦いで前線での指揮能力を示した。その功に酬いる意味もある」
グスタフの階級は大佐だ。
ジオン軍の中ではかなりの高位に位置する。
それをドズルは、更に引き上げようという。
ちなみに、「野戦任官」ならばこの決戦が終われば再編の際に元の大佐に戻るが、「戦時昇進」ならばそれは戦功に応じた正規の昇進として扱われる。
「グスタフ・タンネンベルク『准将』。お前の指揮下にいくつかのMS部隊と母艦となるムサイを追加で配置する。第二教導連隊を基幹とした第九MS戦闘団『タンネンベルク』の指揮官に任ずる。勝利に貢献してくれ」
「了解であります」
「うむ。頼もしい返事だ」
ドズルは満足げに頷いている。
「レビルとの決戦では、俺も『ワルキューレ』で出る」
「『ワルキューレ』!?『グワラン』ではないのですか!?」
『ワルキューレ』はムサイ級の将官用カスタムタイプとして設計された軽巡洋艦ファルメル級である。
マゼラン級さえ上回る装甲と砲を持つジオン軍唯一の艦船、グワジン級であるドズルの乗艦『グワラン』には小回り以外の全ての面で劣る。
「指揮官は最も勇敢でなくてはならぬ。それが宇宙攻撃軍だ。陣頭に立つには『ワルキューレ』こそが相応しい」
「ですが、『ワルキューレ』では万一の際に危険があります」
「万一、か。もし勝てないようならば俺は、『ワルキューレ』で突撃してレビルの『アナンケ』と刺し違えてみせる」
ドズルの表情が、その覚悟が偽りでないことを示す。
司令官室を出た後、グスタフはMS格納庫へと向かった。
決戦に先立ち、ザクの改良型を新しく受領することになっていたからである。
「バルビエ『大尉』か」
格納庫で、先客に声をかける。
「これは准将。わざわざこのような所に」
第三中隊長ジル・バルビエも、敵艦2隻撃沈、2隻協同撃沈の功によって大尉への昇進を果たしていた。
「どうだ、新しいザクは」
「加速が素晴らしい。それに尽きます。速度あってのジル・バルビエですからね」
そう言うと、獣を思わせるしなやかな体躯を持つこの男は肩口で切り揃えた金髪を揺らしてどこか獰猛に笑った。
「『ロケットスター』ジル・バルビエか」
「ご存知とは。まあ、確かに自分の名が常識の範囲内に収まるだけの活躍はしてきたかもしれませんね」
ジル・バルビエは、レーサー出身という珍しい経歴を持つ。
もっとも、常にマシンの加速性能を最大限に発揮させた結果、エースレーサーとしてよりもクラッシュの常習犯として名を挙げていたのだが。
「塗装は間に合いませんでしたが、エムブレムだけは無理を言って付けさせましたよ」
彼は間近のザクを顎で指し示す。
「ほう、流れ星か」
「ロケットブースター付きです」
言葉の通り、彼のザクの右肩には炎を上げながら進む星が描かれている。
「それでは願い事を言う暇もないな」
「願い事?どういうことです」
「西暦時代のまじないさ。流れ星が消える前に願いを三回言えば、その願いが叶うとかいうな」
「流れ星が、ねえ。ほとんどはスペース・デブリでしょうに。のどかに見上げていられるとはいい身分です」
コロニーでは、宇宙に漂うデブリの衝突は重大な問題である。
極端な話、ネジ一本が数万人の命を奪う可能性があるのだ。
「まあ、そう言うな。ずっと昔の話だ。アースノイド、スペースノイドという区別さえなかった頃のな」
「古き懐かし良き時代、ですか」
そして、ジルは敬礼をすると格納庫を出る。
「古き良き、か」
アースノイド、スペースノイドという区別がなかった時代。
ジオンが勝つことで、そのような時代が戻ってくるのだろうか。
そうだとしたら、あの嫌な感覚を伴うコロニー落としにも意味はあったのだが。
グスタフは首を振って雑念を追い払うと、自らの機体のチェックに移った。