「 不味いことになってきたのう。 」
「 総隊長、そのような字を書きながら言われても、些か説得力が・・・ 」
その頃の一番隊舎、メノス出現の報を聞いた後、所詮ギリアンと高を括って筆で紙に黒く『乳』と書いていた山本元柳斎重國は、今になってようやく危機感を覚え始めていた。
自分が動かずとも、他の隊長、それこそ教え子である京楽や浮竹がなんとかするだろうと思っていたからだ。
そして、この霊圧、というより、このシチュエーションに、何処か既視感を感じていた。
「 若い頃、似たようなことが幾つもあったの・・・ 」
これまで自分が退けてきた脅威。今回感じた霊圧は、それによく酷似していた。
今よりずっと若々しく髪も髭も黒かった頃、虚の極みというべき存在たちと死闘を繰り広げた。
今回のはその内の一つ、通常よりもずっと強力なメノスグランデのそれを思わせた。
あの日の奴は手強かった。今より未熟故に仕留めきれずに結局王属特務にまかせることになってしまった、あのあまりに巨大なアジューカス。
あれほど魂魄を喰らってはいないようだが、おそらく狙いは上の連中が護っている尸魂界の"王族"なのだろうと元柳齋は睨んだ。
「 参ったねぇ、こりゃどうも。 」
酔いも抜けて現地に到着した京楽もまた、事態がより深刻になりつつあることをその身に触れる霊圧でもって実感していた。
「 隊長、可笑しくないですか? 」
「 そうだね七緒ちゃん、たしかに匂う。だが、今はそんな事よりも、目先の問題に対処しないと。なにしろこれは・・・ 」
「 尸魂界全土を巻きこみ兼ねない一大事だからね。 」
京楽の言葉に続くように、悟と松葉は刀を握り直し、黒膣の中から覗く瞳を睨み警戒を強めた。
「 悟殿! 」
ふとして毎晩聴いている声がした方向を振り返ると、そこには瞬歩で駆けつけたであろう黒髪の少女がいた。
その後ろには十三番隊の三席二人をはじめ、何人も隊士がいるのを見るに、彼らもこの虚の対処に駆り出されたのだと悟は悟る。しかし、その中には彼らの隊長の姿が見当たらない。
「 朽木さん、浮竹隊長は? 」
「 気分が優れないようで、今は前線に出さぬほうが良いと総隊長より止められている。 」
「 うーん難儀なもんだねぇ。こんな時に限ってこういうのがでてくるんだもの。 」
京楽がそう呟いた後にそれは、そこより空を割るように現れた。
まるで、尸魂界を侵食せんとするばかりに。
ギリアンと同等ほどの巨躯。それを支える四脚。そしてなにより目を引く、動物のキリンやらヘビやらを思わせるように長い首に、尾。そして白い外殻に首元に開いた虚特有の、
心と魂が欠落した跡である、"孔"。
そのどれもが、見るものすべてに威圧感を与えてくる。
悟、松葉、そして京楽だけが、それに気圧されずに対峙している。
そして京楽は、知らない隊士、というより目の前の存在を始めて見る隊士たちの為に、こう説明した。
「 大虚。虚が仮面と孔という形で欠けてしまった自身の心を埋める為に共食いを繰り返して至る姿。
それには三つの階級が存在する。
あれは、悟くんや松葉くんが倒した
「
「 どういう、事ですか? 」
訝しむ京楽がなにを疑問に思うのか未だによく分からないルキアに、七緒と悟が補足した。
「 霊術院で習ったと思いますが、アジューカスは同じアジューカスを捕食しなければ、退化し個を失います。
そうなれば、再びアジューカスに進化することはありません。だから彼らは同じメノス間で共食いを繰り返し、
「 だから奴らが尸魂界に来ることは基本的にない。奴らにとって、ここはなにもない場所だから。天敵である死神の世界だから。
・・・それでも尚来るとすれば、目的は、ただ一つ。 」
「 ただ一つ?それは一体・・・ 」
「 それは・・・不味い。 」
アジューカスの口にか霊力が充填される。
虚閃だ。そしてそれは自分たちに向けられている。
彼らの霊圧はギリアンの数倍と言われている。
それ故決まってギリアンのそれを遥かに超える威力、熱量、破壊力で放たれるそれは、死神たちに向かう。
「 総員、散るんだ!早く!! 」
京楽の命令によって、隊士たちはアジューカスの前から瞬歩によって即座に移動し難を逃れるが、その余波によって周囲の建物が崩落し、地面も抉られる。
その長い首ゆえに軌道をある程度変えられる。虚閃そのものも一発だけで潤林安に惨たらしいまでの被害を齎している。
それを見て京楽は、前に彼の同期であった7代目の剣八が遭遇したというアジューカスと比べて、やはり緊急事態なのだと感じた。
「 やっぱりだ。前に、刳屋敷の奴が斬ったのとまるで違う。アジューカスの中でも上澄みってわけかい。 」
一方、悟と松葉、七緒とルキアは走りながら虚閃によって焼き尽くされる潤林安に聳えるアジューカスに、京楽と同じく未曽有の脅威を見ていた。
「 なんてことだ。平和だった潤林安が、このままでは焼け野原になってしまう。 」
「 こんなんやれるなら、充分虚圏でもやっていけるだろうに。なにが狙いだ? 」
「 そんなことは今はどうだっていい。今吾輩らがやらねばならんのは、ヤツのあの首を落とすことだ。
得意だろ? 」
「 勿論。神だろうが仏だろうが、アジューカスだろうが身共はたたっ斬るまで! 」
悟と松葉は、その巨大なアジューカスに迫り、瞬歩する。
「 あぁ、貴方たち、待ちなさい! 」
「 置いてかないでくだされ! 」
七緒とルキアもその後を追う。
『 我が名はジュラシネック・ティタン!死神どもよ!
「 ああうるさい。そんなもの吾輩に言われても困る。王属特務に言え。 」
『 そうか。ならば死ね!! 』
ジュラシネックと名乗ったアジューカスは、二人を消し炭にしようと虚閃を放った。
が・・・
「 縛道の八十一 断空!! 」
八十番台縛道。悟が展開した七十番台級の鬼道攻撃を防ぐ障壁が、虚閃を防ぐ。
「 やはり虚閃が脅威か。ならば少しでもよい。身動きを止めねば。 」
ルキアも続いて鬼道を詠唱した。目の前で八十番台を見た手前、自身のそれでは大した火力にも、妨害にもならないかもしれないが、それでも今は、自分にできることをやらねば。
「 雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ 」
「 縛道の六十一 六杖光牢! 」
六つの光の帯がその白い巨体を拘束したのを見て、松葉は駆け、七緒も最大級の鬼道を唱え始める。
『 滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 』
『 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる 』
この程度どうということはないとばかりにジュラシネックは六杖光牢を破り、詠唱している七緒に向かって虚閃を放とうとした。
「 縛道の七十三 倒山晶! 」
ルキアは七緒を守るべくさらなる鬼道を放つ。縛道の七十番台、巨大な結界によって、虚閃は妨げられる。
『 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 』
『 結合せよ 反発せよ 地に満ち 己の無力を知れ 』
「 破道の九十 黒棺―――― 」
巨大なアジューカスの身体が、黒い四角に包まれる。
破道の九十 黒棺。五番隊隊長、藍染惣右助が主な使い手として知られる、九十番台破道。
九十ともなれば死神の奥義、卍解にも匹敵する威力を持つ。
特に七緒は、鬼道の腕一つだけで八番隊副隊長にまで上り詰めた鬼道のエキスパートである。
そんな彼女の放つ黒棺は、余人のそれよりも強力無比であることは言うまでもない。
しかし・・・
「 九十番台を、耐えた? 」
「 やはりアジューカスの中でも、上位なのでしょう、ヤツは。 」
京楽が似たようなことを呟いていたが、悟にはまるで聞こえてはいなかったのか、自然と似たようなことを口にしていた。
それだけ、彼らには余裕がないのだ。
「 不味い!こちらを狙っています! 」
そしてジュラシネックが虚閃を放とうとしているのを見た時、悟は意を決して奥の手の一つを使うことにした。
『 顕現者よ 理の防人 壮厳たる翼の大蛇よ、 』
「 あの詠唱は・・・ 」
「 聞いたことがない。 」
『 灼熱と白光 陰と陽 五の行相剋 讃え 束ね
巡り 循環し 森羅万象を語り喰め 』
「 なにをブツクサと申している!消えよ!! 」
アジューカスの口から虚閃が放たれると同時に、悟はその名を叫んだ。
歴史の中で埋もれていった、鬼道、その名を。
「 裏破道 十の道
――――――――――!
掌から放たれる、龍のような霊力の奔流が、虚閃と衝突しせめぎ合う。
「 な、なんだ、あんな鬼道見たことが無い。 」
「 裏鬼道。今になって使い手がでてくるなんてね。 」
いつの間にかいたことに驚くルキアを他所に、当然聞いたことがないであろう彼女の為に京楽は軽くこの裏鬼道なるものについて説明した。
「 かつて鬼道として考案されながらも様々な理由によって廃れ、今ではごく僅かな情報しか残っていない、名実ともに幻の鬼道だよ。 」
「 そんなに凄い術なのですか。しかし、あの分では押し切られるのでは? 」
「 そうでもないよ。ほら、よく見てご覧。 」
ルキアは悟の放った裏鬼道を見た。
龍が段々と大きくなって、アジューカスの虚閃を押し返し始めていた。
虚閃が見せかけだったのか?いや違う。龍が虚閃を喰っているのだ。
「 裏破道 十の番 閃光劫羅。霊圧でできた龍を放つ鬼道。龍は障害となるあらゆる霊力を吸収し巨大化、対象に襲い掛かる。鬼道は勿論、虚閃や滅却師の矢も例外なく、あれに呑み込まれる。
遥か昔の鬼道ルネサンスの時にできた術だけども、ボクも間近に見たのは久しぶりだよ。 」
「 おのれ、おのれぇぇぇえええええ!! 」
ジュラシネックは、ヤケクソになって虚閃の勢いを上げるが、いくら足掻いても、龍はより大きく力を増していく。
完全に自身の膨大な霊圧が、仇となっていた。
「 さあ終いだ。喰らえ、閃光劫羅!! 」
――――――――――!
まるで生きているかのように、龍は咆哮して、アジューカスのその白い仮面に喰らいつき、爆散した。
霊圧が爆裂したことにより、潤林安に強烈な衝撃がはしった。
「 あれは、やったのか? 」
「 いえ、まだです! 」
爆発によって巻き起こった煙の中、巨大なシルエットが見え始める。
「 ハァ、ハァ、ハァ・・・! 」
「 流石。まだ生きているのか。 」
悟は改めて、アジューカスが如何なる虚かを確認することとなった。
これまで切ってきた虚は標的が弱い人間であったり、そもそも自我がなかったりしていた。
しかし、このジュラシネック・ティタンは違う。
彼はアジューカスとしての確固たる意志を以て護廷十三隊に挑み、こうして自分の個人的な禁じ手である裏鬼道にも耐えた。そこに、生命としての力強さを感じている。
だが、申し訳ないことに、
「 ハハハハハ!こんなもので我を殺せると思ったか!浅はか!実に浅はかだなァ、死神! 」
「 ・・・ 」
「 どうした?とっておきが破られ声もでんか?
泣け。喚くが良い。虫けららしく。 」
「 ・・・ 」
「 なんだ、その目は? 」
「 ・・・ 」
「 なにか言ったらど・・・!? 」
その力を誇り、驕るあまりに、あまりにも、浅慮。
故に
「 お前、身共を忘れていたろ。 」
自分の中ではちっぽけな存在でしかなかった、無名の死神に首を斬り落とされるのである。
「・・・一体、なにが。」
「 そんなもの、私が聞きたいです。 」
七緒もルキアも唖然とした。あれほど強大だった、裏破道にも耐えた
だが、同時に思い出す。この笠の男は、あの更木剣八と斬りあった死神なのだと。
「 お疲れ。どうだった、アジューカスの斬りごたえは? 」
「 お前のあの龍の鬼道でだいぶ弱ってたみたいだが、まぁ、ギリアンよりは手応えがあったな。 」
「 しかし、相手はアジューカスだったんだよな?今さらだけど斬っちゃってよかったのかな?吾輩不安。 」
「 問題なかろう。相手は霊王?とかなんとかっていうのを狙ってたみたいだし、逃がしたところでまた来て面倒が増えただろう。
ま、身共はどちらでも良かったがね。斬れれば。 」
「 色々、思うところはあるが、みんなお疲れ様。 」
八番隊隊長、京楽春水のこの一言で以て、この虚災害は終息と相成った。
檜佐木悟
裏破道 十の道を披露。オサレでカッチョイイ龍で攻撃する。これまでギリアンばっか相手してきた為、アジューカスの出現とその逞しさ、生命としての意地にワクテカした。
松葉四苦八苦
トリにアジューカスをぶった斬ってしまった新人隊士。もろちんとんでもない快挙である。
七緒ちゃん
ヨン様の代名詞、破道の九十 黒棺を使用。
鬼道だけで副隊長になった七緒ちゃんが使えない訳がない。
ルッキャさん
七緒ちゃんほどでは鬼道で応戦する。
京楽さん
参ってしまう。
ジュラシネック・ティタン
ブラキオサウルス・・・のそっくりさんのギラファティタンによく似たアジューカス。結構強い。
その巨体とアホみたいにデカい首や尻尾を使った物理攻撃はもちろんのこと、アホみたいにぶっとい虚閃をぶっ放しまくって、敵を制圧する戦い方を得意とする。
何処かからか霊王について知って、
松本乱菊
日番谷を連れて駆けつけた時には、もう既にすべてが終わっていたので、日番谷のばあちゃんが生きているか探してみたところ、瓦礫になった街中をライフル銃片手に腰にハンドガンを携え逞しく生きているばあちゃんの姿を目の当たりにしてしまう。
ばあちゃんは一体何者なんだ――――!?
裏鬼道ってんぞや?
その昔、幾度かに渡る鬼道ルネサンスが興った際に、多くの死神によって考案、コンクールやら鬼道コンペやらなんやらで披露されたり、実戦で使われ成果をだしたりしたものの、
他の鬼道でよかったり、あまりに悍ましすぎて使われたがらなかったりして廃れた鬼道の総称。
一応、番号は振られてはいるが、どの順かは不明な上、アホみたいに数が多すぎて、悟も全部は覚えていない。
和尚の鉄風殺もこれの一つ、という設定。
元ネタはジャンプ関連漫画作品。
( 鉄風殺はNAR◯TOということにした。初期案だと口寄せ動物は龍だったらしいし。 )