「 さて、大丈夫か?後輩諸君。 」
悟はあの化け物が斃れたのを確認すると、一年生たちのバイタルの確認に入った。
あんなものに出くわせば当然ではあるが、彼らは酷い恐慌状態にあった。目に浮かべて泣きだすもの、息がつっかえてしまっていたもの、平然を装っているが、顔から血の気が引いている者と三者三様であるが、いずれにせよ皆生きて帰れぬものだと思っていたらしいが、全員無事だ。
「 生命に別状は無さそうでなによりだ。 」
「 どうかな?一応見てもらうに越したことはないと思うよ? 」
そう言ったのは、彼を追って後から来た同級生、彼の友人だ。紅には彼女のことはよく分からなかったが、悟と話しているのを見ることが多かった。
自分などよりもさらに裕福な家系、それも五大貴族の一つの出であるらしい。
自分など目でもない高嶺の花であるが、本人からはそんなに悪い気もしない。
「 なんだ来たのか、晴彦? 」
「 いやだって気になんだろ?"実習生が化け物に襲われてる"って。その化け物とやらはどんなのか見てみたいじゃん。やっぱり虚じゃなかったみたいだし。 」
この口ぶりからするに、自分たちの危機は、霊術院の方にも届いていたのだろう。それで二人でこっそりと助けに来てくれたというわけだ。
「 んじゃあいつはなんだったんだ? 」
「 多分、ドラゴンじゃないか?
「 ドラゴン?ってあのドラゴンだよな?妙にカッチョイイ感じの羽生えたトカゲ。 」
長いこと尸魂界とも現世とも別の世界で過ごしてきた悟も、少しばかり聞いたことがあった。異国の伝承なんかにでてくるヘビやトカゲによく似た生物だ。概ねそんなものはいないというのが常識ではあるが、まさか実在していているとは思いもよらないだろう。
「 そうそうそのドラゴン。ボク様の実家の文献に残ってた。大昔に西から来た奴がいたとかなんとかって。多分あいつがそれなんじゃないかな?向こうのドラゴンの大物には童話の名前がつくとかなんとか。それを踏まえればまんま映画のそれだったし。
っていうか、お前の先生方はなんも言わなかったのかよ?
あちらの人たちは色々存じてそうだけども。 」
「 いや、全然。それに映画って何の映画だ? 」
「 知らないのか悟?眠れる森の美女だよ。悪い妖精がパーティに呼ばれなかった腹いせに王女さまに呪いをかけるのさ。それで、解呪を徹底的に邪魔する。
王子様を監禁したり城の周りに茨を生やしたり、そして終いには竜の姿にな・・・おいマジかよ。 」
悟とその学友、王途川晴彦は絶句し、サングラス越しに見える眼は驚きを隠せなかった。あの裏破道、大太天掌を受けて尚、あの化け物、すなわち
あの一撃は一応効いてはいたらしく、多少のダメージは入ってはいるようだが、それでも未だ健在である。
対象的に悟は至って冷静だ。
「 大太天掌は九十番台級の威力がある。それを受けて平気とは恐れ入るな。やはりドラゴン、幻獣の長か。 」
「 よくそんな澄まし顔できるよな。ボク様今すげぇ肝が冷えてるよ。 」
「 問題ない。吾輩らでアレを討てばいい。それこそ夢物語の英雄のように。 」
「 そういうけどさ、上手くいくのかよこれ?下手したらどうなることか・・・ 」
「 やる他ないだろ。こんなもの、護廷の穀潰しどもが禄に取り合うかも定かではないんだぞ。 」
「 それは一理あるな。あれ虚じゃないし。ならとっとと片付けるかね。 」
こういうシチュエーションは、彼らにも覚えがある。死神の世界である尸魂界でも伝えられている、化け物退治の伝説のようだと。
八首の大蛇や山ほど大きい大百足、それらは決まって勇者に討ち倒される。ならば自分たちも、同じようにして対応するまでだった。
護廷隊士がたかだか学徒数人の為に助けに来るとも考えにくいのだ。
まして相手が虚ではない。それ故に自分たちの動くべき事案ではないだとか、あの化け物に怯えているだとか、来ない理由など幾らでもつく。
中流貴族家の生まれである紅はそれをわかっていた。
だからこそ、救援の可能性は絶望的であると悟っていた。
が、今は違う。彼が来てくれた。
「 ――――――――! 」
竜の悍ましい叫びが木霊す中、悟は晴彦に尋ねた。そう、ついさっき話していた映画のことだ。
休み時間に読書をしていてそれなりに童話の知識もあるつもりの彼には、"眠れる森の美女"なる物語の内容に、覚えがあったからだ。そして童話の名がつく竜。これの意味するところは―――
「 さっきの映画、あらすじ聞いて思い出したが、もしかしていばら姫って話が元だったりしないか? 」
「 あぁ、そうだったかも。 」
「 ラストはどんなだった?その悪い妖精とやらは? 」
「 腹に刃を受けて死んだ。 」
「 ふむ、腹かぁ。 」
悟は竜をまじまじと観察してみる。どんな生命にも、弱点はあるものだ。死神は身体構造が人間とほぼ同一であるし、虚も仮面を砕かれるのが致命打となる。この世に生を受ける物には尽く急所があるのだ。
このドラゴンなる異形と相対するのは言わずもがな初めての事であるが、それらしい部位が、この羽トカゲにもあるものだと思っている。しかし今にも火を吐いてきそうな竜の腹の鱗は、急所らしい急所には到底見えなかった。
しかしまぁ、取りあえずは一発撃ってみることにしたようである。
「 破道の八十八 飛竜撃賊震天雷砲。 」
紅にも以前披露した、八十番台破道。青白い光がまっすぐに進み竜の腹に命中する。
砂埃が当たった衝撃で舞う。しかし竜はやはり健在だった。
多少痛がる辺りにダメージはやはりあるようだが、致命傷には程遠い。
「 うむ、八十番台で駄目か。なら腹じゃないな。 」
「 とすれば急所らしき部位は・・・あっやばい! 」
晴彦が叫ぶと、竜は口から緑色に発光する黒い火炎に、二人は呑まれた。
「 縛道の八十一 断空 」
かに思えたが、八十番台縛道によって防がれる。
「 こいつまだまだ元気だな。晴彦、行くぞ。 」
「 嗤え、髑髏・・・あとついでにブースター展開っと。 」
手に持たれた浅打が変化する。日本刀のようなそれからかなり反れた滑らかな刃へと。
そして制服の上に外付けされていた機械が×字を描くように展開し、そこから火を吹いた。
どうやら彼女も、紅と同じ畑にいる人物であるようだ。
「 ―――――― 」
竜が吼える。すると黒雲が発生し、雷が轟き始める。先ほどと同じだ。だが、晴彦はそれをブースターの推力によって巧みに躱していく。
そして雷の墜ちた跡には、茨が発生、地上にいる悟の行く手を阻む。
「 意地の悪いことだ。だが良い着眼点ではある。 」
しかし悟はそういうと、やはり紅たちには聞き覚えのない詠唱を唱え始めた。
「 顕現者よ 理の防人 壮厳たる翼の大蛇よ 」
「 芽吹きて 育み 木の行語りて 大地に根づけ 」
「 裏縛道 十一の道 樹蛇昇龍 」
手をかざした先に、細長く巨大ななにかが大地から現れる。まるで蛇のようだ。それは茨の壁を無理やり力付くで破壊し、竜に迫り、炎を吐かせるよりも早くその身に絡みついた。
「 ―――――――!? 」
竜の叫びが木霊する。見た目通り相当痛いのだろうが、それよりも気になるのは、竜に巻きついた大蛇、というより強い方の字を使って龍と呼ぶべきか。
それが段々と巨大化していっているように見えた。
「 おやまぁ、中々エグいの使うじゃないか。だがそのお陰で、アイツは身動きが取れない。今なら、急所を狙える。 」
晴彦は動けぬ竜に向かって急接近。そして、
「 お前の弱点は、ここだ。 」
「 ――――――! 」
瞼を一閃。すると竜は断末魔を挙げて途端に力を失くしたかのように地に落ちて、肉が朽ちていった。
残されたものは、その巨大な骨だけである。
その後、彼らは誰一人として欠けることなく霊術院に帰還した。悟も晴彦も、このことは誰にも公言せぬようにと後輩たちに口止めをした。
「 どうしてですか?あんな鬼道、みんなにみせれば褒めてもらえるのに。 」
後輩の一人にこう言われた時の、悟の言葉を、紅はよく覚えていた。
「 嫌いなんだ。表立って目立つのが。 」
結果、この現世に現れた謎の怪物は、天才児日番谷冬獅郎によって討伐されたと伝えられることとなった。
ただ、彼らの担任は、これに大きく頭を抱えたそうでもあるらしいが。
そして、現在。
「 紅、どうしたの。急にシャワーなんて浴びちゃってさ。昨夜風呂入ったでしょ? 」
「 彼が来るんでしょ?なら身だしなみはしっかりしないとよね? 」
「 言っとくけど、あいつと試合するのは君じゃないぞ。 」
「 ・・・へっ!? 」
「 急に涅隊長が口出ししてきたんだよ。せっかくだから、ボク様の研究成果を見せろって。 」
「 研究成果って、あの? 」
「 そう・・・ 」
「 強化死神さ。 」
檜佐木悟
裏縛道を使用した。頑なに目立とうとしない。
平伽紅
悟のすげぇ術を見せられて唖然とする。
自分が試合にでるものだと思ってシャワーを浴びていたが、急に変更となった。
王途川晴彦
五大貴族の一つ、王途川家出身。初代十番隊隊長、王途川雨緒紀の子孫。
悟とは霊術院時代の学友であり、現在は十二番隊と技術開発局兵装開発科に所属し、悟とは別に死神の強化の為の研究を進めている。
斬魄刀の始解は、髑髏。
ちなみに女の子。
裏縛道 十一の道
詠唱にある通り、十の道 閃光劫羅と同じ死神、通称"顕現者"の編み出した鬼道の一つ。
木でできた龍で相手を拘束し、霊圧を吸収する。
つまるところオサレ版木遁 木竜の術である。
なんでこんなものができたのかと言うと製作者が閃光劫羅で、動物を象った鬼道に味を占めたからである。
結果はライバルだった"君臨者"の鬼道の方が使われるようになってしまった。
これからみたい要素は?
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悟の同級生
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裏破道
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その他