14番目の囚人は、星の船でまどろむ 作:えみ(piplup)
大きなバス
ぼくの名前は、トワーヌ、もうただのトワーヌ。今は4区の裏路地でひっそりと暮らす、もうすぐ12歳の男の子だよ。
4区の裏路地は、ぼくが住んでいた
……おじいちゃんが、"B-612の外はツマラナイ場所だ"っていつも話していたけれど、4区は、思ったよりは良いところだとぼくは思ったよ。
ぼくは、おじいちゃんたちの
でも、ぼくをここまで連れてきてくれたキツネのお兄さんが、"ひとりで人を助けるのはまだ危ないから、信頼出来るお友達が出来てからにしろ"って言っていたから、ぼくはまだお勉強しか出来ないの。
ここは、4区の裏路地、知識と技術に囲まれて、見栄を大切にする人が多い場所。
……見栄を大切にする人をここに来てから初めて見たけれど、見栄はそこまで大切なものなのかな?
ぼくにはまだわからないや。
***
4区の裏路地には、最近新しい住人が増えた。
見た目約8~10歳程に見える身長、仕立てが良いのにサイズが合わず汚れた服に、煤けた灰色の髪、鳥とも虫とも言い難い小型の機械を小さな手で懸命に抱えており、顔つきは優しく整っている少年だ。
汚れてさえいなければ、どこかの貴族のお坊ちゃまとも見えるかもしれない。
もちろんそんなか弱い存在は、裏路地では格好の餌食となる、はずだった、が……。
「おや、そこのおチビちゃん。1人かい?お兄さんが親御さんの元へ連れて行ってあげようか?」
「ううん。だいじょうぶだよ。おとうさんがそこにいるからね、きにかけてくれてありがとう。」
「ッチ1人じゃなかったか、合流する前に攫うか。ならそこまで俺が付き添ってあげ……ってあのチビが居ねぇ」
温厚に騙し連れ去ろうとすれば、するりと居なくなり、
「可哀想だが、金の為だ。糧になってくれお坊ちゃん」
「あわわ、あぶない。」
「……?誰も居ない、今いた小僧は俺の幻覚だったのか?」
試しに後ろから強引に襲いかかってみると、幻のように消える。
「きょうのさんどいっちはじょうずにできて、うれしいな」
「ねぇ!ぼうや!その美味しそうなの頂戴!」
「おねえさんはこれがほしいの?いいよ、きょうのはじしんさくなの」
「くれないなら……!って良いの?!あ、おいしー」
食べ物を奪おうとすると、そのまま渡されるが、
「お前!金目のものを持っているな?それを渡せ!」
「……このおもちゃだけはだめだよ。ぼくのたいせつなものなんだ」
「なら素直に渡さなかったことを、あの世で後悔するんだな!」
「うーんと、かわりにもっといいものがあるよ。とくせいのきゅうきゅうせっと!はい、どうぞ」
「な、なんだこれ……こんなシロモノ何処で手に入れた……!?」
持っているガラクタを奪おうとすると、より貴重な医療物資を渡される。
何時しか、あれは無害な少年の姿をした
噂が出来たなら、
それもねじれともなれば、尚更だ。
やれフィクサーに依頼をしようか、やれアレは有益な存在だ、やれ煙のようなものだから金の無駄じゃないか、……意見は溢れ纏まらない、1
しかしここは4区、そして見栄を大切にするものが暮らす路地裏、ある1人が、
"俺たちのシマにねじれが居るのは沽券に関わるだろ"
と言えば、
"そうだ、誇りの為なら金は惜しんではいけない"
とピタリと意見は揃ったのだ。
こうして、周りからどう見られるかしか考えない愚か者たちの意見は固まった。
すぐさまフィクサーへ依頼され、調査が始まった頃、奇しくも、パタリと不思議な少年の噂は無くなってしまった。
なんでも
***
今日も、4区の天気は曇り空だ。こんな日はお家でお勉強をすると良いっておじいちゃんは言ってた。
最近、お外に出ると色んな人が話しかけてきたり、近くで踊ってる人が多くてとっても賑やかだ。静かな雰囲気も素敵だったけど、このお祭りのような賑やかさも素敵だなぁ。
もっとお外に出て、もっと沢山の人を助けるためにも、お友達のバラとお家で練習していた時、遠くからグルルルと低い獣のような唸り声と、何かと沢山ぶつかるような鈍い音、そして人の悲鳴が聞こえてきた。
……キツネのお兄さんは、"そういう時は、音が遠い方へバレないように逃げるんだぞ"って言ってたっけ。
お友達のバラに別の出口を作って貰おうと、ツタが伸びた時には、すぐそこまで音が迫っていた。
避ける暇もなく、ドゴオン!とぼくの居るレンガのお家が音を立てて崩れた。
壁がドアごと無くなって、収まらない風圧がぼくを強く押す。抗える訳もなく、そのままコロコロと転がるぼく。
「……うぅ、なにがおこったのかな」
ぐわんぐわんと揺れる視界、耳からはガチャンと扉が開く音、カツカツと響く足音が聴こえる。
「その疑問には、ファウストがお答えしましょう。あなたの拠点にメフィストフェレスが追突しました。」
「……ふぅ、そうなんだ、おしえてくれてありがとう。おねえさん」
まずは落ち着いて、深呼吸。教えてくれたなら感謝を述べる。
大切なおもちゃを抱きしめたまま、地面から身体を起こすぼくの前には、2人の人が立っていた。
1人はぼくの疑問に答えてくれた、輝く雪のような髪をしたお姉さん、ファウストさん?と、その後ろにのっそりと立ち、こちらを赤く鋭い瞳で見下ろしてるお兄さんだ。
「……ファウストさん、本当にこの子供が私たちの目的に必要なのか?」
「ファウストは知っています。この子供は都市から
「……、……そうか。」
このお姉さんはどうして、ぼくがトワーヌになったことを知っているのだろう?
おじいちゃんがぼくのために、ぼくの存在を
知ってるってことは、追いかけてきた悪い人なのかな?
でもぼくの短い足じゃこの2人から逃げきることは出来ないから、どうしよう。今まで勉強した知識が、頭の中でぐるぐる回るが、良い案は浮かばず、頼りなくおもちゃを抱きしめながら俯く。
……でもキツネのお兄さんなら、"最後まで諦めずに気を伺え"って言うだろうな。
確かおじいちゃんも、"ビジネスはお互いの
少しの希望を持って、ぼくは俯いていた頭を2人に向けた。
2人も話し終わったのか、ぼくを見つめていた。
「ファウストはあなたに、必要な契約を提案します。」
「けいやく?」
「はい、それは・・・・・・」
「・・・・・・?」
「・・・・・・」
ファウストの話してくれた契約は、ぼくにとって、すごく魅力的なものだった。
「・・・・・・いいよ。ぼく、けいやくする」
そうして、ぼくは、大きなバスに乗ることになった。
<LC-B-14 囚人取扱説明書 >
このたびはLimbus Companyをご支援いただき、誠にありがとうございます。
囚人たちを効率的に扱う方法と、円満な関係を形成するために作成された説明書です。
当文章をしっかりご精読なさったにもかかわらず、解決できない問題が発生した場合は人事部までご連絡ください。
No.14
name:トワーヌ
注意事項:お坊ちゃま、迷子
紹介文:本囚人は都市の平均的な倫理観から逸脱して、温厚かつ献身的です。管理人にも友好的に接してくれる癒しとなる存在かもしれません。
ただ他の囚人と比べて、極めて、箱入りでありかつ小柄であるため、管理人は目を離さないよう強くお勧めします。
[注意]:この囚人の情報は、過去に存在しません。
[注意]: 私物の全金属製複葉機模型は、都市に存在しない形状であり、頭のタブーに抵触する恐れがあるため、車外への持ち出しは厳禁とします。