宴の夜から数日が経過した。
「偉大なる航路(グランドライン)」の荒れる海を、オーロ・ジャクソン号は順調に航行していた。
ミラは船上で、バレットと拳を交えたり、まだ自分を恐れているシャンクスやバギーに不器用ながら気を使ったりと、ロジャー海賊団の日常に少しずつ馴染みつつあった。
そんな静寂を破ったのは、見張り台からの叫び声だった。
「海軍だ! 前方に海軍の大型軍艦が3隻! こっちに向かって進路を取ってるぞ!」
見張りの報せに、甲板の船員たちが一斉にざわめく。
レイリーが眼鏡の奥の目を鋭く光らせ、腰の剣に手をかけた。
「砲撃の用意をしろ! 敵は軍艦3隻、包囲される前に突き抜けるぞ!」
「わっはっは! 威勢のいい奴らだ! 派手に返り討ちにしてやるか!」
ロジャーが愛刀『エース』を手に取り、不敵に笑う。
船員たちが戦闘配置につこうとしたその時――。
「待て」
静かだが、甲板全体に響き渡る声が制した。
背に名刀『政宗』を背負ったミラが、ゆっくりと船首へと歩み出る。
「ミラ? どうした?」
ギャバンが斧を手に首をかしげる。ミラは軍艦を見つめたまま、静かに口を開いた。
「俺一人でいい」
「……あ?」
「この船に乗ってから、まだ海賊らしい仕事をしていない。俺の慣らし運転だ……あんな雑魚ども、手を出させるまでもない」
ミラの言葉に、船員たちが息を呑む。
バギーは「あいつ、軍艦3隻相手に一人で行く気かよ!?」と青ざめ、シャンクスは目を輝かせてミラを見つめた。
ロジャーは一瞬驚いた顔をした後、腹を抱えて笑い出した。
「わっはっはっは! いい度胸だ、ミラ! よし、全員手出し無用だ! 黒龍の初陣、とくと見せてもらうぞ!」
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「ゴール・D・ロジャーの船を確認! 砲撃準備――」
海軍艦隊の旗艦上で、中将が叫びかけたその時。
空を覆う暗雲を突き破り、無人島を破壊したあの恐ろしい影が、天空から一気に舞い降りてきた。
ゴオオオオオオオオッ!!
現れたのは、漆黒の鱗と巨大な翼を持つ古の巨龍――ミラの**『完全龍化(獣型)』**だ。
「な、なんだあのバケモノは……!? 龍!? 龍が降ってくるぞーっ!」
海兵たちが狂乱し、大砲を向ける隙すら与えない。
空中から急降下したミラは、その巨大な質量と漆黒の爪撃を、一番手前の軍艦へそのまま叩きつけた。
ドズゥゥゥン……ッ!!
「そ、そんな……! 船が押し潰されたぁぁぁッ!?」
1隻目の軍艦は大波とともに木っ端微塵に破砕され、瞬く間に海へと沈んでいく。
そのままミラは天空へ翻転すると、息つく間もなく2隻目の上空で黒大蛇のごとき長い首を振った。
「『黒炎弾』――!!」
天空から放たれた超高熱の漆黒の焔が、2隻目の軍艦を襲った。
大砲も、鉄の装甲も、木造の甲板も、接触した瞬間に大爆発を起こし跡形もなく破壊され、たった数秒で、2隻目は海中へと消え去った。
空からの理不尽なまでの圧倒的猛威。
残る3隻目の旗艦の海兵たちは完全に戦意を喪失し、悲鳴を上げて逃げ惑う。
その旗艦の甲板へ、黒龍の全身から噴き出す黒紫の燐光とともに、ミラが人間の姿へと戻りながら静かに舞い降りた。
「ひっ……ひぃぃぃッ! バケモノだ! 撃て! 撃ち殺せぇぇッ!」
錯乱した海兵たちと中将が一斉に剣や銃を構えて襲いかかってくる。
だが、ミラは刀を構え、冷徹な黄金の瞳で彼らを捉えた。
両手で握られた長刀『政宗』に、黒紫の武装色の覇気が凝縮されていく。
「ロジャー海賊団に手を出すには、100年早い」
ミラの姿が消えた。
次の瞬間、甲板上に無数の銀色の軌跡が交差する。
――『八刀一閃(はっとういっせん)』!!
閃光のような超神速の八連斬撃。
見切ることすら不可能な神技の太刀筋が、一瞬にして甲板上の海兵全員、そして旗艦のマストや巨大な砲台ごと切り刻んだ。
ズバババババババッ!!!
「がっ……!?」
海兵たちが何が起こったかも理解できぬまま崩れ落ちる。
ミラが背を向け、カチリと『政宗』を鞘に納めた瞬間、巨大な旗艦はサイコロ状に細切れとなり、爆発とともに海中へと叩きつけられた。
強襲から、わずか数分。
海軍艦隊3隻は、全滅した。
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「す……げぇ……」
オーロ・ジャクソン号の甲板に戻ってきたミラを、シャンクスが目を丸くして出迎えた。
バギーは「空から龍が降ってきたと思ったら一瞬で3隻沈んだ……」と膝をガクガクと震わせている。
バレットは腕を組み、悔しそうに歯噛みしながらも「フン……完全龍化の質量で潰し、ブレスで破壊し、最後はあの超長刀か。相変わらず出鱈目な戦術だ」と呟いた。
「わっはっはっは! 見事だミラ! まさに一騎当千だな!」
ロジャーが大笑いしながらミラの背中を叩く。
レイリーも満足そうに微笑み、酒杯を差し出した。
「これなら、海軍も迂闊には近づけんな。頼もしい仲間が入ってくれたものだ」
ミラは背の『政宗』の位置を整えると、小さく口元を緩めた。
「まだ準備運動にもなっていない。俺の黒龍の力……こんなもので終わるはずがないからな」
遠くで沈みゆく軍艦の煙を背に、黒龍をその身に宿した剣士・ミラは、ロジャー海賊団の一員としてその圧倒的な存在感を世界に示し始めたのだった。