オーロ・ジャクソン号は、物資補給のためにとある賑やかな港町に寄港していた。
船長であるロジャーの「各自、日没までに船に戻れよ!」という豪快な号令のもと、乗組員たちはそれぞれ自由行動へと繰り出していく。
ミラもまた、背に名刀『政宗』を背負い、静かに港町の喧騒の中を歩いていた。
「(平和な街だが……妙な気配が混じっているな)」
見聞色の覇気を走らせていたミラは、路地裏から漂う僅かな殺気と、見覚えのある幼い気配を感じ取り、足を止めた。
その頃、裏通りの薄暗い倉庫街。
「ひ、ひぃぃぃッ! 放せよ! 俺たちが誰だか分かってんのか! ロジャー海賊団だぞ!?」
「バギー、無駄だよ! こいつら耳を貸す気がない!」
縛り上げられ、口を塞がれそうになっているのはシャンクスとバギーだった。
二人を囲んでいるのは、柄の悪い男たち――この海域で暗躍する「人攫い屋」の集団だ。
「ヒヒヒ、ロジャー海賊団の見習いガキだと? 冗談吐いてんじゃねぇよ。赤髪に赤鼻、珍しいガキだから闇オークションで高く売れそうだぜ!」
「船にぶち込め! 出港準備だ!」
シャンクスとバギーは必死に抗うが、まだ幼い子供の力では大人数の男たちを押しのけることはできない。二人は人攫いの大型船の船倉へと押し込められ、錠をかけられてしまった。
「くそっ……! ロジャー船長……レイリーさん……!」
バギーが涙目になりながら絶望しかけたその時――。
ドカァァァァンッ!!
船体が大きく揺れ、甲板の方から凄まじい破壊音と男たちの悲鳴が響き渡った。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
「ひ、ヒィィッ! バケモノだぁぁぁッ!?」
何かが甲板を押し潰し、木砕が飛散する音。続いて、冷徹で聞き覚えのある静かな声が船倉の中にまで届いた。
「俺の船の見習い(ガキ)に、汚い手で触れるな」
「この声……! ミラさん!?」
シャンクスが叫んだ瞬間、船倉の頑丈な鉄扉が、紙くずのように一直線に一刀両断された。
ズバァンッ!!
光が射し込む扉の先には、漆黒の太刀『政宗』を手に、冷たい黄金の瞳を光らせるミラの姿があった。
背後には、人攫いたちが全滅して転がっている。
「み、ミラさん……!」
「怪我はないか」
ミラは手際よく政宗で二人の縄を一瞬で叩き切った。
バギーはまだ恐怖でガクガクと震えていたが、自分たちを助けに来てくれたミラの姿を見て、一気に涙が溢れ出させた。
「ミラぁぁぁッ! 怖かったぁぁッ!」
「おい、泣くなバギー。……ミラさん、ありがとう!」
バギーは勢い余ってミラの腰にしがみつき、シャンクスも安心したように笑みを浮かべてミラの袖を掴んだ。
ミラは少し驚いたように目を見開いたが、口元をわずかに緩めると、二人の頭にそっと手を置いた。
「よしよし……もう安全だ。船へ帰るぞ」
その日の夕方、オーロ・ジャクソン号の甲板。
人攫いの船を丸ごと叩き潰して戻ってきたミラ、シャンクス、バギーの三人。事情を聞いたロジャーは「わっはっはっは! 人攫いの奴ら運の悪い ミラに目をつけられるとはな!」と爆笑していた。
「だがロジャー気づいてたんだろ?奴らのこと」
「あぁだがミラお前が行ったから問題ないだろうと判断した」
「ふっ期待に応えられて何よりだ」
いつもなら宴の端で怯えていたシャンクスとバギーだったが、この日からは違っていた。
「ミラさん! この肉、めちゃくちゃ美味いよ! 食べて!」
シャンクスが焼き立ての大きな肉をミラの元へ持ってくると、ミラの隣の席に当たり前のように腰掛けた。
「ミラ! 次の島に行ったら、俺に剣の振り方教えてくれよ! あの『八刀一閃』ってやつ!」
バギーもまた、昼間の恐怖はどこへやら、ミラの背中の『政宗』を興味深そうに覗き込んでいる。
「バギー、あれはミラさんの凄まじい覇気と技術がないと無理だろ」
「うるせぇ! 俺だって強くなりたいんだよ!」
賑やかに話し合う二人を、ミラは静かな眼差しで見つめ、差し出された肉を受け取った。
「……教えるのは構わないが、稽古は厳しいぞ」
「望むところだぜ!」
「ひぇ、手加減してくれよな……!」
二人のやり取りを見ながら、レイリーが酒杯を傾けて微笑む。
「フフ……すっかり懐かれたな、ミラ」
「……子供の扱いには慣れていない。だが……悪くはないな」
ミラはそう呟くと、少しだけ『人獣型』の小さな龍の角を頭から生やしてみせた。
以前なら悲鳴を上げて逃げ出していたバギーとシャンクスだったが、今は「うわっ! 角が出た! 触ってもいい!?」と目を輝かせて寄ってくる。
(世界の果てを目指す航海……守るべきものが増えるのも、悪くない)
ミラの胸の奥で、黒龍の漆黒の炎が、どこか温かく揺らめいていた。