オーロ・ジャクソン号を待ち受けていたのは、海軍でも他の海賊でもなく、「新世界」そのものの狂暴な大自然だった。
空が気味の悪い紫黒色に染まり、気圧が急激に跳ね上がる。
「面舵いっぱーい! 持ちこたえろ!!」
航海士の絶叫が風音に掻き消される。
目の前に立ち塞がったのは、雲に届かんばかりの超巨大な大津波――壁のように押し寄せる絶望の波だった。
「ひぇぇぇぇッ! 死ぬ! 今度こそ死ぬぞぉぉぉッ!」
バギーが甲板にしがみつきながら悲鳴を上げる。シャンクスも必死にロープを掴みながら、激しい雨風に目を細めていた。
「波がデカすぎる! 呑まれるぞ!」
「わっはっは! 愉快な波だなぁ!」
豪快に笑うロジャーが愛刀『エース』を構え、船首へ躍り出る。
その隣に、背から名刀『政宗』を抜いたミラが並び立った。
「ミラ、合わせろ! あの波ごとぶった切るぞ!」
「ふ……言われるまでもない!」
ふたりの全身から、黒紫の電撃を伴う圧倒的な**『覇王色の覇気』**が噴き出す。
ロジャーの『エース』、そしてミラの『政宗』の刃に、バリバリと空間を切り裂く黒き覇気が凝縮されていく。
「「――神避・黒炎斬!!」」
ズバァァァァァァンッ!!!
ふたりが同時に放った超巨大な合体斬撃。
覇王色を乗せた漆黒の刃線が天空を切り裂き、直進。押し寄せる数百メートルの大津波を、真っ二つに叩き割った!
「な……津波が、割れたぁぁぁッ!?」
「すっげぇぇぇーっ!! ロジャー船長! ミラさん!」
シャンクスとバギーが歓声を上げるが、安心したのも束の間。割れた津波の向こうから、今度は海面から天へと届く巨大な連続竜巻と、全方向から迫る猛烈な引き潮が船を襲う。
「笑い事じゃないぞ! 津波は凌いだが、この規模のサイクロンと渦潮に呑まれれば、いくら宝樹アダムで造られた船とてひとたまりもない!」
レイリーが叫び、船体が悲鳴を上げる。
「……仕方ない、これを使うか」
ミラが『政宗』を鞘に納め、一歩前に踏み出した。
「シャンクス、バギー……しっかりしがみついていろ。舌を噛むなよ」
ミラの全身から、禍々しい黒紫の燐光が噴き出した。
ゴオオオオオオオオッ!!
ミラの身体が急激に膨れ上がり、甲板を覆い尽くすほどの漆黒の鱗、天空を打つ巨大な翼、そして古の威厳を放つ巨躯――**『完全龍化(ミラボレアス)』**へと姿を変える!
「オオオオオオオオオン……!!」
咆哮一閃。衝撃波で周囲の猛烈な暴風が一時的に吹き飛ばされる。
黒龍となったミラは、オーロ・ジャクソン号を上から、龍の巨大な四肢と強靭な爪で、船体を傷つけぬよう力強く、かつ慎重にしっかりと掴み上げた。
「船を持ち上げた……!? 馬鹿な、オーロ・ジャクソン号の重量を龍一匹でか!?」
レイリーやギャバンすらも目玉をひっくり返す中、黒龍ミラは巨大な漆黒の翼を力強く一ため打ちした。
バサァァァァァッ……!!
ドバァッ!!
海面が爆発したかのように弾け飛び、オーロ・ジャクソン号は海から離れ、一気に垂直上昇を始めた!
ミラは、嵐の渦巻く暗雲を、巨大な翼のはためきで切り裂いていく。
暴風も、雷撃も、龍の頑強な漆黒の鱗にはかすり傷一つつけられない。
そして――。
バリィィィンッ!!
暗い雲海を突き抜けた瞬間、視界が一気にひらけた。
そこは、荒れ狂う嵐の遥か上空。雲一つない紺碧の空と、眩しい太陽が輝く静寂の世界だった。
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嵐の圏外まで飛翔し、安全な海域の上空でゆっくりと海面へ着水したオーロ・ジャクソン号。
ドスゥゥゥン……。
静かに海へと降り立った瞬間、ミラの漆黒の巨躯が燐光とともに小さくなり、人間の姿へと戻った。
だが――。
「ハァ……ハァ……ハァ……ッ」
甲板に降り立ったミラは、膝から崩れ落ち、肩を激しく上下させていた。全身から汗が噴き出し、指先がピクピクと痙攣している。
「ミ、ミラさん!? 大丈夫か!?」
シャンクスとバギーが慌てて駆け寄る。
「……流石に、宝樹アダムの巨大船を持ち上げて空を飛ぶのは……骨が折れたな……」
ミラは地面に手をついたまま、苦笑いを浮かべた。巨大船を持ち上げながらの大飛行は、いくら「黒龍」とはいえ体力を根こそぎ持っていかれる無茶な芸当だったのだ。
「わはははは! そりゃそうだろ! お前、いくら龍だからって船ごと飛ぶ奴があるか!」
ロジャーが大爆笑しながらミラの背中をバシバシと叩き、ミラは「ぐふッ……叩くな、響く……」と顔を歪めた。
「おいおいロジャー、追撃をかけるな。ミラ、よくやってくれた。お前のおかげで全員命拾いしたよ」
レイリーが水筒を差し出し、ギャバンも「大した規格外野郎だぜ」と感心しきりだ。
「ミラさん! 水持って来たよ! 飲んで!」
「おいシャンクス、クッションも持って来い! ミラさんを休ませるんだ!」
すっかりミラの介抱役に回るシャンクスとバギー。二人に介抱されながら甲板に横になったミラは、空を見上げて小さく息を吐いた。
「……まったく、世話をかけるな」
「へへっ、お互い様だよ! ミラさんは今日はもう寝てていいからね!」
シャンクスが笑い、バギーも必死に扇風のようにウチワで風を送る。
大津波と大嵐をねじ伏せた代償に疲れ切った黒龍だったが、船員たちの温かい歓声と気遣いの中で、心地よい眠りに落ちていった。
大嵐と大津波を乗り越え、ひとまず平穏を取り戻したオーロ・ジャクソン号。
ミラがたっぷりと休息を取り、体力を完全に回復させた翌日のことだった。
「ミラぁぁぁッ! おいミラ!!」
甲板へ駆け込んできたロジャーの手には、愛刀『エース』が握られていた。その目は少年のように爛爛と輝いている。
「いやぁ〜! 昨日のあれだよ、あの合体斬撃! 痺れたなぁ! 覇王色同士の同調であそこまで威力が跳ね上がるとは思わなかったぜ!」
ロジャーが興奮気味に叫ぶと、名刀『政宗』の手入れをしていたミラがゆっくりと顔を上げた。
嫌がるかと思いきや――その黄金の瞳にも、静かな狂熱が宿っていた。
「……気づいたか、ロジャー。昨日の『神避·黒炎斬』……あれはまだ、俺たちの覇気の威力を五割も出せていない」
「な……なにぃ!?」
「お前の『神避』の放出タイミングに、俺の『政宗』の斬撃軌道を完全に重ね合わせれば、破壊力は少なくとも三倍には跳ね上がるはずだ」
ミラは不敵な笑みを浮かべ、カチリと『政宗』を鞘に納めた。
「次の実験をするぞ、ロジャー。今度はお前の剣撃に俺の漆黒の炎を完全融合させる……名付けて『神避・黒龍波』だ」
「わはははは! いいねぇ! 最高だぜミラ! お前、ノリノリじゃねぇか!!」
乗り気すぎるミラの反応に、ロジャーは大喜びでミラの背中をバシバシと叩いた。
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甲板の隅では、その光景をレイリーとギャバンが頭を抱えて眺めていた。
「おいおい……ロジャーだけじゃなく、ミラまでノリノリになっちまったぞ……」
「ただでさえ手がつけられない怪物がふたり揃って、新しい破壊技の試運転だと? 冗談じゃねぇ、船が持たねぇぞ!」
レイリーが呆れ顔で額を押さえる横で、シャンクスとバギーは目を輝かせて二人の元へ駆け寄っていた。
「ミラさん! ロジャー船長! 俺にもその合体技見せて!!」
「おいおい! 今度は海をまるごと吹き飛ばすようなヤツ頼むぜ!!」
「フフ……見せてやろう。バギー、シャンクス、離れていろよ」
ミラは『人獣型』へと姿を変え、黒龍の翼を広げた。両手に持った長刀『政宗』に黒紫の覇王色と超高熱の黒炎を纏わせる。
その隣で、ロジャーもまた『エース』に極限の覇気を漲らせ、二人はニヤリと顔を見合わせた。
「いくぞ、ミラ!」
「ああ、合わせろロジャー!」
「「――『神避・黒龍波(かむさり・こくりゅうは)』――ッ!!!」」
ズバババババババァァァンッ!!!
ふたりが放った合体技は、海面を遥か彼方まで割断し、地平線の雲すらも一瞬で吹き飛ばした。
凄まじい衝撃波と爆風に、船員たちは「うわぁぁぁッ!?」と吹き飛ばされそうになりながらも大歓声をあげる。
「わはははは! 完璧だ! 過去最高の切れ味だぞミラ!」
「ふ……まだだ。次は俺が完全龍化して上空からブレスを放ち、そこにお前が『神避』を叩き込むパターンを試す」
「おお! それも面白そうだな! よし、もう一回だ!!」
「待て待て待てぇい!!」
ついに耐えかねたレイリーが割って入り、ふたりの頭を拳骨で殴りつけた。
「これ以上海を荒らすな! 追撃の海軍に見つかったらどうするんだ!」
「痛でぇ! なんだよレイリー、ケチケチするなよ〜!」
「……不意打ちとは、やるなレイリー」
たんこぶを作ったロジャーとミラは顔を見合わせ、「夜になったらまたやろう」とニヤリと笑いあった。
「やめろ!と言ってるだろうが」ゴン、ゴン、今度は武装色でおもいっきり殴った。「いって〜レイリー何も武装色で殴らくてもいいだろ?」「いっ今のは効いた」「お前達が聞かないからだろうが!次聞かなかったら覇王色ものせるからな」「「そっそれは勘弁だ」」
懲りない二人なのであった