上位存在ヤンデレもの   作:ヤンデレスキー

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襲撃とパフェ

 澄と仲直りしてから数日経った頃、俺の日常には小さな変化が訪れていた。

 

──視線を感じる

 

 気のせいだ、自意識過剰だと最初は思った。けれど、俺はこの手の感覚には人一倍自信がある。日に日にその疑惑は確信へと変わっていく。バイトの行き帰りすら頻繁に後ろを振り返るようになった辺りで事件は起きた。

 

 いつも通りの帰り道。碧落機関から最寄りの停留所までバスに揺られ、そこから徒歩十分ほどのアパートまでの道のり。街灯の間隔がまばらな住宅街を抜けていく、代わり映えのしないルートのはずだった。

 

 時刻は、夜の十時を少し過ぎた頃。澄の部屋で少し長話をしてしまい、いつもより帰りが遅くなっていた。

 

 歩き始めて数分、ふと、背筋に何か違和感を覚える。またか……心の中でため息をついた。誰かに見られている。

 

 足を止め、振り返る。だが、街灯に照らされた道には、いつも通りの何もない光景が広がっているだけだった。電柱、自動販売機、閉まったシャッター。不審な人影など、どこにもない。仕方ないと諦め、前を向き、また歩き出そうとした、その瞬間だった。

 

 背後の空気が、唐突に重くなった。咄嗟に後ろを振り返る。声を上げる暇もなく、腹のあたりに鈍い衝撃が走って吹き飛ばされる。

 

「っ、が──」

 

 悲鳴にすらならない呻きが漏れた。不思議と痛みは少ない、だが、あまりに突然のことで脳がフリーズして、起き上がれない。十メートルは吹き飛ばされた、ただの人間にできることじゃない。

 

 視界の端に、何かが映る。人の形をしているはずなのに、輪郭が異様に歪んで見えた。黒い、影のような質感。街灯の光すら、その輪郭の周りだけ、吸い込まれるように薄れていく。

 

 突然、人影がふっと音もなく搔き消えた。

 

 さっきまで感じていた圧迫感のようなものも消えている。まるで最初から何もなかったかのように、静かな夜道が、そこにあるだけだった。

 

 ようやく立ち上がり、体を確かめる。だが不思議なことに、シャツを捲ってみても、痣一つ見当たらない。

 アパートまでの残りの道のりを、俺は何度も後ろを振り返りながら歩いた。何もない、何も起きない。それでも、街灯の一つ一つが、いつもより頼りなく見える。

 

 部屋に着いてからも、玄関の鍵を何度も確認してしまうくらいには、神経が過敏になっていた。カーテンの隙間から外を覗き、誰もいないことを確かめてから、ようやく肩の力を抜く。

 

 布団に入っても、なかなか寝付けなかった。何度も寝返りを打ち、結局、明け方近くになってようやく浅い眠りに落ちた。

 

 緋雪や澄と接してきたおかげで、大抵の異常事態には慣れたつもりでいた。だが今のは、質が違う。彼女たちの超越的な在り方にはない、『悪意』のようなものを感じた。

 

───────

 

 翌朝、寝不足の重い体を引きずるようにして、俺はいつも通り碧落機関へと向かった。バスに揺られながら、昨夜の出来事を何度も頭の中で反芻する。

 

 心当たりがないとは言えない。立花さんも、「この施設には敵も多い」なんてことを言っていた。正直その時点では聞き流していたのだが、こうも実害が出ると無視することもできない。

 

 緋雪の部屋に着くなり、いつもの挨拶も省いて、俺は単刀直入に切り出した。

 

「緋雪さん、超常的な危険から身を守る方法とか、知りませんか」

 

 いつも通り窓の外を見ていた緋雪が、ゆっくりとこちらを振り返る。

 

「藪から棒に、何なの」

 

「昨日の夜、何かに襲われて。よく分からないまま、逃げられたんですけど」

 

 俺の顔色を見て、緋雪の表情が変わった。からかうような色が、すっと消える。

 

「……座って。詳しく話しなさい」

 

 いつになく真剣な声だった。俺は言われるまま椅子に座り、昨夜のことを、覚えている限り丁寧に話した。背後から感じた気配、腹に受けた鈍い衝撃、十メートル近く吹き飛ばされたこと、そして輪郭の歪んだ人影。

 話し終える頃には、緋雪の眉間には、はっきりと皺が寄っていた。

 

「相手の正体は?」

 

「分からないです。顔も見えなかったし、一瞬のことで」

 

「なら特徴は?」

 

「えっと……すごい力だったってことぐらいしか」

 

 呆れたようなため息をつかれる。だが、その物言いに反して、緋雪の視線は、ずっと心配そうに俺の顔を見つめていた。

 

「厄介ね。少なくとも、ただの人間の仕業じゃないでしょうし」

 

「やっぱり、そうですよね……」

 

「心当たりは?」

 

「いや、それが全然。あるとしたら、この施設絡みだと思うんですけど」

 

「……怪我はないのよね?」

 

「はい、それが不思議と。もしかして……緋雪さんから貰ったこの指輪のおかげですか?」

 

「まあ、大抵の攻撃は防ぐ力はあるけどね。それも絶対じゃないわ」

 

 さらっと衝撃の事実を明かした緋雪はしばらく顎に手を当てて考え込んでいたが、やがて小さく首を振った。

 

「今考えても仕方ないわね。とにかくもう一つ、対策を用意してあげる」

 

 そう言うと、緋雪は虚空に手を伸ばした。空気中から光の粒子がゆっくりと集まり出す。今まで何度も見てきた光景のはずなのに、今日はやけに神妙な面持ちで、緋雪はその作業に集中していた。

 

 数十秒ほどかけて、粒子は小さな石の形に収束していく。紅く透き通った、指先ほどの大きさの石だった。

 

「肌身離さず持っていなさい」

 

「これ、何ですか」

 

「魔除けよ。あなたに悪意を持った存在を遠ざけてくれるわ」

 

 石を受け取ると、手のひらにじんわりとした温かさが伝わってきた。まるで、緋雪の想いそのものが、そこに込められているかのように。

 

「ありがとうございます」

 

「……礼はいいから、絶対に無茶しないこと。危なそうだと思ったら、すぐに逃げなさい」

 

 愛想のない言い方だったが、その日、緋雪はいつもよりずっと真剣な顔で、俺が部屋を出るまで何度も「気をつけて」と繰り返していた。窓の外を見送る紅い瞳には、隠しきれない不安の色が滲んでいた。

 

───────

 

 それから数日、俺は緋雪にもらった石を、常にポケットの中に忍ばせて過ごした。夜道を歩く時は、必要以上に周囲を警戒し、少しでも物音がすれば飛び上がるくらいには、神経を尖らせていた。

 

 だが、何も起きなかった。一日、また一日と、平穏な日々が過ぎていく。

 

 人の緊張感というのは、そう長くは続かないものらしい。五日目を過ぎる頃には、ポケットの中の石の存在すら、時折忘れかけるくらいには、日常が戻ってきていた。

 

 そんな、油断しきったある日。新作のゲームを買いに来た俺は、人ごみに揉まれながら目的の店に向かって歩いていた。仮に俺を狙う人物がいたとしても、ここまで人目がある状態で襲ってくるような馬鹿なことはしない、そう安心しきっていた。

 

 周囲はガヤガヤと騒がしい。一人の俺とは違って複数人で来ている人の会話、車のエンジン音、足音、混ざり合って雑音となり俺の耳に届く。

 

──それが突然、ピタリと鳴りやんだ。

 

 同時に、おぞましいほどの寒気が背筋に走る。以前あの夜に味わったものとは、比べ物にならない。

 

 なるほど、と納得する。緋雪が執拗に心配していたのは、こういう場合か。そりゃ、力が強いと言っても攻撃の手段が物理の時点でたかが知れている。てっきり、澄や緋雪のような存在は基本あの施設にしかいないと思っていたのだが……

 

 辺りを見回すと、夥しい数の人が倒れて地面に伏せている。気絶しているだけで怪我などはなさそうで、ひとまず安心する。ゆっくりと、後ろを振り返った。

 

 まず、気配が違った。ただそこに立っているだけなのに、周囲の空気が、じわりと重みを増していくような感覚。風がその人の周りだけ、まるで避けて通っているようにすら見えた。近くの電線に留まっていた鴉が、一斉に羽ばたいて逃げていくのが視界の端に映る。

 

 長い髪は、深い藍色をしている。陽の光を受けると、時折、鱗のような光沢がその表面に浮かび上がる。切れ長の瞳は、金色に近い色で、遠くからでもはっきりと輝いて見えた。背筋の伸びた立ち姿、隙のない佇まい──一目で、人間ではないと分かる存在感だった。

 

 背は、緋雪や澄よりも頭一つ分は高いだろうか。全身から立ち上る気配は、若さよりも成熟を感じさせる、落ち着いた色香を纏っていた。

 纏う空気が緋雪や澄とはまた違う、もっと根源的な『格』のようなものを感じさせる相手だ。まるで、山や海そのものと対峙しているような、そんな錯覚すら覚える。

 

「やっぱり……こうなってしまうのね」

 

 聞き取れないほどの小さな声で何かを呟いた後、ゆっくりと視線がこちらに向いた。彼女の口が、ぽかんと大きく開かれる、まるで、信じられないものを見たように。

 どうやら興味を持たれたようだ……面倒くさいなあ。

 

「……塁くん、っていうのね」

 

 柔らかく、けれど芯の通った声だった。名前を呼ばれたことに、驚くと同時に警戒度が一段上がる。値踏みするというより、愛おしいものでも見るような眼差しが、俺の全身をゆっくりと辿った。

 

「名前を知られているなんて光栄です」

 

「そんなに身構えないで。取って食べたりしないから、安心して」

 

 ふっと息を漏らすように笑うその声には、余裕と温かさが同居していた。俺は反射的にポケットから石を取り出した。緋雪の言葉を思い出しながら、それを相手に向ける。

 ……そういやこれどうやって使うんだ? てっきり自動発動すると思っていたのだが、そんな気配はない。

 

「あら、可愛いお守り」

 

「……効いてないんですか?」

 

「さあ、どうかしら?」

 

 からかうような、それでいてどこまでも優しい笑い方だった。怒るでも威圧するでもなく、微笑ましそうにされると、毒気を抜かれてしまう。

 うーん、発動しないってことは悪意はないのか? 一応護身用のアイテムも自分で用意してはいるが、防犯ブザーはこの状況じゃ意味がないし、催涙スプレーなんて効かないよなあ。

 

「あの、それで、俺をどうする気なんですか」

 

「少し、付き合ってもらえない? ……そうね、この辺りに、ゆっくり話せる場所、ある?」

 

「はあ」

 

 予想外の質問に、間の抜けた声が出た。まさか、これだけの気配を纏った相手から、そんな台詞が飛び出すとは思ってもみなかった。

 

「……近くにファミレスとかならありますけど」

 

「なら、そこに行きましょうか」

 

 断れる空気ではなかった。だが、その断れなさは、恐怖からくるものというより、もっと自然な──例えば、面倒見のいい先輩に誘われた時のような、そういう類の圧力だった。

 

 結局、俺は促されるまま、近くのファミリーレストランへと足を運ぶことになった。誰もいない……というか誰も意識を保っていない空間を、正体不明の超常存在と二人で歩くという、なんとも奇妙な絵面だ。

 

──────

 

 店内は、静けさに包まれていた。ちらほらといる他の客は、俺たちが店に入った段階で全員気絶してしまった。奥の席に、向かい合って座る。

 

 メニューを開くと、彼女はテーブルに頬杖をつき、興味深そうにそれを覗き込んできた。

 

「好きなもの、頼んでいいのよ。私が奢ってあげる」

 

「いや、そんな、悪いですよ」

 

 実際は思っていないが一応遠慮しておく、そもそもこの店の状態で会計が可能なのかは微妙なところだ。

 

「遠慮しないで。私が誘った側だし」

 

 メニューをぱらぱらとめくっていた彼女の指が、写真の一枚でぴたりと止まった。

 

「これは、何?」

 

「あー、それはパフェですね。デザートです」

 

「頼んでみても?」

 

「もちろん。……というか、初めてなんですか、こういうの」

 

「人間の食事処というもの自体、足を踏み入れたことがなかったから」

 

 まあ、当たり前か。この人の影響で店員も気絶しちゃってるし……というか、これじゃあ注文できなくないか? 疑問に思った瞬間、意識を失った状態の店員がパフェを持ってやってきた。どうやら心配無用らしい……相変わらず何でもありだな

 

 運ばれてきたパフェを、彼女はまるで宝物でも扱うように、しばらくじっと見つめていた。それから、恐る恐るスプーンを差し込み、一口。

 

「……甘い」

 

 驚いたように、目を丸くする。

 

「こんな味、初めて」

 

 子供のように無邪気な反応だ。まとう気配とのちぐはぐさが目立つ。

 

 ドリンクバーを二人分注文し、俺はグラスを持って立ち上がった。メロンソーダを注ぎながら、ちらりと席を振り返る。ファミレスの安っぽい照明の下で、パフェを一口一口大事そうに食べている姿を見て、今更警戒するのは難しかった。

 

 席に戻ると、彼女は頬杖をついたまま、こちらをじっと見ていた。

 

「それで、俺に何の用なんですか」

 

「焦らないでよ、まずは自己紹介から。私は瑠璃(るり)。よろしくね、塁くん」

 

「……瑠璃さんは、竜神とかですか?」

 

「あら、察しがいいのね」

 

 愉快そうに目を細めるその表情は、さっきまでの威圧感が嘘のように柔らかい。……察しがいいも何も、いつの間にか生えてた尻尾がさっきから叩きつけられてバチンバチン鳴っているのだが、気づいていないんだろうか。

 どうでもいい事は置いといて、とりあえず質問を始める。

 

「そもそも、何でここに来たんですか?」

 

「そうねえ……確認のためかな」

 

「確認?」

 

「人間たちがどういう進化を遂げているかの、確認」

 

 瑠璃は、少し考えるような間を置いた後そう言った。……進化がどうこう言われても、いまいちピンとこない。

 

「もうちょい具体的にお願いします」

 

「人間が『私』に耐えられるようになっているか」

 

 瑠璃は、少し眉尻を下げた。それまでの余裕のある表情に、微かな翳りが差す。

 

「これでも必死に抑えてる方なのよ。それでも、結果はあのざま」

 

 メロンソーダの氷が、からりと音を立てて崩れた。静かな店内に、やけによく響く。

 

「本当に、何百年ぶりかしら。私の気配を浴びて、こうして意識を保ったまま、まともに言葉を返してくる存在に出会ったのは」

 

 その声には、隠しきれない驚きと、それ以上に、縋るような響きがあった。

 

「俺みたいに意識が残るのは珍しいんですか?」

 

「稀、というより──人間で会話が成立したのは、記憶にある限り塁くんが初めてかな」

 

 言葉を選ぶように、瑠璃は続ける。明かされた事実に、俺は流石に衝撃を覚えた。まあ、緋雪や澄と日常的に接していること、指輪や石を身に着けていることなど思いつく理由は結構ある。

 ただ、意思疎通ができるって条件だけなら別に人間じゃなくてもいいような……

 

「人間以外の存在を探せば良かったんじゃないですか? 瑠璃さんと同格の」

 

「私と同格の存在なんて中々いないわよ。いたとしても友好的な関係を結ぶのは無理ね……絶対に無理」

 

 瑠璃は肩をすくめて、遠い目をした。昔痛い目を見たことがあるのだろうか。瑠璃なら緋雪や澄とも仲良くなれそうだと思うのだが、強大な力を持つ者同士が仲良くするのは案外難しいのかもしれない。

 

「だから、塁くんのことは余計に見過ごせなかった……例えば今だって、手を抜いたらこの店ごと、消し飛ばしかねないの」

 

 瑠璃は、そっと右手を開いて見せた。手のひらの上、淡い青白の光の粒子が、絶えず生まれては消えていく。まるで、抑えきれない何かが、指の隙間から絶え間なく漏れ出しているかのようだった。

 冗談めかした口調だったが、目は笑っていない。すっかり警戒心がなくなっていたが、どうやら俺は結構危機的状況にあるようだ。

 

「……聞きたいことがあるんだけど、人間同士の『友達』って、普段どんなことをするものなの? 一緒に、何をして過ごすのかしら」

 

 なんだか似たような質問を以前にもされた覚えがあった。この威厳ある竜神が、心なしか身を乗り出すようにして、答えを待っている。

 

「うーん。一緒にご飯食べたり、他愛のない話したり、たまにどこか出かけたり、とかですかね」

 

「……今、塁くんとしていることと、同じね」

 

「まあ、そうですね」

 

 瑠璃はどこか答え合わせでもするように、小さく頷いた。それから、少し照れくさそうに視線を逸らす。少し遠い目をして続けた。

 

「昔、人間の集落の近くに棲んでいたことがあるの。雨を降らせて、川の氾濫を鎮めて、その代わりに崇められる──そういう関係。悪くはなかったけれど、あれは友達とは呼べないでしょう。跪く顔をいくら覗き込んでも、映るのは私への畏れだけなのだから」

 

 瑠璃は、テーブル上の食べ終わったパフェのグラスを、指先でそっと撫でた。

 

「だから、ずっと、こういうのに憧れてた。気軽に軽口を叩いて、くだらない話で笑い合って……人間が当たり前にやっていることを、私はずっと、遠くから眺めることしかできなかったから」

 

 柔らかい言い方だったが、その奥に、随分と長い年月の重みが滲んでいる気がした。緋雪や澄と、また違う種類の孤独が、そこにはあるようだった。

 

「ごめんなさいね……怖がらせちゃって。でも、塁くんが良ければ、なのだけれど……」

 

 瑠璃の声が途切れ途切れになり、言いよどむ。怯えているような、縋るような声だった。察しが悪いとたびたび周りに指摘される俺でも、流石に言いたいことが分かった。

 

「つまり、俺と友達になりたいってことですか? まあ、いいですよ」

 

 単刀直入に聞いてみる。クリティカルな予想だと思ったのだが、瑠璃は予想外に固まってしまう。

 ……もしかして違ったか? 違った場合凄く恥ずかしいので出来れば合っていて欲しい。

 数秒の沈黙の後、瑠璃が恐る恐る口を開いた。

 

「えっと、私、竜神なんだけど。瞬間移動とか、時間操作とか、結構何でもできるんだけど」

 

「はあ、すごいですね」

 

 瑠璃さんの戸惑いの声に対し、間抜けな声を返す。竜神はともかく、瞬間移動とか時間操作は最近結構見る機会があったからなあ……驚くには斬新さが欠ける。今の俺を驚かすなら、未来から来た猫型ロボットでも連れてこないと厳しい。

 

「……本当にいいの?」

 

「いいですけど……ただ、今度からは場所は選んでほしいです」

 

 何の考えもなく了承しかけて、慌てて付け足す。流石に会うたびに周りの人たちが気絶するのは申し訳ない。

 

「また、こうやって会いに来ていいの?」

 

 念を押すその一言に、俺は少し面食らいながらも、頷いた。

 

「まあ、いつでもどうぞ」

 

「……約束よ」

 

 窓の外、赤み始めた空を眺めながら、俺はメロンソーダの残りを飲み干した。とんでもない一日だったはずなのに、今はもう、不思議と穏やかな気持ちだった。

 また一人、変な知り合いが増えてしまったらしい。

 

─────

 

 翌日、緋雪にこの顛末を報告すると、案の定、烈火の如く怒られた。

 

「はぁ? 何よそれ、また新手の変なのに目をつけられたってこと?」

 

「いや、まあ、結果的には、悪い人じゃなさそうでしたけど」

 

「そういう問題じゃないでしょう……」

 

 しどろもどろになる俺を見て、緋雪は片手で顔を覆い、深いため息をつく。文句を言いながらも、結局は俺の身を案じてくれる。その優しさが嬉しかった。

 

 

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