アル子視点です。
閑話ってことにしました。
感想ありがとうございます。励みになります。
カラン、と軽やかなベルの音を鳴らして、僕はそっとバーの扉を押し開けた。
店内に足を踏み入れた瞬間、アパートの雑然とした空気が嘘のように消え去って、微かに香る洋酒とスパイスの大人びた匂いが鼻腔をくすぐる。
照明は落ち着いた琥珀色に落とされ、低音のジャズが心地よく響いていた。
そんな洗練された空間の中で、ふとカウンターの向こう側に目を奪われた。
そこには、きちっと仕立てられたベストに身を包み、端正な顔立ちでグラスを磨く、めちゃくちゃかっこいいお兄さんが立っていた。
──うわ、あんな素敵な店員さんがいるんだ……
そう思って見惚れていたが、よくよく目を凝らしてみて、心臓が跳ね上がるほど驚いた。
(え……よくみたらあれ…上善くん、だよね……!?)
素敵な店員さんだと思ったら、なんとそれは上善くんだったのだ。
まさかのお兄さんどころか同い年だったことに動揺が隠し切れず、まるでアル中時代に酒が切れた時のように体が震える。
いつもアパートで見るパジャマを着た気だるげな上善くんとは似ても似つかない、整髪剤で綺麗に整えられた髪に、凛とした佇まい、そしてプロの顔。
あまりのギャップというか、普段との凄まじい落差に、僕はすっかり言葉を失って、その場で突っ立ったまま見惚れてしまった。
「……ん? おお、アル子。迷わず来れたみたいだな …アル子? 何ボーっとしてんだよ。そんなところで固まってないで、こっちに来いよ」
じーっと見つめていたら、カウンターの中から上善くんが呆れたような、でもどこか優しい笑みを浮かべて声をかけてくれた。
はっ、と我に返った僕は、慌ててトコトコとカウンターへ近づいていく。
「ほら、特等席だ。座れよ」
上善くんの促す声に頷いて、私は用意されたカウンターの席にちょこんとおとなしく腰を下ろした。テーブルは、ほんのりと暖かいため心がホッとする。
───うん、カウンターの向こうの上善くんは相変わらずものすごくかっこいい
だけど、こうして間近に座ってみて、ふと周りを見渡したとき……私は自分の背筋が急に凍るような思いをした。
カウンターのテーブルの温もりは、確かに心地よかった……はずなのに、お店のドアをくぐった瞬間から、私は猛烈なアウェイ感に気圧されていた。
(本当にここが、上善くんが普段働いているバー…なんだよね?)
普段よく行く居酒屋とは違って、照明は落ち着いた琥珀色に落とされ、流れるジャズは大人びていて、何より周りのお客さんたちの服装がきっちりしすぎている。
ジャケットを着たサラリーマン風の人や、上品なワンピースを着た綺麗なお姉さんたちが、静かにグラスを傾けている。
それに比べて僕はといえば。
ショートパンツの上にゆるっとしたパーカーを羽織っただけの、いつもの部屋着兼私服。
これじゃあ、体型も相まってまるで場違いなところに迷い込んだ子供みたいだ。
酔ってもいないのに顔が赤くなる気がした。
「ねぇ、上善くん……」
私はカウンターの裏で氷を切っている上善くんの袖を、思わずキュッと引っ張った。
「僕、めちゃくちゃ場違いじゃない〜? こんな部屋着みたいな格好で来て、本当に大丈夫かな〜?」
「ん? ああ、安心しろ。ウチはドレスコードなんて堅苦しいルールはねぇよ。周りのお客様は店の雰囲気に合わせてくれているだけだ。それにお前は何着ても似合うだろうし、今着てるのだって特に俺は気にならないぞ」
「うう〜、またそうやってさらっと歯の浮くようなセリフを言って〜……上善くんが気にしなくても僕が気にするの〜」
そんなやり取りを経て、僕はようやく指定された席に腰を下ろした。
いつもの行きつけの安い居酒屋の部屋とは違う、洗練された静けさと、微かに香るアルコールやスパイスの匂い。
ここは、上善くんが昼間の家庭的な姿を隠して、プロの顔をする場所───上善くんの勤めてるバーなんだよね。
今日という日を、どれだけ待ちわびたことか。
病院を退院してから、今日でちょうど一ヶ月。あれほど四六時中頭から離れなかったお酒を、一滴も口にせずに過ごした一ヶ月は……上善くんとの「約束」があったからこそ、ここまで耐え抜くことができた。
"上善くんのバーで大人のお酒を教えてもらう"
という約束のために。
「はい、約束の品……ってわけじゃないけどさ。よく頑張ったな、アル子」
カウンターの向こう側から差し出されたのは、琥珀色の液体が静かに揺れるグラス。
カラン、と氷が涼やかな音を立てる。
お酒だ。
(うわ〜アルコールの匂い、超久々だ〜)
以前だったら目にした途端、とりあえず口に運んでいただろうが、今の僕はそれをしない。自然と我慢ができることがこれほど嬉しいとは夢にも思わなかった。
我ながらよく一ヶ月も耐えられたものだと内心で思う。
でも、今目の前にあるのは違う。
以前みたいに飲むと目の前が歪むような、業務用ウイスキーの水割りなんかじゃない。
ちゃんとした、大人のカクテル。
「ありがとう〜上善くん〜! 僕〜この一ヶ月本当に頑張ったんだよ〜?」
本当はあまり辛くはなかった。先ほども言ったように、退院してからは今までの自分が嘘のように、酒を飲みたいという気持ちが湧いてこなかったのである。
だが、僕はあえて我慢したことを強調した。
「知ってるとも。一ヶ月間、よく折れずにやり切ったな」
そう言って、上善くんは僕の頭をポン、と軽く撫でてくれる。
これだ。
僕はこのためにあえて我慢したことを強調したのだ。
一目瞭然かもしれないが、僕は上善くんに撫でられるのが好きだ。
禁酒して数日経ったとき、ちゃんとお酒を飲んでいないことを伝えたところ、そのまま頭を撫でられた。
手が頭に触れた瞬間、鼻腔をくすぐる穏やかな香り。
上善くんはヤニちゃんたちみたいに煙草を吸っているはずなのに、なぜかそれを一切感じない、家庭的でとにかく心があたたかくなる匂いに、僕は包まれた。
頭から離れる手をこれほど名残惜しく思ったのは初めてかもしれないと思うほど、その感触が忘れられず、以来僕は上善くんに撫でられることを求めてしまっている。
そして
「うぇへへ〜」
僕はそのまま顔を綻ばせながら、上善くんに撫でられる。
アパートでいつもされるのと同じ、でもどこか誇らしくて優しいその手の温かさに、なぜか胸の奥がキュッと締め付けられる。
「さてと」
僕の頭から上善くんの手が離れる。
「あ……」
やはり名残惜しくなるが、フォーマルな場での上善くんの前だから、と必死に我慢した。
まさかあの自分が、アルコールを飲めないことよりも撫でられないことに対してこんな気持ちを抱くとは思いもしなかった。
「アルコール依存症というクソな病気から這い上がってきた記念すべき一杯目だ。ただがぶ飲みするような野暮な真似は教えない。大人の酒の味ってやつと、ちゃんとした飲み方を教えてやるよ」
上善くんの低くて落ち着いた声が、店内の静寂に溶け込む。
「うん、よろしくお願いしま〜す」
グラスの持ち方から、口に含んだときの舌の転がし方、そしてチェイサーであるお水を必ず挟む重要性。
一から丁寧に、でも決して押し付ける感じではなく、優しく教えてくれる。
その姿が、なんだかとてもかっこよくて、僕はただこくこくと頷きながら、言われるがままにグラスに唇をつけた。
一口、そっと含んでみる。
──っ、ぴりっとしたアルコールの刺激のあとから、柑橘の爽やかな香りと、奥深い甘みがふわりと広がった。
今まで僕が飲んでいた、缶チューハイなどの安物のストロング系のお酒とは全然違う。舌の上で上品にほどけていくような、そんな味わい。
(これが、大人の飲むお酒なんだ〜)
「どうだ?」
「……うん、すごく美味しい〜。なんだか、世界が少しだけきらきらして見えるよ」
「そりゃよかった。ま、調子に乗って飲むペースを早めるなよ? 少しずつ飲み進めるのがおすすめだ。せっかくの美味い酒を堪能するにはもってこいの飲み方なんだぜ?」
ふっと柔らかく笑う上善くんを見ていたら、なんだか急に、胸の奥底にしまっていた
お酒のせいも、少しだけあるかもしれない。
体全体がぽかぽかして、けれど思考は割とはっきりしていて、心地いい気だるさが広がっているからこそ、普段は蓋をしている記憶が浮かんできてしまう。
「ねえ、上善くん……少しだけ、聞いてくれる〜?」
ん、と首を傾げる彼に、僕はグラスを両手で包み込みながら、ぽつりぽつりと語り始めた。
今まで、誰にも───病院の先生にも、ハゲちゃんやアパートのみんなにも、きちんと話せなかったこと。
「僕ね、大学に入ったときはね、割と真面目な方だったんだ〜……本当は、親の目があったから真面目に振る舞うようにしてた、ってだけなんだけどね。だからずっとそうして生活してた。……でもそれが、思いの外長かったみたいでさ…大学入ってからはなんか自分がどこか浮いてる気がずっとしてた」
上善くんは黙って聞いてくれている。私は続けて言葉を紡いだ。
「ずっと……ずっと、ずっと……緊張、してたのかなぁ?」
今まで、アルコールで心の中に押し留めていた気持ちがどんどん流れていく気がした。
「僕の地元は東北だったからさ〜、こっちの方来てからは、ほんと周りの環境の変化がすごくてね〜。地元の高校とは違う、広いキャンパスに〜、周りの人たちはみんなオシャレで大人びて見えて、それで僕より要領もよくて……でも自分は、演じてるだけで本当は子供っぽくて、センスもなくて、まるで
グラスの中の氷が、またカランと小さく鳴る。
上善くんはなおも遮らず、ただ静かに僕の言葉を待ってくれている。
その瞳が優しすぎて、かえって涙が出そうになる。
「だから、無理をしてたんだと思う。おっとりしてるとか、天然だとか言われるたびに、もっとしっかりしなきゃって、周りに合わせなきゃって。自分の本音を隠して、いつも笑顔で、ちゃんとした『大学生の私』を演じ続けて……それが、すごく、疲れちゃったんだと思う」
気づけば、声が少し震えていた。
「そんなときにね、とあるサークルの人たちに誘われて……飲み会に行ったの〜」
上善くんの眉が少しピクッ、とした気がした。
「最初はね、僕お酒も飲んだことなかったし、親からも変な人たちとは関わるな、って言われてたから断るつもりだったの。でも、結構押しが強くて、友達が気になってたサークルだったし、後で話のネタにするために行くことにしたんだ〜」
僕は一旦話を止め、ため息を吐いた。
「……でも、そこで初めてお酒を飲んだとき……頭の中のモヤモヤが、一瞬ですーって消えていく気がしたの。もう一度、あの感覚を味わいたくてそのあとは周りのコールに合わせて飲み続けたら……いつも気を張っていた自分が、お酒の力を借りたら、なんだかすごく軽くなって……」
「……それが、最初か」
上善くんの低い声が、そっと落ちる。
僕はこくりと頷いた。
「うん。お酒を飲んでいるときだけは、周りの目を気にしないでいられたの。自分のままでいられるような気がした…って感じかな? 本当は、ただ現実から逃げていただけなのにね」
僕は自分を蔑むように笑った。
「いつの間にか、お酒の力を借りないと自分を保てなくなって、断りきれずに誘われるがまま飲んで……気がついたら、親とも疎遠になって、朝から晩までお酒を飲んだりしないと気が済まなくなるくらい、ボロボロになってた」
今思い出すだけでも、胸が苦しい。
己の弱さから目を背けて、ただアルコールに依存して、すべてを投げ出しそうになっていたあの頃の自分。
もし上善くんがあのアパートに引っ越してこなくて、あのまま死ぬまで一人で酒を飲み続けていたらと思うと、今でも背筋が凍るような恐怖を覚える。
「……でもね、今は違うよ〜」
僕は顔を上げ、じっと上善くんの目を見つめた。
少し熱を帯びた頬に、バーの温かい照明が柔らかく反射する。
「お酒を飲むのが怖いって、アル中が治ってから思ったこともあったんだ〜。ほんと、自分でも思うけど、別人みたいだよね〜……でも」
「でもね、こうやって、上善くんが僕の隣で正しい飲み方を、正しい生き方を教えてくれて、僕の過去も全部ひっくるめて受け止めてくれる。だから、もう昔みたいに、逃げるためだけに飲む必要なんてないんだって、そう思えるんだ〜」
ふふ、と少しだけ自嘲気味に笑ってみせる僕に、上善くんは呆れたような、でもどこか愛おしそうな目を向けてくれた。
「逃げない、って思うのはいいことだ。お前はそのままそれを貫けばいい。今のお前の周りは絶対に認めてくれるはずだ。それでも、一人で抱え込んで潰れそうな時は……」
上善くんが、ニカッ、と微笑んだ。
「いつでも俺のところに駆け込め。そして話せ。最高に美味い酒と一緒に聞いてやるよ」
その言葉が、どんな高級なカクテルよりも温かくて、胸の奥にじんわりと染み渡る。
───あぁ、僕、本当にこの人のことが心底好きなんだなぁ……
そんな当たり前の感情を、ほろ酔いの頭でぼんやりと噛り締めていた、その時だった。
背後のドアのベルが、カランと軽やかな音を立てて響く。
「いらっしゃい……ませ」
上善くんの声が、少しだけ引っかかるように途切れた。
私も気になって、少しとろんとする頭を無理やり持ち上げて、そちらを振り返る。
そこには、見覚えのある───だけど、今は一番見たくなかった顔ぶれが立っていた。
「ここ? で、合ってるよね〜? あんたが言ってたイケメンバーテンダーがいるバーってのはさ〜」
「うぉっ、あの人か、マジでイケメンじゃん〜。なんか思ってたより雰囲気よくね〜?」
キャッキャと騒ぎ立てながら入ってきたのは、他でもない。
僕がアル中になるきっかけとなった、大学の酒飲みサークルの面々だった───
僕が咄嗟に顔を背けたのを見た上善くんが、何やら察してくれたのか、カウンターからサークルの面々に声をかけた。
「お客様、周りの方のご迷惑になりますので、大声で話すのはお控えください」
「あ〜、さーせんさーせん。八人なんすけど〜、大丈夫〜?」
「かしこまりました。四人席が二つ空いておりますので、そちらへご案内いたします」
「え、いやいや、カウンター空いてるからそこでよくない? てかぁ〜、ウチらお兄さん目当てで来たんだよ〜? 」
「申し訳ありません。カウンター席は団体でのご利用はご遠慮させていただいております」
「え〜? なんだよそれ〜」
私は顔を背けながらフードを被り、必死に息を殺していた。
どうやら八人とも酒に酔っているらしく、口から出る言葉がふわふわしている人もいた。
あの時と全く変わっていない様子に、呆れを通り越して、もはや笑ってしまう。
大方、居酒屋で飲んでて、三次会を決める時にノリでこのバーが選ばれたのだろう。
ちなみに、酒飲みサークルというだけあって、会員全員が酒豪だ。
僕が所属していた当時は、四次会までいくこともしばしばだった。
すると、ふと彼ら彼女らの視線が僕の背中に集中するのを感じた
「ん〜? もしかして、アル子〜?」
ビクッ、と体が震える。
「あ〜アル子じゃん〜! 久しぶり〜! 最近大学でもよく見かけるなって思ってたんだよ〜」
僕は、ここまでか、と、フードを外し、恐る恐る彼らへ顔を向ける。
「ひ、久しぶり〜」
「久しぶり〜! なになに、アル子〜。アル子もこういう店で飲むんだ〜」
「う、うん〜まあね〜」
やはり気まずい。
酒はやめられなかったが、サークルとはあの飲み会以降なんとなく関わるのを避けてしまったため、今この場での再会というのは、気まずいの一言に尽きる。
「…ていうか、アル子。もしかして酒飲むのやめた?」
「っ! ……ど、どうして?」
突然の指摘に、思わず戸惑ってしまう。
「いや、なんとなく…というか。あ、もしかして、禁酒中? なるほどね〜、確かに禁酒明けの十杯は最高だもんね〜」
「…いや、それはちょっと違うかな」
「え〜? またまた〜、あのアル中アル子が酒抜いて生きてられるわけないってみんな知ってるんだよ?」
「え、えっとね、禁酒は、確かにしてたんだけど…その」
「な〜に? はっきりと言ってよ〜」
「……」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、一人が僕の席にずんずんと近づいてくる。
吐き出される息からお酒特有のむわっとしたアルコールの匂いが鼻をついて、胸の奥がギュッと締め付けられた。
「ほら、一口くらい付き合いなよ〜。シラフのアル子とかマジでキャラじゃないって! ねぇ、マスター? この子、昔めちゃくちゃウチの飲み会で暴れてたんだぜ? 急にこんなお上品ぶっちゃってさ〜」
別の女の人が、面白がるようにクスクスと笑いながら私のグラスを覗き込む。
「わぁ、美味しそうな酒じゃん。ねぇ、そんなちびちび飲んでないでさ〜、一気いっとこ、一気!」
「そ、そういうの……もうやらないって決めたから……」
僕の震える声を、彼らは笑い飛ばすようにかき消した。
「は? ちょっと、何マジになってんの? 急に人格変わったみたいにつまんないこと言ってさ。ほら、飲めよ、アル子。お前が飲まないとこの場のノリが冷めるじゃん!」
グイッと、男の太い手が私のグラスに伸びてくる。
いやだ。
せっかく上善くんとここまで積み上げてきた一ヶ月が、この人たちのせいで全部壊されちゃう。
頭の中で警報音が鳴り響き、冷や汗が背中を伝う。
息ができない。胸が苦しくて、あの最悪だった日々の記憶が、一気に濁流のように押し寄せてくる───
「……そこまでにしておいてもらおうか」
低く、けれど店内の空気を一瞬で凍らせるような冷たい声が響いた。
ぴたりと、サークルの男の手が止まる。
振り返ると、そこにはカウンターの向こうから、いつもの面倒くさがりな面影を完璧に消し去った───プロのバーテンダーとしての、圧倒的な冷徹さを纏った上善くんが立っていた。
「え〜? 突然なんですか〜お兄さん、客に説教すんの〜?」
男が不機嫌そうに上善くんを睨みつける。
けれど、上善くんの瞳は氷のように冷たく、微塵も動じなかった。
「うちの店はな、お前らみたいな泥酔したガキが、ほかの客に絡んでいい場所じゃないんだよ」
上善くんはカウンターの内側から出ると、ゆっくりと僕たちのほうへ歩み寄ってきた。
その背中が、今の僕にはどうしようもなく大きく、頼もしく見えた。
「───彼女が嫌がっているのが見えないのか、と言っている。お前ら、酒飲みサークルなんだろう? サークル活動が酒を飲むことなら、ここが居酒屋とは違う店だってことは知っていて当然のはずだ。マナーも居酒屋とは異なる、ってこともな。それともなんだ、やはりお前らは
「なっ……んだと……!」
サークルの男が顔を真っ赤にして掴みかかろうとする。
しかし、上善くんはそれより早く、鋭い眼光で男を睨み据えた。
「これ以上騒ぐなら、警察を呼ぶ。そうでなくとも、お前らは二度と出禁だけどな」
「っ………いくらなんでも横暴じゃん!」
「……ここだけの話だが、お前らの大学の学長さんはうちの店をご贔屓にしてくださっていてな、週一でご来店されるんだ。お前らが横暴だと言うなら、今度俺が聞いてみようと思うんだが…」
"学長"
その言葉の重みと、圧倒的な気迫に気圧されたのか、サークルの連中は顔色を青くしたり赤くしたりしながら一歩引いた。
「っ…! んだよ、せっかく来たのに……! 脅されるし、雰囲気最悪だぜっ! もう行くぞお前ら! 三次会は別の店にする!」
捨て台詞を吐き捨てながら、彼らはバタンと乱暴にドアを開けて逃げるように出て行った。
すると、奥のカウンターから、いかにもマスターって感じのダンディーなおじさんがやってきた。
「……皆様、お騒がせして申し訳ありません。ただ今、当店オリジナルのカクテルをテーブルに置かせていただきます。お詫びの印になれば幸いです」
そう言って、店員さんが各テーブルにカクテルを置いていく。
そうして、静まり返った店内には、再び落ち着いたジャズの音色だけが戻ってくる。
僕は、緊張の糸がプツリと切れたように、カウンターテーブルに突っ伏した。
「……アル子」
上善くんが僕の隣で顔を覗き込み、心配そうな顔で声をかけてくれる。
「……大丈夫か?」
その優しい声を聞いた瞬間、張り詰めていたものが一気に決壊して、涙がぽろぽろとこぼれ落ちてしまった。
「うっ……うぅ……上善くん……怖かったよぉ……」
「よく我慢したな。もうあいつらは来ないし、関わる必要もない。だから安心しろ」
そう言って、上善くんはまた、あの温かい大きな手で優しく僕の頭を撫でてくれた。
鼻腔をくすぐる優しい匂いと、包み込むような手の温もりに触れた途端、さっきまでの恐怖が嘘のように溶けていく。
「うぇへへ…ありがとう、上善くん〜」
ぼくは上善くんの服の裾をギュッと掴みながら、彼の胸元にそっと額を預けた。
「ふっ、さて、飲み直しだ。グラスの氷も溶けちまったし、次の一杯に行くか」
「グスンッ……やった〜、えへへ、楽しみ〜」
この人がいてくれるから、僕はもう大丈夫───
そう心から思える、温かい夜だった。
〜帰り道〜
夜道を酔ったアル子一人では危ないからと、早めに仕事を上がってアル子と帰っていた上善。
上善「そういえばお前って、シラフの時とあんま変わんないのな。その口調とか」
アル子「え〜? そうかな〜? うん、そうかも〜。えへへ〜」
上善「ああ。でもま、アル子って感じがして俺は好きだぜ」
アル子「僕も好き〜」
上善「お、いいな。自分のことを好きなのは偉いぞ〜アル子」
アル子「違うよ〜」
上善「ん? 何がだ?」
アル子「僕も〜上善くんの喋り方好き〜えへへ」
上善「……ハッ、こいつは一杯食わされたな。やるじゃねぇかアル子」
アル子「ふふ。恐悦至極〜なんちゃって〜」
上善「おうおう、存分に悦に浸れ。どっかのボケとツッコミを一人でやる(自称)関西人よか、よっぽど面白かったぜ」
〜就寝中の薫子〜
薫子「はっくしょんっっ!!! って、なんで爆睡してんのにくしゃみ出んねん! 誰やスイッチ押したの!!って、ウチはスイッチ入れたら動く玩具か〜い!………………寝よ」
みなさん、『ヤニねこ』はどっちで見てますか?
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アニメ勢
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漫画勢
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どっちも