獣人アパートの綺麗好き   作:猫パンチDX

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アンケートの投票ありがとございます。

上位のやつは全部書くつもりでいるのでご安心召されよ。

とりま上善と大家さんとの晩酌回になります。閑話みたいな感じです。

感想・評価励みになります!ありがとうございます。


12.5mg

 

 

 窓の外を見ると、空はもうすっかり夕暮れ色になっていた。

 

 六畳一間の、すり切れた畳の匂いと、少し埃っぽい空気が鼻をつく。

 

 部屋にあるのは、中央に鎮座する傷だらけのちゃぶ台と、隅っこでぼんやりと夜間のショッピング番組を映し出しているテレビ、そして布団が押し込まれた押入れくらいのものだった。

 

 そんな殺風景な空間で、俺───飯酒盃上善は、このおんぼろアパートの大家と向かい合って座り、缶ビールを傾けていた。

 

「──で、どうなんだよ上善」

 

 プシュッ、と新しい缶ビールのプルタブを開けながら、大家がジトッとした目をこちらに向ける。

 

「何がだ」

 

「とぼけんなって。このアパートに引っ越してきてからしばらく経ったけどよ。お前の周り、すっかり賑やかになってるじゃねぇか」

 

「あぁ、そのことか」

 

 大家の言葉に、俺は思わずため息をつきながら、ちゃぶ台の上に置かれたきんぴらに箸を伸ばした。

 

 確かに、大家の言う通りだ。

 

 この殺風景な部屋に座っていると、自分が巻き込まれてきた数々の面倒事がまるで昨日のことのように思い出される。

 

「まぁ、確かに最初は、ここまで獣人と関わることになるとは思ってなかったな」

 

 思えばあっという間だった。

 

 公園で見かけたヤニ子を注意したのを皮切りに、自分の住むアパートの獣人とここまで親密になろうとは。

 

「…で、結局よ。ど、どうなんだよ」

 

「? さっきからモジモジして何だよ。気持ち悪ぃ」

 

「気持ち悪いは余計だっ! …… そ、その、あ、あれだ…………」

 

 大家はそのまま俯き顔を逸らすと、ようやくその口をボソボソと開いた。

 

「だ、誰と付き合ってるんだ?」

 

「……はぁ?」

 

 あまりに拍子抜けなその言葉に俺は思わず素で疑問を呈してしまった。

 

 いや、流石に想定外というものだろう。

 

 あの大家がまさかそんなことを聞いてくるとは誰が予想できようか。

 

 酒が入っているとはいえ、普段の大家ならそこまで踏み込んでこないはず。

 

 それだけ心を許してくれている、ということなのだろう。そのことをなんとなく察した俺は、思わず口角が緩む。

 

「おい! 今笑いやがったな!? これでも聞くの恥ずかしいんだぞ!」

 

「いや、悪ぃ悪ぃ。あまりにも予想外すぎてな。まさか大家からそんなことを聞かれるとは思わなかった。意外とそういうとこあるんだな、ハハッ」

 

「う、うるせぇ。俺だってな、若い頃はそういう話で盛り上がったりしたんだ。俺はもうおっさんだが、若者がそういう話で盛り上がるのは、いつの時代も変わらねぇだろ。……それに、気心の知れたお前となら、こういう話をしてもいいかなって思ったんだよ。……言わせんな、こんにゃろ」

 

「……フッ、大家らしいな」

 

 全く、大家は変わらないな。

 

 いい年したおっさんのくせしてこうも素直だと戸惑うかと最初は思ったものだが、なぜだかそれが妙に心地いいのだ。

 

 アパートの獣人に限らず、アパートそのものの空気というか雰囲気というか、そういうものと一体化しているような、そんな感じがした。

 

「そろそろ教えろよ。あんだけみんなと仲が良さげなんだ。俺的にはカンサイあたりとよろしくやってそうなんだが…どうだ? 当たりか?」

 

 カンサイ…薫子か。

 

 確かに薫子とは仲が良いと思う。初対面のインパクトがデカかったのもあるにはあるが、それ以前にあいつはこのアパートでも珍しく常識的なやつだった。

 

 カンサイ、というあだ名にもかかわらず、ギャグとツッコミのセンスが壊滅的というのを気にしているのだが、俺的には他の奴らと比べたら幾分もマシな部類に入る。

 

 程よく騒ぎ、程よく面倒を見、程よく服を脱ぐ。

 

 酔うと脱ぐ癖があるとヤクから聞いた時は、俺の部屋で宅飲みする際は飲ませすぎないようにとかなり気を張っていたものだ。

 

 まあ存外、聞いていたよりも酒に対して控えめな姿勢で、俺の心配が杞憂に終わったのは少し不思議だったが。

 

 それでも、薫子はずっとたくましかった。

 

 大学では清楚に振る舞うらしいが、あくまでアパートでの自分が素。

 

 俺の、元来のお(・)人(・)好(・)し(・)な性格を何の気なしに肯定してくれたのには、当時心の奥底で色々と思い詰めていた俺にとって大いに救いとなったものだ。

 

 

 まだ社会人でもないくせに、社会人みたいなめんどくせー生き方をしてる大した女。

 

 嫌いになどなるはずがないが、今はそんな感じだ。

 

「フッ、バーカ。薫子とはそんなんじゃねーよ」

 

「だぁーっ! ハズレか〜。じゃ、あれだ。アルねこだろ! 同年代だって聞いたし、アル中で病院に運ばれた時も介抱してたよな。 その後でアル中の克服にも一役買ったっていうじゃねぇか! …フッ、こりゃ決まったな」

 

「ふむ…」

 

 アル子か。なるほどな。

 

 思えば出会いはお世辞にも良いものとはいえなかった。

 

 なんせ出会った時には急性アルコール中毒で死にかけていたのだから。

 

 あの時は、まさか救急車を呼んで連れ添ったというだけで、昼と夜の飯を共にし、あまつさえやけに懐かれて自分のバーの常連になるとは到底思っていなかった。

 

 酒に溺れていた同年代の彼女が、今では自分の足でまっすぐ立ち、酒が入ってる時と変わらない調子でニコニコしている姿を思い出すと、やれやれ、と自然に口元が緩む。

 

「だがな、アル子はアル子だ。同い年なのに妙に放っとけない…どっちかっつーと妹に近いかもな」

 

「なっ! これもハズレかよぉ! うーん、なら、そうだなぁ………ヤクか?」

 

「ヤクか…」

 

 ヤクは……いや、あいつの場合は最初から最後まで心配の種が尽きないというか、なんというか、とにかく危なっかしいやつだった。

 

 初対面こそ明るく振る舞っていたものの、その実暗い部分を抱えているのはすぐにわかった。

 

 それが薬物の逮捕歴だと知った時は、そこまで暗かったか、と内心で面を食らったほどだ。

 

 案の定、ふとした拍子にボロボロになるし、バイトクビになった時なんかは死にそうな顔をしていて、どうしてこう次から次へと不幸を引き寄せてしまうのかと我ながら哀れに思ったものだ。

 

 だが、それ以前にあいつは、このアパートの連中の中でもず抜けて真面目で、不器用すぎるほどに実直なやつだった。

 

 過去の過ちに縛られ、「自分はもう社会に戻れない」と、この前の虫取りに行った時の道すがらで泣きじゃくっていた姿が今でも脳裏に焼き付いている。

 

 背中にしがみついてきた時の体温の小ささや、思いがけずに涙を流してしまう脆さを知っているからこそ、余計に「こいつの未来はもうこいつが決めるべきだ」という、我ながら柄にもない感情が頭をもたげたのも事実だ。

 

 慣れない仕事でも客のために花の種類を必死に勉強し、自分の足で前を向こうとしていたその姿勢は、見ていて胸が締め付けられるほど健気だった。

 

 うちの店の従業員兼ボディガードとして迎え入れられたことで、生活もようやく安定してきている。

 

 真面目に働いてくれているし、ふとした時に見せるあの晴れやかな笑顔を見ていると、こちらもどこか心が暖かくなってくる。

 

 自分は傷だらけのくせに、人一倍健気で、どうしようもなく真っ直ぐなやつ。

 

 こちらも薫子同様、嫌いになどなるはずがないが、今はそんな感じだ。

 

「そうか…ヤクか。なぁ、上善。ヤクはお前のバーではどんな様子なんだ? 楽しく働けてるのか?」

 

 ふと、大家がそんなことを聞いてきた。

 

「ヤクの様子? まあ、そうだな。真面目に働いててこっちとしても助かってるよ。休憩時間にも俺以外の人と話したり、お客ともコミュニケーションとれてるし、問題客の対応もスムーズだし、マスターも願ったり叶ったりって風だったな。俺から見たら楽しくやれてると思うぞ」

 

「そうか…ヤクは楽しくやれてるんだな…」

 

 大家は大きく息を吐いて心の底から安堵しているようだった。

 

 その様子を見てフッと笑いつつ、

 

(ここまで心配してくれる人がいるんだ。お前はもう大丈夫だよ)

 

と俺は届くかも分からずに、心の中でヤクへと呟いた。

 

「うーん、だがヤクか……少し複雑だな」

 

 大家がやや顔を顰めて項垂れた。

 

「複雑?」

 

「いやな? 実は俺、あいつが入居してから色々と面倒見てたんだよ。知ってると思うがあいつ、家族と仲が悪くてな。それはもう入居する際も荒れたもんだ。色々あってヤクの両親と話す羽目になったり、取り乱したヤクに組み伏せられたり…それはもう、色々あった」

 

「…そうか」

 

 おう、と頷いて大家は懐かしむようにフッと、笑った。

 

「だからなんつーか、ヤクには娘みたいな気持ちがあってよ。どうしても他人事とは思えねぇんだ。…ま、俺みたいなおっさんが抱く気持ちにしては分不相応かも知れねーがな」

 

 大家は自嘲するかの如く笑ったかと思うと、いつになく真剣な面持ちで俺をまっすぐ見据えた。

 

「だから…上善。俺はよ、お前にならヤクを任せても良いんじゃないかと───」

 

「いや、ヤクとはそういうんじゃねーよ」

 

「…………………そうか」

 

 どうやら大家の覚悟を粉々に打ち砕いてしまったようだ。

 

 やや気まずい雰囲気になった俺は、申し訳なく思ってお土産として持ってきていた一升瓶を袋から取り出し、包装紙を剥く。

 

「あー……そろそろこれ飲むか?」

 

「お、おう…トックリ持ってくるわ」

 

 しばらくきまずかったが、俺の持参した新潟名酒『 上善如水(じょうぜんみずのごとし)』を飲んでからはすっかり気分が良くなったのか、別の話へと移り変わった。

 

 そこからしばらく酒が進み、先ほどまでの雰囲気はどこへやら、明るい話が続いた。

 

 

 

「そんでよぉ〜、結局誰と付き合ってんだ〜?」

 

「あぁん? んだよ、またその話かよ。いい加減しつけぇぞ」

 

 大家はだいぶ酔いが回ったらしく、呂律がいつもより回らなくなっている。

 

「いいから答えろよ〜。誰だ? ハメねこか? ペンペンか? ヒk…は知らねぇか。春蘭は…男の子だしなぁ………もしかして…ヤニ子か? ヤニ子なのかっっ!?」

 

「声がでけぇよ。夜なんだから抑えろ」

 

「あからさまに話逸らしやがったな……そうかぁ、ヤニ子なのかぁ〜…」

 

 そう言って大家はちゃぶ台に突っ伏してブツブツと何やら言い始めた。

 

「ったく…大家って酔うとこんなにもめんどくせぇのか」

 

 そういえば、いつもはここまで飲みすぎることはなかったな。

 

 ひょっとして今日何かあったのだろうか。まさかこの話題のせい…なんてことは大家に限ってあるまい。

 

「しかしまぁ、ヤニ子ねぇ」

 

 この流れでついに来たか、とその名前を反芻する。

 

 俺の隣の部屋に巣くう(最近は俺の部屋にいることの方が多い)すべての元凶──佐藤ヤニ子。

 

 あの台風の如きヤニカス獣人は、少し目を離せば部屋をヤニやウ◯コだらけにし、俺の部屋に入り浸って飯をご馳走になってる身にもかかわらず、隙あらば我が物顔で居座る。

 呆れてモノが言えないとはまさにこのことだが、不思議と憎みきれないからタチが悪い。

 直近では、故意ではなかったとはいえ、あの植木鉢の件で花屋の店長をうっかりブチ込んでヤクが失業する原因を作った張本人でもある(本人は流石に悪びれている様子だった)。

 

 あんなやつの妹が真面目で可愛らしくて姉思いのいい子、というのだから世界はよく分からん。

 

 俺はこう見えてロマンチストを自称している。故に、神が望まれたことでそういう星の下に生まれたのだろうと結論づけた。

 

 

 

 ……本音を言えば、考えるだけ無駄だと判断しただけであるが。

 

 

 

「ヤニ子は俺の中で一番面倒くせーやつではあるが…その実、意外と面倒見のいいやつでもある。ヤクが今までなんとかなってたのは慕ってた先輩というあいつの存在も少なからずあるはずだ」

 

 クズでズボラでヤニカスでウ◯コ垂らしで借金抱えてるくせに偉そうで…時々萎れて甘えん坊になるギャップの激しいやつだが……

 

「──ダントツで放っとけないやつ…になるか。つか、放っといたら何されるかわかんねーってだけなんだがな。ま、ヤニ子も俺にとっちゃそんな感じだ。大家の言う関係でもなんでもねーよ」

 

「んだよ〜これもハズレか…じゃあほんとにいねぇのか?」

 

「そういうことになるな。さ、この話はこれで終わりだ。大家もそろそろそれくらいにしておけよ。そもそも『 上善如水(じょうぜんみずのごとし)』は土産で持ってきたものだからな。今日飲み切るこたぁねぇだろ」

 

「うーん、それもそうだな。ここらでお開きにするか〜」

 

 よっこらせ、と言って立ち上がると、俺は晩酌に使われた食器やビールの空き缶を片付ける。

 

「おいおい、それくらい俺がやるぞ」

 

「いいって、見たところかなり酒が回ってるみたいだし間違って皿割ったら危ないだろ? 招待されてる身なんだ、これくらいやらせてくれ」

 

「んなもん気にしなくていいのによぉ……んじゃ、頼むわ」

 

 おう、と言って俺は台所の方へ向かう。

 

 

「もうそんな経つのか……」

 

 食器を洗いながら、ひとりごちる。

 

 大家からの質問によって、自然と、ここ数ヶ月の出来事をざっくりと振り返ることになった。

 

 新しい職場に慣れるよりも早くこのアパートに慣れてしまった。

 

 新潟から遠く離れた地──ここにゃがみ原に来るまでは、漠然としていた気持ちが今では遠い夢のように感じる。

 

 ここまで来れば、もう認めざるを得まい。

 

 ヤニ子たち獣人と関わるにつれていつの間にか確信にと変わっていたのだ。

 

 

俺(・)と(・)こ(・)の(・)街(・)の(・)相(・)性(・)が(・)め(・)ち(・)ゃ(・)く(・)ち(・)ゃ(・)良(・)い(・)、(・)と(・)言(・)う(・)事(・)実(・)に(・)

 

 

「…ハァ」

 

 思わず一人でため息を吐く。

 

 が、どれだけため息を吐いたところで事実は変わらない。

 俺は、すっかりこの街に、この暮らしにハマってしまっているようだ。

 

 そこまで心の中で言い終えたところで、俺は水を止めて手をすぐそばにかかっていたタオルで拭く。

 

「大家、全部洗い終わったぞ」

 

「おー、ありがとよ〜」

 

「おう。んじゃ、そろそろ帰るわ。また誘ってくれ」

 

「ああ〜…っと、そうだった。上善、戸締りにだけは気をつけろよ。最近空き巣が多いみたいだからな」

 

 ふと、大家が酔いの回った頭を無理やり働かせて、といった感じで振り返った。

 

「空き巣ぅ? なんだ、物騒だな」

 

「しかもうちのアパートで起こってるみたいでな、俺の部屋の冷蔵庫も決まって玄関の鍵をかけ忘れるとよく物が無くなるんだ。最近は大丈夫って言ってたが、アル中時代のアル子の部屋も何回かやられてるみたいだしな」

 

「マジか…」

 

 俺の部屋には酒が大量に置いてある。

 

 日本酒、焼酎、発泡酒、果実酒、自家製梅酒、ワイン......etc.

 

 と、それはもう、大量だ。大量である。

 

 全部合わせればかなりの額になるのはここだけの秘密だが、それらに手を出されたらたまったものではない。

 

「わかった。流石に気をつける」

 

「おう、ぜひそうしてくれ。管理人としても空き巣なんて看過できないからな」

 

 言い終えたところで靴を履き、玄関の扉を開けた。

 

 いざ出よう、としたところで、またもや大家から声がかかった。

 

「…なぁ、上善」

 

「おっと…なんだ? 俺なんか忘れ物でもしたか?」

 

「…いや、そうじゃねぇ」

 

「? じゃあなんだよ?」

 

 少し間を置いて、大家は答えた。

 

「もし、もしの話だが……向こうから来られたら……お前はどうするんだ?」

 

「…………」

 

 俺はその質問には答えずに、玄関の扉を閉めた。

 

 

 

 

 

「…………上善のあの反応……これってつまり…そういうことなのかっ?!?!」

 

 静まり返った部屋で上善の反応を思い返しながら、酔いの覚めたおっさんは一人呟くのだった。

 





どうでしたでしょうか?

感想等で教えていただけると書きやすいので嬉しいです。

他のキャラとの絡みが見たい人、安心してください。私も見たいのでいずれ必ず書きます。
今は原作の裏ヒロイン・大家さんでしばし我慢を!

他のキャラで次誰に出て欲しいですか?もしくは読みたい話

  • 字書きねこ(賀来詠子)
  • おちんぽ達郎先生
  • 西春蘭
  • 佐藤静江
  • ペンペンねこ
  • ハメ子の存在忘れられてる...?
  • 大家さんもっと出せや!!!
  • カンサイと上善のバー回
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