ハメねこ登場回です。ちなみに痛いキャラとしては、字書きねこちゃんの次に好きなキャラです。
時刻は朝の七時。
俺は仕事を終え、ようやくアパートへと帰ってきた。
今日は珍しく残業まであったせいで、いつもより帰宅がかなり遅い。
「……はぁ、疲れた……」
目がギンギンだ。
それに、頭も少しくらくらする。重たい足を引きずるようにして階段を上る。
本来なら、このまま部屋に戻って風呂に入って、飯を食って、昼過ぎまで泥のように眠る予定だった。
しかし――
「ゲーム置いてある部屋でヤニ吸うなや!!!」
「にゃぁぁぁぁぁ!!!?」
「…………」
階段を上りきったところで、何やら一番手前の部屋から尋常ではない怒鳴り声と悲鳴が聞こえてきた。
「……あぁ?」
俺が足を止めた、次の瞬間。
バンッ!!
「にゃあっ!?」
勢いよくドアが開き、見慣れた獣人が廊下へと飛び出てきた。
言うまでもない。
ヤニ子だった。
「……お前、何してんの?」
「......! じ、上善! いいところに来たにゃ! 助けてくれにゃ! ニャーはこれから殺されるかもしれないにゃ!」
廊下に転がったヤニ子が、かろうじて閉まっているドアを抑えながら顔を青ざめさせて訴えかけるように視線を送ってくる。
「何やらかしたんだよ......」
すると、その向こうから一人の獣人が顔を出した。
「! ハメちゃんの部屋をヤニ臭くすんなっつってんだろ!!!」
「い、一本吸っただけにゃ!」
「その『一本だけ』もダメだって言ってんだよ!本数の問題じゃねぇっ!しかもあたしの部屋の床で火ぃ消しやがって! 黒ずんで落ちなくなったらどうすんだよっ!!」
「う......ニャーは何も悪くないにゃ。灰皿置いてなかったハメ子が悪いにゃ」
「言うに事欠いてわたしが悪いのかよっ! ふざけんなっ!!」
「…………」
俺はその光景を呆然と眺めていた。
朝の七時。
夜勤明け。
マジで眠い。
疲れて体がだるい。
頭もうまく回らない。
そんなコンディションの中、目の前ではヤニ子が知らない獣人に怒鳴り散らされている。
「……誰?」
思わず、そう呟いた。
「───って、ん?」
ハメ子と呼ばれた獣人が俺の声に反応したのか、こちらを振り返った。
「え...あ...だ、誰? お、おと、男の人?」
「ん〜よくわからんが、どうやらこいつが迷惑をかけたみたいで、すまん。とりあえず、黒ずんだところは今直せたら直しちまうから部屋上がってもいいか?」
「へ、部屋っ!? …その、えっと.....はい」
許可が取れたので、そのままややおぼつかない足取りで中に入ると、居間のカーペット横のフローリングに灰が小さく落ちている部分があった。
俺はハンカチを取り出すと、台所で水に浸し、灰の落ちている部分を念入りに拭った。
どうやらそこまで強く押し付けたわけではなかったらしく、特に汚れていたり、床が焦げついているわけではなかったので、一安心といったところか。
「とりあえず床は焦げてなかったから、俺が見た分には大丈夫だと思う。もしまたこいつが迷惑をかけたらその時は呼んでくれ」
「ひゃ、はい...大丈夫、です......」
獣人のハメ子とやらは、どこか照れているといった様子で目を逸らしながらあやふやな返事を返した。
「それじゃあ、俺はもう寝るから帰る。おいヤニ子、お前も謝っとけよ」
「わかったにゃ」
こうして俺はほぼ限界を迎えた頭をどうにか動かし、部屋まで戻った。
部屋に入ると、外着のまま布団に突っ伏す。
「あいつの昼飯...用意しなきゃだから...お昼には....起き....ない...と.....」
そのまま俺は、深い眠りに落ちた。
*
「ちょっとちょっと! あのイケメン誰! も、もしかして、いや、絶対にありえないだろうけど......ヤニちゃんの彼ピ...?」
「あいつは上善にゃ。この前ニャーの隣に越してきたにゃ」
「へぇ……隣人さんなんだ」
「そうにゃ。二日に一回部屋を勝手に掃除してくれて、飯がなければ食わせてくれるにゃ。あと、ニャーが困ってたらなんだかんだ助けてくれるにゃ」
「…………」
「それと、ニャーのことを毎日風呂に入れて歯も磨いてくれるにゃ」
「…………」
「……?」
「いや、それもう彼氏じゃん!!!!!」
「…………」
ヤニ子は何も答えなかった。
ただ、いつものように煙草を咥え、ぼーっと煙を吐いている。
「……え、なんで無反応なの? 彼氏じゃないの? あとヤニ吸うなよ」
「別に彼氏じゃないにゃ」
「いや、そこじゃなくて! なんでそんな普通にしてられるの!?」
ハメ子は信じられない、と言わんばかりの表情で畳み掛ける。
「毎日ご飯作ってもらって! 掃除してもらって! お風呂まで入れてもらって! しかも隣人!? どう考えても彼氏じゃん!!」
「あいつは超がつくほどのお人好しってだけにゃ。ニャー以外にも普通に世話を焼こうとするにゃ」
「え...それってどういう───」
頭に疑問符を浮かべるハメ子に、ヤニ子は洗いざらい上善のことを説明した。
「……えっと、マジでそんな人いるの?」
「いるにゃ。ニャーの隣の部屋にいるにゃ」
「いや……そうなんだけど……」
ハメ子は困惑したように眉を寄せる。
「……そういうタイプの人って、漫画とかアニメの中にしかいないと思ってたわ......」
「上善は漫画じゃなくて新潟から来たって言ってたにゃ」
「そういう意味じゃねぇよ!」
ハメ子は頭を抱えた。
「だってさぁ……普通、隣人が終わってるやつだったからって、そこまで面倒見る? あとヤニ吸うな」
「上善は優しいにゃ」
「ご飯まで毎日作る?」
「ニャーが隣で餓死したら目覚めが悪いらしいにゃ」
「風呂まで入れてくれる?」
「ニャーの髪と体が臭いからって言ってたにゃ」
「歯まで磨くかなぁ!?」
「ニャーの息が臭くなるからって言ってたにゃ」
「…………」
ハメ子はしばらくヤニ子を見つめた。
「……ヤニちゃんそれってさぁ」
「なんにゃ?」
「あのお兄さんもはやヤニちゃんの飼い主って感じじゃない? あとヤニ吸うな」
「…………」
ヤニ子は煙草を一口吸った。
「……そうかもしれないにゃ」
「えぇ...認めちゃうんだ......へぇ〜でも意外〜。ヤニちゃんって〜そう言う趣味あったんだ〜。ハメちゃんは天使だから〜そういうのよくわかんないけど〜。あ。あと〜ヤニちゃんヤニ禁止〜ハメちゃんの部屋がヤニで汚くなっちゃうよ〜」
「天使は虫食ったりしないにゃ」
「おいぃぃぃぃぃ!! なんでそのこと知ってんだよ! あれか! あれだな! ひょっとしてわたしの配信見たな!」
「ヤクから聞いたにゃ」
「あいつぅぅぅ!!!!! 今度会ったらただじゃおかねぇ! ……おい」
「! …は、はいにゃ」
「もしお兄さんにチクったら...わかってるよな?」
ヤニ子は、首をブンブンブンと勢いよく横に張る。
「...よろしいっ☆。じゃあハメちゃんの部屋でヤニ吸ったのは許してあげるから、ヤニちゃんは自分の部屋に帰ってね〜。今すぐ」
「わ、わかったにゃ」
ハメ子の圧力を直近で浴びたヤニ子は、足早に部屋を去っていった。
「......上善さん、かぁ」
静かになった自室で、ハメ子は一人、上善の名をつぶやく。
(かっこよくてすごく優しそうな雰囲気だったなぁ。...あれってヤニちゃんにだけなのかなぁ? いや、他の人にもあんな感じになるってヤニちゃん言ってたし...でも、なんかハメちゃんのこと見るときだけ妙に雰囲気が違ってたような...ハッ、これってもしや...?)
「ふ、ふふふ。いやぁ〜ハメちゃんにも〜ついにモテ期来ちゃったかぁ〜。いや〜ん、お兄さんってば、ダメだよ〜。ハメちゃんは〜みんなの天使なのに〜 ........................................................そんなわけ、ねーか」
モジモジしていたのを急にやめると、ハメ子は言い知れぬ羞恥に駆られ、配信用の机に突っ伏してしばらくボソボソと自虐を唱え続けていたのだった。
〜ハメねこ川柳〜
天使だよ
うんこはしない
虫は食う
ねこぱんちDX