彼はいい光翼人   作:APHE

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彼はいい光翼人

 考えうるかぎりの暴虐を働き、世界中を敵に回した魔法帝国。それはついに神々の怒りに触れ、しかし行動を改めることはなかった。

 

 星の命ごと葬られようとした彼らは『必ず戻ってくる』と言い残して時空間の狭間へと逃げ込んだ。

 

 戻ってきた自らを出迎えるための、少数の同胞を遺して。

 

 彼らは世界を監視し続けている──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というのが公の認識になる。であるからして、我々の存在を明かすわけにはゆかんのだ」

 

「そうして交渉の場を設けなかったのが1つの失敗でしょう?まずは話してみるべきです!現にいくつかの文明国家が樹立しているではありませんか!」

 

 お互いに語気を強めつつ、2人の男が舌戦を繰り広げる。

 舞台は10数メートルはあるであろう円卓を中央にたたえた会議室。出席者は誰彼もが整った顔立ちと中性的な外見を持ち、どこか神聖さすら纏わせていた。

 

「希望的観測がすぎる!誰が信じる?魔帝と決別したと!我らが味方だと!真実を前にした彼らは必ず我らを滅しにやってくる!」

 

「先入観です!そのようなノイズこそ、凶行の源になり得るのではないですか!?」

 

()()()()()()()!それだけで悪の証明となるのだ!」

 

 莫大な魔力を行使して、彼の右手のひらに現れるは唯の発光魔法。

 それがだだっ広い会議室の全域を照らし尽くして出席者たちが目を細める中、彼の背中にはその輝きすらも凌駕する光が、光翼がはためいていた。

 

「矛を向けられれば斬り返すしかなくなる!そうしてすべてを敵に回したところで、()()()()()()()()()()すら相手にすることになるのだぞ?単騎でだ!」

 

 先程から怒気を振りまく彼の言葉にはかなりの重みがあった。これはこの場に居合わせたもの全てが共有する問題、根本的な障害だ。

 とうとう反論の糸口が見えなくなったのか、もう一方は押し黙ってしまう。

 

「しかし、現れるはずです。太陽神の使いが…」

 

 絞り出すようなひと言。

 それはまさに、先刻何を言うと切り捨てた希望的観測そのもの。

 

「……来るか。いつだ」

 

蜥蜴(トカゲ)族の空間の占いが、彼らの近づきを捉えたと」

 

「気に入らんな。それはつまり、かの帝国の復活も…」

 

「……もし、そうであれば…百年以内、と」

 

 神は打算では行動しない。同じ惑星から引き抜かれた大陸(ムー大陸)ですら、明確な意図を纏ってそこにある。今、太陽神の使いが来るというのであれば倒すべき敵もすぐそこまで迫っているということだ。

 

「どちらにせよ、我々にとっては数瞬だ。できることをするしかなかろう。2人とも下がりなさい」

 

 最も威厳のある席についていた、老人とも麗人ともいえる男が話を纏める。

 

「これから我々は最も厳しい時期を迎えることになる。ああ、それも報いだ。自らに課した責務を忘れたわけではなかろう。かの帝国を打ち倒すこと、それを為すため我らはここにいる」

 

「うむ…」

 

「そうですな」

 

「それなら、我々に言えることは1つだけ」

 

「アニュンリールに、この星に幸あれ」

 

 魔帝の忘れ形見、アニュンリール皇国皇帝ザラトストラは静かにそう述べ、揺れ動く未来を睨んだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 と、荘厳な会議室から場面は変わって大深度地下のモニタールーム。気だるそうな表情を浮かべた男2人が虚空を見つめて佇んでいた。

 

「異常ナシ、ここ8年は安全そうだ。ビーコン撤去部隊もよくやってくれている」

 

 彼の名はリース。フルネームをリース・ルイア=アルゼンドという。彼はこのいかにも光翼人()()()名前に思うところがあるようで、人前ではファーストネームしか名乗らない。

 

「しかしリース、太陽神の使いは本当に来るのか?」

 

 リースにひと言返したのはアルト。これもあだ名のようなもので、短縮せず述べるならアルトランド・ミューラーとなる。それ以下は同上。

 

「来る、必ずな。というか既に1度は来ているんだ」

 

「そういえばそうだった。生で見たかったなぁ」

 

「戦艦マニアだもんな、お前」

 

 リースが指摘する通り、アルトは重度の戦艦マニア。彼の座るデスクの前には艦艇を写した魔写が多数飾られている。

 パルカオン級要塞艦、メテオロン級打撃魔船、ヴェロス級対空魔船、アルマドゥラ級魔式空母…先鋭的なデザインの魔帝艦に混じって1枚だけ、無骨な鋼鉄の城が。

 

 魔帝が生んだ生物兵器、魔王との戦闘に太陽神の使いが投入した大戦艦の姿があった。

 

「好きなんだよなぁ」

 

「でもこいつ、沈められちまったんだろ?」

 

「もとの世界に帰ったあとに、な。太陽神がその戦いのためだけに作らせたものだっていうから、そうしなきゃならなかったんだろうが…ああ、ひと目見たかった…」

 

 アルトは魔写を手に取り、超大和級戦艦『紀伊』に思いを馳せる。太陽神の使いが再び来ると言ってもこれほど時間が経ってしまった今、かの者たちが戦艦を携えているかは分からない。

 

「案外、俺たちと同じような船を運用してるんじゃないか?」

 

「そうか?」

 

「魔帝を倒すため送り込むと言うならそれ相応の戦力を有しているはずだ。俺たちの船を沈められる戦力をな」

 

 誘導魔光弾に対抗できるのは誘導魔光弾、もしくはそれに類する誘導兵器。それを搭載する艦艇となると自ずと形も定まってきそうなものだ。かの世界の戦闘ドクトリン、もとい科学文明の特性からして要塞艦のようなデカブツを携えているとは考えづらいが…

 アルトはこちらの感覚で言う対空魔船、打撃魔船のような船舶を主力として運用しているのでは、と話す。

 

「誘導兵器の撃ち合いに特化した船だな」

 

「ああ、兵器はおのずとその方向に進化するはず。と言っても俺の願望に過ぎないんだが」

 

 彼の頭の中では既に、太陽の旗(旭日旗)をたたえた科学の魔船が海原を渡っていた。

 しかし同僚の一言によって幸せな想像は打ち切られることになる。

 

「で、配置転換の話が来たんだったな」

 

「あー。それ、今言う?」

 

 眉間に皺を寄せ、リースを睨むアルト。事実、彼らには今月付での配置転換の辞令が突きつけられていた。問題はそれ自体ではなく、行き先のこと。

 

「ブシュパカ・ラタン。俺たち来月からタイムスリップ勤務だよ」

 

「テーマパークのアクターやれってのか…」

 

「でも、案外楽しいって話だぜ?牧歌的な暮らしを夢見たことだってあるだろ」

 

「まぁ…そりゃなぁ」

 

 あの島で自分たちは『南方世界の後進国代表アニュンリール』となる。しかし見方を変えれば、その地にいる間だけは魔帝の忌み子としてではなく、ただの文明圏外国として存在していられることになる。

 悪くない、とは2人から自然に漏れ出た言葉だった。

 

 もっとも彼らの配置転換は上層部の嫌がらせでも何でもなく、ちゃんとした理由がある。

 優秀な魔導士で、なおかつ科学技師でもある2人には非常に重要な役目が与えられていた。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 さて、()()昔の話をしよう。

 会議の円卓を囲っていた光翼人たちの親の世代、そのまた先を辿って魔帝が存命中の親の世代。彼等は変人、いや狂人だった。

 

 魔帝の価値観において、であるが。

 

 どういうわけか、彼等は地球の価値観から言ってまともな感性を有していた。多くの光翼人が他人種を人とは見なさない中で、多少の偏見はありつつも単に人種の違いのレベルだと考えていた。

 それだけではない。機械技術を学んでは奇異の目を向けられ、人道を説いては気味悪がられ、小動物を愛でては罵声を浴びて、まるで各人だけが世界から切り離されたように、広い認知を持っていた。

 

 彼らは異口同音に「太陽の夢を見た」という言葉を残している。

 

 さて、子はやがて大人になり、それが社会に余する者ならば就労適期を迎えることになる…そう、彼らは大人になることができた。特異な価値観を持ちながら、無理な再教育を受けることもなく、投獄されることもなく、魔の帝国で成人を迎えることができた。

 これは単に親の七光りによるもの。彼らはみな名家の跡取りだった。

 

 彼らはそのままそれぞれの要職につく。しかし次第に疎まれ、その地位は長く続かない。社会に踏み出したことで合法的に引きずり下ろす機会が訪れたのだ、今まで周りで顔をしかめていた人々は"それ"を目の届かないところへと押しやった。

 左遷に左遷を重ね、さらに左遷を経た上で、最後には貧乏くじを任せられた。

 

 神の裁きを飛び越えた魔帝を出迎えるという、数代では済まない出向だ。

 

 しかしその人選は目的から言えば最悪だった。

 はじめはそれぞれ離れた職にいたはずが、疎まれ、追い出されるうちに一箇所へと集まり、"魔帝復活支援対策庁"と銘打たれたそれは魔帝に嫌な思い出しか持たない者たちで構成されてしまった。

 

 むろん、そんな重要任務はそういった者たちに任せられる仕事ではない。ないのだが、彼等も馬鹿ではない。仮にも名家の出だ。

 価値観に問題アリと判定されながらも、魔帝への忠誠心だけは最高のレベルにあると、そう()()()されるよう賢く生きていた。

 故に、他の国家群が盛り返したとしてその()()()価値観でうまくごまかし、その上で魔帝を待っていてくれると。そう判定されてしまった。

 

 かくして最悪の人選となった魔帝復活支援対策庁は魔帝の目があるうちは表向き真面目に活動し、それがなくなった途端、大きくガッツポーズをした。

 やっと自由になった彼等は世代を重ねつつ爪を研ぎ、かの()()()()()()()()を除かねばならぬと、強く決意したのだった。

 

ちなみに、だいたい1万数千年は前の話である。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

「思えば、すべては神に仕組まれていたこと」

 

 アニュンリール皇室邸宅のバルコニーにて、皇帝ザラトストラは呟く。

 彼は一度は締めた円卓会議の場が再び白熱しはじめたので席を外していた。ぶっちゃけると、疲れていた。魔法帝国の復活が近いとなると、いよいよ本腰を入れて『討伐支援プロジェクト』を開始しなければならない。

 

 先代から聞いた話、この国が国として成り立つときにそれはそれは大きな騒乱があったという。それも先々代の先代から受け継いできた情報だと言うが、映像音声記録で遺されたそれは風化せずに真実のみを語っている。

 内容はむごいの一言。しかし絶対に必要なことだった。

 

 でなければ今のアニュンリールはない。その決断ができなければ、初代"魔帝復活支援対策庁"のメンバーがいなければ、アニュンリールはただの悪として切り捨てられる、よくてこの世界に魔帝の何たるかを知らしめる教材となるだけの存在だっただろう。

 騒乱の記録を"むごい"と評することのできる感性すら持ち得なかったかもしれない。

 

 ある種、これは恩返しと言えるもの。

 …これを恩と捉える自分もそう導かれただけのような気が、いやその通りなのだろう。そう導かれ、なるべくしてこうなったのだ。

 

 それでも。

 

「我らに輝けと言うのならば、存分に」

 

 皇帝は光翼を顕現させ、日の光に手を翳した。

 

 

 

 

 

 ───その夜、第三文明圏と呼ばれる地の東に列島が出現した。

 




善のアニュンリールです。

腐らせとくのもなんなので書き溜め分だけ投稿します。
モチベが湧いたら続くかも。
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