彼はいい光翼人   作:APHE

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お節介な隣人Ⅰ

 

「ヤムートが?」

「はい」

 

 若干目を輝かせるアニュンリールの外交官。彼は今まで重大な発見をしたという、いまにも教えてやらなければという空気を纏っていたが、予想の斜め上の答えをぶつけてきた。曰く、旧世界の友邦のひとつがこの星に転移してきたと。

 転移国家であると名乗っていると、それだけが根拠ではあるまいな。

 

 我が国ムーが転移国家であることは広く知られているが、そういえばアニュンリールという国をよく知らない。細々と貿易をする関係にあったものが、重大な情報があると緊急の会談を持ち掛けてきたのだから驚いた。

 …さて、かの国だが南方世界のマギラカイヒと形容する者もいる。ファーストコンタクトは魔導機帆船と外輪船の混成船団だった。外交官は国土だけ大きな小国と自称し、しかし船団の規模と設計はまるで小国のものではない、変な国。

 やや機械に傾倒しているという情報から将来の商売相手とみなす企業もあるとか…ないとか。距離的な制約が大きすぎるため無いだろうというのが私の意見。過去に法外な値段で複葉戦闘機を売りつけたことはあったが、以降大きな取引は無い。

 

「すまないが…貴国の早とちりではないか?」

 

 彼らの大雑把な地図を思い出せば信憑性はがくんと下がる。縮尺のあっていない古地図を無理やり継ぎ接ぎしたような、未だ未開文明の香りが強く残るそれ。やたらと神話生物の挿絵が描かれていたことだけは鮮明に覚えている。

 

「いやはや、こちらも初めはそう思いましたよ。それがどうやら違うというのでこうして参ったのです。これを見てください。かの国と繋がりを持つクワ・トイネ公国を経由し手に入れたものです」

「…これは」

「世界地図、だそうです。かの国ヤムート、現在の二ホンが存在したという、異星の地図です」

 

 応接間の隅、旧世界の地図を横目で見やる。まさか。差し出された地図は驚くほど正確で自然で、先刻までアニュンリールのそれを思い浮かべていた頭には刺激が強すぎる。熱にうかされて事実を見失ってはいけない。

 

「確かに、かの国の形状は我々の知るヤムートと似ている。立地もそうだ。しかし…うむぅ…」

 

 否定しようと見比べて、そのたびに根拠が増えてゆく。我らがムー大陸の抜けた穴、かつての友邦国家の影。それにこの、雪に覆われた大陸はアトランティスではないか。と、アニュンリールの外交官がいつの間にやら持ち込んでいたらしい球体地図を掲げている。待て、それは確か。

 

「国交開設の際に貴国から頂いたものですよ。二ホンの姿がここに描かれたヤムートとあまりにも似ているもので、もしやと。我々はそこだけ見ていましたが…なるほど、アトランティスにムー海溝。偶然ではなかったようですね」

 

 そうか大切に持っていてくれたのか。少しだけ嬉しく思う。大国と認められた今はまだしも、それ以前は転移国家などと突飛な事を言うと笑われるのみだったと。そう聞いている。今の今まで旧世界の事をまともに受け取り、覚えていてくれた国などなかったのだ。

 

「本当にヤムートだとするならば…もし、本当にそうならば…接触する価値は大いにありそうだ」

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

「うまく行きました。ムーは近いうちに日本と接触するでしょう。ええ、もちろん我々も。紹介という体で…事前の計画に沿ってですね。はい。では」

 

 外交官の見送りを受け乗り込んだ機帆船、その外見から違和感のない速度で半日ほど進んだ洋上。追跡の無いことを確認した彼らは魔導機関に火を入れて本来のスピードで祖国を目指す。

 外交官は盗聴のリスクのない場所で報告を終え、開放感から大きく伸びをした。

 

「覚えてるってのは大事だな。それが相手の思う大切なことなら…幸いにも我が国にはかなりの蓄積がある。それを使わない手はない」

 

 魔帝の遺した数々の記録技術はこの星の記憶を現代にまで伝えている。ムー動乱についても全編を収めているし太陽神の使いの勇姿は一挙手一投足を記録、ドキュメンタリー番組が定期的に放映されている。

 

「うん…太陽神の使い、日本だ。どう接していいのやら」

 

 自らは悪の魔法帝国の忌み子アニュンリール。魔王との戦いでは肩を並べもしたが、きっと彼らは覚えていない。何にせよ衝突だけは避けなければ。

 

「どのみちロウリア紛争に武官を送るのだから、その流れで窓口を設ければいい」

「まぁ、流れとしてはそうだ。何を話していいかわからないんだよ」

 

 同僚のひと言を肯定しつつ要点はそこでないと返す。当たり障りのないことはいくらでも言えるが、いずれ伝えなければならない"真実"をどのように、どこまで話すべきか。相手をよく見て考えなければならない。

 立場上それが周辺国に漏れ出てもいけないのだ。

 

「防諜の面は問題ないだろう。今のところ日本は新興国の扱いだ。その認識が覆らないうちにこっちのことは済ませてしまって、エモールやミリシアルへの対応に集中すればいい。かの国の転移先が主要国の勢力圏から離れた場所で良かったよ」

 

 それは本当にそうだった。太陽神の使いの転移先はおよそ千年前から予測が立てられ3か所にまで絞り込まれていたが、うち2つは既存文明圏の真ん中でフォローの入れにくい立地。3つ目も大海の向こう側であまりに離れすぎている。これに関しては外れてくれてよかった。

 

「で、その3つ目の予測地点だが…日本の代わりに現れた国があったな」

「グラ・バルカスだな。これ以上面倒ごとを増やさないでほしい。切実にそう思う」

 

 見立てでは魔王と交戦した当時の太陽神の使いと同程度かそれ以上の技術を持つとされる機械文明帝国、その名と姿以外にまだ詳細な情報はない。が、その外交方針に決定的な一撃を加えた事件のことはその当事国に配置した諜報員を通して知りえていた。

 

「パガンダは滅ぼしておくべきだったか」

「結果論でしかない。当時は関わらないことを選び、それが正解だった。答えを知っていたらコア魔法の数発でも撃ちこむことを躊躇わなかっただろう。これに関しては言い過ぎではないと思う」

「初手で服従を迫り拒めば使節を見せしめに殺す。魔帝の子孫としては正直耳が痛いな。ともかくこれでグラ・バルカスはこの星のことを()()()しまった。以後融和の姿勢は見せてくれないだろう」

 

 かの帝国が最初に接触していたのがこちらか、あるいは日本だったのなら。後に控える決戦のためにもこれが致命的にならぬよう努力するつもりだが、もし一方が進んで戦争に突き進むようなことがあればどうにもならない。

 その時はむしろ驕って平和ボケしたミリシアルを叩き起こすメンターとなってほしい。

 

「俺は仮眠を取るつもりだが、お前はどうするよ」

「もう少し風に当たっている。何かあったら起こしてやるさ」

 

 外交官は同僚の背中を見送って、海の向こう側、彼方に出現した列島を思う。

 

「遠いことには違いないが、いい場所に現れてくれた。まかり間違ってグラ・バルカスと入れ替わるように出現していたならば……神を呪わねばならなかったかもな」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「それで俺達が派遣されるんですか」

「僕の星による情報収集にも限界がある。なにとぞ頼むよ」

 

 ブシュパカ・ラタンへ左遷…異動させられたリースとアルト。少なくない量の書類を手書きで処理しながら窓から旧い街並みを眺めてノスタルジーを感じる日々を送っていた彼ら。

 そこに舞い込んだ初めての大仕事は観戦武官としての派遣であった。転移してきた太陽神の使い、日本が最初に国交を開いたクワ・トイネおよびクイラの2国。それらに敵対するロウリアの間で紛争が起こったことは周知の事実であったが、上司曰く日本の参戦が正式に決まったようだと。

 

「クワ・トイネ駐在の大使から日本側に話は通してある。かの国の技術水準と戦闘力、戦いに関する姿勢を余すことなく調べてほしい。同時に国交の開設も行うが、これは外交官がやるから()()()気にするな」

「ムーへ向かっていた使節船、ファルマス号でしたか。明日寄港の予定ですがこれに乗って行けということですね。はたして間に合いますか」

「いつものやり口だ。近づいたところで低速航行に切り替えて、もとよりクワ・トイネへ武官を派遣する予定であったものとして振舞ってくれ」

 

 使節船ファルマス号はその実かなりの高速船である。魔道機関に火を入れた"通常航行"でも安定して30ノット以上を出し、緊急時には展開式の水中翼により50ノットでの航行が可能。貿易国家を名乗るのは船の足の速いことの言い訳でもある。

 既に国交を持つ国には『連絡用の高速船を開発中である』ことは周知し万が一の遭遇にも弁明の余地を残しているし、僕の星による他国船舶の監視によって航路の被りがそもそも発生しないようになっている。

 

「しかし合点がいきました。こっちに異動したのはそのためですか」

「南方の貿易国アニュンリール、人懐こい後進国アニュンリールとしての振る舞いを体に十分染み込ませておいてくれ。まだそこまで触手が伸びることはないと思っているが、今後の対ミリシアルのことも考えるとだな…」

 

 本格的に動き始めるにあたって対外露出はいっそう警戒しなければならない。仮に全面戦争となったところで跳ね返せる戦力を有しているつもりだったが、グラ・バルカス帝国が出現するという想定外の事態が起きている以上は世界中を相手にしている最中に魔帝が復活し全正面作戦となる最悪の事態も想定しなければならない。

 むろんそうなる前に打てる手は打つつもりであるが。

 

「魔力抑制具の着用は忘れずにな。いい知らせを待っている」

「はい」

 

 二人は上司へ敬礼し、舌の根が乾かぬうちに銀色の腕輪をはめておく。これは対外露出の恐れのある者は誰もが携帯している魔力抑制具であり、体内魔力を用いた行動を著しく阻害する効果をもつ。そのおかげで緊急対応ができず死亡者が出た事例もあるが自分たちの正体(光翼人)がばれるよりはいい。

 咄嗟に光翼が顕現してはこれまでの努力が水の泡だ。

 

 大陸を自らに従わぬ同胞の血で染めてまで守ってきた血筋。

 ここで絶やすわけにはいかない。

 

 




真面目に工作します。ムーが日本に急接近。
現代に生きる光翼人は基本的に異種族への偏見はないようですが、エモールもとい竜人は嫌いみたいです。
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