ハードな世界で俺だけイージーモード   作:ゆらゆら

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002:お上からの召喚命令

「はぁ今回も豊作だったなぁ」

 

 トラックを転がし、荒れた道を進む。

 すると、第参コロニーの白い門が見えて来た。

 俺はゆっくりと減速しながら近づいていき……門の前で停車する。

 

《通行証の提示を》

「へいへい。ほらよ」

 

 カメラに通行証となる鉄製の金板を見せる。

 そこには精巧な彫りが加えられていて、達筆で色々な文字も刻まれていた。

 複製が難しいものであり、一枚一枚、専門の職人が手作業で彫っていると聞いたことがある。

 

《……確認できました。橋を下ろします》

「あんがとよぉ」

 

 確認が終わり、緑のランプが青に変わる。

 そうして、音を立てながら大きく頑丈な鋼鉄の橋が下ろされて行った。

 暫く待っていれば、コロニーを繋ぐ橋が架かって、俺はその橋をトラックで進む。

 コロニー内に入れば、橋は後ろでまたあげられていく。

 

「……此処はまぁ、平和だよな」

「「「……」」」

 

 第参コロニー、第三階層。

 木造の簡易的な建築物が多く、誰しもが早歩きで道を歩いている。

 十二ある階級の中で、第六から第八までの市民が主に暮らしている階層だ。

 奴隷階級と呼ばれる十二は勿論の事、満足な税を払えない第九階級以下も此処にはいない。

 

 布一枚を加工して作った簡易的な服に身を包んだ市民たち。

 彼らは俺のトラックをチラリと見てから足早に去っていく。

 誰しもが俺のトラックの中にお宝がわんさか詰まっていると知っている。

 が、下手に襲撃して俺やお上の反感を買うのが怖いだろう。

 何せ、俺は上の人間たちにとっては変えの効かない人材だ。

 唯一、五体満足で物資を持って帰る事が出来るからな。

 

 そんな事を考えていれば、誰かが駆け寄って来た。

 俺はトラックを停車させて窓を開ける。

 すると、大きな丸眼鏡を掛けた黒い三つ編みの少女だった。

 

 だぼだぼの黒いスーツで下はロングスカートだ。

 白いスカーフのようなものを首に巻いていて、手にはタブレットを持っていた。

 

「す、すみません! オコノミ様でしょうか!?」

「あぁ、うん、そうだけど。アンタは?」

「も、申し遅れました! 私、物資管理官のケヤキ・アマネと申します!」

「……物資管理官? あれ、なんかクマが凄い男だった気が」

「え、えっと、彼は諸事情で仕事を辞められまして……へ、へへ」

「……まぁ、聞かないでおくよ」

「へ、へへ、助かります」

 

 物資管理官といえばお役人の仕事の一つだ。

 内外で流通する物資の管理を一手に任されて、市場の流れを調整する役割を持つ。

 不正な取引を取り締まったり、禁止されている物資が流れないように見張ったりなど。

 

 ……まぁ実際は、一部の人間が損をしない為に存在するような役職だとは思うけどな。

 

 いち早く、貴重な物資を確保したり。

 難癖付けて食料などをちょろまかしたり。

 やり方によっては反感を買う事もする。

 が、時たまにしかやらないのがうまい所だとは思った。

 この女の子も見た目は若そうだが、重要な役職についているのであればかなりやり手だろう。

 俺は少し警戒しながら、用件について尋ねた。

 すると、彼女はタブレットを取り出して操作を始めた。

 

「えっとですね。実は今、食料の供給が滞っていまして……で、出来れば甘味の類もあれば嬉しいのですがぁ……今回の外出で、どれほどの物資が調達出来ましたでしょうか?」

「あぁ、ちょっと待ってくれよ……ほら、これが仕入れたリストだ」

「あ、どうも……す、凄いですね。たった三日で、これほどの物資を……お、おぉ」

 

 俺が上に提出するように作った仕入れリストの記録データが入ったタブレットを渡す。

 すると、おさげちゃんは目をぱちぱちとさせながら驚いていた。

 

「これだけあれば……あ、いえ! ありがとうございます! それで、良ければでいいのですが、食料の40……いえ、30%を私どもに買い付けさせてはいただけないでしょうか?」

「……いいよ」

 

 俺は少し悩んだが断っても面倒だと諦める。

 おそらく、適当な事を言って安く買いたたくつもりなんだろうが――

 

「では、計算しますね…………欲しいものはこれらになりまして、金額はこちらでいかがでしょうか?」

「……おいおい、冗談か?」

「え、あ、あの、何かお気に?」

「いやいや、違う違うって! こんなに高く買い取ってくれんのかって事だよ。本気か?」

 

 俺は提示された金額に戸惑う。

 親切心から金額が高いとは言ったが、正直、これだけ貰えるのなら不満はない。

 が、若い少女であるからこそ上に何か言われないようにと言ってやった。

 おさげちゃんはそんな事かという顔をし、にこりと微笑む。

 

「問題ありませんよ。少なくとも、これらの物資は我々では一月掛かっても回収できるか分からない量ですから。そんな貴重なものをいち早くお譲りいただけるのであれば、それ相応の対価を払って当然です……ただ」

「ただ?」

「……もしも、もしもですよ? 少しでも、得したと思われているのであれば……か、甘味の一部を、おまけとして、ね?」

 

 おさげちゃんは邪悪な笑みを浮かべる。

 狙いはこれだったのかと俺は乾いた笑みを浮かべた。

 

 こんなご時世だ。

 趣向品の類は貴重であり、先ず、一般市民の手には流れて行かない。

 富裕層であっても、一部の人間の元にしか行かないだろう。

 

 煙草に酒に、甘味もそうだ。

 このおさげちゃんはその中でも甘味を大変ご所望だ。

 所謂、リスクとリターンの要求だ。

 物資を高く買い取るから、少しでいいから甘味を寄越せと……。

 

「はは、気に入ったよ。良いぜ、好きなの持っていきな」

「え!? いいいいいんですか!? わ、わぁ! では、早速!」

 

 おさげちゃんは、凄まじい速度で荷台の方に回る。

 俺は慌ててトラックを降りて後ろに回った。

 すると、おさげちゃんは勝手にロックを外して物資を漁っていた。

 たまげたもんだと見ていれば、おさげちゃんが中から出てきて――大きなカラフルなキャンディーを三つ持って出て来た。

 

「えへ、えへへ。こ、これを貰っていきますね」

「……もしかして、自分で食べるのか?」

「……さ、さぁ? な、何の事でしょうか? ……き、聞かないでくださいぃ」

「お、おう」

 

 どうやら転売する気はないらしい。

 よほど甘いものが好きだったんだろう。

 もしかしたら、物資管理官になったのも甘いものが食べたいからか……まぁいっか。

 

「そ、それでは、また後程、補助員が数名参りますので。食料の方はそちらに渡してください。現金につきましては……い、今、お振込みさせていただいたので!」

「おぉ仕事が速いねぇ。どれどれぇ……おぉ、入ってる。ありがとさん」

「いえいえ、ではでは、今後ともお付き合いのほどを……それと、甘味が入ったら是非私にお知らせを! ね、ね!」

「分かったよ。そん時はお互いに、な?」

「えぇ、お互いに……それではぁ」

 

 おさげちゃんはキャンディーをスカートの中に隠して去っていく。

 俺は手を振って見送って、タブレットをもう一度確認する。

 しっかりと俺の口座に金が振り込まれていた。

 

 前払いとは気前がいい。

 そんな事を思いながら、トラックのロックをし、そのまま運転席に乗り込んで――

 

 

 ・・・

 

 

「ふぅ、疲れたぁ」

「お疲れ様です! どうぞ!」

「おう、あんがとよ……かぁぁ! しみるぅ!」

 

 店へと帰って来て、アレンに渡された飲み物を飲む。

 熱々のニュールであり、しゅわしゅわが喉を刺激してくれる。

 美味いと思いながら、静かにグラスを置いて俺はアレンに売り上げについて聞いた。

 

「えっと、食料とかの売れ行きはいつも通りですよ。水の出が少し早いっすかね? あ、服とかが売れましたよ! 上層の人が買いに来てまして、後は――」

 

 アレンの報告を聞いていく。

 売り上げは上々のようであり、俺は満足だと頷く。

 

 我がオコノミ・マートでは多種多様な品を売っている。

 それも、どの店よりも格安であり、質も最高のものだと自負している。

 自社ブランドの製品もいくつかあり、専用の工場なども俺は持っていた。

 

 専用の工場では第12階級の人間たちを雇っている。

 服飾やニュールの製造などが主であり、全部で50名ほどいる。

 

 他にも小さな牧場があり、畜産に酪農の真似事をしていた。

 こっちはほぼ手探りで、まだまだ上手くは言っていないが。

 それでも、上に流せるくらいの量や質は最低限、確保出来ていた。

 こっちも同じ階級の人間を20名ほどだ。

 

 何方も安全な第二階層内にて建てている。

 警備用のアンドロイドは配置しているが、先ず強盗に襲われる危険はない。

 お役人たちもへの袖の下を渡す事によって、彼らも目を光らせてくれているしな。

 

 オコノミ・マートの従業員はアレン一人だが。

 製造など関してはどうしても人手がいるので仕方ない。

 雇った当初は奴隷根性が染みついていて、どいつもこいつも人の顔色ばかり窺ってきやがった。

 少しでもミスをすれば地面に頭をうちつけて謝って来て、休み何て取ろうともしない。

 時間を掛けて、工場での働き方について教えていき、今になってようやく真面な工場員になってくれた。

 

「育成するのも大変なんだよなぁ」

「え? 何です急に?」

「いんやぁ? 何でもぉ……そういや上層から買いに来たって言ってたけど、どんな奴だった?」

「……いえね? 買いには来たんですけど、どうも本人じゃなくてですね」

「は? 本人じゃないって……召使って事か?」

「えぇそうっすね。何でも、主人がどうしてもって言うから来たって……何で自分で来ないんすかねぇ?」

「……まぁ上の奴らは、下の方には降りたがらないって言うしな」

「変わってますよねぇ」

「全くだ。はは」

 

 アレンと共に談笑していれば――カラカラとベルが鳴る。

 

 補助員が来たのかと見て――笑みが引きつる。

 

 そこには人ではないアンドロイドが立っていた。

 鋼のボディはよく磨かれていて、バイザー型のセンサーが青く光っている。

 白を基調とした上等なスーツを完璧に着こなし。

 胸にはコロニーの国章とも呼べる赤薔薇の刺繍が彫られていた。

 

 一級品の高性能アンドロイド。

 市場どころか富裕層も使う事を許されない特別な機体。

 お上のみが使う事を許されたものであり、それが此処に来たと言う事は……奴が動き出す。

 

 俺は椅子から腰を上げて直立する。

 アレンも姿勢を正して微動だにしない。

 互いに沈黙していれば、アンドロイドは俺の前に立ち――懐から何かを取り出した。

 

「オコノミ・ギンジ――宮殿への召喚命令が出ています」

「きゅ、宮殿に、俺が、ですか? う、嘘でしょ?」

「この命令が3時間以内に遂行されなかった場合、王への背信行為とみなし、即刻人格矯正プログラムへの参加をしていただきます」

 

 俺はアンドロイドから本物の紙で出来た命令書を受け取る。

 王命であり、ご丁寧に刻印も施されていた。

 嘘ではなく現実であり、俺はごくりと喉を鳴らした。

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